Going My Way!! ブログ別館

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白 2


(続きです。前の話は →こちら

「仕事」がやってきた。
僕みたいな、真っ白で目立つ人間がどうして「暗殺」なんてやらなきゃいけないんだろうか。って疑問がわいたこともある。

けど、今はもうそんなこともどうでもいい。

これをやらなきゃ、あのヤシロで暮らしていけないってんなら、僕はやるだけだ。
「暗殺」なんて仕事が来ることは滅多にない。だから、少ないチャンスをものにしないと、僕はあそこにも居場所をなくすことになる。
僕には、もうヤシロにしか居場所がない。マチを捨てた、僕には。


ある男を、殺せ。

ターゲットは、ある身分高い男。最近婚約したばかり。
僕は、マチの影に潜んで、その男を発見した。
……彼女と、一緒に歩いていた。

「あなたの髪、綺麗ね」
花畑で、僕の白い髪を見て笑った、彼女。
「私、白い花が好きなの」
両手に抱えきれないほどの花を持って、日の光を浴びて微笑んだ、彼女。
花畑にかがみ込むと、花に埋もれているようにしか見えない、彼女。


馬車で走り去る姿。
窓辺で、本を読んでいる横顔。
学校の校庭で、友達と縄跳びをしている。
オープンテラスの喫茶店で、お茶を飲んでいる。
大きな家に入っていく姿。
高そうな洋服屋から、荷物を持って出てくる。


「…………!?」
覚えのない記憶に、僕は混乱した。
彼女に関する記憶が、ありすぎる。……ターゲットと一緒に歩いているのは、ターゲットの婚約者であるはず。
花畑で、一人不器用に花を摘んでいた彼女の、婚約者を、僕が殺す……?
この記憶はなんだ……?
不思議なほどに鮮明で、切ない記憶。泣きたくなるほどの思い。

気付くと僕は、ターゲットそっちのけで何日か、彼女のことを見張っていた。
記憶と同じ、大きな家に住んでいる。オープンテラスの喫茶店は、行きつけのようだ。ターゲットとは、二日と明けずに会っている。
日が経つに連れて、記憶がしっかりと戻ってきた。
それとともに、僕も静かにこのことを理解していた。


僕は、天涯孤独の生まれだったこと。一目見ただけの、彼女に惚れていたことを。

そして、どうにもならない彼女への思いを断ち切れずに、死ぬよりは、とヤシロを探してマチを出たことを。


「あなた、花畑にいた人ね?」
ターゲットを「殺す」前に。僕は一度だけ、彼女と二人で会った。
これから、僕は彼女の婚約者を殺すってのに、彼女は優しい笑顔を僕に見せた。
「覚えていてくれたんだ」
「私、あの花大事にしたのよ。……でも、枯れちゃったの。全部よ」
「……生きる者はみんな、いつか死ぬ。花も切られればすぐに死にますよ」

そこは、彼女が来るには少し不釣り合いな喫茶店で。安いコーヒーと紅茶しか置いていないような店で、彼女はしっかり浮いていた。
いつものように真っ白な僕は、あれほど思っていた彼女と話ができるってのに、さほどの感情はなく。よっぽど花粉の幻覚が進行しているな、と余計な考えが浮かんでくる始末だった。
「花は、死んだの?」
「僕が折ったときにね。あなたがいくら大事にしても、折られれば花は死ぬ」
「だったら、折らなければよかった」
彼女は、見た目より子供なのかもしれない。
それとも、能かなにかの病気なのだろうか。少なくとも、僕の記憶にはそういうことはなかったが、実際に話をしてみると、ヤケに口調が幼いのと、常識がないのに驚く。

「あなたも、いつかは死ぬのね」
「うん。死ぬよ。……その前に、彼が、ね」
「彼……?」

「君に、協力して欲しいんだ」

殺すべきターゲット以外の人間に、存在を知られるなんて、ヤシロから追放されるかもしれない。
でもその時僕は、こう言ってみたかった。


彼女を、僕のものに……この時だけでも、僕と同じ世界にいて欲しかったのか。

「彼を、殺すのね」
「うん。僕は、それが仕事だから」
今までの会話や、話しぶりから想像しても、彼女が「殺す」と言うことを理解していたとは思えない。


「あなたは、綺麗だもの。白い花を取ってくれたから、お礼に、彼を殺すの、手伝ってあげる」

彼女はそう言って、特上の笑顔で笑った。




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