求めるものは・・・?

飛べるモノ


「ねぇ、お母さん。」

夏の暑い日、歩きながら子供が母に聞いた。

「何で蝉や鳥は空を飛べるの?」

母は困った顔をした。

「ねぇ、なんで~?」

子供はずっと聞いていた。

「それはねぇ・・・」

「うん、それは?」

「それは・・・羽があるからよ」

子供は止まった。

「じゃぁ、人間が飛べないのも羽がないから?」

「そうよ」

子供は悲しそうな顔をした。

何でそんな分りきったことを子供は聞くのだろうと

母はイライラしていた。

「ほら、早く行くわよ」

子供は空を飛んでいる蝉を見た。

そして再び歩き出した。

其の光景を私は見て自分の小さな時のことを思い出した。

私も何故、蝉や鳥が飛べるのか不思議だった。

そしてさっきの子供みたいに母に聞いた。

母の答えはさっきの母のと違っていた。


「ねぇ、何で鳥とかは飛べるの?」

母は困った顔をしたけど直ぐに答えてくれた。

「それはね、鳥とかは自分が飛べるって言うことを

知っているから飛べるのよ。あるいは飛べないって

言うことを知らないのよ。だから飛べるの。」

私は納得した。

「じゃぁお母さん、私も飛べるの?」

母は首を横に振った。

「あなたは飛べないって言うことを知っているから

飛べないのよ。飛んでしまったら死んでしまうわ。」

母はとても哀しそうに言った。


私はこの時、何故母が悲しそうな表情をしたのか

わからなかった。けど今、何故母があんな表情をしたのか理解できる。

父が天国に飛んでいってしまったからだ。

私は今、天国に飛ぼうと想っている。

私は飛べるものなのだ・・・。



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