『詳説・ラムについて』
■Rum(英)ラム
■語源は、17世紀ごろ西インド諸島で使われていた英語の
ラムバリオン(rumbullion) , ラムバシオン(rumbushion)の略であろうというが、
上記の2つの言葉の語源も不明だという。
一説に「ラムバリヨン」はデヴォンシャ方言で「騒動」のことだという。
フランス語でロム(Rhum , Rum)、
ポルトガル語、スペイン語でロム(Rum)、
イタリア語ではルム(Rum)
等みんな英語を取り入れたものである。
元は西インド諸島のさとうきび栽培地で、
モラセス(糖蜜やダンダー)などを原料にして発酵蒸留して得たスピリッツ。
今はどの地方でもさとうきびの栽培が盛んなところでは、
副産物利用産業としてラム製造が行なわれている。
砂糖相場などによっては、さとうきび汁からも作られる。
もともと天然イーストなどを利用したものもあったが、
今では、イーストは多種あるがまだ分離に成功していないという。
一面、モラセスを熱気殺菌し、純粋培養イーストを用いて、
ラムの性格をコントロールすることに勤めている。
発酵方法がラムのタイプを決定するのであるが、
発酵方法は各蒸留所によって別々であり、又島によっても統一は無い。
大別して一般に「へヴィー」「ミディアム」「ライト」の3つの主要タイプがある。
一般にヘヴィーは色が濃く、ライトは淡く、ミディアムはその中間である。
スピリッツであるから、最初は無色透明のスピリッツであるが、これにカラメルを持って着色をする。
「へヴィー・ラム」は風味が最も強烈で、主としてジャマイカ島でつくられる。
これは「リキュール」とするかまたは「パンチ」のような調合飲料にして飲まれることが多い。
又風味が強いことを利用して、ケーキや製菓用としても優れている。
「ミディアム・ラム」は主にイギリス領ギアナ産やマルチニック産とがその例である。
甚だデリケートな性格を持っていて、「へヴィー」と同じようとがある。
風味がそれほど強くない点を好む人に向く。
「ライト・ラム」はトリニダット・トバコ、バルバドス、キューバ、プエルトリコなどのラムが典型的な例である。
これはソーダや水とも相性が良い。きわめてマイルドで、デリケートな風味と香りを持っている。
しかし風味の強い飲料に混ぜると「ラム」の風味が消えてしまう。
この長所は「カクテル」に向くことであって、
カクテルの流行に連れて「ライト・ラム」のほうが急速に需要を占めている。
キューバの「バカルディー」(Bcardi)社の流行は戦前には想像も出来ないことであった。
ラムも「エージ」(樽に詰めて貯蔵し熟成させること)させなければならない。
「へヴィー」は最も長年月をようし、3~5年を経たないと最高級とならない。
しばしば5年以上を要する。
「ライト・ラム」は4年以上のエージは必要でない。
大抵は2年以内で良品となる。
ラムは殆どがブレンドしてから瓶詰される。
「へヴィー」「ミディアム」「ライト」の区別は一次的には発酵方法、蒸留方法によって決定されるのであるが、
しかし最終製品の品質は「ブレンディング」によって左右される。
「ミディアム」の如きはへヴィーとライトをさまざまな割合で
ブレンドすることによってつくることができるのである。
■Nelson’s Blood
ラムには「ネルソンズ・ブラッド」(ネルソンの血)という不滅の美称が与えられている。
もしこの古い伝説が本当だとしたら、少々君が悪いが…。
トラファルガー海戦の後、ネルソンの遺体を持ち帰ることが決まったとき、防腐手段が無いこと気がついた。
しかし、死体は強いアルコールの中では長期保存できることは知られていた。
そこで、ネルソンは「船用ラム」を満たした容器の中に詰められた。
その結果として、航海の途中はラムのレーション(加給)が減らされたので、
乗員の中の若干名は、その容器に穴を開け、ラムを一口ずつ、時々盗み飲みした。
そのラムには英雄の血も混ざっていて、もちろんラム自体悪くなることは無く、
逆にありがたがって飲んだと言う。
そこで、ラムは「ネルソンの血」と呼ばれる事となり、この美称は今日も用いられている。
※ネルソン提督はCalviで片目を、Cadizで片腕を失い、
1805年10月21日Trafalgarで命を失った。
(An Illustrated History of ENGLAND,1963)より
※Dunder(ダンダー)・・・製糖工場で、さとうきびを絞って、煮詰めたときに生ずる沈殿物。
西インド諸島で、ラムに特殊フレーバーを付与するため、発酵の際、加えられる。
※Grog(グロッグ)・・・水割りラムのこと。
昔英国海軍では、水兵用の酒として、ラムを配給していたが、
あの強いラム火酒をあおっては乱暴をはたらくので、
1740年にバーノン提督が命令を出し、以後、ラムと水を半々に割って配給した。
彼はグログラム・クローク(粗布の上衣)を着ていたので、
「グロッグ」
のあだ名があり、この「水割りラム」も「グロッグ」と命名された。
グログラムはフランス語グロ・クラーン(布地のきめが粗いこと)の訛りである。
なお、泥酔状態やボクシングのノックアウト寸前の状況を、グロッキーと言っているが、groggyの訛りである。