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yuuの一人芝居
戯曲 海へ帰る・・・公民館公演
戯曲 一幕三場
海へ帰る
吉 馴 悠
人 老 人
少 女
時 初春の頃、九時前
所 港町、港の突堤
第一場
場面、上手から下手にななめに突堤、
上手の背景に町の灯、
中央に十三日の月がでている。
下手の背景は、船の灯が見える。
客席に港湾である。
突堤にはコンクリートの杭、杭は恰好の腰かける高さである。
効果として、焼玉のポンポンという音、劇の終わりに霧が欲しい。
幕があがると、
杭に腰をかけた老人が遠くの外海の方を眺めている。老人のうしろ
姿は孤独な影が漂っている感じだ。
船の汽笛が遠くでする。
花束を持った少女が小走りに出て来る。
老人に背を向けてすすり泣く。
老人、人の気配と、すすり泣く声に振りかえり少女のうしろ姿を
じっとみる。少女、しばらくして、人の気配を感じとり、ゆっくり
ふりかえる、老人をみて、驚き、大きく口をあけるが声はない、老
人をみつめたまま、恐怖の表情と、恥しさに入りまじった顔でゆっ
くりあとずさりをする。
老 人 (思いやりのあるやさしい顔で少女をみつめて)どうしたんだい。
少女、返事もせずあとずさりする。
老 人 (一歩前に出て)泣いていたんだね。
少女、大きく一歩下り、老人の行動を眼を、見逃すまいとする眼でみつめる。
老 人 (いたわりのある声で)、ごめんよ、
少 女 (じっとみつめる)?
老 人 ………おじさん、君が一人で泣きたいのを邪魔をしたようだね、……
………さあ、思い切り泣けばいい、(少女をうかがうように云った)………。
おじさん、心配だから、倉庫の前でみているよ、いいかい。
少 女 ………(じっとみつめる)………
老 人 ああ、こわいんだね、……… と云って無理かなぁ(自嘲する)、………
(少女の表情をみつめる、老人やわらいでいる)………。悲しい時、おじさ
んだったら母さんの胸の中で大きな声をあげて泣くね………そうすれば忘れ
られるよ、
少女、悲しみが押しあげてくる。少女は老人に背を向けた。
老 人 そうか、母さんに叱られたんだね、それで海へ………そうなんだね。
少 女 (振り向いて)違います………私の………(はげしく泣いた)
少女かかえていた花束を落した。
老 人 (花束を見て)君、花を売って歩いているのかい………(少女をやさしくみて)
………そうだったのかい………。ごめんよ、おじさん、そそっかしくて・・・・・・
それで母さん病気なのかい?
少女、首を激しく振った。
老 人 そうか、じゃ、お父さんだね。
少 女 (うなずく)
老 人 (哀れみをもって)こんなに遅くまで………。いつもこんなに遅くまで花を……
少 女 (うなずく)
老 人 そうかい、母さんの手だすけをしているんだね。母さん、きっと君に感謝し
ているよ。
少 女 (顔をあげてじっとみつめ)母さん死んだの。
老 人 (ハッとなり)そうだったのか、………(考えた)、おじさん、悪いことを
云ったなあ、………(近よって)ごめんよ。
少 女 一年前に、………(涙が声を絶した)
老 人 (花束を拾い)それからずうと花を売って………(花束をみつめた)
少 女 (小さくうなづいた)
老 人 そうかい、大変だったんだね。
少 女 ………
老 人 母さんが恋しくて、ここえ………
少 女 (首をふる)
老 人 誰かにいじわるされたんだね。
少 女 (うなづく)
老 人 悪い人がいるね、君のような心のきれいな少女をいじめるなんて………
悔しいのかね。
少 女 (うなずく)
老 人 (突堤の先に立って)おじさん、悔しい時には泣かなかったなぁ………
悔しい時泣く人は嫌いだなあ。
少 女 (老人のうしろ姿をみた)
老 人 おじさん、悔しい時に涙を耐えてがまんしたんだよ、泣いても少しも忘れら
れないし、みじめさを味わうだけだからね。
少女、考えながら歩いて、老人のうしろに立って、遠く海を見る、
老人やさしく少女を見る
間
少 女 (振り向いて)、そうだわ………私、もう泣かない。
老 人 君はいい娘だ、素直で………
少 女 ………おじさん、どうしてこんなところに来ているの?
