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航空ルート変更
◆「航空ルート変更」
九月十一日の朝、真っ青な大西洋の真ん中を飛んでいた全てのフライトに起こったことについて、もしもご興味があれば、フランクフルト発アトランタ行きのデルタ航空の客室乗務員が記したこの詳細な体験談。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――
フランクフルトを出て約五時間経過し北大西洋の上空を飛行中でした。私は交代の休憩時間で乗務員休息席に居ました。いきなりカーティンが開けられ直ちに操縦室の機長のところに行くように言われました。
急いで行ったところ、クルーは一様に固い表情をしていました。
機長は私にプリントのメッセージを渡しました。一読して事の重大性を感じました。
それはアトランタから私たちのフライト宛てで“米国本土の空港は全て閉鎖された。
早急に最寄の空港に着陸せよ。予定地を知らせ。” という簡単なメッセージでした。
運行司令が空港を指定しないで直ちに着陸を指示して来た事は、司令は不本意ながらフライトの運行管理を機長の判断に任せたということです。事態は深刻で早急に陸地を探さねばなりませんでした。
私たちの右肩の後方四百マイルにあるニュー・ファウンドランド島ガンダーが最短距離の空港でした。直ちに右旋回してガンダーへの直行航路をカナダの航空管制官に要請したところ即座に承認されました。
わたし達客室乗務員は緊急着陸のための機内準備を指示されました。その間にアトランタからの次のメッセージはニューヨーク地区でのテロリスト活動について知らせて来ました。
客室乗務員にガンダー着陸予定を説明して着陸のための“機内の店仕舞い”の仕事を始めました。数分後に操縦室に戻った時に、幾つかの航空機がハイジャックされ米国中の建物に突入した事を聞きました。
わたし達は当分の間乗客には嘘のアナウンスをすることにしました。乗客には、フライトの計器に問題が発生したので点検のためガンダーに着陸すると伝えました。詳しいことはガンダーに到着後知らせることを約束しました。多くの乗客は文句を言いましたが当然のことです。このエピソードの発生後約四十分後にガンダーに着陸しました。
地上には世界中からの航空機が約二十機既に居ました。搭乗口に駐機した時に機長がアナウンスしました。
“乗客の皆様。周りのこれらの航空機も全て私たちと同じように計器の問題が起こったのだろうかと不思議に思っておられるだろうと思います。しかし本当の理由は別のことです。”と述べて、米国の状況につき私たちが持っている僅かな情報を説明しました。
乗客は驚きの声を挙げ信じがたい表情を示しました。ガンダーの現地時間は午後12時半(東部標準時刻、午前11時)でした。ガンダーの管制塔はそのまま待機するよう指示しました。地上の人は一切航空機に近づくことを許されませんでした。
空港警察の自動車だけが時たま巡回して我々を見上げてそれから隣の航空機に向かって行くだけでした。
それから一時間ほどの間に北大西洋上の全ての航空路線から航空機は姿を消してガンダー空港だけでも世界中から航空機が五十三機、内二十七機が米国籍でした。
全ての航空機からの乗客の下船は一度に一機毎に行われ、外国の航空機が優先すると通知されました。
私達は米国籍のグループのなかでは十四番目で、午後六時に下船予定時刻の通告を受けると言われました。
その内に、航空機のラジオから断片的なニュースが入り始め、ニューヨークの世界貿易センターとワシントンDCのペンタゴンに航空機が突入したことを始めて知りました。
皆は手持ちの携帯電話で通信を試みましたがカナダのシステムが異なるため接続出来ませんでした。或る人はカナダの交換手にやっと繋がったが米国への回線は障害又はパンク状態のため後刻又掛けるように言われました。
夕方遅くなって世界貿易センターの崩壊、ハイジャックされた四番目の航空機墜落などのニュースが伝えられました。乗客は今や全く呆然として喪失状態でしたが冷静でした。
周りを見渡せばこんな苦境に陥っているのはわたし達だけではありません、ほかの五十二機の航空機にも同じ状態にある人達がいることを私たちは乗客に繰り返して話しました。
我々はカナダ政府の管理下にあり、その指示に従うほかないことも乗客に伝えました。最初の約束通り、午後六時にガンダー空港は私たちの下船予定時刻は翌朝午前十一時であると伝えて来ました。
乗客は全く諦めの境地でおとなしく、この知らせを受け止め、機上で一夜を過ごす準備を始めました。ガンダーは必要な全ての医療、薬品、水、トイレのサービスなどを約束し、全て実行してくれました。
幸運なことにその夜は医療が必要な事態は起こりませんでした。妊娠三十三週間目の若い婦人が居たので、わたし達は特に彼女の世話に万全を期しました。
寝るには窮屈な環境でしたが、その夜は私たちの機上では特にそれ以上の問題は起きませんでした。
十二日の朝10時半ごろに下船準備の連絡を受けました。
