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ヒトヅマ☆娼婦27


「詩埜、来てごらん」
ミネラルウォーターを飲みながら、高層ホテルの窓から外を見ていた水島さんが
ベッドの上のあたしを呼ぶ。
バスローブを羽織って傍に行くと
水島さんは空の月を指差した。
「十三夜の月だよ」
あと少しで満月、というその月は
ほんのちょっとだけ歪で
こうこうと、金色の光をたたえていた。
「満月よりも風情がある」
水島さんは、いとおしそうに月を見ている。
「全てを手に入れると、失うのが怖くなるんだ」
「・・・うん」
「だから、いつも何かを追いかけていたい。走っていないと怖いんだ」
そう呟く水島さんの顔を見つめる。
淋しそうだった。
「満月になってしまったら、欠けていくだけだから」
「でも、また満月になればいい」
あたしは特に考えもせず、そう口にしていた。
水島さんがあたしの方を向く。
「月はそれを繰り返してるでしょ?細いときもあれば、丸いときもある」
「・・・ああ」
「月にとっては、それがあたりまえなんだよ」
「そうだね。」水島さんは、手元のペットボトルに視線を落とす。
「詩埜・・・」
あたしに向き直って、そっと抱き寄せる。
水島さんのぬくもりと、腕の力を感じる。
しばらくの間、あたしたちは
月の光を窓越しに受けながら、こうしていた。


テレビのニュースでアナウンサーが、やっちゃんの通っている学校の名前を告げた。
「あ、やっちゃんの学校だ」あたしは水島さんの腕の中から抜け出して
テレビの前に行く。
水島さんも寄ってきた。
「事実上の倒産か」水島さんがニュースを見て呟く。
「そうなの?」あたしはびっくりして水島さんを見る。
「うん。当分は授業も中止だね。」
「やっちゃん、知ってるのかな。どうするんだろう・・・」
あたしは不安になる。
「僕の親友が業界最大手の専門学校を経営してるんだ。よかったら紹介するけど」
「ほんと?」
「ああ。試験も免除で編入させてくれるんじゃないかな」
「入学金とか、かかるよね・・・」
「心配ないよ。僕が立て替えておく。だんなさんが将来会計士になったら返してもらおう」
水島さんは、微笑んだ。






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