灰色猫のはいねの生活

灰色猫のはいねの生活

第十七話


同じ枝道にはお隣と更に奥に1軒づつ。
お隣の家は親戚で、羽衣音ぱぱとままが2人そろってお出かけの時にはいつもお隣を頼りにするのだけれど。
今回はご近所農家仲間の旅行で、お隣もその奥のお宅もお留守。
1kmほど道路沿いに行けば、人のいる家もお店もあるけれど、車でないと簡単にはたどり着けない。
何かあった時にはお姉さんのところに連絡するようにはしたけれど。
もし羽衣音に何かあった時、電話も出来ないような事態に陥った時には、もうどうにも出来ないってことなのよ。
あたしは羽衣音が家にいる間はずっと玄関に寝そべった。
ぐっすり寝ている風に見えても、ぴんと耳は張っていたわ。
どんな些細な変化にも気がつけるように。
小麦の残り藁の引取関係の人が来たけれど、羽衣音はチェーン越しに応対。
あたしは玄関フードの隅っこに座って、じっと見守る。
宗教団体が来たけれど、羽衣音は居留守を使ったみたい。
夕方になって、あたしたちにご飯をくれた羽衣音は、ついでにハウスの見廻りに行った。
1日中、雨模様でぐずぐずした天気だったせいか、ハウス回りはぬかるんで、長靴の羽衣音に対してデリケートな猫足を持つあたしは付いてはいけなかったけれど。
その代わり、羽衣音の姿が見えるところでお座りしてじっと見守る。
羽衣音はハウスの横っちょのビニールのひだ部分に溜まった水を落とそうとする。
素手ではなかなか上手くいかなくて、野菜の支柱の棒で膨らんだカエルの喉のようになったビニールを突いた。
とたん、滝のように両脇から雨水が流れ出す。
調子に乗って一段と大きなビニールを突くと、あまりの大きさと重さに、支柱はずっぷりとビニールを突き刺した。
雨水は羽衣音をどっぷりとぬらして落ちていった。
呆然としてようやくビニールから支柱を引き抜いた羽衣音は、ふとあたしの方に向き直った。
お座りをしたまま、じっと見守っていたあたしに気付いた羽衣音は、えへへと照れ笑いをした。
本当にもう、羽衣音ったら。
家に戻った羽衣音は、もう外には出ないだろうから、あたしはそのまま羽衣音農場周辺のパトロールに出た。
道路に沿って歩く。
電灯ひとつないこんな田舎だけど、車通りは結構多い。
キタキツネの鳴き声がした。
大丈夫よ、羽衣音。
あなたはあたしが守ってあげる。
それがあたしの使命だから。



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