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ヒトヅマ☆娼婦29


翌日やっちゃんに学校の話をした。
やっちゃんも、もちろん知っていて、今後どうしたらいいか悩んでいたらしかった。
水島さんが、知り合いの経営している学校を紹介してくれるみたいと話すと
「そう」とだけ呟いた。
もっと喜んでくれると思ったんだけどな。

「でね、紹介するにあたって水島さんがやっちゃんに会いたいんだって・・・」
あたしはやっちゃんの反応が気になった。
「オレに?なんで?」
「うーん、やっぱり紹介するんだし、やっちゃんがどんな人か会っておきたいんじゃないかな」
「それって面接っていうこと?」
「そうじゃないよ。面接は学校の人とするんじゃない?単に食事でも一緒にどうかって」
「しのちゃんも一緒?」
「あたしは・・・どっちでもいいよ」
水島さんと、やっちゃんと、あたしと、3人で会うなんて
なんか、変だよね。。。
「しのちゃんが一緒なら、いいけど・・・」
「そっかぁ。わかったよ」
あたしだって気が進まなかったけど、とにかくやっちゃんが新しい学校に行けるようになるためなんだったら、3人で会ったっていいと思った。


水島さんが待ち合わせに指定した場所は神楽坂だった。
いままで縁のない街だった。
改札でやっちゃんと、水島さんを待っている間、あたしは複雑な気持ちだった。
やっちゃんも、普段にも増して無口だった。
前方からスーツ姿の水島さんが歩いてきた。
近くまで来て「お待たせ」と言うと、すぐにさっさと歩き出した。
水島さんは相変わらず無愛想だった。
2人でいる時は、最近は柔らかい表情をしてくれることが多くなったんだけど
今日は以前の水島さんだった。
近寄りがたい、なんだか見えないバリアがあるような、そんな雰囲気だった。
あたしとやっちゃんは水島さんの後を追った。

坂の途中で水島さんが
「嫌いなものはない?」と聞いてきた。
やっちゃんは黙っているので、あたしが「ないです」と答えた。
「じゃ、炭火焼の店でいいかな」そういって水島さんはまた、スタスタと歩いてゆく。
天神さまの角を曲がって、路地を入ったところにその店はあった。
紫色の扉で半地下になっている。看板などは出ていなかった。
重いドアを水島さんが開けて、あたしたちは店に入った。
すぐに炭火焼の香ばしい匂いが鼻を刺激した。
あたしたちは突き当たりのテーブルに通された。
水島さんが、あたしたちに奥の席に座るように促す。
スーツ姿の水島さんと、タートルネックのセーターのやっちゃんが向かいあってる。
あたしはやっちゃんの隣で、何か話さなきゃと考えるけど
言葉がなにも頭に浮かんでこなかった。

「コースにしようか」水島さんがメニューを見ながら呟く。
あたしは「はい」と返事をした。
やっちゃんは、運ばれてきたグラスの水を一気飲みした。
それを見て水島さんがくすっと笑う。
「のどが渇いていた?ビール飲んだらいいのに」そういってすぐに店員を呼んで注文しようとした。
「お酒は結構です」突然やっちゃんが口を開いた。
「じゃ、彼には冷たいお茶を。僕と彼女には生ビールを頼むよ」
注文をし終わると、水島さんがあたしに微笑みかけた。
あたしに確認せずに注文したことで、水島さんはやっちゃんに
自分とあたしとの仲を、認識させようとしたのかもしれない。
あたしは嫌な予感がした。





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