航空機の横にスクール・バスの一団が現われ、搭乗階段が機体に取り付けられて乗客はターミナルに“手続きのために”運ばれました。クルーは同じターミナルの別の場所に行かされました。そこで入国手続き、税関検査後、赤十字に登録をしました。
その後、クルーは乗客から引き離されて、一団のバンに分乗してガンダー市内のとても小さいホテルに案内されました。客の行き先については何も教えられませんでした。
赤十字によればガンダー市の人口は10,400で、ガンダーに不時着した航空機の約10,500人の世話が必要でした。 ホテルでゆっくり寛いで空港への呼び戻しの指示を待つように、但しその指示は当分の間期待しないようにと言われました。
ホテルに着いてテレビを付け、事件発生から二十四時間後に本土での恐ろしい事件の全貌を知りました。そこで私達は町を徘徊して珍しいものを見たり歓待を受けたりして楽しみました。人々は人懐こくてわたし達を“航空機の人達”と呼びました。
二日後十四日の午前七時に呼び戻しの知らせを受けました。
午前八時半に空港に行き午後十二時半にアトランタに向けて出発し、アトランタには午後四時半頃到着予定でした。(ガンダーと東部標準時間との時差は一時間半、間違いなく一時間半先です。)
しかし私が皆さんに話したかったのは、これからのことです。乗客が私たちに語ったことはとても素晴らしく信じられないほど最高でした。ガンダー及び半径七十五キロ以内の小さい町はすべての高校、集会場、宿泊所その他大きい集会場を閉鎖しました。
これらの全て施設を集団宿泊場所に転用しました。簡易ベッド、マット、寝袋、枕などが持ち込まれました。全ての高校生は “ゲスト”の世話をするためにボランティアとして動員されました。
私たちの218人の乗客はガンダーから約45キロ離れたルイスポートという町に落ち着きました。そこの高校に収容されました。女子の希望者には女子専用の区画が割り当てられました。
家族は家族ごとに纏めらました。老齢者はすべて個人の家庭に招かれました。
ご存知の若い妊婦は二十四時間緊急診療所から真向かいの個人の家庭に泊められました。常時来診可能な医療サービスがあり、看護士(男性及び女性)も滞在期間中集団に付き添ってくれました。
全員、各人が一日に一回、米国及び欧州に電話とEメールを利用することが出来ました。滞在期間中に、乗客は“遠足”旅行を選択することが出来ました。或る人々は湖や湾へボートのクルーズに、他の人達は近くの森に行きました。
土地のベーカリーは常時開業してお客様に焼きたてのパンを提供しました。食事は町の住民全員が準備しました。宿舎から外出したくない人には学校に食事が運ばれました。
他の人達は選択した給食場所に自動車で案内されご馳走になりました。手荷物は機内に置いて来たので、支給されたコインを使って町のコイン・ラウンドリーで衣類を洗濯しました。
つまりこれらの不幸な旅行者が日常生活に必要なものは全て満たされました。乗客はこれらのことを涙ながらに話してくれました。乗客は一人の落伍、遅刻もなく予定時間通り空港に戻って来ました。
全ては地元の赤十字社がガンダーの各地の状況を完全に把握して、グループ毎に空港の所要到着時刻に合わせて出発時刻を掌握していたお陰です。全く信じられない完璧な手配でした。
乗客が機内に乗り込むと、あたかもクルーズのような雰囲気でした。全員はお互いにファーストネームで知り合いになっていました。おたがいに滞在中の経験談を交換して、夫々が過ごした楽しい自慢話を交わしました。信じられない事です。
アトランタへの帰りの旅はパーティの様でした。乗務員は邪魔しないように引っ込んでいました。乗客同士が固い絆で結ばれお互いにフアーストネームで呼び合い、電話番号、住所、Eメール・アドレスを交換していました。
そこで変わったことが起きました。ビジネスクラスの一人の乗客が私に近づいて機内放送を使って他の乗客に話したいと言って来ました。これは規則で固く禁じられていることです。しかし、この時彼の言うとおりにせよと、なにかが私に命じました。
“勿論、どうぞ”と私は答えました。彼はマイクを持って全ての乗客が過去数日間体験したことを話しました。全くの赤の他人から受けた歓待について乗客に語り、更にそのお返しとしてルイスポートの善良な市民のために何かしたいと言いました。
デルタ15(我々のフライトナンバー)と名づけた信託基金の設立を彼は提唱しました。
この信託基金の目的はルイスポートの高校生の大学進学を助けるための奨学金の支給です。彼は旅行仲間達に任意の寄付金を要請しました。
金額、氏名、電話番号を記した紙が戻って来ました。合計額は$15,500(カナダドルで約$20,000)でした。
基金の提唱者はバージニアから来た医者でした。
彼は合計額と同額の拠出を申し出て、更に奨学資金設立の世話役を引き受けました。彼はこの提案をデルタ航空に提示して会社からも寄付金を要請すると述べました。
一体全体こんなことは、どうして起きたのでしょうか? はるか遠い場所の或る人たちが、彼らの間に文字通り降って来た或る見知らぬ人たちに親切を尽くしたからです。
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