老 人 おじさんかい………(間、考える)、どうしてだろう、………(あいまいに)
きっと、淋しかったんだなぁ。
少 女 淋しい!(小さく云った、そして、老人の表情をみた)
老 人 (少女にみつめられ、顔をそむけて)おじさん、一人ぼっちなんだ………
少 女 一人ぼっち………
老 人 そう、おじさんの連れあいは二年前に死んだんでね。
少 女 ………子供はいないの
老 人 (海の方へ向いて)いたさ、一人ね、………戦争で死んだんだよ。
少 女 (小さく)そう、………
老 人 この前の戦争で・・・海軍でね、潜水艦に乗っていたんだが………(感情が沸い
て来た)、
………帰ってはこなかったんだよ、(淋しそうに云った)
少 女 それでおじさん………海へ
老 人 息子は海の向こうの妣の国に帰ったんだよ。
少 女 ははの国!
老 人 妣の国………(花束をさして)これ、私が買うよ、(老人金を出す)
少 女 あげます。
老 人 いいさ。
少 女 こんなに、おつりありません。
老 人 いいんだよ、とっておきなさい。
少女素直に受けとる。老人、遠くの海を見つめていたが花束を海へ
投げる。老人、少女、花束の行方をみつめる。
少 女 (大きく)どうして、どうして、花がかわいそうです。
老 人 君は、ほんとうにやさしい娘だ。
老人と少女の眼があう。老人の眼には涙があふれている。
少 女 ………
老 人 おじさんが海へ花を捧げるのはね、妣の国にいる、私の妻に、息子に捧げる
ことになるんだよ。
少 女 ははの国てほんとうにあるんですか?
老 人 ああ、あるんだよ、日本人の故里なんだよ・・・……そうだ、君の母さんも、
きっといるよ。
少 女 (きらりと眼をかがやかせて)お母さんが・・・・・・・・・(遠くの海をみつめる)
老 人 そう、我々は、南の遠い海から産ているんだよ。そして死んだら、また、遠
い南の国に帰るんだよ。
少女海をみて考え込んでいる
老 人 ・・・・・・海は一つだからね・・・・・・あの花だっていつの日にか、きっと、妣の国
にたどりつくさ、・・・・・・そう思って、おじさんは投げたんだよ。
間
波の音、ポンポンと云う音、月がかくれて多少暗くなる。二人海を
みつめて並んで立っている。音楽が流れる。合唱あり。島崎藤村の
「椰子の実」である
名も知ら遠き島より
流れよる椰子の実一つ
海の日の沈むを見れば
激り落つ異郷の涙
思いやる八重の潮々
いづれの日にか国に帰らん
静かに流れるように、波打つように歌った
間
月が顔をのぞける、多少明るくなった
ポンポンという音は遠ざかった
遠くで響く出船の汽笛
老 人 (独り言のように)九時なんだな、今日も船出していく。
少 女 (夢みるように)私、早く行きたいなあ、ははの国へ。
老 人 (ハッとなる)なにか云ったかい。
少 女 おじさん、ははの国に行くには、どの船に乗ればいいの、今、出て行く船な
の?
老 人 (困る)さあ、おじさんもその船をさがしているんだよ。
少 女 私もさがすわ、おじさんと一緒に。
老 人 うん、(ため息まじり云った)・・・・・・だがね、妣の国に行く船に乗ることが
出来るのは、私のような老人にならなくては駄目なんだよ。
少 女 (射るように老人をみて)どうして、なぜなの、・・・・・・なぜ、私を乗せて
くれないの?
