平穏な日々。~ドラマCDに明け暮れて~

平穏な日々。~ドラマCDに明け暮れて~

永遠の誓約・記憶のかけら

。;’* + ☆,°・ ‥. 永遠の誓約~記憶のかけら~ 。;’* + ☆,°・ ‥.




最近何故か、暗黒の森から魔物が抜け出し、天界に顔を見せるようになっていた。
絶対にありえない事が、天界にも起こりつつあった。
ゼウスはユダに、その件について調べるよう命令した。
「ユダ。やはり、暗黒の森の魔物が何故、この天界に現れるのか、ゼウスにも分からないのか?」
「あぁ、どこかに抜け穴でもあるのか……はたまた、手引きするものがいるのか」
「手引き? そんな事出来るわけが……」
「そうだな。出来るはずはないとは思うのだが。ひとまず、魔物が現れたという所に行ってみよう」
ユダとルカは、一緒に周るよりも、二手に分かれて行ったほうが効率もよいので、別々の行動をすることになった。
ある程度したら、落ち合い、報告をしようということになっていたのだが……。
待ち合わせの時間になってもユダは戻ってこない。
(おかしい……何かあったのか? しかし、ユダに限って……)
少し不安がよぎるルカであった。
時間が、かなり過ぎ、さすがに心配になったルカはユダを探しに行こうとした。
その時―――
ユダがやってきた。
「ユダ! 心配したぞ。どうし……ユダっ!!!!」
ユダを見たルカは、ユダに駆け寄った。
ユダにはありえない負傷をしていたのである。
(ユダがこんなになるとは……一体!?)
「すまない。不意打ちをくらってしまった」
ユダは何とかルカの元へたどり着く事が出来たが、それが精一杯だったのだろう。気を失ってしまった。
ルカはユダを連れ、ユダの家に戻った。
ひとまず、ユダをベッドへ寝かせ、傷口を治療した。
「ルカ……すまないが、あの魔物がどうなっているか……見てきてはくれないか? 倒す事は出来たので、消滅しているとは思うが……もし、まだ生きているようなら……」
「ユダ。分かったから、ゆっくりと休め」
ルカはシンに今のユダの状況を伝え、先ほど現れたであろう魔物の元へと急いだ。
シンは、ユダのことを聞いた後、急いでユダの元へいった。
「ユダっ……しっかりして下さい……ユダ……」
枕元にかけより、ぎゅっとユダの手を握り締める。
「う……くっ……」
ユダは、夢を見ているのか、苦しそうに呻いた。
「やめろ……う……」
シンはユダの苦しみを少しでも取り除けるようにと、次から次へと額に浮かぶ汗を水に濡らした布で拭う。
ユダの傍らに寄り添い、祈るように看病を続けた。一晩中、眠りもせずに。

翌朝。ユダが目覚めた時、心配そうにユダを見つめているシンがいた。
「シン……どうしてここに?」
「ユダ……気がつかれたのですね……良かった……」
心底ほっとしたような溜息を漏らす。
「汗をだいぶかいていましたので、気持ち悪くはありませんか? 水は、飲めますか? 着替えをご用意しましょう」
少し不思議そうにシンを見ているユダであった。
「あぁ、心配かけたな。すまない。お前も色々用事があるだろうから、もう帰ってもいいぞ?」
最近のユダであれば、シンに寄り添っていて欲しいというはずなのに?
何か、ユダの態度が変化したような感じであった。
その後、シンがユダの元に、日々看病に来ていたのだが、ユダの反応は―――
「毎日来る必要などないぞ? お前も忙しいだろう?」
あまりにも素っ気無いユダの言葉に、私が傍にいたいのですとも言えず、シンは、
「そう……ですね……」
と返答するのが精一杯だった。

