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yuuの一人芝居
小説 十七歳の海の華・・・2
省三は努めてみんなの中へ入ろうとした。厳つい人もいる、言葉の汚い人もいる、服装の整わない人もいる、体に墨を入れている人もいる、だが、ここではみんな善良で純粋だった。自由に生きていた。一人ひとりの心を見つめなくては、外見で人を判断してはいけないと分かった。スコップを握り、モッコを担いだ。その苦しさ痛さを味わった。
中には仕事の時間になっても帰ってこない人もいた。省三はその人を迎えに行くのだった。あの男は何処の女と親しくし馴染みかを聞いて出かけるのだった。
省三は長靴を穿きジャンパーの襟を立てて出かけた。
ベニヤ板一枚で部屋は仕切られた小さな部屋が並んでいて、その中で男と女の戯声がしていた。
「いい子がいるよ」とやり手ばばぁが声を掛けるが笑って断り中へ入っていくのだ。やり手ばばぁに案内されて部屋を開けてみると・・・。そんな場面に何度も出くわした。最初の頃は顔を赤らめたが、
「仕事だから帰りましょう」と冷静に言える自分に驚くのだった。
女物の下着を着けて帰る老人夫がいて、
「ええ年をして、このスケベー」とからかわれていた。
「女のところから連れて帰れれば一人前だ。省三も一人前になったか」
角次が愛想を崩して笑いながら言ったのだった。
そんな日々が続いて、省三は段々とここでの生活に染まっていった。
現場監督の鳴海は時折工事現場を見て回ってチェックをして帰って行った。妻子を故郷へ残しての単身赴任をしている鳴海に女が出来てセメントの横流しをしていると高山が得意そうに喋った。高山もその分け前を貰い、女を買ったと自慢した。
角次は角次で二メートルのパイルを一メートルしか基礎として打ち込まず、残ったパイルをトラックに積んで古鉄屋に売りに行っていた。その代金の半分を取り、残りをみんなに分けた。省三も五百円貰った。その金がどのようなものか分からなかったが、高山から教えられ嫌な思いをした。
善さんと順ちゃんはその事実を知っているのだろうかと思った。順ちゃんが金を貰ったとなると順ちゃんにとっての青春の証明は耐用年数より早く、風と雨と波に跡形もなく消えてしまうのだ。二メートルのパイルを地中に打ち込んで、その上に五メートルのコンクリートの堤防が築かれてこそ何十年も保つのだ。一メートルではどれだけ持つか分からない。セメントも十分に使われず、塩を含んだ海の砂でコンクリート打ちをすると脆く崩れるのが早いのだ。
仕事が中身のない張子の虎のように感じられた。虚しかった。
冬の海は荒れる日が多くなった。波頭は白く弾け、打ち寄せる波は早かった。
省三はキャサリンの家には時折行った。キャサリンの親には日本語の勉強を教えていると言っていたが、日常的な会話を楽しみ遊ぶだけだった。キャサリンといるときだけが心が安らいだ。その心は恋心へ移って行くのを感じていた。日増しにその想いは膨らみ想いを持て余すようになっていた。
師走の半ばを過ぎた頃までに、真新しいコンクリートの堤防は三分の二ほど完成していた。
空は幾重にも雲を重ねていた。海は小波が大波に変わっていた。
省三は堤防に立ちキャサリンのことを考えていた。
「省三、もうあの外人の別嬪とやったんか」
高山がニヤニヤ笑ってそう言い、近寄ってきた。
「いいえ、そんな仲ではありません」
「省三、嘘をついたらあかんで、外人のあそこはどうなっとんや」
「知りません」
「今度紹介してくれや。省三がまだならワイがぶちこんだるよって」
「そんなこととはしていません」
「省三、マスばかり掻いていると体にようないで・・・たまにはさせてもらえや」