老 人 (躊躇して)・・・・・・それは、それはね、君がまだまだ若いから。
少 女 (真剣に)年をとらなくてはいけないの(哀願するように問った)
老 人 そうだよ、君は若い、まだまだこの世ですること、しなくてはならないこ
とが沢山あるからね。
少 女 おじさんは、船に乗ることが出来るの。
老 人 ああ、することはしたからね。
老人の心も中になにか引っかかる物がある老人、杭に腰をかけた
少 女 (老人のうしろ姿をみて)なにもすることがほんとうにないの?
老 人 (あいまいに)ああ、ないよ。
少 女 ・・・・・・(思いつめて)、おじさんこの世の中でなにをするもの、しなくては
ならないの・・・・・・・・・教えて下さい。
老 人 (困る)さあ、それは―――そう一人一人違っているんでね。
少 女 私、早くすまして、ははの国に行きたいんです。
老 人 (あらたまって、少女をみつめた)そんなこと・・・・・・どうして?
少 女 どうしてって、お母さんに逢えるんでしょう。
老 人 そんなに母さんに逢いたいかね。
少 女 (強くうなづいた)
老 人 (考える)そう・・・・・・辛いんだね、・・・・・・
少 女 ?
老 人 生きて生活するものが嫌なのかね。
少 女 私、お母さんに逢いたいんです。
老 人 母さん、きっと逢いたくないだろうと思うよ。
少 女 (大きく)お母さんが私に逢いたくない!そんなことありません。
老 人 (立って突堤の先へ)さあね、・・・・・・。君のお母さん、君にもっともっと
長く生きて、倖せになってもらいたいと思っているよ、きっと。
少 女 (考えている)お母さんそう思っているの、ほんとうに・・・・・・(人をみて
それから海をみた)
老 人 そうさ、・・・・・・。母さんだって、もっともっと長く生き、君と一緒に暮ら
したかったろうからね。・・・・・・(やさしくみて)君が、父さんに親孝行を
して立派に生きてくれることを祈っていると思うんだ。
少 女 (海をみつめている)・・・・・・
老 人 君が母さんに少しも早く逢いたいなんて云ったら、母さん悲しむと思うよ、
・・・・・・君のことが心配で楽しい妣の国での生活が味けないものになるんだか
らね、死んだ人への孝行は、心配をかけないことなんだよ。
少 女 ・・・・・・(考えていたが)私が立派に生きたら、きっと逢えるのね・・・・・・海の
向うの妣の国で・・・・・・。
老 人 そうなんだよ、きっと逢えるよ。生きて、生きて、生き抜いて幸福を?んで、
海へ帰るんだよ、そうすれば、母さんは心よく迎えてくれるよ・・・・・・。そう
でないと母さんきっと悲しむよ。苦しいから、辛いからって妣の国に帰りた
いなんて云ったら、母さんは妣の国で肩身の狭い思いをするんだよ。
二人は無言で海を眺める。その眼は、海の向うの、幻の国でも心ので
故郷もある妣の国を見つめている眼だ。
間
少 女 (思い出したように)おじさん!・・・・・・さっき、船に乗ることが出来るって
云ったわね。(振りかえってみた)
老 人 ああ、そうだよ。
少 女 おじさん死ぬの?
老 人 (いきいきと)ああ・・・・・・。
少 女 (みつめて)こわくないの。
老 人 こわい!・・・・・・(考えた)そりゃ、こわいさ。
少 女 では、どうして・・・・・・待っているの。
老 人 それは―――君にはわからないよ。
少 女 なぜ?
