WEB妄想部!

WEB妄想部!

悪の娘 第1章 1



 見上げるほどの高さの天井につるされたシャンデリアと床一面にはられた赤い絨毯。
 その最奥には一段高くなっている玉座には金塗の足と青地の皮革で表装された豪奢な椅子が置かれている。
 しかし、その椅子の上に本来いるべき王はおらず、代わりにヴァネッサとその娘リンの姿があった。
 国王が病に伏せてからすでに一年以上が経過し、その間に王妃であるヴァネッサがリレイア王国の政治を牛知ったため、彼女が女王さながらに君臨している。
 ヴァネッサは扇を片手で弄びながら背もたれにもたれる。
 今日だけで十組以上の訪問者が様々な美辞麗句を並べ、国内からあらゆる名品を持参しているが、連日やってくる者たちの相手にうんざりしているようだ。
 欠伸を噛み殺すヴァネッサのもとに次の訪問者が現れた。
 一面にはられた赤い絨毯の上に膝まずいた商人は頭を下げたまま白布の包みを開いた。
 布の中には淡い光沢を放つ赤い巻物が収められている。
 商人が巻物の留め具を外し、手の中で広げて見せると赤絹の織物が顕わになる。
「ほう、これは見事な織物だ」
 今まで退屈そうに眺めていたヴァネッサはそれを見て、思わず身を乗り出していた。
「この色彩がお似合いになるのはこの世で女王陛下だけと思い、はるか東方の国から運んでまいりました」
「御苦労であった」
 本来なら召使が献上品を受け取る筈だが、ヴァネッサは謝辞もそこそこに椅子から立ちあがり、玉座から下りた。
 刺繍の散りばめられた白のドレスを引きずりながら、商人に近づいて行く。
「ええ、赤より紅い血の色こそ貴女には相応しい!」
 二人の距離が残り三歩ほどとなったところで、商人は絶叫に近い声をあげ、手にしていた織物を投げつけた。
 そのまま飛び跳ねるように駆けだすと中空を舞う布、その先にいる女王めがけて短剣を突き出す。
 白いドレスに赤黒い液体が降りかかり、部屋中に悲鳴が木霊する。
 横巻きの金の髪を振り乱して、ヴァネッサはその場にしゃがみこんだ。
「貴様! 邪魔をするな!」
 商人は一歩後ろに下がり、突然割り込んできた召使の少年を睨みつけた。
 腕から血を流す少年は幽鬼のようにゆらりとヴァネッサの方に向き直り、膝をつく。
 余りに無防備な格好に拍子抜けした商人を横で控えていた従士隊がようやく取り押さえた。
「放せ! リレイア王国に取りつく毒婦が……」
「その者を牽き立てよ!」
 紅鎧を纏った女性、従士隊隊長のメイコが一喝し、商人は数人の兵士に引きずられるように謁見の間から連れ出された。
「差し出た真似をいたしました。お怪我はありませんか? 女王陛下」
 扉が閉まり、外から慌ただしい声が聞こえる中、召使の少年が口を開く。
 その声でようやく我に返ったのか、娘のリンに支えられて起き上ったヴァネッサは扇で少年の頬を殴りつけた。
「このドレスも絨毯も赤絹の布もすべて私のものだ! よりによってお前のような不浄なものの血で汚すとは!」
 ヴァネッサは金切り声をあげ、何度も少年の頭に扇を振り下ろす。
 頭を切ったのか額から血が伝い落ちる。それでも少年は声を上げるどころか身じろぎ一つせず、雑言を聞き、打撃を受け続ける。
 強い衝撃を加えられて、扇は根本から折れた。
「もういい。お前は下がれ。ここの絨毯はすべて張替よ」
 息を切らせながら口にした言葉を受けて、少年はゆっくりと立ちあがり、深々と一礼すると扉の方へ歩き出す。
「お待ちください」
 横で聞いていたメイコがヴァネッサの前で傅いた。
「恐れながら、女王陛下のお命を救った者に対して今の仕打ちは余りにも横暴すぎるのではないでしょうか?」
 ざわついていた室内の空気が一気に凍りつく。
 ヴァネッサは目を血走らせ、メイコを見据えた。
「ほう、たかが従士隊の分際で女王である私に意見をするというのか?」
「君主の間違いを正すのも家臣の勤めでございます」
 メイコも手を震わせるヴァネッサから目をそらさず、混じりけのない黒瞳を見上げた。
「それほど私が気に食わぬというなら先ほどの商人とともにお前も……」
 公開処刑。
 その場にいる誰もが予想していた言葉を遮るように陶器の割れる音が鳴り響いた。
 全員の視線が音の方へ集中する。
 謁見の間の扉の横で先ほどの少年が飾られていた壺を落としていた。
 ヴァネッサはそこに駆け寄ると跪く少年の髪を牽き掴み、破片が散らばる床の上に引き倒す。
「やはりお前は疫病神ね。あの時、殺しておけばよかった」
 それだけ吐き捨てるとヴァネッサは扉を大げさに開け放ち、謁見の間を後にした。

© Rakuten Group, Inc.
X
Design a Mobile Site
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: