独り言祭り

独り言祭り

すべての雲は銀の・・・―村山由佳

すべての雲は銀の…(上) ( 著者: 村山由佳 | 出版社: 講談社 )
すべての雲は銀の…(上) ( 著者: 村山由佳 | 出版社: 講談社 )
みなさんは村山由佳さんを知っているでしょうか??僕はこの人の本が大好きです。「天使の卵」を読んではまってしまい、文庫本は全部持っています。全てがお勧めですが、中でもこの、「すべての雲は銀の・・・」は最も気に入ってる小説の一つです。

タイトルを見ただけでは何のことだか分かりませんよね。僕も最初はよくわかりませんでした。というより、タイトルの意味が分かるのは一番最後なんです。ここで述べるのは楽しみ奪っちゃいますんで、是非自分で確かめてください。

おおまかに言うとこの小説は、主人公祐介が、失恋の傷を癒すため、地方の宿にアルバイトに行き、そこで再生していく様子を描いたものです。こう言ってしまうと、いや、それだけではこの小説の魅力がほとんどこぼれ落ちます笑。

でも、あんまり小説の楽しみを奪いたくないんで、ざっと思ったことを書きます。

この小説はそれぞれの登場人物の設定が実に面白いんです。それぞれが、傷を抱えて、苦しい立場にある。中にはかなり深刻な話も出てきます。主人公の祐介も恋人を兄貴にとられるという、これ以上ない傷を抱えています。

幼い時の兄弟の思い出なども語られていて、そこがまたいい。僕も兄がいるんで、とても気持ちが分かって、兄弟ならではの勝負みたいなものも描かれています。

しかし、それぞれの登場人物の持つバックラウンドが深刻なものであっても、それを感じさせない。どう言えばいいのか。

要するに、主役から脇役まで、人物造形が絶妙なんです。それぞれの話が物語りにうまく溶け込んでいて、幸福感さえ得られます。物語の細部にわたって過不足がない。

読んでいて、楽しく、幸福感さえ得られるのに、深く人生について考えさせられる・・・こんな小説にはなかなか出会えません。「天使の卵」の頃は、一人の女性を死ぬ気で愛する力強い、恋愛が描かれていましたが、この作品はどうも違います。

おそらく村山由佳さんは、一対一の恋愛という形から、もっと広い共同体との関係―それをこの作品では描きたかったのではないでしょうか。

彼女の作品はどれも素晴らしく、ジャンル区分は難しいところです。ファンタジーでもなく、社会的な問題を取り上げる小説でもなく、恋愛は描かれているが、恋愛小説ではない。あえて言うなら、「青春小説」でしょうか。

「大勢の人を感動できなくてもいい。でも、たった一人でもいいから心の底から共感してくれるような、むちゃくちゃ切ない小説を書きたい。」―村山由佳


© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: