春におちるユキもよう

春におちるユキもよう

~序曲~


そこに雷の紋章を右腕にやどす、一人の少年がいた。


(はぁ...)
遠い空の雲を見つめ、ため息をつく少年。
穏やかな風が彼をすり抜け、また遠くへと去っていく。
もう一度さっきよりも深いため息をつき、目をつむった。
「ヴィンー!……ねぇ、ヴィンってば~!!」
重いまぶたをあげ、ヴィン・ファルスティは人家の屋根の上‐もちろん無断で上っており、よくおばから咎めをくらっていた‐から見下ろす。
そこにはローラス・ネスシャールが眩しそうに見上げる姿があった。
「ローラス…様……」
「様なんてつけないで って何度も言っているのに…」
彼女は少し哀しい目になったような気がした。
しかし、なんで{様つき}なのかっていうと...。
「ローラス様、感心しませんね街につくなり勝手に走り出すとは。まったく…」
後ろから現れた彼、ツイル・レノータスは彼女の側近。
そう、ローラスはこの民の長であるカース・ネスシャールの娘なのだ。
「いいじゃない、そうそう街になんて出してくれないのだから!」
ローラスがそう言うので彼女のことを普通に呼ぶことだってやろうと思えば出来るのだが、その気になれないのはもう一つの理由があるからだ。
ちょうど今から十年前 すべての始まりになった嵐の夜―


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