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酒を飲み始めた。店の名前は「八犬伝」といった。「水滸伝」かもしれない。「天狗」とか
そういう名前だったかもしれないがよく覚えていない。ホテルからここまでの長い道のり
でほどよく喉が渇いていた我々の中の大多数は生ビールをオーダーし、そして宴会で
あれほど料理を口にしていたにもかかわらず、つまみとして大量の焼き鳥や揚げ物を
選んでいった。90度に折れたカウンターの先のもう片方の奥には、PCBやコビックが
いる。がまかつは既に赤ら顔になっている。周囲の2,3人ほどしか話が届かない。
最初の飲み物が全員に行き渡ると、フランスの号令で乾杯し、カウンター横並び一列
の14人は一斉に飲み始めた。
オレの近くの席では、カラコが、コビックが腹話術に使ったアヒルのぬいぐるみを持って
いたことから、コビックの「宇宙を語る」が話題の中心となった。さぶかった、という世論に
対し、いやさぶおもろかった、という論調が勝り、さぶさぶ芸をやらせたらコビックの右に
出る者はおらへん、という結論に達した。
やがてフランスがコビックやがまかつらがいる席へ移動し、空いた席にスライドするよう
にしてカラコがやってきた。カウンターで女性と隣になる確率は、この集団の男女比から
しても低く、オレはこの非常に恵まれた境遇に対して内心小躍りした。長袖のTシャツの
上にサイズのあわない大きめのフラジャーを重ね、きっちり上まで閉めたファスナーの
襟に首をうずめて口を塞いでる格好のカラコの右手にはアヒルのぬいぐるみがいた。
なんというかその、非常にキュートだった。
萎えががホテルの風呂の時間を気にしだしたのが22時ごろ。宴会だけ参加する予定
だったスーパーマリオことアイム関西が、予定通り終電を気にしだしたのが23時ごろ。
すでに2階の座敷席が空いて、場所の移動が可能であると告げられていたが、一同は
すっかり落ち着いてしまっていて、またわさわさと動き出すのも面倒だったことから、
カウンターのままでよし、との判断が下された。アイム関西や萎えが座を辞したあたりか
ら席次は入り乱れ、萎えのところに茶のんでるが来て、オレはこすりつけと入れ替わる形
でコビックやPCBのいる席へまわされた。コビックがオレを見るなり、「おまえ乳もんでた
やろ」といい、PCBをカラコに見立てて肘で相手にもたれかかりながらぐりぐりするよう
なジェスチャーをしてオレの悪行をアピールしたが、オレはそんなことをした記憶はない。
コビックやPCBのあたりにはがまかつやフランスもいたが、このメンバーで繰り広げら
れたのはバカ話ではなく、非常に真面目な会話だった。概ね自転車板での例の飲酒運転
にまつわる話だったり、リアルで付き合いがあるコテハンで誰が嫌いかとか、散々煽って
るやつは口だけだとか耳の痛い話も出たりしているうちにがまかつが顔を真っ赤にさせ、
「もう限界」といって帰ってしまったのは、話に激怒したからではなく、飲みすぎたから
だった。
またオレがもといた席にもどるとこすりつけとカラコが仲良くしていて少し嫉妬した。なん
だよおまえら仲いいじゃねえか、オレがそういうとこすりつけは、なんだ中村ぁと横暴な
口調でオレに振り向いて、なぜか、じゃんけんしよう、といった。こすりつけついに発狂か、
とオレは危惧し身を翻えそうとしたが、彼の声色は落ち着いていた。オレは意味がわから
ぬままじゃんけんに応じたが、ことごとく買ってしまった。何度も繰り返した挙句、彼がよう
やく1勝を挙げて、この意味不明なイベントが終了するかと思った瞬間、オレのほっぺたが
強烈なチカラでつままれて横に広げられた。オレの頬をつまんでいるこすりつけは平然と
した顔をして、じゃんけんを続けようとした。勝ったら相手の頬をつねるというルールのゲー
ムだったらしい。説明を受けていないオレはその理不尽さを訴えたが受け入れてはもらえ
なかった。こすりつけは片手でオレの頬をつまんだまま2勝目をあげると、今度は両手を
使ってオレのほっぺたを強く引っ張っり延ばしてから離した。ゲームオーバーだった。
