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災害時の口腔ケア

◆災害時の口腔ケア・歯科治療 平易な「Q&A」◆


【はじめに】
本Q&A は避難所などで、口腔ケア用品・水・電気などに不足がある状況を想定した内容も含んでいます。したがって、種々の代用品などを紹介しておりますが、これはあくまでも緊急措置として使用するものであり、長期での連用は危険を伴う場合もあります。物資の供給が安定した時点で、適切な方法へ変更するようにお願いします。

Q1.災害時にも「口腔ケア」(お口のケア)は必要?
被災後の不規則な生活(睡眠不足など)や栄養状態の悪化、口腔衛生状態の低下、義歯の紛失などが重なり、肺炎やインフルエンザ・カゼなどの呼吸器感染症を起こしやすくなることが知られています。阪神淡路大震災、中越・中越沖地震などでの経験からも、口腔ケアによる呼吸器感染症の予防が大切です。
呼吸器疾患予防のために、手洗いやマスクとともに、洗面などの清潔保持に必要な水の不足があるかもしれませんが、歯みがきやうがいなどの「口腔ケア」を必ず実施してください。

Q2.特に口腔ケアが必要な対象者は?
自分自身で口腔ケアが難しい方には介助が必要です。また、自分で口腔ケアが可能でも、高齢者で嚥下(飲み込み)に障害を有する方には、適切な口腔ケアが必要です。最近の研究で、就寝中にムセなどの症状もなく唾液が気管に入り込み(=[不顕性]誤嚥)、[誤嚥性]肺炎を起こすことが明らかになってきました。嚥下障害の自覚がなくても、肺炎で入院したことがある高齢者は、肺炎を繰り返しやすいため要注意です。

Q3.どのような口腔ケアが必要?
口腔を清潔にするための歯みがきとうがい、それを保つための保湿が大切です。そして広い意味では、口から栄養や水分を適切に摂取することも心がけてください。
[誤嚥性]肺炎を起こす理由は、口腔や咽頭部にいる菌を嚥下障害のために気管・肺へ誤嚥するためですが、免疫力が良好であれば肺炎を起こさずに済むこともあります。
口腔ケアで口を清潔にしておくと、唾液がきれいになり、たとえ誤嚥しても肺炎を起こしにくくなります。また口腔ケアの刺激で嚥下障害の改善を期待できますし、口から食べることは栄養状態を改善し、免疫力を向上させます。

Q4.うがいする水が不足している場合は?
チューブ入りの歯みがき剤で研磨剤を含むものは吸湿作用が強く、口の中に残ると乾燥を助長するため、うがいをしにくい状況では使わないようにします。歯ブラシを少量の水で濡らすだけ磨きますが、液体ハミガキ(デンタルリンス)や洗口液が入手可能なら水だけよりも歯垢の除去に効果的です。
うがいは、口の中の汚れを水の勢いで浮き上がらせ、薄めて、吐き出す行為です。一度に多くの水を含んで吐き出すよりも、「少量ずつ口に含んでは吐き出す」を繰り返す方が効果的です。具体的には、1回に30mL の水でうがいするよりも、2回に分けて、15mLの水で2回うがいする方が、薄める効果が強くなり効果的です。
なお、うがいにはクチュクチュあるはブクブクと主に口の中をきれいにする「洗口」と、喉に対する「ガラガラうがい」があります。喉に水を溜めにくい方に「ガラガラうがい」は危険な場合があります。

Q5.歯ブラシを入手できない場合は?
歯ブラシを入手できなければ、タオルやティッシュペーパーなどで歯の表面を擦って、できる限り歯垢を除去するようにしてください。液体ハミガキ(デンタルリンス)や洗口液を併用すると歯垢を除去しやすくなります。洗口(クチュクチュあるはブクブク)だけでは、歯垢を除去できません。

