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本書は米澤穂信の短編集で6編が収録されている。フリーの記者・太刀洗万智が登場し、難事件を解決することが、6編に共通している。
「真実の10メートル手前」――東洋新聞記者の太刀洗は、新入社員の藤沢を連れて、山梨県の甲府に向かった。早坂真理のインタビューをとるためだ。彼女は、倒産したフューチャーステア社長の妹で、広報担当だった。現在、行方不明になっている。
真理の妹・弓美が、姉から電話があったと太刀洗に教えてくれた。弓美は真理との会話を録音しており、その内容から大刀洗は、真理は甲府にいると突き止めたのだ。
さらにピンポイントで真理の居場所を録音の内容から推理してゆく。
「正義漢」――ある駅のホームから男が線路に転落した。その直後に来た列車にひかれ死亡。大刀洗はその場にいた。同時に、誰が犯人かを瞬時に推理し、捕らえて、警察に引き渡した。
その時、いっしょにいた高校の同級生に犯人を捕まえる手助けを頼んだ。犯人は、彼女が予想した通りの行動をしたのだ。
なぜ、大刀洗は犯人を特定することができたのか。
「恋累心中」――三重県の恋累 (
こいつづり )
という地域で、高校生の桑岡高伸と上條茉莉が心中をはかった。遺書があったが、県警は自殺と他殺の両面から捜査をすすめている。マスコミは「恋累心中」と名付けた。
週刊『深層』の都留はこの取材をまかせられた。同時に、太刀洗というフリーの記者が付いた。太刀洗は一週間前からこっちに来ている。昨年、三重県の教育委員会や県会議員に何度か爆弾が送りつけられた事件があり、その取材が彼女の仕事のメインだった。
取材を進める中で、太刀洗は二つの事件を同時に解決した。
「名を刻む死」――福岡県鳥崎市の民家で田上良造 (62)
の遺体が発見された。第一発見者は中学3年生の檜原京介。田上の日記に「私は間もなく死ぬ。願わくは、名を刻む死を遂げたい」と書かれてあった。
しばらくして、京介は太刀洗から取材を受けた。そして、彼女は事件の本質に迫ってゆく。
「ナイフを失われた思い出の中に」――浜倉駅で、太刀洗はヨヴァノヴィッチと合流した。大学の図書館で火事があり、彼女はその火事の調査のために、以前、この街に来た。6日前、松山良和 (16)
が、姪の花凜 (
3 )
を刺し殺す事件が発生した。花凜の母親の良子 (20)
はその時、買い物に出ていた。
警察は良和を殺人の容疑者として逮捕した。本人は犯行を認めた。しかし、警察は、まだ送検しないでいた。
「綱渡りの成功例」――8月、台風が駿河湾から本州に上陸した。長野県の大沢地区にある三軒の家が孤立した。そのうちの一軒が戸波家だった。レスキュー隊員が戸波夫妻を背負って川を渡り、二人を救出した。
マスコミはこれを大々的に報道した。そして、正月に戸波の息子が来た時、保存食としてコーンフレークを置いていったことを美談として報道した。 太刀洗は 「コーンフレークには何をかけたのですか?」と戸波に聞いた。
一般的な推理小説は、まず事件が起き、警察が捜査を開始する。その過程で物証や目撃証言などが出てきて、容疑者が絞り込まれてゆき、最終的に犯人が特定される、というパターンだ。しかし、本書は違う。
事件が発生し、太刀洗が登場した時には、すでに彼女がその8割がたを解決している。読者は、なぜ彼女はそんなことを聞くのか、と戸惑ってしまうが、その後でそのわけがわかるというストーリー展開になっている。 さすがは米澤穂信と思わせる作品である。
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