you are not alone

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青空が窓から見えた。「あ・・・綺麗。」
呟いてみた。
「今日は学校に行かなかったよ。」
送信した。やる気がでない。昼間はパソコンとにらめっこをしている。
散らかった部屋。水色のカーテン。
ラジオから聴こえたのは、私の大好きなあの歌。
何気なく過ごす毎日が早すぎてついていけなくなっていた。
私の部屋は、シルバーと茶色をメインにした空間で、昔の写真の様。
部屋の中央に敷いたカーペットの上に四角いガラステーブル。
普通の部屋と違うのは、天井一面に貼り付けられた空の写真。
夕焼け、朝日、入道雲、飛行機雲、青空・・・名前すらわからない。
端から隙間なく貼り付けてある。何枚あるのかなんて数えたこともないので、聞かないで欲しい。
携帯が鳴った。私の友達知美だと分かったのは、最近の携帯についている便利な機能の御陰である。
「じゃぁさ、明日いいとこ連れってってあげるから。起きたらまたメールするねぇ。」
知美にはいつもお世話になってると常に思う。
知美と出逢って間もないし、いつも一緒にはいれない。
なのに、知美は私のことを理解してくれる。私は知美が理解できる。
不思議な仲だと思う。空と、雲切って切れるが、切れていない仲のように。
そして私はまた夜更かしをしてしまうのだ。
何をするわけでもない。昼間学校に行っていないのに何もしていない。
とにかくやる気がない。学校へは、常に不安を感じて行けない。所謂、登校拒否なのかもしれない。
昼間出来なかったことを夜するのだ。昼夜逆転の生活と化している。
そして、手を付けなかった勉強への不安がまた増すので、自分の気持ちも不安定になっていく。
分かっているのに何も出来ない自分が居る。それがたまらなく悔しかった。
その日は、知らぬ間に寝ていた。

 私は、朝起きて驚いた。11時だったのだ。私は急いで携帯を開いた。
知美からの連絡はなかった。
メールをしてみることにした。知美もまだ起きたばっかりで、支度をしてから連絡をしようと思っていたらしい。
お昼に駅で待ち合わせた。
私はいつもと同じように身支度を整えた。窓を開けたまま横になってみた。日差しが差し込んできて、私にとっては最高に気持ちよかった。
そして、いつもの自転車を駅まで走らせた。
駅は高校生で溢れていた。自分もあんな風に制服を着て髪をストレートにして歩いている高校生と一緒なのかと思うたびイヤになった。
私は高校生が嫌いだから。私の主張を、私の存在をかき消す高校生が嫌でたまらなかった。
そんな事を考えていても知美は来なかった。私は家まで行くことを決意したとは言え、駅から知美の家はさほど遠くない。自転車をこぎ始めた。
角を曲がり、踏切を渡った。知美が出てくるのが見えた。
「知美~!」
私は大きな声で呼んでみた。
知美はこっちをみて手を振った。その反対の手は自転車を押さえていた。
近寄って話しかけた。
「知美どうしたの?」
知美は笑ったままだった。
「どうしたの~~?」
もう一度聞いてしまった。知美は笑いながら答えてくれた。
「これ買ったんだよ。後払いだけどね。」
知美は嬉しそうだった。実は、知美は遠くから私の住んでいるこの地の学校へきている。だから長期休みは実家へ帰るし、お金も自分で稼いでいる。
高校生にしては凄いと思う。そして、この自転車も凄いと思う。凄いしか言えない自分がおもしろくて仕方なかった。
知美は新品のその水色の自転車に乗って、目的地へ向かった。
と、急に私がブレーキをかけたので、知美はびっくりした顔で止まった。
「どうした?」知美が慌てて言うので、私は笑った。
「ごめん。お腹空いちゃった。」
知美も私と一緒に笑っていた。
「ご飯食べに行こう?」
二人の意見が重なりファミレスへ行くことになった。
私は、ご飯を食べに友達と行くなんて、知美以外滅多になかった。
知美と向かい合わせの席で、昼食をとった。
そこで、自分の話をし始めた。
「たまにやる気でなくてさ、学校休んでるくせに、勉強とか出来ないんだよね。」
私は、学校を拒否している。なのに、家で勉強が出来ないでいる。ただ、怠けてると思えばそれまでだがやはり辛いものがある。
知美はその話を親身に聞いてくれた。
そして、まだ学校へ行けないこと、将来の夢のこと、今の焦り全てを話した。
知美は一つ一つ聞いてくれた。
そんな話をしているうちに頼んだ物は全て間食した。
「昔、ご飯は残しちゃダメって言われたけど、お腹空いてるし、それにご飯好きだから残さないよね。」と二人で話しながら店を後にした。
その後知美の後を追い、知美が是非連れて行きたいと言う所に行くことにした。