理由なき暴力は危険だ。すでにこすりつけは、自身の秩序系統の破壊を進めていた。
オレがカラコへ「愛してる」といいながら近づいていってキスを迫ると、ことごとく拒まれた。
するとこすりつけが、「オレは愛してねえのかよう」とふざけた口調で言ったから、オレが
キスをする口の形をしながら彼に近づくと、彼はオレの口を受け入れたすなわちキスして
しまった。しかしそれだけではおさまらず、こすりつけはオレの下唇を強く噛みオレがあわ
てて離れようとしても離してはくれなかった。彼の肩を叩きギブアップの意思を伝えてよう
やく離れたオレの下唇は大きく腫れあがり、流血していた。
カラコが着ていたフラジャーのフルファスナーを、上から下まで下ろす行為を繰り返して
いた。カラコは、「(中にもう一枚)着てるって」といって脱がせられるままになっていた。
オレが下げ、カラコが上げ、を繰り返すこと3度目のとき、こすりつけが立ち上がった。
カラコの着ていたフラジャーのファスナーを降ろすという行為に特別な意味はなかった。しいて
いえば、擬似的な支配欲求の解消へ帰依する性的メタファー、といったような理由付けは可能
だとしても、つまるところは、酔った挙句のご乱心パフォーマンスであることには変わりがなかっ
た。カラコは中にしっかりとTシャツを着ていたし、これが例えば脱がせたらヤバい状態であった
ならオレはなにもせずおとなしくしていただろうし、いくら酔ってもそれぐらいはわきまえる秩序は
維持している。
3度目にオレがカラコのファスナーを下ろして大喜びしていると、こすりつけは鼻息を荒くして立
ち上がり、オレの襟ぐりをつかんで立たせ、そして壁際に押し付けた。尋常ではなないこすりつけ
の呼吸を感じ取ったオレは、なんだよ、と弱々しく抵抗の言葉を吐いたが、なんや大人しくしとけ、
という脅しとも取れるこすりつけのセリフにかき消された。オレのTシャツの襟ぐりをつかんでいた
こすりつけはそのまま両手を左右に開く方向へ力を入れ、引きちぎろうとした。なるほどオレの、
カラコのファスナーを下ろすというパフォーマンスに対抗して、こすりつけはオレの安物のTシャツ
を引きちぎろうというのだろう。オレはこすりつけの行為を、冷静に眺めていた。スマップの香取
慎吾を思い出した。確か彼も、Tシャツを引きちぎる芸を得意としていたな、とそのとき、襟の部分
がぴり、という音がして破けたかと思うと、そのままの勢いでまるで中央にファスナーがあるかの
ように直線的な加速度でオレのユニクロTシャツが破れていった。
オレのTシャツは無残に引きちぎられてだらしなくたれさがっていて、ビールと脂肪により膨らんだ
腹がさらけ出されていた。そして何食わぬ顔でこすりつけは席へと戻り、勝ち誇ったようにジョッキ
を高々を掲げ、ビールを飲み干していた。
Tシャツを破られたオレはしばし呆然としていた。オレのこの無様な姿は誰にも注目されなかった。
こすりつけは平然とした顔のまま酒を飲んでいた。オレには目もくれずに、隣の誰かと話だした。
オレは冷静になって考えた。こすりつけのパフォーマンスはこれで終了している。オレのTシャツを
引きちぎった瞬間に、こすりつけのストーリーは完結だ。ところがオレの物語は終わっていない。
これをどういう態度で受け止めたらいいのかわからない。わからない。わからないオレはパニック
に陥った。こすりつけは勝利の酒を飲んでいる。楽しそうに話している。オレは誰にも注目されて
いない。これは、怒りを見せる場所じゃないのか。このまま受け流すところではないだろう。オレの
物語は、オレが完結させなければならない。
こすりつけめがけて、蹴りを放った。
背の高いカウンターチェアが後方へ、わずかにのけぞった。こすりつけは、鳩のような顔をした。
カウンターに手を伸ばしてこらえようとしたが、とどかない。椅子とこすりつけは、不安定になって
いる。オレの視界は、白く光っている。ワーグナーが流れている。椅子に乗ったこすりつけが、
スローモーションで倒れてゆく。茶のんでるが、十字架を握った。こすりつけが、スローモーション
で倒れてゆく。パン、という銃声に似た音は、木製の椅子が居酒屋の床に接地した音。