「高山さんはそんなことばかり考えているのですか・・・ぼくは・・・」
美しいキャンバスが高山によって汚されていった。甘い夢が現実の醜さの前で萎んでいった。キャサリンが欲しい、抱きたいという欲望に翻弄されるときもあるが、それは自然の成り行きでそうなるべきだと考えていた。
「男とおながすることは一つや。あれしかないんや、はようしたれや・・・。省三は甲斐性なしやから駄目やな。女はやってしまえば自分の女になるんや・・・。やってしまわんと気が変わるんや・・・これと思う女がいたらやるんや。・・・それが男と女と言うもんや」
高山はそう言って扇動した。省三は胸を熱くなり、キャサリンの白い肌がちらついていた。
「それより、正月には帰られるのですか」
省三は話題を変えた。もうこれ以上キャサリンを辱められることに耐えられなかったからだ。
「うん、帰るで、帰ってから小遣いをもろうて来んと、ろくな女と遊べへんからな・・・。省三はどうするのや」
「帰ります・・・母をひとり残していますから」
「マザコンの省三か・・・それで女も抱けへんのか」
「違います」
「そんなら、帰るまでにあの別嬪をモノにしてみい、ワイが一万円やるよって」
「嫌です、そんなこと・・・」
「やっぱりそうか・・・」
「なんです」
「省三のこと、人夫たちがインポやというとんや。男と女がやっとるところへ行っても平気な男やと。噂になっとんや」
「あれは仕事ですから」
「それやったら、やってみい。やらなんだら一万円もらんで」
「嫌です」
「怖いんやろ」
「そんな・・・」
「なあに、押し倒し・・・」
「やめてください」
「分かったな、一万円やど」
高山は執拗にからかった。
省三は頭に血が昇っていた。
キャサリンの裸が頭に溢れていた。唇と乳房とお尻と、すんなりとした素足がスライドしていた。
省三は海の水を両手で汲んで頭にかけた。
11
冷たい海風が吹きつけトタン屋根をバタバタと鳴らしていた。海も鉛色の大きなうねりに変わり、大波が新しく出来た堤防に打ち寄せていた。風は段々強さを増し、堤防に繋がれたドラム缶の筏を木の葉のように弄んでいた。筏は何本もドラム缶をつないだものを並べて造ったものだった。その上にはパイル打ちのクレーンが設置されていた。風と波は筏を揺らし洗っていた。
その日の夜、嵐になった。波は海を底から揺らせていた。凄まじい音が裂け、重なり唸った。バラック建ての飯場は土台が懸命に大地にしがみ付いていた。板戸がバタバタと悲鳴を上げ飛ばされそうだった。石油ストーブの火が消えた。
「おーい、誰かおらんか、筏が流されるぞ」
ガス燈を持った角次が海の音にも負けないくらいの声で叫んだ。 みんなは雨の為仕事が休みで町へ出かけていていなかった。いるのは善さんと順ちゃんと省三だけだった。
「鳶の奴らはどうしたのだ、錨も下ろさんで・・・お前らはよう海に行って錨を下ろせ」
サーチライトは海で翻弄する筏を照らしていた。三人は堤防に立った。潮が満潮とぶつかり水位を上げ、大きな波が狂ったように総てを呑み込んでいた。
「よっしゃ、縄を引っ張ってください。僕が泳いで筏まで行きますから」
順ちゃんがそう言って海に入ろうとしていた。
「お前はじっとしとれ、俺に任せろ。その縄を力一杯引っ張ってくれ。離すなよ」
「善さん、やめて下さい」
順ちゃんは叫んだ。善さんは何時ものように酒を飲んでいたのだった。それを知って順ちゃんが叫んだのだった。
善さんは耳に届かぬふりをして海へ入ろうとした。順ちゃんと善さんの争いになった。
「善さん、僕が行く。酔っていては危険だ」
「誰だっていい、早くしろ」
角次が怒鳴った。
「バカ、お前はしっかり綱を引け」
