薬 天 市 場

薬 天 市 場

『ウサギ』


「○○君じゃない!?」

ウサギが入ったケースを持った女性だった。

小・中学のとき同窓のオンナの子だった。
「私のこと覚えてる?」
「おお!?」
「ちょっといい?」

そう言って、少し僕を連れ出すと、声をあげて泣き出した。
人が何人も通り過ぎる。彼女はその場にうずくまって泣いている。

泣きじゃくりながら、彼女は話し始めた。
なんでも、僕らが小6だったときの担任に相談ごとをしようとして、家に訪問しようと駅に来たところ、
前もって電話した。


亡くなっていた。


そして、その電話の最中に偶然、僕を見つけたらしい。
まだ40代の先生。僕も驚いた。

いつまでも、うずくまっているわけにもいかず、とりあえず、近くのスタバに連れて行く。
ウサギを飲食店の中に入れるのは問題があるかもしれないけど、そうも言ってられなかったのだ。


小・中学のときのその子は大人しそうだけど明るい子というイメージ。
でも、ずいぶん、変わったいた。
彼女の痩せたカラダと、荒れた肌が痛々しかった。

「時間をとらせてごめんなさい。でも話を聞いてほしいの。」
「あぁ、構わないよ。」

実は今日の打ち合わせは、大事な用件があった。
でも、仕方がない。あとで理由を話せば、友達もわかってくれるだろう。

彼女は、昔のことを良く覚えていた。
本人も忘れてしまった、僕が言ったことまで覚えていた。

しかし、話がどんどん飛ぶ。
本筋から枝の内容になり、その枝から出た枝に話は移る。
一気呵成にしゃべったら、急に言葉を失う。
そして、またしゃべりだす。

泣いたと思ったら、笑う。表情がめまぐるしく変わる。


躁鬱病だ。


本人も、そのことを自覚してるようだった。
そして、原因も。


家庭不和と虐待。


卒業以来、話したことがないのに、深いところまで聞いた。
そして、そのことを隠して小・中時代を過ごしてた。

まったく、気づいていなかった。

その子自身がそー言う状態でパンクしそうになって、
先生に相談しようとしたところ、その訃報の知らせ。
動転しても無理はない。

鬱病に関しては、少しだけだけど知識がある。
こうした方がいいよと言わない。聞いてあげるだけ。
がんばらなくていいと。
いま目の前にいるその子を認めてあげる。


その子は中学のイメージがあるからだろうけど、
僕が、しごく全うに生きてると思ってるようだった。

「僕もつらくて本当に参ってしまったことがあるんだ。君と同じ経験ではないから、本当の同感ではないだろうけど、今、君がつらいということが、どういうつらさかだけはわかるよ。」

そう言うと、ずいぶん驚いた表情をしていた。

詳しく話すか迷ったけど、いまはその子の感情を外に出させてあげる方がいいと思った。
まともな人間が話を聞くようにしていた。

聞きながら、自分のことをパフォーマーだと思った。
僕も、不完全で、暗く、陰湿な箱を心の中に持っている。
でも、目の前の子はそれを求めていない。
彼女が、求めるような人を、振る舞う僕。

悪い癖だ。偽善者ぶる。
そして、そういうあとは虚しくなるのだ。


彼女は思いっきりしゃべって、すっきりしたようだった。
僕はその子の環境に対する、怒りと不運を想っていた。


結局、2時間程、彼女はしゃべり続けた。

僕は大学へ向かわねばならない。
彼女は、その不和の家に向かわねばならない。
ウサギだけがずっと、無垢な目をしていた。





そうして別れた。










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