老 人 君が、若いからかな。
少 女 (首をかしげて)若い。
老 人 そう、・・・・・・さっきも云ったろう。これからだよ、君の人生は・・・・・・大きな
夢だって抱くことは出来る・・・・・・。私にはもう夢はないからね。
少 女 一人ぼっちだから。
老 人 (海をみた)一人ぼっち(つぶやいた)・・・・・・そうさ・・・・・・おじさんは死を
こわがるより、一人ぼっちのほうがこわいんだよ・・・・・・。だから待っている
んだよ。
少 女 (海をみて)おじさんには妣の国が見えるの。
老 人 ああ、、見えるんだよ、四季の花が咲きほこり樹々は赤く熟した実をつけて、
小川はきらきらと、きれいな水が流れて・・・・・・。
少 女 (とびはねて、海の向こうをみようとする)
老 人 ・・・・・・潮に乗って、小舟が近づいて・・・・・・おじさんは潮が引くのを見に来る
んだよ。(一人言のようにつぶやく)小さな船に死んだ人が嬉しそうに笑って
引潮に乗ってどんどんと外海へ出て行くんだよ・・・・・・。今日は、おじさんの
番か、明日は、明後日は・・・・・・と、私は私の番がくるのを毎日ここへ来て待
っているんだよ・・・・・・。だけど、私を迎えに来る船はまだこないんだよ。
少 女 (かなしそうに)お父さんも、船に乗るかしら、おじさんの見える船に。
老 人 (我にかえって)いや、それは・・・・・・君の父さんはまだまだ船に乗れないよ。
少 女 おじさんより若いから。
老 人 ・・・・・・それは、若いし、君がいるもの・・・・・・。
少 女 私が・・・・・・。
老 人 (やさしくみつめ)父さんの病気、きっとよくなるよ・・・・・・。君の母さんが
妣の国で祈っているものね・・・・・・それに・・・・・・。
少 女 それに?
老 人 それに、君が一生懸命に父さんのために働いているものね・・・・・・きっとよく
なるよ。
少 女 ・・・・・・(考えた、なにかを思いついたように)お父さんが元気になったら二
人で花を捧げることにしよう。お母さんに捧げるんです。
老 人 母さん、きっとよろこぶよ、君の父さんの影は、母さんに眼にはみえるだろ
うからね。
少 女 おじさん!おじさんの姿が、おじさんの息子さんや、おばさんに見えるの。
老 人 (遠くの海を見て)見ているだろう、きっと・・・・・・。おじさんが毎晩ここへ
きて、影をおとすもんだから悲しんでいるだろうさ。
少 女 悲しむ・・・・・・。
老 人 ああ、ばあさんや、息子は、私を一人ぼっちにして・・・・・・。私の分までぼく
の分まで、長生きして下さい、お父さん・・・・・・と云っているんだよ。
少 女 (明るく)そうだわ、私も、おじさんに生きていてもらいたいわ。
老 人 (淋しそうに小さく)生きていることがほんとに倖せだろうか・・・・・・(少女
をみた)こんなことを、これからの君に云ってはいけないんだろうね・・・・・・。
だがね、君も、私のように年をとればわかると思うんだが・・・・・・。
少 女 おじさん、私は生きるわ、・・・・・・私、お母さんを悲しませたくないもの・・・・、
だから、おじさんも、おばさんも、息子も、そう願っているんでしょう。
少女の眼はきらきら光っている。老人は淋しそうに少女をみている。
少女は近よって老人の手をとった。
老 人 (少女の手をとって)おじさん、口ではお迎えの船がくるのを待っていると
云っているが、死にたくないんだよ、・・・・・・・。だけど、一人ぼっちの方が、
死ぬよりこわい時があるんだ。
少 女 おじさん、私が友達になってあげます、おじさんは一人ぼっちなんかではあり
