Dual Life ~ 行き来する暮らし

Dual Life ~ 行き来する暮らし

第4話 事を成す



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 ついた病名は「低脊髄液圧症候群」
 聞いた事も無かった。

 先生いわく、脳というのは
 脊髄液という海の中にプカプカ浮いている
 豆腐のようなものだそうだ。

 だから海の水が干からびる
 つまり髄液が急激に減ると

 浮いていた脳が下に押し付けられ
 激しい頭痛や吐き気が起こるらしい。


 ~なるほど、よく解りました。
 で、どうすればよくなるのでしょう?~

 ~残念ながら治療法はないのです。
 でも命の危険はないから安心して下さい。~

 ~いやいや、そう言われても困ります!
 仕事もあるし、結婚したばかりだし~

 ~まあ、今はあせらず
 ゆっくり休むことですね~


 主治医の先生は、そう静かに微笑むと
 グイッと私を押さえつけ
 腰から脊髄の中に太い注射を刺すのだ。

 くそ~偽善者めぇ~あぁ……。


 最近ニュースでこの病気の特集をやってた。

 自分の血液を髄液の替わりに脊髄の中に注射し
 治す方法が試されているとのこと,
 いずれにしても痛そうだ。

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 原因は解らない…現代医学では
 そんな言い方しか出来ないのだろうけど
 本当の原因は自分が一番良く分かっていた。


 確かにその時は、身も心もヘトヘトにだった。
 でもそれ以上に感じていたのは、今まで続けた
 背伸びがもう限界に達している、ということ。

 ~常にテキパキと仕事をこなし、自信にあふれ
 元気いっぱい輝いている自分~


 いつの頃からか、私はそんな理想の自分を
 心の中に描き、そうあろうと努めてきた。

 最初は少し背伸びすれば簡単に達成できた。
 誉められたし嬉しかった。

 しかし自ら作り上げた虚像は
 知らぬ間に一人歩きをはじめる。


 そしてその後ろには、追いつこうと必死で
 もがいている本当の私がいた。

 背伸びがだんだんつらくなってきたけど
 それをやめる勇気もなかった。


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 確かそんな頃だと思う。

 久しぶりに学生時代の親友が
 お見舞いに会いに来てくれた。

 中学から大学までの10年間を
 共に剣道部で過ごした友である。

 彼は私の目を見て、こんなことを言った。

 「お前ちょっと見んうちに
 ほんましょうもない顔になってもうたなぁ。」


 私は何か間違っていたのだろうか?

 今になって振り返れば、この病気は
 本当の自分が発信してくれた
 魂のメッセージなのだと思う。


 背伸びはもういい、俺は俺でしかないんだよ
 立止まって、深呼吸してもう一度考えようよ

 私はとことん自分と向合う時間を与えられた。


 これまでの事、将来の事、自分の事
 妻や家族の事、仕事、生きがい、夢…
 色んな事から逃げずに自分を見つめた
 貴重なひとときだった。

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 「人は人生のシナリオを自ら決めて生まれてくるんです。だから人生で起こる事全ては必然であり全てに意味があるんですよ。」

 そんな本を読んだ.

 ホントかウソかは解らないけど
 じゃあ私の人生の意味って何なんだろ?


 御飯を食べ、顔を洗いウンコをし、働き眠る。
 その繰り返しで年を取り、いつか死ぬ。
 何の為に?誰の為に?




 そんなある日、何気なくテレビを見ていた私は
 ある番組に興味をそそられた。

 それは「私を変えた1冊の本」という題で
 有名人が、自分の推薦する本を
 エピソードと共に紹介するという内容だった。

 その時のゲストはソフトバンクの孫社長。
 彼が、なにやら熱く語っているのである。


 ~私はこの本を読んで血がたぎったんです。
 まさに血沸き肉踊る興奮。

 その時から私は起業家になることを志し
 今の私がいるんです~

 正直いって、私はそれまでの人生で心の底から
 “たぎる”という経験をしたことがなかった。


 「どんな気持ちなんだろう?」

 その本の名は司馬遼太郎の「竜馬がゆく」

 夢中になって読んでみた。むさぼった。
 本当に血がたぎった!(単純な性格なのだ)

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 竜馬はいう。

 「世に生を得るは、事を成すにあり。」と。

 それぞれの人にそれぞれの“事”がある。
 彼の場合は日本を創る事。
 孫社長は会社を興す事。

 ならば俺の“事”って何なんだ?


 何かが見えかけてきた。 

 (第5話へ続く)

 第1話 →  「いまあなたは幸せですか?」

 第2話 →  「バブルの中へ」

 第3話 →  「崩壊」

 第4話 →  「事を成す」

 第5話 →  「キラッと生きる」

 コラム →  「私には夢がある」

 公式HP  Body curiosity

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