女の叫び声がする。男が立ち上がる気配がする。ボックス席の知らない客が驚いている。店員は
全ての作業をやめて注目した。店中が騒然となった。オレだけに聞こえるワーグナーはボリューム
をあげた。こすりつけに襲いかかった。後ろから、羽交い絞めにされた。店は、騒然となっている。
オレが外にたたき出されるまで、全てがスローモーションで進行した。ワーグナーは、鳴り止んだ。
店から10メートル離れたところの路肩に座らされていた。もう大丈夫だ、落ち着いたしそう
そう暴れたりしない、アタマの中は極めて冷静だ、まだ飲み足りない、もう少し飲ませてくれ、
こすりつけとも、話すことがあるはずだ。
店の中へ向かっていこうとすると、目の前にまろが立ちふさがった。ああ大丈夫だから、と
いってまろを交わして進もうとしたが腕を強くつかまれて肩を押さえ込まれた。オレは冷静だ、
心配ない。抵抗を放棄するという意思表示のために全身のチカラを抜いてまろに身を委ねた。
まろが安心した瞬間にその隙をついて、また店の中へもぐりこもうとしたが許されなかった。
やがて店の中から、仲間がぞろぞろと出てきた。どうやらオレが暴れたことが、二次会終了
の契機になってしまったようだった。悪いことをしてしまった。午前0時を過ぎてからは時間の
感覚がなくなっている。京都の大宴会はこれで終わるのか。不思議と、深い感慨のようなもの
はこみ上げてはこなかった。感傷的な気持ちでもなかった。道に座ったままオレはただ無機
的に、居酒屋から出てくる仲間の顔を眺めていたが、居酒屋の灯りが逆光になって、誰が誰
かよくわからなかった。
確かにオレは暴れてこすりつけに襲いかかったが、錯乱していたわけではない。むしろアタマ
の中はクリアだった。ただ、身体が自動的に動いた。決まった振り付けのダンスを踊るように、
あるいは、簡単なコード進行で、ブルーススケール演奏するように。筋書きでは、こすりつけの
椅子が倒れた瞬間に幕が下りる予定だった。しかし周囲の悲鳴や殺気に昂ぶり、後押しされた
形で、オレは追い討ちにかかった。襲いかからずにはいられなかったからだ。Tシャツを破られ
たことがそれほど腹立たしかったわけではない。こすりつけが憎かったわけではない。この
シーンでは、それが最良の演出だったからだ。
全ての因子が有機的に絡みあい、オレの身体は、オレの意思とは無関係に、カタルシスへと
向かっていった。そのときのハマり具合がもたらす快楽物質や恍惚感によりオレはまさしく、
宗教的体験をしたといっていい。
店から出てくる集団の最後の方で、うっとりをはじめとする2,3人に抱えられながらこすりつけ
が出てきた。オレがこすりつけに近づこうとすると、まろや猫さんに遮られた。こすりつけは、
うっとりに押えられてはいたものの、表情は冷静だった。もう大丈夫や、といって彼はまもなく
解放された。暴れたオレにはまだ見張りがついている。こすりつけがオレのところに近づいてきた。
オレはまだ座らされていた。「中村、なんやいうことあるやろ」
こすりつけは、落ち着いたトーンの小さいボリュームの声で、しゃがみながらいった。
いうことはなかった。ただ破れたTシャツのままホテルまで帰るのが少し嫌だっただけだった。
「いうことないんやったら、気の済むまで殴れや」
こすりつけが青春ドラマのようなことを言い出したから、オレは苦笑いしてしまった。本当なら
大笑いするところだったが、彼の表情は真剣だったし、オレの精神状態にも余裕がなかった。
それに、殴られたい奴を殴っても、面白くもなんともない。暴力は、怒りや恐怖や欲望が生み出
すからこそスリリングなのだ。調和の中の暴力は、ただの茶番だ。気の済むまで殴る、というの
はどちらかというと、殴られる方の気が済むことを指す。殴られることで、相手の憎しみを解消さ
せ、遺恨は残らないよ、という暗黙の了解が得られるからだ。
オレにはもはや遺恨は残っていなかった。暴れたときに、宗教的なカタルシスを得たからだ。
だからオレはいつも通り、不機嫌そうに立ち上がり、皆のあとについてだらだらと歩きはじめた。
ただ、遺恨を残していないことを、こすりつけにはもっと態度かなにかで示すべきだったかもしれ