ません・・・・・・だから・・・・・・。
老 人 (涙をうかべて、小さく)ありがとう、・・・・・・おじさん、とてもうれしいよ、
・・・・・・おじさん、死ぬのがとても辛いんだ、とてもこわいんだよ、・・・・・・だ
から、淋しいんだよ、・・・・・・。海に来て、ばあさんや、息子に話かける、
それも一人ぼっちが淋しいからなんだよね、きっと・・・・・・。
老人は杭に腰をかけた。少女のやさしい眼は老人の行動を追ってい
る。
間
出航の汽笛が三度、遠くにひびいた、老人、突然立って前に進み出
る。
老 人 (歩きながら)ばあさんの声が・・・・・・生きて下さい。私の分まで、息子
の分まで・・・・・・と云ってるんだよ。だけど一人ぼっちがどんなにこわいか、
苦しいか、・・・・・・。ばあさんは勝手な女だった。一人で、私をのこして、
先に海に帰ってしまって・・・・・・妻が、夫より先に行く奴があるもんか、
(一人言のように云って)一人で先に行く奴があるものか(泣きながら
強く云った)。
少 女 (泣きながら)おじさん、そんなに云っては、おばさんがかわいそうです
・・・・・・おばさんだって、おじさんと・・・・・・(声は涙に消えた)
少女、手で口をおさえた。老人、海をみつめた。二人の影が長く横
たわった。
溶暗
第二場
溶明、次の日、前場と同じ突堤
少女、杭に腰をかけて遠くの海を眺めている。何かを祈るような姿
である。波は昨日より少し荒い。波のくだける音だけがつづいてい
る。少女の手に花束がにぎられている。
間
老人、杖をついて登場する。静に歩を前にすすめて、少女のうしろ
に立った。
少女、老人に気づかず、海をみつめている。
ポンポンと小舟が通り過ぎた。
少女、花束をにぎりしめて立った。少女、老人に気付きふりかえっ
た。
少 女 おじさん!(喜びにあふれた声だ)
老 人 (笑って)きてたのかい。
少 女 (うなずいて)おじさん、今日はこないのかと思った。
老 人 ・・・・・・船が出るのが、毎日少しづつ遅くなるんだよ、・・・・・・だから。
少 女 ・・・・・・?
老 人 潮が引くのが遅くなるんだよ・・・・・・。生まれを時は満潮でね、死ぬ時は干潮
だからね、潮に乗って生れたり、死んだりするんだよ。
老人、先日より元気がある
少 女 (花を老人に見せて)私、この花をお母さんにささげようと思って・・・・・・
お母さんのお墓、四国にあるの。
老 人 そうかい、それはいいことだ、きっと母さんよろこぶと思うよ。それ、(花
をさして)売れ残ったのかい。
少 女 (うなずく)・・・・・・お母さん、売れ残りだと怒るかなあ。
老 人 そんなことはないさ・・・・・・君のやさしい思いやりが入っているんだもの。
少 女 (明るく)そうね、お母さん、よろこんでくれるわね。
老 人 おじさんが買ってあげようか。
少 女 いいえ、今日はよく売れたんです。
老 人 そうかい、それはよかったね。
少 女 (考えて)昨日、おじさんに逢ってお話きいて、私、誓ったんです・・・・・・
老 人 ・・・・・・(少女をみつめる)
少 女 お母さんを悲しませないように・・・・・・うんとお父さんを大切にして、立派な
人になるんだと・・・・・・。
老 人 そうかい・・・・・・。それで今、なにを考えていたんだい。
少 女 (驚いて)おじさん、みていたのですか?
老 人 (うなずいて、笑った)
少 女 (笑って)お母さんに先に云ったこと誓ったんです・・・・・・それに・・・・・・。
老 人 それに!
