多数の...
あるところに１人の暗殺者がいた。
歳は９、身長１５０cm、割と小柄な男の子。
仕事は完璧。ミスなんてない。有り得ない。
今まで失敗はない。
あるのは成功か 大成功か、だ。
「こいつだ。明日例の場所へ行く。その時に。」
「分かっています。もう結構ですよ。明日必ず・・・お任せ下さい。」
３０秒。
その相手の特徴、通る場所、そして条件を満たしていればそれでいい。
その条件とは・・・。
次の日、ある男が街の大通りで死んだ。
死因ははっきりしていない。
自殺の可能性はないが、他殺の形跡も全くない。
手がかりなどは何もなく警察もお手上げ状態だった。
その男は他殺されていた。
その犯人も明らかでしょう。
９歳の男の子である。
暫くして殺害現場の大通りから警察が消え、関係者が消え、
もとの賑やかさを取り戻した。
暗殺者である男の子は１人、静かに殺害現場へ戻った。
そこには１人の幼い少女がいた。
（・・・何をしているんだろう。）
「どうかしましたか、お嬢さん。」
男の子は少女に声をかけた。迷子にでもなっているのだろうか。
一体こんな殺害現場で何をしているんだろうと不思議に思った。
少女は男の子の方を向いた。
少女の眼から涙が落ちた。
「私のパパ、死んじゃったんだって聞いて、来たの・・・。」
「そうでしたか。」
「私のパパはね、皆から嫌われてたの。私知ってたの、ちゃんと。だから皆悲しんでくれないの。
それでも、私の、たった１人のパパだったのに・・・。」
「・・・たった１人の。」
男の子は大通りを歩いていた。
（僕の暗殺の条件は、標的が”誰かから嫌われていること”今回のは特別にそうだった。だから僕は・・・。）
自分にそう言い聞かせる。
何もかもに言い訳をしている自分がそこにはいた。
それでも、暗い気分は晴れなかった。
大多数の人の希望で男の子はある男を暗殺した。
しかし、そのために１人の少女が涙を落とした。
この２つはどちらが”重い”のだろうか。
「・・・ド、ビッド・・・ビッド！」
「っ！」
「どうしたの、眼が遠くを見てたよ。」
「あ、すみません。ちょっと思い出してたんです。昔のことを。」
「昔？」
「はい。別人のような僕です。・・・あ、今お茶を淹れますね。」
あの日のあの暗殺は成功だった。
・・・いや、失敗だったのかもしれない。
最初で最後のミスは僕が殺人現場に戻り
１人の少女の涙を見てしまったこと。
・・・いや、大成功だったのかもしれない。
* * * * *
ビッドの話。
魔界の人間でもないビッド。
今はある探偵事務所に身を置く。
大人しくて気の利く少年。
けれど昔は名の知れた暗殺者だった。
そんな彼の過去の話。
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