ゆきあけのボヤキ

時間

平成17年9月 作成

~時間~


「さすがに食べもん返した事は無いわ~」と友達に笑われた。

同棲こそしていなかったけれど、まだ3ヶ月半だったけど

ゆうちゃんのモノはたくさん私の部屋にあった。

ゆうちゃんを思わせるモノが部屋のあちこちにあった。

あとからまた気付いた。

コンタクトの液とゆうちゃんの専用のお茶碗とお箸。

私は自分の部屋にいるとゆうちゃんがいるような錯覚を起こしてしまいそうで

ゆうちゃんとの楽しかった思い出が私の部屋にはありすぎて

この日からほとんど自分の部屋には行かず、居間と座敷で過ごすようになっていた。


そして引きこもり生活が始まった。

何もやる気が起こらない。何も食べたくない。外に出たくない。

ずっと預けっぱなしだったアケさんが帰ってきた。

ある意味虐待のようにアケさんの世話もしていなかった。

あっという間にあちこちの部屋が見るも無残に汚くなっていった。

毎日心配して電話やメールをしてくれる友達。

もう私は家事やアケさんの世話どころか自分の事にも関心が無くなっていた。

顔を洗うこともお風呂に入ることさえも面倒になっていた。

人として最低な生活を送っていた。


そして心配してくれている友達に嘘をついていた。

来週の花火大会のこと・・・

ひたすら自分の中に隠しこんでいた。


花火大会までの一週間、とても長かった。

一日一日がとても長く感じられた。

早く次の日になって花火大会に近づきたいのに、時間はゆっくり流れていく。

頭がおかしくなりそうだった。

何度もゆうちゃんに連絡しかけた。

何度も携帯を手に取った。

声が聞きたかった、顔が見たかった。

でも約束した。

“前の日ゆうちゃんから電話があるまで私からは連絡しない”

この約束は絶対に守ろうと決めていた。

ひたすら長い一週間を必死の思いで我慢した。

長い長い時間との闘いだった。


あと一日、あと一日、そして約束の日、8月26日がやっときた。

長かった・・・何年も待った気分だった。

“ほんとに今日連絡あるのかな”と少し不安だった。

この日私は一人で車を走らせた。

向かった先、それは初めてゆうちゃんが連れて行ってくれた夜景の見える場所だった。

道をうる覚えだった私はとんでもなく恐ろしい山道に間違えて入って行ってしまった。

泣きそうになり諦めかけたけれど、どうしてもそこに行きたかった。

そしてようやく辿り着けた。

ゆうちゃんと初めて手をつないだ思い出の場所。

そこにもうゆうちゃんはいない。

周りにも誰一人おらず、ただ私の車一台が暗闇に止まっていた。

夜景を見ながらゆうちゃんの連絡を待った。

一人静かにゆうちゃんからの連絡を待っていた。

日が変わった。ゆうちゃんからの連絡は無かった。

何とも言えぬ気持ちになった。

“でも明日が花火大会。明日連絡あるやろ!”と自分に言い聞かせた。


次の日、私はお昼からずっと連絡だけを待っていた。

2時・・3時・・4時・・5時・・連絡は無い。

そして夕方6時。

私からは連絡しない、と思っていたけれど我慢出来ずメールした。

【し~☆は約束守ったのに!】

返信は無い。

やられた!!また逃げた!!逃げられた!!

思い切って電話してみた。

出ない・・・・

やられた!!また無視や!!あれほど無視だけはせんといてって言うたのに!!

意地になってメールと電話を何回もした。

全くの無反応。

何だかとっても惨めになった。

この一週間は何だったんだろう・・・もうこの一週間でゆうちゃんは完全に私の事忘れたんだろうか・・・

もしかして仕事?と仕事用の携帯にもかけてみようと思ったけれど止めた。

ここまでしてもう惨めな気持ちになりたくなかった。

ショック→悲しい→怒り→惨め→疑問

そして笑えてきた。もう自分の惨めさに笑うしかなかった。


タイミングよくJが電話をかけてきた。

今まで、今日まで隠してきた事実を話した。

「あんた陰でそんなことしとってんやぁ~まぁ私もその気持ち分かるけどな。」と言い

「でもひどない?この一週間私がどんな思いで今日を待ってたか・・ほんでまたやっぱり無視やわ・・」と言う私に

「・・・・だからな!!そんなヤツやねんって!!」と笑いながらJは答えた。

「もう!!化粧もして着替えもしてたのに!!我慢出来へん!!」と言う私に

「もう家おるんも無理やろ?家行っておいで~や。」とJは言った。

「うん!!行って見てくる!!24時間TVでも見てるんちゃう?」

「でもなぁ、行って車あったらあったで腹立つし、無かったら無かったで腹立つで。」

「まぁそやろなぁ~でももう気~済めへん!!この言いたがりの私が今日まで皆に黙ってたのに!」

「おうっ!!行ってこい!!行ってスッキリしてこい!!」

本当に行ってやろうと思いながら少し24時間TVを見ていた。

そこに電話がかかってきた。ゆうちゃんから・・・

「もしもし!!」と慌てたような声のゆうちゃんに 「もしもし・・」とテンション低めで対応した。

ゆうちゃん曰く、花火大会の日を間違えていたと・・明日だと思い込んでいたと・・

「信じてないやろ?」と言うゆうちゃんに

「分かった。信じた。でも今日の埋め合わせどないしてくれんのん??」

と私はやらしい返答をした。

「う~~~ん。どうしよか・・・」と必死に悩むゆうちゃん。

「飯食ってるんか?」「ポテチ半分・・・」「はぁ?じゃあまずは飯やな。」

結局ご飯をロクに食べていない私の為に、次の週の土曜日にご飯を食べに行く事になった。

そして「分かった。また前の日までし~☆からは連絡せぇ~へん。」と言った。

何度も曜日の確認をゆうちゃんにした。

連絡せぇ~へんと言いながらも「メールもアカン??」と聞いてしまった。

「メールかぁ・・・・」とゆうちゃんは悩んだ。

ショックだった。

「分かった!連絡せぇ~へん。金曜日やね!!連絡ちょうだい!!」

そして私はこの一週間をどれだけ長く感じ必死で我慢してきたかをゆうちゃんに伝えた。

「頑張って我慢してたん分かってるん?」と言う私に 「分かってるよ。分かってる。」と言うゆうちゃん。

「もう嫌や・・・」と言って泣いてしまった。

「分かったから泣くな。もう泣くな。」と言うゆうちゃんの言葉と

無視じゃ無かった、連絡をくれたという事にホッとしたら泣けてきた。


そしてまた私は一週間待つという時間との闘いが始まった。

また一週間・・・・・・はぁ・・・・・



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