回復した後も。
普段は約束の言葉を交わすわけでもなく、日々、泉のほとりでユダとシンは会っていたのだが……。
ユダはぴったりと泉のほとりへ行かなくなったのである。
あまりに、急変してしまったユダの態度にシンは戸惑うばかりである。
シンにはユダが変わってしまった理由が分からない。
かといって、問いただす事も出来ない。
代わりにルカが聞く事となった。
「ユダ。最近シンと会ってないようだが、どうしたんだ?」
「ルカ。何故、シンと会ってないとおかしいのだ?」
不思議そうにユダは訪ねた。
「お前とシンは……その……恋人同士だろう?」
「は? 何を寝ぼけた事を……俺とシンは、そういったものではなく友だろ?」
――おかしい、まるで記憶を摩り替えられたような違和感をルカは持った。
(もしかして、あの魔物か……? しかし、魔物にそんな知恵など無いはずだが……)
ルカは、もう一度魔物の事を調べる事にした。
そこで、驚愕の事実がわかったのである。
どういった理由でかは分からないが、力の持った魔物が数体存在すると言う事。
その、魔物のうちの一体は、相手の記憶の操作が出来るということ。
その記憶操作されたものは、失った自分の記憶を自ら取り戻さないと……自らの命の危険性が出てくると言う事。
まぁ……その……なんだ。パターンではあるが、記憶を取り戻すには「愛」が必要だという事だった。
とても、強く、純粋な愛――

ある夜、ユダはハープの調べを聞きながらワインを飲んでいた。
毎夜、聞いていたハープの音。
一度位は、泉へ行って、直接聞いてみたいなとふと思った。
ユダは一度も、泉へ行った事がない。そう思っているのであった。
泉のほとりに着くと、初めて来るはずが、何故か懐かしい思いにかられた。
そこでユダは、大木の幹に腰掛けてハープを爪弾いているシンを見つけた。
「ユダ……」
ユダの姿を見つけ、シンが演奏の手を止める。
「シン。毎夜弾いているのだな。ここで誰かと待ち合わせでもしているのか? お前の想い人とか?」
ふっとユダは笑いながらシンにいった。
「いえ、そういう訳では……」
シンは言葉を濁したような返答をした。
(どうして、貴方がそう仰るのですか……私は、もう……貴方にとって他の大勢の天使と同じ存在になってしまったのですね……)
ユダは、そう言いながらも、シンに想い人がいなければいいのに……と思っていたのである。
ユダはシンと友なはずなのに、何故かシンのことは気になっていたのだ。
平静を装っているが。
怪我をした時、辛そうに自分を見つめているシンを見ているのはとても辛かった。
看病してくれている時、誰かを想っているのだろうか。切なそうな顔もしていた。
(シン。お前の想う相手が俺だったらいいのに……)
そう思ってしまうくらいに。
「ユダこそ、どうされたのですか? こんな夜更けに……」
「少し、夜風に当たろうと思ってな。丁度ハープの音が聞こえてきたので、誰が引いているのだろうと思って、ここまで辿り着いた」
(ユダとの初めての出会いも、こんな晩でしたね……それすら、なかった事に……)
シンはぎゅっと胸が締め付けられる思いがした。これ以上、ユダと話すのは、あまりにも辛かった。
「そうですか……もう正体も解った事ですし、家に戻られて下さい。傷も癒えたとはいえ、まだ無理をしてはいけません」
少し切なげな瞳をして、シンはユダの背を押した。自分の所から離すように。
「あぁ。そうだな」
ユダもシンの言葉に素直に従い、そのまま自宅へと戻っていった。去っていくユダの背を、シンはいつまでも見つめていた。切なげに……。
ユダの姿が完全に見えなくなってから、シンはその場にずるずると座り込んだ。頬を幾重にも涙が伝う。
(もう貴方は、私を望んでは下さらないのですね? お傍には、置いては下さらないのですね……)
服のポケットに大切にしまっている指輪を取り出して、そっと口付けた。
「私が想う相手は、貴方以外にはいないのに……ユダ……」
涙が止まるまで、シンはそのまま、大木に寄りかかって、指輪を見つめ続けて
いた。

シンは、ユダの置かれた状況の事実を知ったのは、ユダと泉のほとりで出会った次の日であった。
「そんな……ルカ、それは、本当なのですか? 記憶を操作され……下手をすれば、ユダの命が……」
「あぁ。今すぐどうこうと言うわけではないが……少し厄介な事になったな。
私達天使は、通常は心臓を抉られない限りは大丈夫なはずなんだが……こういう事例が今までなかったから、どうなるかはわからない。ゼウスにも報告はしたのだが……」
「ゼウス殿でも、どうすることも出来ないのですか!?」
「それが、よく分からぬらしい。ゼウスなら何とかできると思ったのだが……最悪な状況だけは避けねばならぬとはいっていたが……」
言葉を濁すルカだった。
「今分かるのは、出来る限り傍にいて様子を見てやる事が一番だ。シン、どうする? お前がついているか? お前が辛いようなら私が……」
「私は、出来る事ならお傍にいたいです。けれど、今のユダにはルカが傍についてる方がいいような気がして……」
「そうか? 私がいるより、お前がいてやったほうがいいと思うが……?」
少し、ホッとしたかのように、ルカはシンに微笑んだ。
「お前がユダの傍にいたくないと言わなくてよかった。本当に、私よりはお前が傍についてやっていたほうがユダにとってもいいことだろうからな。私は、もう少しこの件について調べてくる」