Q6.うがい薬の代用品は?
消毒効果を有するうがい薬としてイソジンガーグルが有名ですが、歯みがき時に使う液体ハミガキや洗口液などにも消毒成分を含む製品があります。アルコールを含む製品が多いので、刺激を感じるようでしたら、薄めて使用してください。
医療現場にあるものの中で、ポビドンヨード(イソジンなど)、オキシドール、アクリノール、塩化ベンザルコニウム(オスバンなど)は口腔粘膜にも使用可能です。いずれも使用濃度を確認してください(オキシドールは最終濃度0.3~1.5%、塩化ベンザルコニウムは最終濃度0.025%以下など)。
なお、手指消毒用の製品には消毒効果がありますが、アルコールや洗浄成分を含むため、口腔への使用はできないものが多いでしょう。

Q7.重曹水は洗口液の代用になる?
リステリンやモンダミンに代表される洗口液(マウスウォッシュ)で洗口すると、爽快感が得られ、口臭を抑える効果があるとされます。ただし、口臭の原因であることが多い歯垢への直接効果は限定的で、歯みがきを併用する必要があります。
口のネバネバ感に対しては、味は良くありませんが、重曹による洗口が有効です。
重曹を水に溶かすと弱アルカリ性になり、洗口液として使用することができます。濃度は100mL の水に2g(2%)が目安です。舌苔が厚くなった時や液体ハミガキの代用としても有効です。

Q8.要介護者にも口腔ケアの注意点は?
自分だけでは食べること、口腔ケアに不自由な介護を要する方には、周囲の方が食べることだけでなく、その後の口腔ケアも手伝ってあげる必要があります。むしろ、必ず口腔ケアが必要な方々です。
うがいができるか、できないかで、方法・難しさが異なります。いずれにしても、ポイントは口の中の汚れを飲み込ませないように吐き出してもらう、あるいは回収することです。

【洗口ができる要介護者の場合】
洗口した水を飲み込ませないように吐き出してもらうための工夫として、顔を横に向けてもらって(もし左麻痺がある場合は、右を向かせる)、喉の方へ流れ込みにくいよう配慮します。

【洗口ができない要介護者の場合】
歯ブラシなどにつける水は必要最小限とし、顔を横に向け、下になった側の頬粘膜に濡れティッシュなどを置きます。口の中の汚れを、歯ブラシやスポンジに絡め取るとともに、飛散した汚れを濡れティッシュとともに回収します。

Q9.入れ歯を使用している場合のケアは?
人前で入れ歯を外すのが恥ずかしい、水が不足しているなどの状況が考えられますが、できれば毎食後、少なくとも1 日に1 度は外して洗うべきです。入れ歯を口の中に入れたたままではきれいになりません。
また、あまり意識されていないでしょうが、入れ歯は食べるためだけでなく、飲食物や唾液を飲み込む時にも役立つことが知られています。また、入れ歯を外したままにしておくと、入りにくくなることがあります。
水が不足している場合の入れ歯の清掃法として、食器洗い用のスポンジや使い捨ておしぼりのようなもので拭ってもらうのが良いでしょう。部分入れ歯では、針金の部分など、複雑な構造をしていることが多いので、その部分は、歯ブラシや耳掃除用の細い綿棒などで清掃します。
なお、入れ歯を浸けておく義歯洗浄剤を入手できれば、ぜひ使用しましょう。ただし、義歯洗浄剤を充分に洗い流してから、入れ歯を口に戻すようにしてください。食器洗い用の中性洗剤で代用することもできます。

Q10.よく噛んで唾液を分泌させることは大切?
よく噛むことは唾液の分泌を促して消化を助け、またストレスの解消にもなり、健康維持に役立つことが知られています。ゆっくり食べると満腹感も得られやすいことが知られています。
唾液には消化や潤滑などの働きの他、洗浄や抗菌作用などがあり、口の清潔や肺炎予防などに欠くことができない貴重なものです。唾液のネバつきは水分不足のサインですので気をつけてください。
手軽に噛めるという点で、チューイングガムは便利です。入れ歯の方には、「歯につきにくいガム」もあります。キシリトール入りのガムにはむし歯予防効果もあります。