そういって善さんは順ちゃんを突き飛ばして海へ飛び込んだ。
「善さん!」
順ちゃんの声は風の中に散った。
網は角次と順ちゃんと省三が引いていた。足元が定まらない、引きずり込まれる、体が宙に浮いていた。
善さんは波に弄ばれ浮き沈みをしながら泳いでいた。
「僕も行きます」
順ちゃんが海へ飛び込もうとした。
「バカヤロー!」
角次が順ちゃんの頬を張った。
「このヤローこんな時に・・・もう誰もおらんのか」
角次が小さく呟いた。
綱は今にも切れそうだった。海の中へ引きずり込まれた。綱は離さなかった。波の中で善さんが見え隠れしていた。
「善さん、早く」
省三は祈った。
順ちゃんの顔は飛沫なのか涙なのかぐしゃぐしゃだった。
サーチライトが善さんの動きを照らしていた。
省三は順ちゃんの生き方心のあり方を見たように思った。金だけさ、その言葉は嘘だったのだ。
綱が切れた。ずるずると海へ持っていかれた。足は砂を踏んではいなかった。
「順、省三、手を離せ、どうもならん」
角次が後ろで叫んでいた。角次も波に揉まれていた。
「離しません」
順ちゃんの泣き声が響いた。
「善さん!」
声が喉につまり声にならなかった。
「バカヤロー」
角次が吐き捨てた。
綱を離した省三を波は堤防へ押し返した。順ちゃんが沈んだ。省三は海へ飛び込んだ。
善さんの泳ぐ姿が見えなかった。
波が大きくうねり筏の上のクレーンを海に引き込んだ。筏が流されていった。一葉の枯葉のように波と風に流されていった。
「省三!はようあがって来い。順もだ。わしは警察に電話をする。お前らは人を集めろ」
角次の叫びが僅かに届いた。
省三は泳いだが流された。順ちゃんが流され見えなくなった。
全身が震え手足が冷え切っていた。何処かしこの家の戸を叩いた。嵐の夜に船を出してくれる人はなかった。ただ荒れ狂う海を眺めているだけだった。
サーチライトの灯かりが海の上で踊っていた。
12
次の日、昨夜の嵐は嘘のように晴れ上がった。透き通るような寒い日であった。
筏は二つに分かれ、一つは須磨に浜に、もう一つは淡路島の魚港に流れ着いていた。
善さんの姿はどこにもなかった。順ちゃんは隣の垂水の浜に上がって大丈夫だった。
順ちゃんは魚師に船を出してもらい海上を探し回っていた。省三は警察の事情聴取やら海上保安庁の人たちとの対応に追われていた。
善さんを探して終日大掛かりな捜索が続いた。
角次は人夫たちに仕事をさせた。角次には工事責任があり、気になっていても工事を続けなくてはならない事情があったのだ。
捜索の甲斐がなく善さんは見つからなかった。
海は白く凍ったように二十日月の下で光っていた。
「善さんはどこへ行ってしまったんだろう」
順ちゃんがポツリと疲れた顔で言った。
「さあ・・・」
省三は頭を抱えて言った。
「僕が行けばよかった。あの時善さんをぶん殴ってでも行くべきだったのだ」
順ちゃんの声は潤んでいた。
「どうしょうも、なかったね、あの時」
「僕が一人になっても善さんを探すよ。金は全部使い果たしたっていい。波に流されながら僕は考えたんだ。金でロマンが買える・・・違う・・・生きていることがロマンなんだって・・・その時思ったんだ。足らなかったらおやじさんに出させる。それでも足らなかったら東京に帰り・・・」
順ちゃんの頬に涙が伝っていた。
順ちゃんは父親の会社に勤めたがみんなの見る目が嫌になり辞め、全国の飯場周りをしたということを善さんから聞いていた。
「順ちゃん」
