こしゃくな読書

こしゃくな読書

まげもん。 (SPコミックス) [コミック] 昌原 光一 (著)


昌原 光一 (著)
http://www.amazon.co.jp/dp/4845838087/ref=nosim/?tag=donzoko-22






 驚いたのは、部長の居眠りしている首から上の部分が

…げんこつにそっくりだったことである。



こぶしを握りしめ親指が下に来るように見ると、

たった今、目の前でおなかを突き出してこうべを垂れて

居眠りしているその顔形そのものなのだ。


 「に、似てる!!!!」

思わず同僚に自分のこぶしを突き出して、

握っていない方の手で部長の方を指し示した。

もう、爆笑してしまいそうで、声は出せない。

吹きだす寸前で必死でこらえているのだ。



もう事務所は押し殺した苦しい笑いと涙でいっぱいだ。

たすけてくれ〜。面白すぎる。



 「く、苦しい・・・」と笑い死にそうになりながらふと振り向くと、

「なんだよ?」と、そこに当の本人がいた。


もうだめだ。



「何何?どうしたの?」

と本人に訊かれても答えられるわけがない。


大体笑いが止まらない。



「勘弁してして下さい、部長、お、面白すぎ…!」


と必死で言うと、わけも分からず一緒になって笑ってしまう彼は、

本当にいい上司だ。




 この…げんこつが、寝ている顔に似ていると初めて知ったのは、

この本の第八幕、「夫婦」を読んだからだ。

しかし、この旦那様のなんともとぼけた味はたまらない。

いいよなあ、こういうの。




 見ているようでも見えないモノが

生きているとどんどん増えて行く。



価値のあるなし、つまりは損得で

いつの間にやら耳に聞こえる音でさえも選んでいるのだ。



そんなことをしみじみ考えさせられる質の高い漫画だった。



笑顔の奥の強さも、しつけのつもりの焦りも、思い描く夢も、

慕情も、愛も、大切なものはいつも、目には見えない。



本当は世界のほんの一部の、

言葉だったり、表情だったり遺恨だったり、

そんなものに支配されてしまうことの愚かさを、

この10編の物語は考えさせてくれる。




本当はこういうふうに自分で考えるものなのだ。

教えてもらうことに慣れてしまっている私たちに、いい刺激になる。





私の胸には切なさと、笑い、希望、愛しさ、

そして無限の共感が残っている。

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