Q11. 口が渇いて困っていますがどうすれば?
水分の不足やストレスなどで、唾液が減ることが原因です。ストレスの緩和も兼ねて、ガムなどを噛むのも有効です。水分を口に含んで潤したり、マスクをつけて蒸発を予防するのも良いでしょう。
かぜやインフルエンザの予防のためだけでなく、マスクをつけることで蒸発が少なくなり口の乾きも和らげることができます。特に、冬場の避難所のような湿度の低い環境では有効です。
歯みがき剤のようなチューブに入った保湿ジェルは乾燥予防に有効です。小豆大程度を、舌や頬の粘膜に薄く塗り広げてください。入れ歯が歯肉に接する部分に塗ると、入れ歯の安定に役立つことがあります。

Q12. 口臭が気になりますがどうすれば?
被災後の不自由な生活環境を背景に、口腔の「不衛生」と「乾燥」が原因になっていることが多いです。歯みがきと洗口を中心とした口腔清掃による衛生状態の改善と保湿によって、口臭を大幅に改善できます。
衛生状態の改善には、何といっても歯みがきです。歯ブラシで歯の表面を擦って、歯垢を除去するようにしてください。歯垢は、歯の表面に付着した菌の塊で、悪臭を発します。
歯みがき剤がなければ、歯ブラシを水で濡らすだけでもかまいませんが、歯みがき剤や洗口液・うがい薬などがあれば、手洗い時の石けんと同じように、歯垢を除去しやすくなります。そして、仕上げにブクブク洗口をしてください。洗口は、乾燥予防にも有効です。
乾燥は唾液の分泌が減ることが原因です。水分摂取の不足やストレスは唾液の分泌を少なくします。ストレスの緩和も兼ねて、手に入ればガムを噛むのも有効です。乾燥予防には、マスクをつけるのも良いでしょう。
口の中に塗る湿潤ジェルを入手できるようであれば、舌や頬の粘膜に薄く塗ってもらうのも、乾燥、口臭の予防に有効です。

Q13. 歯がしみる痛みの原因と対策は?
冷たい水や歯みがき時のみ歯がしみる時は、むし歯か知覚過敏が疑われます。しみるからと言って、歯みがきをしないと悪化する場合が多いので、冷たくない水で歯みがき・うがいをするなどのくふうをしてください。知覚過敏にはシュミテクトという歯みがき剤を入手できれば試みてください。
冷たい水だけでなく甘いものさらには温かいお湯がしみる時には、むし歯による痛みが疑われます。刺激がなくてもズキズキ痛むようになるとさらに重症です。歯科への受診もしくは往診を依頼できないか、痛みがひどくならないうちに早急に相談してください。
歯科治療を受けられない場合、新今治水や正露丸はどうでしょう?これらには歯科治療で使用する成分も含まれており、むし歯の穴に詰め込むと痛みを一時的に緩和できる場合があります。しかし、逆に痛みを悪化させたり、歯肉に接触すると炎症を生じる可能性がありますので、積極的にはおすすめできません。
むしろ無難な方法として、歯痛に効くツボを紹介しておきます。手の甲で、親指と人差し指の付け根あたりに「合谷」というツボが歯痛にも効くとされています。強く押したり揉んだりすることで、歯痛が緩和されることがあります。

Q14.歯肉(歯ぐき)の部分が痛む原因と対策は?
歯周病や親知らず(智歯)が原因で歯肉に炎症が生じていることが疑われます。また、何かモノを噛むと痛みが増強する場合には、歯肉や歯を支える骨の部分の炎症による痛みが疑われます。このような時には、なるべく刺激しないようにします。
歯と歯肉の境界部付近をうがい薬などでやさしく消毒すると症状が緩和することがあります。抗菌薬(抗生物質)を入手できないか相談してください。
奥歯の痛みや歯肉の腫れから、発熱や寒気を生じたり、口が開きにくい、唾を飲み込むと喉が痛い、というような症状に発展した時には、危険なサインですので、至急医療従事者に連絡してください。

Q15.歯のつめものがとれましたが、どうすれば良い?
外れた歯のつめもの、かぶせなどは、紛失しないように保管します。ティッシュペーパーなどに包んでおくと、間違って捨てられてしまいますので要注意です。
歯科への受診もしくは往診を依頼できないか、相談してください。状態が良ければ、元に戻すことができます。