「善さんとは北海道で一緒になり・・・。雪崩のときに助けられた・・・。命の恩人さ。僕にとっては本当の親父のような存在だったんだ。・・・省ちゃん、僕に付き合うことはないよ。善さんと僕にはそんな因縁があるんだ。だからと言うんじゃないけど、善さんを探すよ。善さん寂しがり屋だったから・・・海に一人で置いとくのは辛いから・・・。それに僕は耐えられないから」
「善さん、寂しそうだった・・・。いつも遠い海を見つめて涙ぐんでいた。そんな善さんの姿をなんども見た」
「省ちゃんは聞いたことがなかったのか・・・。善さんが戦争から帰ってきたときには戦士をしたことになっていて、奥さんは男と・・・。善さんは奥さんを殺して・・・。愛していたんだな、殺すほど・・・。善さんも死のうとしたが・・・」
「それでは・・・」
「善さん、区切りを付けたかったのかもしれない。奥さんを殺した決着を・・・。その苦しみから逃れる為に・・・そう思うと余計に・・・」
善さんはもう苦しまなくて良い所へ行ってしまったのか、それで本当に良かったのか、省三の胸の中に善さんの思いが沸き立っていた。
「男も女も悲しい生き物よ」
善さんの声が耳の奥で響いていた。
13
寂しかった。何かが欲しかった。省三は放心したように砂浜を歩いていた。新しく出来た堤防の下に立っていた。そこはキャサリンの家の浜だった。
「省三、上ガッテラッシャイ」
キャサリンが堤防の上から呼んだ。
省三はキャサリンを見て胸が詰まった。目頭が熱くなった。
「寂シイ、辛イ、省三ノ心ワワカル・・・ミー二ナニガデキル」
省三はソファーに深深と腰を落としていた。その後ろにキャサリンが立って省三の肩に手をおいていた。
「いいんた」
省三は小さく言った。
「省三ガ辛イ顔ヲスルト。ミーモ辛イ」
キャサリンの手が省三の首にかかった。手の温もりが伝わってきた。その手を両手で愛おしそうに包んだ。覗き込むようにして唇を重ねてきた。省三はその唇を音を立てて吸った。息が苦しくなるようなキッスだった。
「有難う、キャサリンのこころは嬉しいよ」
省三は口火を離して言った。
「パパとママは・・・」
省三は問った。下心があるわけでなく何時ものやり取りであった。
「ハイ、今日モパーティーデス」
キャサリンは窓へ歩み寄り、
「省三、海ガトテモ綺麗」
海は紅くたなびいていた。善さんを呑み込んだ海があった。海は夜の気配を見せていた。周りは段々と黄昏かかっていた。
「キャサリン、酒はないか」
「アリマス、ワインデイイナラ・・・ミーモ」
キャサリンはそう言って奥に消えて、ワインとグラスを持ってきてテーブルの上に置いた。
省三は窓から海を眺めながらワインを空けた。体が熱くなってきた。
キャサリンの白い肌がピンクに染まり顔が赤みを差していた。
「キャサリン」
省三は上ずって言った。キャサリンを抱いて唇を重ねた。省三から求めた初めてのものだった。キャサリンはそれに優しく応じた。
何かが省三を突き上げていた。辛さと寂しさがそれに拍車をかけた。キャサリンの腰を力強く引き寄せ、更に唇を求めた。体が火のように熱くなりただそれだけの行為を急いだ。
「省三、寂シイ、省三」
キャサリンは潤んだ瞳で省三を見つめて言った。
「ああ、寂しい、もう海を見るのはいやだ」
省三は狂ったように叫んだ。
酔いが狂わせたか、男の本性なのか、理性は吹き飛んでいた。
「ミーノ部屋ニ行キマショウ・・・ミュージックデモ・・・ネ、ソウシマショウ」
キャサリンは柔らかく省三の腕を解いてから見つめて言った。
ベッドにはピンクのカバーが掛けてあり、窓際には机が置かれ、中央にはロッキングチェアーがあった。壁にはスターや歌手のポスターが貼られ、外国の風景画が飾られていた。キャサリンの体臭が満ちていた。
「省三、何カ飲ミマスカ」
「いや、欲しくない」
省三はいきなりキャサリンを抱きしめた。
キャサリンは笑っていた。
