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2024年10月21日
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カテゴリ: 本にまあ
「ナツコ 沖縄密貿易の女王」(奥野修司著、文春文庫)を読みました。



本書が最初に単行本として発行されたのは2005年、その後2007年に文庫本になりました。著者の奥野はこの本で「大宅壮一ノンフィクション賞」を受賞しました。本土ではあまり目にしませんが、沖縄の書店ではいまでも郷土本コーナーだけでなく、平積み台にもよく置かれています。前々から気になっていた本ですが500ページ近くあるボリュームに圧されてしばらく「積ん読」していた本でした。

読んでみるとその展開の速さとしっかりした事実の裏打ちに、どんどんと読み進めていけました。

沖縄は第二次大戦後、日本から切り離され米政府の政権下に置かれ、経済も本土とは切り離されていました。アメリカのお粗末な占領行政の下に置かれた沖縄はアメリカからも日本からもまともな物資が入ってこない状態が続き自分たちで「何とかしなければならない」立場に置かれます。そこで生きるためにやむなく行ったのが「密貿易」でした。

密貿易と聞くと私腹を肥やすのが目的のような悪印象が強いですが、当時の沖縄ではそれが生き残りの手段でした。

そこで若くして才覚を現したのがナツコこと金城夏子でした。夏子は商売の才能や情報収集能力に長け、若くして沖縄の「密貿易」の中心人物になっていきます。20代の若い小柄な女性でありながら、大男達は彼女の手下か子分のように働き、誰ひとり文句ひとつ言わなかった、言わせなかった。それだけの才覚があった人物でした。

本書は、それまでほとんど記録にも残っていなかったこの夏子の生涯を、家族や関係者を丁寧に調べ上げ、多くの証言を得たうえで再構築しました。本書によって戦後の沖縄の経済活動の礎を築いたと言ってもいい「密貿易」の実態が、夏子という女傑の生涯を通じて明らかになりました。

本書はウチナーンチュ(沖縄人)が誰にも支配されず主役となって活躍した時代を、夏子を通じて描き出した歴史書としての価値をもっています。と同時に、夏子と娘達の家族の物語でもあります。夏子が晩年、といっても30代後半ですが、娘達に見せた深い愛情を描いた第10章と終章は、ノンフィクションでありながら涙なしには読めませんでした。

物語としての味わいを持ちながら沖縄の戦後の庶民史を知れる好著です。





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最終更新日  2024年10月21日 10時18分41秒
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