なかったと思った。彼が気をつかって、これまた青春ドラマのように、オレと肩を組んで歩き出した
のが少し、痛々しかったからだ。オレは破れたTシャツの2つに別れた裾を結び、少しでも服として
の体裁を繕おうとしていた。それを見たコビックが、おまえは早見優か、といった。なるほど早見優
とはうまいことをいう。こすりつけはどぶ川にかかる橋の欄干に立ち、中村おまえもタッションしろ
といった。茶のんでるも加わった。10数名が見守る中、夜の京都のどぶ川にキラキラと小便が
放たれた。一人だけ、なかなかとまらない小便はこすりつけ。うぁぁとまらへんねん、恍惚とした
表情だ。彼にとってのカタルシスはきっと今に違いない。
こすりつけの小便は、いつまでたってもとまらなかった。
15分程度歩きホテルに着いた。酔いがまわっていたから、行きほど距離は感じなかった。寝静
まったような住宅地の中の道を、やかましく騒ぎながら帰ってきた。さぞ近所迷惑だったろうが、
気にならなかった。玄関の灯りはすでに落ちていた。ロビーをのぞくと、フロントの蛍光灯だけぽつ
んと光っている。人の気配はしない。自動ドアも開かない。フランスとコビックが、すきまに指を差
し込んで無理やりこじ開けようとした。そんなことしてあくわけないでしょ、猫さんがインターホンを
見つけ、鳴らした。
ホテル嵐山の入り口は、正面の通りから一段下がったところにある。わずかな階段を降りた集団
は玄関の自動ドアの前のスペースに集まっていて、従業員が開けに来るのを待っていた。
「中村、ちょっと」
ひとりだけぽつんと階段の上にいたこすりつけが、オレを呼んだ。手招きしている。
フロントの横の扉から、肌着1枚のおっさんが眠たそうな顔でやってきて、なにも言わずに鍵を開
けにかかっている。オレはこすりつけに呼ばれたまま階段を上った。皆が心配そうな顔で階段を
上るオレの横顔を見つめていたかどうかはわからない。自動ドアが手動で開けられると、彼らは
そのまま暗いホテルの中へ消えていってしまった。
道を渡り柵をまたぎ草むらを通り河原へ出た。カーセックス中のクルマがいた。その横を通る時
にちらと覗くと、人の気配を感じてか固まって動かなくなっていた。しかしちゃんと服は着ていた。
こすりつけは気付かず河原を進み、ひと気のないところまで着くと立ち止まり、まあ座れや、と
いってコンクリの敷居に腰掛けた。なんだよ、促されるままオレは座った。破れたTシャツは早見
優のように前で結ばれているが、多すぎる露出部分はどうにもならない。川の音がやかましい。
他の音がなくなっているからだ。
「おれも散々どつきたおしてたしな、お前があそこでキレるのも、無理のないことや。」
こすりつけが、話し始めた。
「それはもういいだろうよ、今こうしてさ、なんともなく話してるだろ、酔っぱらいの、ケンカだよ。」
とオレは制したが、こすりつけは話し続けた。
「まあいいから聞けて、でな、おれは、お前のシャツ破いてしまったけれどもな、そのことで謝ろう
とはな、これっぽっちも思うてへん。あれはおれのやり方やし、いつもそうしてる。いつもシャツ
破ってるわけやないで?お前もよくわかっとると思うけどな、あいさつみたいなもんや、あいさつ
ちゃうな、でもまあ、そういうことや。」
オレは黙ってこすりつけの話を聞いていた。おまえ、寒いのかよ。こすりつけは時々、震える息を
吸い込んでいた。ああめっちゃ寒い、とこすりつけは震えながらいった。オレなんかこれだぜ?と
いって、破れたTシャツと、さらけ出された地肌を見せた。こすりつけは、ああ仕方あらへん、とだ
けいった。おまえがやったんだろ、という無粋なセリフは呑みこんで、こすりつけの言葉を待った。
そういえば、なんだか懐かしい気がする。深夜に外でこうして、話をするのは、いつ以来だろう。
「ただな、あそこでお前がキレたことはおれは、当然のこととして受け止める。だっておれは、
お前にとって、お前がキレるに値することをしたわけやしな。おれが、お前のキレる領域に、足を
つっこんだから、お前はキレたわけやし。ておれはそう思うとる、違うか?違ったらそれはそれで
ええ。ただな、お前に勘違いして欲しくないのは、おれはお前を、試した、というわけやあらへん、
それだけはな、勘違いして欲しくないんや。」
そこまでいうとこすりつけはまた、小刻みに顔を痙攣させながら、振るえた息を吸い込んだ。
オレは不機嫌そうに、ああ、とだけいった。自販機がぽつんと光っていた。そういえば喉が渇いて
いた。なんか飲むか?温かいのがええなあ。まだ9月だぞ、あるわけないだろ。しゃあないな。
さてそろそろ帰るか、みんな寝てるぞ。まあええやん中村、中村ぁ、そういやお前とこうして話すの
初めてやったなあ。
オレは深夜に、男同士でこうして外で話すのは、初めてかもしれなかった。
「まあアレや、これでまたひとつ、お前のことがわかったということや。でも決してそれを確
かめるために、お前を試したというわけやあらへんからな、それだけは覚えといてくれや」
試したわけじゃないというのは本当なのだろう。おそらく彼はいつも、全力で人と向かい合い、
そして全身で相手が発するものを受け止める。彼の全力は時として、その有り余るパワーで
相手に恐怖や痛みに変えてしまう。しかし本人にも強すぎる力を持ったものとしての自覚は
あるのだろう。それでもいつも手加減せずに、誰に対しても体当たりで向かわずにいられない
という悲劇を常に背負いこんでいるがそのかわりに、抑圧や拘束といった、ストレスの要因を
ため込まない構造にもなっていて、だからこそ彼の暴力はいつも陽性なものとして受け止め
られる。そしてストレスに侵蝕されていないレセプターの空きスペースは最大であり、想像を
超える許容量で、あらゆるカルマを吸収するのだろう。これでもう少し、情報処理能力が高け
れば完成形に近いが、人間はそうそう巧い具合には出来ていない。
オレは別に、試されようがそうじゃなかろうが、どっちでもよかった。こすりつけがなぜそれほ
どこだわっているのか、よくわからなかった。たとえ試されていたとしても、オレはシナリオ通
りに踊っただろう。こすりつけがオレを試したとしても、卑怯だとかは思わない。人のこだわり
とは、いろんななところにあるもんだ。とそこまで考えて、ふと思った。オレのこだわりとはな
んだ。Tシャツを破られてキレたオレのこだわりは、Tシャツのように薄っぺらいものなんじゃ
ないのか。
修学旅行だとよく、好きな女の子を発表するというイベントが、決まって夜中に行われるが、
オレとこすりつけは、嫌いなコテハンを一人ずつ挙げるという遊びに興じた。遊びではあるが
真剣だった。あいつらだけは許されへん、とか、あいつとあいつは嫌いだ、とか、大人がする
会話ではなかったが、オレらは真剣に語った。あまりにも真剣だから、それは明かされない。
やがて芯まで冷えてきて、どちらともなく、いいかげん戻ろう、といった。ホテルの自動ドアは
相変わらず閉まっていて、インターホンを鳴らし、眠たそうなステテコを呼んだ。無愛想な
ステテコが開けた手動ドアをくぐり暗いロビーの先の階段を、手すりを持ちながら上った。
みんな寝てるだろうな。そやな。中村ぁ、今日は、楽しかったか?ああ、まあな。オレもや。
にやりと笑い、別々の部屋に分かれようとしたそのとき、廊下のつきあたりから騒がしい声が
もれてきた。オレとフランスとコビックが寝る205号室の扉が開いていて、中から部屋の光と
笑い声が洩れていた。
おい、あいつら、まだやってるみたいだぜ?もう少し、飲むか。そやな。
部屋に入ると、お、きたきた、といわれ注目を浴びた。3つ敷かれた布団を囲んで10数名が
車座になっていた。まだ寝てないのかよ。寝るかいボケ。
眠るどころか皆の目は、異常なほどギラギラしていた。
長いこと外で話していた。震えるほど冷えていた。だから205号室に入ったとたん、急激に
暖かくなって、全身が弛緩してしまった。Tシャツだけは着替えよう、それだけは強烈に念じ
ていたから、部屋に入るなり、オレの白いリュックから新しい着替えと、寝巻き用のジャージ
を取り出して、着替えた。中村ぁ、着替え、あるんか?こすりつけがいった。ある。なんなら、
こすりつけTシャツ、やろか?おまえの臭いのなんかいらないよ。これとはまた別にあるんや。
じゃあくれるんならもらっておくよ。
