●○● Cohaku`s room ●○●

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 九尾神社と生き残り





月夜の晩、純白に輝く九尾狐しか入ることのできない黒く大きい神社があった。

私は九尾狐が神社の中から入り口を見ているのに気付いた。そこにはぼーっと神社の九尾狐を見つめる黄金色の狐がいた。

神社の更に奥には建物があった。一番奥に。その建物の壁より外に柵なんてものはなく、
中の九尾狐にさえ気付かれなければ中を見たり触れたりすることが可能性だ。
私はその壁に張り付いた。別に神社や九尾狐に興味はなかったのだが。
窓からこちらの姿が見られないようにしゃがんだ。すると中で誰かが話をしている。九尾狐同士ではなさそうだ。
一体誰が中に入ることができるのだろう。

しかし、私はその会話を聞いてはいけなかったようだ。

近くでシャッター音がした。
九尾狐からの使いのものだ。

”気付かれたッ”私は急いでその場を立ち去った。

神社のすぐ近くに・・・いやある程度の距離はあるが、喫茶店がある。私が信頼している仲間の一人が営んでいるものだ。
そこに駆け込んだ。そして今聞いた話をしようと口を開いた。
その瞬間、またどこかでシャッター音がした。
私は思わず舌打ちした。”撒いたと思ったのに・・・ッ”

こんな私の様子を見て店主は大体何があったのか察したようだった。
そして何をするべきなのか。もちろん私はまだわかっていなかった。

正直言って私は九尾狐の使いに写真を撮られたことがどれだけのことかわかっていなかった。
あの会話を聞いたことも。
ただ、追いかけてくる使いが怖かっただけ・・・しかし、店主の顔は真剣だった。

その日の晩、私はまた喫茶店に行こうと歩いていた。
すると店の中にたくさんの人が・・・まぁ、この世界の人間だただの人ではないが。話をしている。店主を中心に。
ある者は涙し、ある者はしゃがみこみ、ある者は永遠と首を振っている。
何の話をしているんだろう。私はなぜだか知らないがすぐにぴんときた。

”九尾狐の使いのことだ!きっとやっつけに行くんだ!”

そんなことを考えているてすぐ隣でシャッター音がした。
私ははっとしたが、どうやら撮られたのは喫茶店の店主たちのようだった。私は意気揚々と使いに言った。

”あなたなんて店長がやっつけるんだから!”

すると使いが言葉を返してきた。
”身勝手ナ奴ダ。彼ラガ本当ハ何ヲシヨウトシテイルカヲ
知ラナイクセニ・・・”

どういう意味か分からなかった。店主たちが本当にすること?

次の日の朝、私は喫茶店へと走った。お店の中には店主がいて店員がいて・・・
とくに変わった様子はないのだが、何だか居心地が悪かった。
いつも買うメロンスティックに蒸しメロンパン、それとマロンパン、チョコレートケーキを購入しようとした。
順にパンやケーキの名前を言う、店主がトレーに乗せていく。チョコレートケーキまで乗せ終わると、
今度は袋に入れてくれる。いつもの感じだ。
しかし最後にアイスコーヒーを出してきた。
今まで一度だって頼んだことないのに・・・そう思って店主を見た。

”ゆっくりコーヒー飲んでってね。”

何故そんな悲しそうな顔をするの?私は不思議に思いながらもパンの入った袋とコーヒーを受け取り店を出た。
すると店の壁に張り付いている九尾狐の使いを見つけた。使いは私を見てにやっと笑った。
そして私に向かって話し始めた。

”オ前サンハ、エルフ族ノ生キ残リノ話ヲ知ッテイルカイ・・・?”
エルフ族の話、昔この世界には私たちのような人間と、九尾狐のような獣、それとエルフ族の3種の生き物が住んでいた。
”知っているわ。この世界にたった1人だけ偉大なエルフ族の血を引く者がいるんでしょう?”
生き残りの話、この世界に本当にいるのかどうかは分からない。もう伝説のようになっている話だ。
”エルフ族、魔法モ体術モ、ドンナコトデモデキル生キ物・・・貴重ナ生キ物。”
”それが何だって言うの?”
関係の無い話をされて私はいらだった。手に持っているアイスコーヒーの結露が腕を伝う。
”九尾狐ノ話ヲ聞キイテシマッタオ前サンハ、必ズ殺サレル。”
”・・・・。”
”シカシ、オ前サンガエルフ族ノ、ソノ伝説ノ生キ残リダッタラ、ドウダ。”
”何を言っているの?もう関係ない話はッ”
”誰カガ身代ワリニ成ッテデモ守ラナケレバナラナイ。”
”・・・身代わり?”
私はまだ話がわからなかった。関係無い話だからちゃんと聞いていなかったというのもあるが。
しかし使いの口から思いもよらない言葉が飛ぶ。

”オ前サンハ、エルフ族ノ生キ残リナンダ。アノ伝説ノ。”

自分の耳を疑った。生き残り?私が?
”い、意味が分からないわ!それに身代わりになんて行っても仕方がないじゃない、話を聞いてしまったのは私なのよ。”
”九尾狐ガ許シタノサ。彼ノ命ト引キ換エニ、オ前サンヲ見逃ス、ト。”
”・・・・。”
”店主ハ普通ノ人間デハナイカラナ。ココノ人間ノ中デハ一番魔力ガ強イ。”

”ソレニ、彼ヲ殺シタ後ニオ前サンヲ捕ラエルナンテ容易ナコトダカラナ。”

”卑怯だわ!”
私は駆け出した。頑固な店主だから私が話したところで考えを曲げはしないだろう。喫茶店には戻れない。とにかくどうするか考えなくちゃ。
使いは何故私にそんな話をしてくれたのだろう?追ってもこないし・・・
ますます意味が分からないが、そんなことどうでもよかった。

ふと両手に持っている荷物に気付く。さっき買ったパンとコーヒー。
コーヒー・・・最後の店主の気持ちだったのだろうか?それとも時間稼ぎかなにか?
私は袋をその場に置いた。そしてコーヒーはそこに撒き散らした。
”私は飲んでいない、気付いたからそんな暇はないの。”そういう意味を精一杯込めて。

とにかく走った、途中見知らぬ少年を見たが敵か味方か分からなかったから
とりあえず口に右手の人差し指をあてておいた。”私が通った事、誰にも言わないで!”
ふと前を見ると自転車に乗った男性が、ヨロヨロとこっちへ向かってくる。私はぎょっとした、顔が無い。顔面真っ黒だった。
敵味方関係なく怖かった、だから横を素通りしようとした。すると”お嬢さん・・・”低い声で呼び止められた。私はつい足を止めてしまった。
はっとしながらも男性の方を振り向く、するとちゃんと顔がある。怖くなんかない。”何でしょう?”
しかし男性は私が止まったのを見て急いでこちらに来る。ヨロヨロと。そしてその一瞬瞳がギラっと光ったのを私は見逃さなかった。
”あの、このあたりに喫茶店はありませんか?道に迷ってしまって・・・私はよく分からないがとにかく逃げなくちゃ、そう思った。
”えっと、この先をずっと行くと人がいます。その方にお聞きください、私は急いでいるんです。”そう言って歩き始めると男性は私を追ってくる。
”何をそう急いでいるんですか・・・逃げたって無駄なのに。”
自転車を捨て私に飛び付いてきた。顔が無くなった。この瞬間、敵であることが分かった。
私は逃げ切れない、そう思いながらも諦めず、後ろに飛んだ。
私は軽くジャンプしたつもりだった、しかし気付くと後ろにあったプールのフェンスの上にいた。
”さすが、エルフ族の娘よ・・・”男性は小さくそう言った。私は九尾狐の使いの言葉を思い出した。
”エルフ族は体術、魔術、全てを使いこなす・・・もしかして、私も・・・?”
しかしよく考えている暇はなかった。男性の姿が無い。敵の姿を見失うなんて不覚だった。
しかし、すぐ後ろで何か獣のうなる声を聞いた。振り向くと大きな狼のような黒い獣がいた。
”僕はこうみえて人間じゃないんだ。元の形は九尾様と同じ獣型、お前を殺せと言われて来た。容赦しないぞ・・・ッ!”
飛び付いてくる相手をよける、これしかできないんじゃないか。私は一瞬そう思った。魔術の使い方なんて知らないんだ。
でも体術なら・・・どうにか成るのかもしれない。
私は相手を思い切り蹴飛ばした。タイミングを外すかと思ったが体が勝手に動いてくれるような気がした。
狼の顔側面をけりつけた、大きな音を立てながら水の中に落ちた。起き上がってこない。死んでしまったのだろうか。
その隙に私は駆け出した。


自宅に着いた。何か自分についての手がかりを探さなくては。そう思っていたのに。居間に誰かいる。この感じ、味方ではない。
これも初めは人間の姿をしていたのに、こちらに来るにつれて形を変えていく。獣型なんだ。
狼より小柄なのかと思ったが違った、はるかに大きい。予想通り相手は飛び掛ってきた。
私は壁を蹴って大きな食器棚の上に上った。上からでないと不利も不利だ。
相手は着地するとまたこちらに飛んできた。私は先ほどの狼のように顔に蹴りを入れた。しかし、大きすぎて大した打撃にはならなかった。
失神することもなくまた私に飛びついてくる。私は体制を整えられず、バランスを崩して食器棚から落ちた。
変わりに上に乗った獣がそこから飛びついてくる。何とかかわした。私の後ろの窓が開いていて、獣は外へ落ちていった。
”・・・よくわからないわ。”

とりあえず敵がいなくなりほっとしていると玄関の方で物音がした。私ははっとした。逃げなくちゃ。
慌ててベランダへ出た。けれど隠れられる場所なんてなかった。”どうしたら・・・!”
隣の家のベランダが目に入った。こっちに移動できたら・・・そんな悠長なことを思っていると廊下を歩く誰かの足音がした。
ためらっている暇はない。いちかばちか、飛ぶしかない。自宅のベランダの手すりに掴まって思い切り弧を描いた。
途中遠心力が強すぎて飛ばされそうになったけれどどうにか隣に移動することができたみたい。
”誰かいませんか・・・?”自宅の中で声がした。”絶対に声を上げないわ。味方じゃないんだから。”
”誰かいませんか・・・エルフ族の生き残りよ・・・いないのか?”
徐々に声が荒くなっていく、やはり敵だ。

”九尾狐よ、私はここにいるわ・・・誰も犠牲にしたくない。私はここにいるわ。”

手をあわせて小さく祈るエルフ族の私、自分の力がどれだけのものか、そのときはまだ知らなかった。


                               続。

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