 その店は、とても恐い感じがした。名前は「具里夢」

知美は行く前からちょっと恐い感じってか、なんか不思議な空間だよ。と言っていた。ここか・・・
店に入る前、裏の方にまわってみた。裏では大きなトラックが荷物を下ろしていた。
若い女の人がこっちを見た。ちょっと会釈をしてみた。
その人は走ってきて、玄関まで案内します。と先を歩いた。
先ほど通ったところが玄関になっていた。入る前からよく分からない昔の物が沢山あった。
中に入ると、沢山の物があった。まず出入り口付近には、化石が置いてあった。綿に包まれていたり。
そして、本当によく分からない説明のつかない物ばかりだったがなんだかおもしろくなってきた。
布があったり、着物があったり、置物が沢山あった。狭い通路を通ると、外国の人形や、お茶碗などがあった。像の置物や、フィルターのついていない緑のパッケージの昔売っていたようなたばこ。昔の雑誌、塗り絵。様々な物があった。



その奥に、ちょっと小さな扉があった。知美は前に来たときはそんなものなかったと言う。
恐怖と好奇心で近づいてみた急に光が差し込み、私たちは光の中へ吸い込まれた。

 そこまでたどり着くまでしっかり意識があった。心臓の音が聞こえるくらい大きくなって、そして虹の中に居るようだった。
虹の中に入ると、小さな霧がキラキラ光って暖かいそうだ。ほわっとしていて気持ちがいいと聞いたことがあるまさにその通りだった。
私は足をついた。それは、雲の上だった。
音楽が鳴り響き暖かい空間にたどり着いた。知美を探そうと声を上げたが、出なかった。しかし、決して恐い空間ではなく優しい空間だった。
きっと知美もこんな空間に居るんだろうと思えた。
しばらく歩くとなんだか眠たくなってきてしまって、そこで寝てしまった。

 夢を見ていた。空に囲まれて、暖かい心を持った私。
学校に行かなきゃ。進路、不安、焦りそんなもの感じていない、笑う私。
音楽と触れている、言葉と触れている。
自然と大丈夫なんだと気持ちが生まれてきた。空は暖かく気持ちよかった。
きっと今自分の身に起きていることが消えなかったとしても、自分はこんなにも綺麗な済んだ空間に来れた事が嬉しくてたまらなかった。
大丈夫なのかもしれない。不安な夜も朝も、焦ってしまう自分もこの世に産まれて来れて良かったのかもしれない。漠然とだがそう思えた。


はっと気がついた時私は泣いていた。そして扉があった場所の前で知美と一緒にいた。知美も泣いていた。
何があったかはお互い秘密にしてある。なんだか、教えてしまったらもったいないような気がしてならなかったから。
それに、きっと隣に居た気がしたから。
暖かい心って大切なんだなって、誰かを守る喜びや、停滞前進全て自分の為なんだと思う。
そして、私が感じる日々の不安、それもいつかまた消えてなくなるだろうと思った。
店を出る前に二人で色違いのオルゴールを買った。



今はもう既に不安と戦う回数が減った。あれから病院へ行き適切な診察と、多少の休養と沢山の感動をため込んだ。
あの何年か前雲に包まれた日から変われたんじゃないのかな。
そして今もまだここにオルゴールがある。
私の子供が手に取り遊んでいるが、私はこのオルゴールを手にして良かったと思う。知美も私もお互い出逢う前から沢山の経験をしてきた。そして出逢ってからも。知らぬ間にお互い大人になって、違う道を歩んでいた。
そして、大好きな人と結婚もできた。
未だにあの時の事は覚えているが、お互い秘密にしている。
夫にも子供にも秘密にしている。夫も同じ経験をしてきたとも知らずに私は黙っている。
押入の中には、同じ色のオルゴールがある。持ち主は私ではないけれど。
あの時私が具里夢に行かなければこの人とは出会っていない。
きっと、そんな感じがする。暖かいあの日差しがくれた私へのプレゼントだった。きっと何かの縁だった。
知美も私の息子と同じ年の子が一人いる。近くに住んでいる。
今度、一緒に夢のある話しでも作ろうか。
夢のある絵と夢のある言葉で・・・・・




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