yuuの一人芝居

yuuの一人芝居

一人芝居 武蔵五輪書巌流島 執筆中



                     「一人武蔵」今田 東
                     脚色    吉馴 悠
      肥後の高台にある洞窟。
          座して白髪総髪の男が経をあげている。

          夕闇が忍び寄っている。
          舞台明かりは静寂を意味する蒼である。
          低く穏やかな声の経が響く。彼方の寺院の梵鐘が時を告

男  おのは何をしょうとしているのか・・・
   今更に罪障消滅の経をあげて何になろう。その経が何の役を斯こうぞ。
   おのの心を安らかにするための一時の慰めか?・・・
歳をとったのか・・・人の命の儚さをこの老いの五体が感じ取ったというのか・・・
心のままに振り向きもせずに走ったことが・・・若気の至りかの後悔か・・・
   弱気な心が頭を擡げ・・・そのすべてが老いのなせる業なのか・・・
   これから先のないことを・・・すべてが老いの未知の体験・・・明日の約束などこの歳になってはどこにもない・・・
   それゆえに・・・手さぐりゆえに・・・胸に広がるのは不安のみ・・・
   この歳になって命への未練・・・
   このおのが何たる臆病か・・・
   今までのおのの道は一体なのであったのだろうか・・・  
   今思えばひと時のように思われる。
   昨日生まれて今日は昨日を振り返りその現実を振り返り後悔の・・・時の流れは斯くも早いのか・・・流れの襞は凝縮して一瞬にも満たないというのか・・・  
   その襞を伸ばせばおのが刻んだ歴史なのか・・・
   振り返ろう・・・否、止めておこう・・・
   いったいおのはどうしたというのだ・・・狂ったのか・・・
   老いが、平静を齎してくれるおいが・・・心落ち着かせてくれるおいが・・・  
   まだこの五体にあの頃の、獣のような血潮が渦巻いているというのか・・・
   覚悟の諦めを知らぬというのか・・・この年になっても消えぬというのか・・・
   仏は取り去り奪い許してくれぬと言うのか・・・ 
   この苦しみを誰にすがることなく自らの力で消し去らねばならぬというのか・・・
   この年になっては辛すぎる・・・
   それ故に書画に没頭し和紙に薄墨を浸した筆を・・・
   おのが歩んで悟った心得を五輪として書き・・・
   仏にすがり経を読んでみたが・・・
   小太刀を振るって懸命に如来を掘ってみたが・・・

   ああ・・・ああ・・・

          頭を、胸を掻き毟り悶える男。 

                              暗転 



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