少 女 今日一日のこと、お父さんの病状を報告したんです(きらきらと少女の眼は
光っている)
老 人 (淋しそうに)そう、そうかい。
少 女 私、毎日ここえ来て、今日の出来事をお母さんに伝えようと思うんです。
おじさん、いい考えでしょう。
老人 うん、いい考えだ。
少女、花を海へ力一杯に投げた。少女と老人は花の行方をみつめ
た。
間
波のくだける音が繰り返えされる。
少女振りかえって
少 女 (明るく)おじさん私、中学を出たら看護の勉強をするんです・・・・・・。
看護師になるの、お母さんの夢だったんです。お母さん看護師になれなか
ったんです、貧乏だったから・・・・・・だから、私、立派になって、お母さんを
安心させてあげたいんです。そのことも、お母さんに誓ったんです。
老 人 (淋しそうに)そうかい、それはいいことだね・・・・・・(一人言のように)夢
のある生活、目的のある人生・・・・・・。それがあれば、金なんかなくたって、
結構楽しく生きられるもんだからね。
少 女 (老人をみて)おじさん、おじさんも私のような年頃はなにになりたかった
の。
老 人 君のような年頃は、おじさんだってあったさ、小さい胸に大きな夢が・・・・・・。
夢は大きければ大きいほどいいと云うがね、成就されない夢はほんとの夢な
んだよ・・・・・・。おじさんの夢はほんとの夢だった。夢におしつぶされて、尻
もちをついた。夢を追っては一日だって食べていけなかったんだよ。
・・・・・・おじさん、生活するために夢をすてたんだよ、(少女をみつめた、
少女は真剣な顔を向けている)・・・・・・。おじさん今、後悔しているよ、
どんなに苦しくても、夢だけは、いつまでも胸の中に暖めて忘れては
いけなかったと・・・・・・。夢を忘れたことが、今のおじさんを淋しくする
んだよ、つのらせるんだよ。
老人、淋しく歩いた
少 女 おじさん!おじさんの夢ってどんなことだったの。
老 人 そう・・・・・・。(遠くの記憶をたどりよせている眼だ)南米に行き広い牧場
をもつことだったんだよ。
少 女 ブラジルへ行って広い牧場をもつ・・・・・・とてもすばらしい夢だわ。
老 人 (少女をみて)そう思うかい。
少 女 (眼をかがやかせて)うん、とても、大きく、広い夢だったんですのね。
老 人 大きく広い夢・・・・・・(つぶやいた)・・・・・。おじさん、あきらめてしまっ
ったんだよ、そして、一日一日を平穏無事に過す、生活を選らんでしまった。
人間と云う動物は夢を食べて生きてはいるが、夢が大きい程、絶望し、落胆
し、あきらめ、平たんな道を、波風のない海を自分をかばうために選ぶも
のなんだね・・・・・・。おじさんは港の中で波風をさけて生きていたようだ・・・・・・
少 女 ・・・・・・どうして、そんな生活がいけないの、毎日が楽しく倖せなら・・・・・・。
老 人 ああ、平穏な生活だって、立派な生き方だよ、人生なんだろうがね。
・・・・・・おじさんは今、夢を追わなかった人生を後悔していると云ったね・・・・・・。
それはね、おじさんのように年をとると、夢を造りえなかった淋しさが、お
じさんの人生は失敗ではなかったかと思わせるんだよ、・・・・・・孤独に一層淋
しさを加えるんだよ。・・・・・・おじさんがこの世の中に生きて、なに一つ残す
ことが出来なかったことが、淋しくてならんのだよ・・・・・・。おじさんが夢に
向って一生懸命に努力したとする、たとえ夢がかなえられなかったとしても、
今、おじさんが味う淋しさよりはるかに楽しく満足していられると思うんだ
よ。力一杯に努力した、そのことだけが、おじさんの心に中には残っている
だろうからね。
間
遠くにひびく出航の汽笛
少女、考え込んでいる
少 女 (明るく造って)今日も出航して行くのね。
少女海をみつめた
老 人 ああ・・・・・・港を出て、荒い海へ出て行くんだよ・・・・・・。あのね、港の中で波風
をさけて生活して、荒い海を知らないでいると、冒険する心を失うもんだよ、
・・・・・・。夢には冒険がつきものなんだよ、港の中の倖せは、ほんとうの倖せで
はない、外海に出てはじめて、大きな満足感をもつことが出来るんだよ。若い
内は、どんどん、海に出て、夢に一歩一歩近づくために闘うんだよ、・・・・・・。
おじさんは海に出ることを忘れて、自分の船を、荒い波から、強い風からかば
っていたのだよ、・・・・・・そこにはおじさんの欲しがっていた夢はなかったんだ
よ。
老人、海をじっとみつめた
少 女 (うしろ姿をみつめて)おじさん!おじさんだってこれから海に出ることが
出来るわ。
老 人 (我れにかえって)海へ出る・・・・・・おじさんはもう駄目だ、こんなに老い込
んでしまって・・・・・・(淋しそうに)おじさんは海へ帰るんだよ。
少 女 おじさん!・・・・・・おじさんにはまだまだすることが残っています。
老 人 まだすることが残っている?
