日記

日記

雑文(小説風に)


手術着を着た看護師さんが私を手招きしていた。
「さぁ、これに履き替えてね。」
下駄箱のようなところから、スリッパを出してくれていた。
「はい」と、返事をしてから後悔した。でも母だけを行かせるのは心配だった。
なかにはいっていくと執刀医の先生が、やはり手術着のまましゃがみこんでいた。
近づくと「これがお父さんの胃です。これが悪いところ。」
金属製の皿のようなものにピンク色の肉片が乗っていた。ピンセットのようなもので先生がつかんで説明をしていた。
私は気持ち悪くなっていた。看護師さんの手招きに答えてしまったことを激しく後悔した。執刀医の説明はぼんやりとしか聞いてなかった。
「この人お肉屋さんみたい・・・。」そんな風に思えた。
父の胃がんは早期発見だった。
今日は手術で、三分の二胃を切除した。
最初、母から父の病名をを聞かされたときは、ショックだった。
泣いてしまった。
ドラマみたいに思えた。

4年後の夏、同じ病院で蝉の声を聞きながら、車椅子を押していた。
冷房の効いている病室から外に出たためか、汗が吹き出てきた。
それに、車椅子に乗っている人自体が重い。
父は今度は大腸がんで入院していた。
車椅子に乗っているSさんはおとといまで父と同じ病室だった人。
Sさんは大手の鉄鋼関係の会社にお勤めの人で、足を骨折して入院していた。
父が手術に備えて個室に移されたため、部屋が別れてしまった。
Sさんは父の顔を見に来てくれたのだ。
父との話が弾んだのか、長い時間部屋に来ていたらしく、エレベーターの点検時間になっているのを忘れてしまっていたらしい。
復旧するのを待っていたら、夕食の時間に間に合わなくなってしまう。
私が病棟の外にあるスラロームを使って、3階下の階にあるSさんの病室まで送っていくことになったのだ。

「お父さん、きっと大丈夫ですよ。」Sさんが私に言った。
「はぁ・・・。」いい加減に返事をする。
きっと、この人は父の病名を知っているのかもしれない。
だから手術前に父に会いにきたのだ。
最後になるかもしれないって思ってるのだろうか。
家族が考えないようにしてることを他人に考えて欲しくない。
なんだかSさんに腹がたってきた。

私を慰めてるつもりなのだろうか。
車椅子を押す腕が疲れてきていた。
空を見上げた。
きれいな夕焼け空が広がっていた。
もうすぐ夏が終わる。





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