周囲の目に晒されていても、トランスクスは汚れてないだろうかとか、脛毛はだらしなくちぢこ
まっていないだろうかとか、そんなことはあまり、気にならなかった。福袋で当てたナイキの
ジャージに着替えて、布団の端に座り、壁にもたれるような形になった。なんだか、酔いが
一気に廻ってきたような気がする。女に抱かれて今すぐにでも、眠りたい気もする。しかし、
ビールが差し出されたから飲んだ。窓に面した板の間の椅子には、萎えが座っている。
茶色い髪をもてあそんでいる。ギンガムチェックの赤いパジャマを着ている。赤いパジャマに
目がいった。萎えそれ、パジャマじゃん?あはは、そうパジャマ、てそのままじゃん中村さん。
やっぱりパジャマの腰は、ゴムひもなのだろうか。やっぱりパジャマの裾から手を入れたら、
地肌なのだろうか。
フランスとコビックの声がうるさい。国際色豊かなのはいいが、もう少し静かにしてくれ、少し
アタマが痛い。話をしたいやつが話し、聞きたいやつは聞いている。猫さんの合いの手、慣れ
ている感じだ。沈黙を作らせない。オレも話そうとしたが、うまく口がまわらない。うっとりは、
ふすまにもたれて、ギターを弾きそうになっている。ギターはない。
オレはもう限界に近い。というより、眠い。急に暖まったからだろう。オレより先に萎えが、私
もう限界、といって帰ろうとした。オレは萎えのパジャマの裾をひっぱって引き止めようとした。
萎えのパジャマの生地の肌触りは、オレの脳に直接的にエロティックな信号を送ったが、
オレはそれを処理しきれなかった。萎えは部屋に戻っていってしまった。フランスもコビックも
やかましい。こすりつけも話しはじめてしまった。この中で、飲酒運転したことないのは、
きびのみたらしだんごだけだった。みたらしだんごはにやりともせず、土色の顔で手をあげた。
皆はさまよった目で、みたらしだんごを尊敬した。トイレには茶がいた。オレはおしっこをした
かったから茶を起こしにかかったが、便器につっぷしたまま寝ていて起きなかった。オレは
あきらめて隣の女子の部屋のトイレを借りにいった。忍び込むような気持ちで扉をあけた。
あの、トイレ、借りるよ? 返事はなかった。明かりは既に消えている。中にいるのはおそらく、
パジャマを着た萎え。ふすま一枚、隔たっている。もう寝た?返事はなかった。
いやらしく、いないのかなぁ?といったが、やはり返事がなかったからオレは、小便だけ済ま
せて、女の部屋を出た。
部屋に戻った。しばらく誰かの話を聞いていたが、何をいってるのかよくわからなかった。
おまえはなにをいいたいんだ、とかそういうことをいいたかったオレの言葉も、うまく言葉には
なっていなかった。オレはもうダメだ。この思いを言葉に出来ないオレには、起きてる価値は
ない。オレは打ちひしがれた。精神はちゃんといきている。いいたい言葉のイメージがスライド
式になっている。でもうまく伝えられない。そうだ、1週間だけ寝よう、そしたら元にもどるだろう。
たのむから1週間、寝かせてくれ、そしたら元にもどるから、な、な、
オレは目の前の布団に崩れ落ちた。
一人ずつ、部屋を去る気配がする。車座の中央にオレがどてっと転がったから、白けてしまっ
たのだろうか。中村さん、中村さん、遠くで声がする。中村って、誰だよ。蛍光灯がまぶしいよ。
灯りを消してくれよ、歯磨いてないけど、まあいいよ。おやすみ。
しばらくどたばたと音がしていて、フランスが煙草に火を点けたところで記憶が途切れた。
それからオレは、だいぶ激しい夢をみて、のたうちまわわったかもしれない。
隣で何か、がさがさ音がする。ナイロンの袋を広げたり中にしまったりする音。目は覚めたが、
目を閉じたままだ。騒がしくて、少し目を開けた。コビックがあわただしく起きている。何かの支
度をしている。気にせずまた目を閉じた。もう少し寝たかった。身体が動かないし、節々が痛む。
こめかみも痛い。昨日は何時まで起きていたっけ。あまり寝てない。血の巡りが悪い。寝たい。
目をつぶっているが、昨日の体験が、クリアな映像でアタマに浮かんでくる。映像を振り払い、
睡眠にとりかかろうとするが、なかなか消えない。枕の位置を変えた。布団に抱きついてみた。