その頃ユダは――
(何かがおかしい……その何かがわからない)
今の自分の状況が妙だという事は分かっているのだが、その違和感が何かわからない。
それを必死に考えようとするが、何か頭の中に霧がかかったようで……。
今日も、違和感が何なのかと考えていると、急に頭痛が襲い……そして、その場で倒れてしまった。
どれくらいの時が過ぎただろうか。
控えめに戸を叩く音がした。ユダが扉を開けると、そこにはシンがいた。
「こんにちは、ユダ。少し、お邪魔をしても宜しいでしょうか?」
「あぁ。何か用事か? シン」
頭痛がするも平静を装いながらシンを部屋に通した。
「お茶でも入れよう」
そう言って、少し席を外した後、お茶を準備して戻ってきた。
「シン? 深刻そうな顔をしているがどうかしたのか?」
「ユダ、お加減が悪そうです。顔色も悪い……横になって下さい。私は、おいとましますから……」
シンの言動に多少違和感を感じつつも
「そうか」
そう言って、シンを送るために立ち上がった時――
また、酷い頭痛が襲い……そのまま倒れてしまった。
「ユダっ、どうしたのですかっ!? ユダ、しっかりして下さい!!」
頭を抱えて倒れこんでしまったユダを動かす事も出来ず、シンはユダの傍についてることしか出来なかった。

その後しばらくして、ルカがユダの家に訪ねてきた。
「シン! ユダのことで、新たに分かった事があるんだ」
「ルカ!! ユダが……」
机の横で倒れているユダと、顔面蒼白でユダの近くに座り込んでいるシンがいた。ルカはなるべくユダの負担にならないように、寝台までユダを運んだ。
「ユダの様子はどうだ? あまりのんびりと構えていられなくなった」
「お話をする為に伺ったのですが、ユダの顔色が良くなかったので帰ろうとしましたら、頭を押さえて倒れてしまったのです……」
「そうか……先ほど、ゼウスから聞いたんだが……ユダを助ける方法はわかった。が……」
少し言いにくそうにルカが珍しく口ごもっていた。
「それはどんな方法なのですか!?」
滅多に取り乱したりしないシンが、必死の表情でルカに詰め寄った。
「”記憶のかけら”と言うものを見つけなければいけないらしい。それが何処にあるかは、把握しているのだが……」
「どちらにあるのですか? 一刻も早く見つけないと、ユダは……」
「いくつか同じ物があり、どれが本物か見分けがつかない。もし、間違えて選ぶと……選んだ者もユダも一緒に消えてしまうらしい」
「私が行きます」
ルカの言葉に躊躇いなく、シンは瞬時に返答を返した。
「だが……」
ルカが言葉を紡ごうとした時背後から声がした。
「ルカ。どういう事だ? それは」
頭を少し抑えつつも、ユダはルカに訪ねた。
「それは……」
本人だけ知らぬというわけにもいかないので、ルカは事情をユダに話した。
「……それで、この頭痛が……俺の記憶とは……」
「それは……」
「いや。ここで聞いても仕方ないな。とにかく、俺の”記憶のかけら”とやらを取りに行く。シン。お前はここで待っていろ。これは俺の問題だ」
「いいえ、私も連れて行って下さい。……友としてで構いません。今の貴方をほおってはおけません」
意思の強さを瞳に宿して、シンはユダを見つめた。
「……シン……分かった。一緒に行こう」
ユダは、シンの言葉を思い返した。
(『友としてで構わない』とシンは言ったよな……まるで、友ではないかのように……)
「ルカ、悪いが場所を教えてくれないか?」
「私も一緒に行こう」
「いや、お前は、ここにいてくれ。この辺りで万が一何かが起こったら、誰も対処できなくなってしまうからな」
「……分かった。だが、必ず戻れよ」
「もちろんだ」
ルカはユダとシンに場所を伝えた。
「シン、お前も無事に戻って来い」
「はい、必ず……」