Q16.入れ歯の調子が悪い時は、どうしたら良い?
まず、入れ歯の内面(歯肉にあたる部分)に食物などの汚れが付着したままになっていないか確認し、清潔にしてください。食べる時以外は外しておくことで、入れ歯があたって痛い部分の刺激を少なくしてみて、改善しないようであれば、歯科への受診もしくは往診を依頼できないかを相談してください。
入手できるのであれば応急的に義歯安定剤を使用するも一法ですが、さらに症状が悪化することもありますので要注意です。
義歯安定剤がない場合には、入れ歯の内面に、オブラート2枚程度や、ティッシュペーパーを1~2枚分あててみると、改善することがあります。

Q17.口内炎の予防や治療は?
栄養の偏り、睡眠不足などで身体の抵抗力(いわゆる体力)が低下すると、アフタという口内炎ができやすくなります。また口の中が乾燥すると、口内炎のような傷(潰瘍)ができやすくなります。
ケナログなどのステロイド軟膏で一時的に痛みが和らぎますが、必ずしも治癒が早まるわけではありません。ウイルスやカビが原因の口内炎では、ステロイド軟膏で悪化することがありますので、素人判断は禁物です。

Q18.歯科との協力が必要な状況とは?
歯の痛み、入れ歯の不調などの訴えがなくても、潜在的な問題点を抱える被災者が多くいます。唾を飲み込んだ時の痛み(嚥下痛)や口が開きにくい(開口障害)は緊急性の高い炎症症状です。
むし歯や歯周病を放置しておくと痛みや口臭の原因になるだけでなく、菌による炎症が拡大すると敗血症など、命に関わることもあります。痛くなくても重症なこともありますので、注意してください。

Q19.ジュースやお菓子ばかりたべていますが、むし歯には大丈夫でしょうか。
水分やカロリーの補給にジュースやお菓子は貴重ですが、長期的な視点ではむし歯にならないように気をつける必要があります。ご存じの通り、歯みがきをしっかりすることがむし歯予防の基本ですが、飲食の順序の工夫など、ちょっとしたことの積み重ねでむし歯になる危険性を少なくすることができます。
砂糖が多く含まれ、しかも歯にくっつきやすい食品、たとえばキャラメルは最も危険なものです。歯にくっつきやすい食品を食べたら、その後にリンゴなどを食べることで、粘着性のものを落とすことができます。
歯にはくっつかなくても、意外に糖が多く含まれており、なおかつ酸性の製品が多いので、この点ではスポーツドリンクも要注意です。スポーツドリンクを飲んだ後、水やお茶をひと口含む、このような小さな心がけが大切です。
なお、砂糖やブドウ糖、果糖とは異なり、ステビア、キシリトール、パラチノースなどの代用糖はむし歯にならない糖です。これらはむし歯の原因となる酸を産生しませんので、むし歯にはなりません。

Q20.歯ブラシの交換の目安は?
歯ブラシは毛が広がったら、汚れを除去できる効率が大幅に低下しますので、交換の目安としてください。歯ブラシを廃棄する前に、洗面台の隅の部分など、清掃しにくい所の清掃用具として廃物利用されてはいかがでしょう。

Q21.脱水時に有効な経口補水塩(液)の作り方は?
発熱、下痢、嘔吐などの脱水症状に対し、経口補水塩(液)は、水よりも吸収が良好です。水1L に砂糖40g(大さじ4.5)、食塩3g(小さじ半分)が基本で、1割程度グレープフルーツジュースを追加、吸収をさらに向上させるために少量の重曹を添加などのレシピもあります。

Q22.経管栄養のチューブの詰まりを防ぐ工夫は?
栄養剤を注入後、充分量の水でフラッシュすることが前提です。その後に食酢を10倍に薄め、チューブに満たしておくと、チューブ内の菌の繁殖や詰まりを少なくできます。

(出典:日本口腔ケア学会)


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