「キャサリンが欲しい」
省三の声はかすれていた。喉がからからに渇いていた。水を欲しがる獣のようにキャサリンに襲い掛かっていた。
「省三」
キャサリンが悲しそうに言った。
「省三、コレデヨカッタノデスカ」
キャサリンは裸で横たわる省三に声を掛けた。気だるい声だった。それは咎めるものではなく、優しい響きがあった。額に前髪が数本汗でこびり付いていた。
「省三、ミーワ、省三ニハッピーニューイヤーヲイエナイ」
「なぜ」
「アメリカニ帰リマス。日本ノボーイフレンド省三一人・・・ナニモカモ、コレデヨカッタノデス」
キャサリンは全裸のまま窓辺り立ってカーテンを開けた。
「僕も母の町に帰ります」
「省三、モウ会エナイノデスネ」
「すまないこんなことになって」
「スマナイコトハナイ、イイデス、良イ思イ出ニナリマシタ」
「思い出・・・」
「省三、海ヲ見テ」
省三は裸のままキャサリンの傍に立った。外はもう暗い海辺の景色だった。狂った様に荒れた海が穏やかに何時もの海に帰っていた。
「省三、忘レナクテハイケマセン。コノ海ガ善サント言ウ人ヲ殺シタカモ知レナイケレド、悲シクミツメテハイケマセン」
小さな船の灯が海を渡っていた。その灯は善さんの魂のように見えていた。
「キャサリン、有難う。僕にはいい思い出が出来たよ。キャサリンのこと一生忘れないよ」
「イイエ、忘レナクテハイケマセン。善サンノコトモミーノコトモ・・・。デモ、ミーノコトワトキドキオモイダシテ欲シイ、ソシテ、善サンノコトモ。ミーモ、省三ノコトキットオモイダシマス」
キャサリンは幼く言って省三を見上げた。
「省三」
キャサリンは誘った。
窓が開けられ風がカーテンを揺らせた。
「省三、明日ノ朝、浜デ会イマショウ」
そう言って、キャサリンは全裸に毛布を巻いて出て行った。
14
省三は次の日朝早く起きた。寒い風が潮の香と共に吹き付け泣いていた。
キャサリンは大きな花束を胸に抱いて砂浜で待っていた。省三を見つけるとあどけなく笑って手を振った。昨日のことなど何もなかったようだった。
「省三」
「キャサリン」
省三はなにか戸惑いがありキャサリンを直視できなかった。
キャサリンは花束を省三に渡して、
「善サンニアゲテ」と言った。
「二人してあげよう」
省三はキャサリンの手を持って、花束を打ち寄せる波間に浮かべた。花束は波に揉まれながら少しずつ沖へと流れていった。省三はキャサリンをじっと見つめた。
そう言えば、海辺に彷徨する花束を見たとこがあると事を省三は思い出した。花束を流した人の心が判るように気がした。
「キャサリン」
省三は何かを感じていた。それは省三の心の中に生まれた人を愛すると言う感情だった。キャサリンの手を強く握り締めた。そして、引き寄せて額を合わせた。
「ごめん」
「ナニヲ・・・」
「いいんだ」
「寂シイ・・・」
「もう一度会いたい。二人で夕焼けを見たいんだ」
「オーケー、ココデ会イマョウ」
そういってキャサリンは砂浜を走った。
省三は花束の行くへを何時までもいつまでも見つめていた。
「省三、キャサリンの味はどうやったんや」
二人の様子を眺めていたのか、高山が堤防の上から言った。
「知りません。なにもなかったんですよ」
高山によって二人の仲を汚されたくなかったので省三はそう言った。二人の心は花束のようにどこかへたどり着くのだ。それでいい、昨夜、二人の心と体を一つにすることが出来た。それは自然のうちにそうなったと思いたかった。
「ええムードやったな、二人がでけとる雰囲気やったで・・・。省三は隅に置けん奴や。ワイの負けや、一万円は帰るときに渡すよってな」
「キャサリンがアメリカに帰るというので別れを言っていたんです」