ルカが教えてくれた場所は、とても遠い場所にあった。
険しい山をいくつか越えたある洞窟に。
飛んでいければ少しは距離を稼げるのだが、ユダの頭痛の加減で徒歩で向かうこととなった。
道中――
「シン、大丈夫か? ほら、手を貸せ」
「すみません……」
山は険しかったが、特に何事も無く、目的地近くまでくる事は出来た。
途中、ユダの頭痛が酷くなり、休憩したり、シンが躓き、休憩したりと、辿り着くのに時間は掛かったが……。
「あと、もう少しで着くな。今日は日も暮れてしまったことだし、この辺りで一晩過ごすか」
そう言って、ユダは寝床になりそうな場所を探した。
丁度、程よい広さのスペースを見つけ、今晩はそこへ落ち着くことにした。
「シン、少しここで待っていてくれ」
そう言うと、ユダは森の中に消えてしまった。
シンが少し不安を覚えた頃、ユダは戻ってきた。
たくさんの薪を抱えて。
「さすがに夜は冷えるだろうからな」
そう言って、火をくべた。
木の葉で、寝床を作り、
「シン、ここで眠れ。少しは暖かいだろからな」
ユダは優しい笑顔でシンに言った。
(明日……シンが起きる前に洞窟へ……)
「いいえ、ユダの身体の方が心配です。ユダが横になって下さい。私ならここで平気です」
「…………」
「頭を低くしない方がいいかもしれません。それに、地に直接つけると、硬いです。……良かったら、私の膝を使って下さい」
「いや、俺はいい。シンも疲れているだろう?」
「私の事など構いませんから、どうか、自分の身体の方を労わって下さい……」
辛そうにユダを見つめながら、シンが呟く。
「じゃぁ、この大木を背に眠るとするか」
そう言って、ユダはシンを自分の隣に座らせ、そっとシン頭を自分の肩に引き寄せた。
記憶が無くとも身体が覚えているのだろうか――
「シン。一つ聞きたいことがある。お前は俺についてくるといった時『友としてで構わない』と言ったよな? 友でなければ……」
「それは……」
「いや。それは、明日”記憶のかけら”を手に入れ、真実を思い出してからの方がいいだろう」
(どのような結果になろうとも、お前だけは巻き込みたくない……シン……)
「…………」
無言で、ユダを見つめ続けるシン。
「ゆっくりと休め。シン」
自分の体調が優れない事より、シンが辛そうな顔をしている方が、より辛いユダであった。

翌日、シンが眠っている間に洞窟へ向かおうとした。
シンの額にそっと口付け
「シン。すまない……」
そう言って、洞窟へ行った。
洞窟へ辿り着くと、幾つかの石があった。

七色に光り輝く石。
とても澄んだ青色の石
シンの瞳の色と同じ琥珀色の石
ユダの髪の色と同じ赤色の石

宝石を見つめるユダ。
どれが、本物かまったく持ってわからない。
見つめていくうちに……意識が薄らいでいく。
何かに取り付かれたかのように、ある一つの石を選ぼうとしていた。
その時
「ユダ!!! 駄目です!! ユダっ」
シンがユダの元に駆け寄り、止めようとした。
だが……力の差は歴然である。
シンはユダに突き飛ばされてしまった。
腕とひざをすりむいたようだが、そんな事はどうでもよかった。
今はユダを止めなければ!!!
シンは直感的に、これらの石は全てニセモノだと感じ取ったのだ。
「ユダ。お願いです。お願いですから、こっちを向いて下さい」
必死にユダにしがみつくシン。
だが、ユダは正気に戻らない……。
「ユダ!!!」
そう叫んで、シンは、ユダを自分の元に引き寄せ、口付けた。
その時――
先ほどの石全てが砕け散ったのである。
パリ―ンっパリ―ンっ
ユダは意識を手放した。
「ユダ~~~~~!!!」
ぐったりと倒れこんでくるユダの身体を抱きとめ、シンは祈り続けた。
(お願いです。私はどうなっても構いません。ユダさえ無事なら!! 私とユダの立場を、入れ替えて下さい。ユダの記憶を……”記憶のかけら”を……)
はらはらと頬を伝う涙を拭いもせず、力いっぱいユダを抱きしめる。
しばらくするとユダは意識を取り戻した。
「……ん……シン……どうしてここへ……泣くな……お前が泣くと……」
そう言って、シンの涙をユダの手で拭った。
「ユダっ、大丈夫なのですかっ!?」
「あぁ……少し頭がふらつくが……」
そう言って、そっとシンから離れた。
その時――
「あれは……指輪……か?」
ユダの視界の先に、一つの指輪があった。
(何故こんな所に……)
ユダが倒れた瞬間、指輪が転がっていったようだ。
いつも大切に持っていた、あの指輪。送り主に覚えがなっかったため、自分で手に入れたのだろうと思い込んでいた。頭痛に見舞われた時も、持っていると不思議と和らぐような気がして、肌身離さず持っていたのだ。
その指輪を手にした時、ユダは全てを思い出した。
「俺は……なぜこんな大切な事を忘れてたんだ……」
走馬灯のように記憶が蘇る。
「シン……」
そっと、シンに近づき、頬に手を当てた。
「すまない……心配を……かけて……しまって……」
急激に記憶を呼び戻したせいか、またユダは意識を手放した。