でもどうしても眠れない。疲れが抜けるまで、あと2時間ほどの睡眠が必要だ。しかしアタマの
中の映像は、色まで正確で、リアルに昨日を再現している。浮かんできた映像は焼きついてい
て離れない。それでも映像はどんどん進行していて、残像が極彩色になっている。
寝るのを諦めた。
何時?8時前。コビックが答えた。うーだかあーだか言いながら起き上がった。フランスは布団
に抱きついて寝ている。ぴくりともしない。腹が減った。空腹なのか、飲みすぎて気持ち悪いの
かわからなかったがどっちにしろ、なにか食ったら落ち着くはずだ。そろそろ朝食の用意が出来
ているころだ。口の中が気持ち悪い。でも歯を磨くのは、食事の後だ。うがいをして、顔を洗った。
髪の毛はぼさぼさだったが、なでつけたら元に戻った。身なりが整った。
ふらふらとした足取りで階段を下りた。ロビーに萎えとカラコがいた。すでに今日着る服になっ
ている。オレはジャージのままだ。そういえば風呂、入ってないな。朝風呂やってるかな、
といった。あ、どうだろう?やってるんじゃないかな、聞いてみたら?萎えが答えた。
中村さん、大丈夫?カラコが言った。大丈夫とは、飲みすぎたことだろうか、それとも、暴れたこ
とだろうか。なぜかこめかみが痛かった。こめかみを指して、少しここ痛い、といった。カラコは、
オレのこめかみに向かって手をのばし、3センチだけ離れたところから、ヒーリングした。
メシ行こうよメシ、行かないの?といったが、朝食は8時からだという。まだ15分以上もあった。
空腹による絶望感はかなり進行していた。朝食のことしか、考えられなくなっていた。
コビックが降りてきた。同じようにロビー中央のソファーに座り飲み物を飲んでいたが、すぐに
そわそわと落ち着きを失った。そして立ち上がりゲームコーナーの方へ行った。しかしすぐに戻っ
てきて、プリクラ撮ろうぜい?とおどけた口調で言った。いいねプリクラ。撮ろう、撮ろう。
4人は、ビニールシートの中に入った。萎えが、なんか酒臭いんですけど、といった。申し訳なかっ
たが、酒臭い顔をよせて、撮影に備えた。
底抜けにアタマの悪そうなプリクラの音声案内に従い、枠組みを決め、写真を撮った。
しかし3分経って出てきたのは、16分割されたシールではなく、ただの紙っぺらだった。
なんだこれ、ただの紙じゃんよ。取説を読んだコビックが、これはシステム手帳に挟む紙やて、
と説明してくれた。ドット目も粗く、色も青みがかっていた。切って分けることもできなかった。
少し、悲しかった。仲居がやってきて、お食事の用意ができましたのでどうぞ、と告げた。
昨日と同じ宴会場に案内された。昨日と同じ配置で膳が並べられていた。昨日と同じ席に座った。
湯豆腐と、魚と、京料理と、温泉玉子。納豆がない。湯豆腐に火を入れに来た仲居に、納豆ない
んですか?と聞いた。ないんです。いやそこを特別になんとか。探してきますか?おねがいします。
納豆のない旅館の朝食なんて考えられない。それだけは、ゆずれない。
ぽつぽつと人が集まってきている。昨日と同じ席に就き、ご飯と味噌汁が配られるのを待っている。
口数が少ない。納豆は、なかったらしい。がっかりだ。
風呂、入れるんですかね。うちは朝風呂やってないんですよ。
小さい茶碗だったから、3杯食ってやっと腹がくちた。これで少し、眠れるかもしれない。
朝食の席には、二人を残して、全員が揃っている。来てない二人は、フランスと茶。
一番先に席を立ち、部屋に戻った。
フランスはまだ寝ている。オレも1本吸って、少し寝よう。
うとうとしていると、朝食を終えたらしいカラコがやってきた。ラージサイズのプリッツを配っている。
辛子明太子味、博多限定。またうとうとしていると、萎えがやってきた。フランスジャージ。
昨日貸したのを、返しに来た。洗ってないけどフラジャー、ありがとう。洗えるわけがないから、
少しおかしかった。やがてフランスが起きた。コビックも戻ってきた。部屋が騒がしくなりオレは、
寝るのをあきらめた。
オレとカラコとコビックは、暗い部屋で、無言のままコーヒーを飲んだ。チェックアウトの時間が
迫っていた。荷物をまとめて下へ降りた。