「一回きりか、それはかわいそうやな・・・。約束は約束や、男の約束は石より固いのや」
高山がそう言って堤防からいなくなった。
省三は頬が緩んでいた。高山は大阪弁が混じっていた。夜の街で学んだのだろうと省三は思った。
省三は夕方キャサリンと砂浜で会った。西空を真っ赤に焦がして沈もうとする太陽を手をつないで眺めた。
「さようなら、キャサリン」
「省三」
キャサリンが省三に覆い被さってきた。鼓動が激しく波打っていた。
「省三、コノ夕日、省三ノ夕日・・・。ソシテ、ミーノ夕日・・・ホント二綺麗・・・忘レマセン」
「僕も忘れない。二人で見たこの夕陽・・・夕陽が終わると朝日です。これからは朝日に向って走りたい」
「省三ワ朝日二向ッテ走ル・・・ミーモ走ル」
二人の影は砂浜に長く伸びていた。暗闇が降りても二人はそこにいた。
それから数日して、キャサリンは省三に何も言わずにアメリカに帰った。
15
工事のほうは正月を目の前にして急ピッチで進められ、片付けられていた。みんな善さんの事など忘れているようだった。
順ちゃんは仕事もせずに毎日海に出で善さんを探し続けていた。
「順ちゃん、僕は帰らなくてはならないんだ。母が待っているのでね」
省三は順ちゃんにすまないと思って言いそびれていた言葉を言った。鳴海にしても角次にしても警察に任せ手を下そうとしなかった。
「帰ればいい。それでいいんだ。僕はまだまだ善さんを探し続けるよ。海の中に一人おいて置けないから・・・。今の僕にはそれしか出来ないんだ」
「すまないね」
「謝ることはないよ・・・。僕は今やっていることで区切りを付ける、親父の会社に戻って後を継ぐよ。善さんが見つかったらな」
「そうなのですか、それはよかった」
「あの娘帰ったんだって・・・いい娘だったのに・・・。僕は見たんだよ、省ちゃんと二人で善さんに花を・・・」
「見ていたんですか・・・善さんはまだ・・・」
「いいんだ、あれでよかったんだ・・・。夕陽が海を黄金色に染めて・・・二人はシルエットのように・・・海に流す花束・・・。綺麗だったよ・・・。・・・善さんはもう・・・。本当は僕も一日も早く決着をつけてと思うんだが・・・、善さんの遺体が見つかったら、花をいっぱい買って、舟を漕いで、海を花で埋めてやるんだ」
順ちゃんは涙を耐えていた。が、頬に幾筋もの涙が流れていた。
「順ちゃんの心は綺麗だね」
「そんなことはないよ。金で買えないものを見つけたんだ」
「順ちゃん」
「うん、寂しすぎるよな、甘えていたんだ。だけど今は生きているよ」
「ええ」
「うん、生きている、そして創る」
「分かるものか、誰がわかっているというのだって、善さん酔うと言っていたね」
「分からないから生きられるって言いたかったんだ・・・。人は悩み苦しみ生きるものだと・・・。今ならそう思う」
「そうだね、そうなんだ」
省三は順ちゃんを見詰めて頷いた。
「これでお別れですね。 来年は来られないかもしれないから」
「明日また誰かに出会えるよ」
順ちゃんは明るく言った。今までそんな顔を見たことがなかったように思った。
煙草の煙が立ち込めていた。赤子がしきりに泣いていた。
省三は故郷へ帰る汽車に揺られていた。
善さん、順ちゃん、キャサリン、有難う、と省三は心の中で繰り返していた。カタンカタンと言う音が善さんの歌う「黒田節」に聞こえていた。
善さんの遺体が見つかったと言う記事が載ったのは大晦日の朝だった。
順ちゃんが舟いっぱいに積んだ花を海に投げる光景を省三は思い浮かべていた。
省三の十七歳、昭和三十六年は終わろうとしていた。
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