気を失ったユダを移動出来ないシンは、そのままその場でユダが目を覚ますまで様子を見守り続けた。
身体が痛くないようにと、なるべく平坦な岩の上に木の葉をいっぱいに敷き詰め、その上にユダのを横たわらせる。
服の両腕部分を引き裂き、枕代わりにユダの頭の下へしく。少しでも頭に負担がかからないようにと。
幸い、洞窟内には水場があり、そこから汲んできた水に服の裾を一部を浸し、額に乗せる。
「ユダ……どうか、目を覚まして下さい……」
ユダの両手を握りこみ、祈るようにユダを見つめ続けた。
その日はユダは目覚めることはなかった。
シンは、寝ることなく、ユダが目覚めるのを待っていたが……連日の不眠と、洞窟までの過酷な道のりの疲れが溜まっていた。
シンが、意識混濁寸前で眠りに落ちたあと、ユダは目覚めた。
「……ん……ここは……シン? 俺は一体……」
自分が置かれた状況を、ゆっくりとユダは思い出した。
「そうだ……魔物に襲われて……呪いを掛けられてしまった。だが……シンのおかげで」
ユダはシンが起きないように、そっと起き上がった。
そのままの体制で眠らせるにはシンが辛かろうと、そっと抱きしめ、自分が布団代わりとなった。
シンが起きるまで、じっと待ち続けるユダであった。
その後、数刻が過ぎ……。閉じられていたシンの瞼がゆっくりと開けられた。
「シン……」
目の前にユダがいた。認識するのに少し時間のかかったシンは、ぼーっとユダを見つめ、はっとしたように目を見開いた。
「ユダ、大丈夫なのですか? 頭は、痛くありませんか? こんな時に、眠ってしまうなんて、私は……」
その時、自分がユダの上に乗り上げている事に気付き、シンは慌てたように身を起こした。
「大丈夫だ。シン。お前のおかげだ」
シンの慌てぶりをみて、ユダは笑いをこらえきれず、声を出して笑っていた。
「ユダ……記憶が……」
以前のユダが醸し出していた懐かしい雰囲気に気付き、シンは呆然と呟くように言った。

「ルカも心配しているだろう。早く戻ろう。シン」
無事帰路に着いたユダとシンは、ルカの家にいた。
「すまない。心配かけて。ルカ」
「いや。無事だっただけで何よりだ。ユダ。そしてシン」
ユダが記憶が戻った経路など、色々ルカに話をした。
「今日は、この辺で帰るな。ありがとう。ルカ」
「いや。またな」
ルカに報告が終り、ルカの家を出た。
「シン……今夜は……」
(一緒に過ごしたいが、疲れているだろうしな……)
「ユダさえ宜しいのでしたら、お邪魔させて頂きたいですが……けど、お身体は……それに、こんな姿で……」
改めてシンの格好を見返してみると、あまりに悲惨な状態だった。
両腕部分の布はなく、白い腕がさらけ出され、足元まである服の裾も、かなり短くなっている。
「すまない……俺のせいで……」
「私の意思でした事ですから。ユダが気になさる必要はありません」
「送っていこう。疲れただろう? シン。そんな格好で一人では帰せないからな」
「……では、お言葉に甘えて……」
ユダの体調も気になったが、ユダの本心からの言葉が嬉しくて、シンはうちまで送って貰うことにした。
家の近くまで来た時にシンはユダに声をかけた。
「もうこちらで結構です。ユダ、ありがとうございました。……もし宜しければ、少し寄っていかれますか?」
今は離れがたく、そんな言葉を漏らしてしまったシンだが、すぐにユダの身体の事を思い出した。
「いえ、今は早く戻られて、お休みになった方が良いですね。気をつけてお戻り下さい」
微笑をたたえ、ユダを見送ろうとその場に立ち止まるが、ユダが動く気配がない。
(このままシンと一緒にいたいが……俺のせいで無理をさせたんだしな。これ以上無理は言えない。今日はゆっくり眠ってもらわねば……)
少し未練を残しつつ、
「あぁ、お前も早く休めよ」
笑顔でそう言って、シンの家を去っていった。
ただ、方角が―――
ユダの家の方向と違う方へ歩いていった。
泉のほとりがある方向へ。
(帰る前に、泉へ行きたい。あそこは気持ちが落ち着くからな)
ユダは泉に着くと、いつもの定位置である、大木の幹に腰を下ろした。