会計担当は、がまかつ。宴会の金を徴収し、格安チケットの購入を斡旋していた。
そういえば今日は、どこへ行く予定だったっけ。
子どもがナイフを持つようになった。
家庭や教育の崩壊が原因だとも、テレビゲームの悪影響だとも伝えられている。
ただ単に、子どもが抱えるフラストレーションのはけ口が、なくなっただけだとも思う。
祭りをやればいい。年に1度開かれる祭りは、大きなカタルシスとなる。祭りはたぶん
共同体にとって、うっ積したものの排泄機関としても機能していた。しかし子どもは、
共同体そのものの幻想に気付き、放棄してしまった。そして、共同体に替わる心の
よりどころとして、ナイフを持った。
経済は危機的状況に陥っている。
企業は一切の無駄を切り詰めようとリストラし、客は最低限の消費しかしなくなった。
祭りをやればいい。祭りは、大いなる無駄と浪費の宝庫だ。銀行に金を預けていたっ
て何もいいことはない。じっとしてても、何も起こらない。
祭りをやれる余裕、酒を振舞い歌って踊り話す無駄、そういった祝祭空間こそ、本当
の豊かさの象徴だ。
オレは2ちゃんジャージを手放した。1度も着ていない。
なにか共同体への、帰属意識の象徴なような気がしていたせいかも知れない。
ネットワークの高速化が進んでいる。音や映像を伝える設備は整った。しかし圧倒的
に、伝達手段の中心は文字列だ。ハードだけ最新に買い換えても、その喜びを表現
する手段は文字。スペックを列挙して大喜びしているバカの数は、昔から変わらない。
アタマの中まで、買い換えられなかったらしい。
ネットは未だに、古い体制を継承している。共同体という概念の枠組みに、自ら必死
になってはまり込もうとしている。名前だけワールドワイドだが、掲示板というシステム
は、どんどん閉塞しようとしている。閉塞してるからこそ、祭りが必要なのだ。
フランスのクルマの中で流れている桑田佳祐を聞きながらオレは、そんなことを考え
ていた。昨日の祝祭体験が、強烈な映像として残っている。フランスのクルマに乗って
いる。フランスのクルマは太秦に向かっている。こすりつけとPCBとまろとみたらしは、
自転車でゆっくりと向かっている。追い抜いたり、追い抜かれたりしている。
やがて映画村に着いた。
クルマは細い道路を通り、住宅地の中を進んでいた。民家や商店が密集しているブロックに
忽然と姿を現した倉庫のような建物が、映画村だった。住宅地の真ん中に存在しているのも
不自然だったし、赤く塗られた屋根や、古代建築を真似たデザインの並んだ柱や灰色の壁は、
何の統一感もなく、これが時代劇の何を象徴しているのか、全く判らなかった。
クルマを降りた集団が、映画村の前でしばらく待機していたのは、自転車組の自転車を収納
するためだった。自転車組の準備が終わり一同は一斉に入場した。100坪程の、暗がりの
エントランススペースには、時代劇ゆかりの小道具や、忍者映画に使われた大道具が、博物
館のように展示されている。往年の時代劇俳優の写真や、なぜか昭和30年代の電化製品も
飾られていた。
さも興味ありそうに展示物を眺めながら歩いているが、なにか居心地の悪さを感じた。ふと見
ると、和服のPタンと、あまい胸元の猫さんが、展示物を指しながら仲よさげに歩いている。
この居心地の悪さはなんだろう。例えばこすりつけとかフランスとかに、見て見て、これ昔の
洗濯機なんだってよ、へえーすごいな、とかいう会話をするのも照れくさいというかばかばかし
いし、連れて歩ける女がいるわけでもないから、基本的に一人でいるしかない。集団の中で、
孤独を感じてしまったときに、対外的にどう振舞っていいかわからない。二日酔いだし、誰か
にすりよっていくほどテンションは高くない。そういった中途半端な所在のなさが、居心地の
悪さとして、オレを包囲していた。
ベンチに座ってタバコを吸っていたが、皆とはぐれてしまった。はぐれても、いつかは会える
だろう。集団の中で孤独を感じるより、孤独らしく一人でいるほうがすっきりしている。
何の目的もなく一人でオレは、時代劇の街を歩き出した。
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