少 女 そうですわ、・・・・・・まだ後悔することないわ、・・・・・・これからだって生きて
るんですもの、なんだって出来るわ、そうでしょう・・・・・・おばさんも、息子
さんも、きっとそう願っていると思うんです。
老 人 (つぶやくように)生きるんですものか・・・・・・(考え込んだ)。
少 女 ええ、生きて下さい・・・・・・。そうでないと、おじさんが今迄云ったことばが
信じられなくなりますもの。
老 人 (少女の真剣な、すがるような顔をみつめる)・・・・・・信じられなくなる?
間
二人海をみている
波のくだける音が繰返している
老 人 (元気に)やってみるか!
少 女 (明るく)やってみるか、そうよ、やってみて下さい。おじさんはまだ若い
んですもん。
老 人 (笑った)若いか。
少 女 そう、とても若いわ。
老人と、少女、海に向って明るく笑った
溶暗
第三場
溶明
数日後、同場
少女、しょんぼり出て来る。花束をかかえて遠くの海を見る。
ポンポンと小船の音
出航して行く、船の汽笛
いつもと変わらぬ港の夜の風景だ。が、少女の胸の中には、淋し
さと、悲しみがつかえている
間
少女花束を力なく海に落とす。肩をおとし祈っている姿だ。だん
だんと背がこきざみにゆれ始め、嗚咽に変りなきだしす。しばら
くして、少女、花のゆくえをみつめる
少 女 (涙声で)おじさん!・・・・・・おじさん!(嗚咽がはげしくなる)・・・・・・おじ
さん、どの船に乗っているの・・・・・・まだ、ははの国に行く船は出ないのね・・・。
海へ帰るの・・・・・・もう帰ったの・・・・・・。おじさん、どうして左右をよく見て
横断歩道をわたらなかったの・・・・・・車にはねられて・・・・・・おじさん、もう船
に乗ったの、帰ったの・・・・・・。若いから、楽しく夢を造るんだって、そう云っ
ていたのに・・・・・・。おじさん、ほんとうなのね、金なんか、名誉なんかいらな
い。自分の子供に、親が真剣に生きている姿をみせること、生きる力をあたえ
ること、それを子供にのこすんだってこと、・・・・・・おじさんは、私にのこして
くれたのね・・・・・・。(激しく泣いた)、・・・・・・おじさん海に帰って、倖せなの、
・・・・・・。私、夢を追っていつまでも生きるわ、後悔しないように、・・・・・・、子
供にすばらしい言葉をのこすような生活をするは、おじさん、みていて下さい
ね・・・・・・。おじさん海へ帰ったのね、引き潮に乗って・・・・・・。おじさん、さよ
うなら、・・・・・・さようなら。
霧が出てくる
少女の影がだんだんと霧にかくれる。船の汽笛がなんどもなんども
くりかえす
音楽流れる
島崎藤村の「椰子の実」である
名も知らぬ遠き島より
流れ寄る椰子の実一つ
海の日の沈むを見れば
激り落つ異郷の涙
思いやる八重の潮々
いづれの日にか国に帰らん
静に流れた
間
少女の声 おじさん、さようなら
少女の声は山彦のようにひびいた
波の音が少女の声にかぶさって行く
幕
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