しばらくユダがそこで泉を眺めていると、何者かが近寄ってくる気配がした。
「ユダ、どうしてこちらにいらっしゃるのですか?」
小走りにシンがかけてくる。軽く息をきらせていた。
「貴方が向かった方角が、家の方でなく、こちらのような気がして……」
ユダはシンがやってきた事に少し驚いたようだ。
「シン……疲れているのだから、早めに休めと言っただろう?」
「私よりも、貴方の方が疲れていらっしゃるのに……」
ふっとユダは笑った。
「ここに来ると、心が落ち着く。穏やかになる。きっと、毎夜ここでお前がハープを弾いてくれていたからだろう。ここ数日色々あったからな。家に帰る前にどうしても、この泉を見たくなった。すぐに帰る。お前も早く帰って休め。シン」
シンは無言でユダを見つめた。
「じゃないと、俺の家まで連れて帰ってしまうぞ?」
ユダは笑いながら冗談交じりにシンに言った。
「今の貴方から目を離すのは心配です……貴方が眠りにつかれるまで、お傍についてても宜しいですか? 眠られたら、おいとましますから……」
「それだったら……一緒に眠るか?」
「ユダ……」
シンの頬が赤く染まる。
「冗談だ。シン。俺は大丈夫だ。今から家に戻る。シンも戻って休め」
そう言って立ち上がった。
やはり、体力が万全でないのだろう、立ち上がる時バランスを崩し、倒れかけた。
「ユダっ!!」
シンは慌ててユダに寄り添い、身を支えた。
「早く休まないと……身体が本調子ではないのですから……」
ユダが返事をする間もなく、シンはユダの手を引いてユダの家へと向かった。

ユダの家につくと、シンはそのままユダを寝台に連れて行き、横になるよう勧めた。
「楽にして下さい。寄り道をされたせいで、余計に身体に負担がかかったのではありませんか? 私が送って頂いたから……」
「そんなことはない。さっきのは、ただ、躓いただけだ。そう心配するな。大丈夫だから」
ユダは、少し困ったように微笑んだ。
「シン。今日は遅い。本当に泊まって行くか?」
「私が隣にいては、貴方の身体が休まりませんよ? ……それでも宜しいのですか……」
「お前が傍にいた方が俺は休まる」
くすっとユダは笑った。
「お前が傍にいないと、またどこかに散歩に出かけてしまうかもしれないしな?」
少しだけイタズラっ子のような瞳でシンに言った。
「……困った方ですね……」
苦笑めいた呟きをもらし、シンはユダの隣に身を横たえた。けど、表情は柔らかく微笑みを浮かべている。

ユダとシンは、二人寄り添ってその夜眠りについた。
もう、二度と離さぬとばかりに。
「シン。不安にさせてすまなかったな」
「いいえ……貴方を失うと思った事ほど、怖いことはありませんでした……記憶が戻って良かったです……」
そっと、額に口付た。
「おやすみ。シン」


『記憶のかけら』・・・石ではない。物でもない。
心の奥底にある大切な大切な人・・・
それは、どの宝石よりも輝き、どんなものよりもすばらしい。
たった一つの宝石・・・
―――あなたにとっての宝石はなんですか?





後書き
いやぁ。無事ハッピーエンドで終りましたよ!ほっと一息です。
最後はやっぱり甘甘で(^^)
ラブラブな話が一番好きですよ。
試練を乗り越えて!という(爆)

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