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yuuの一人芝居
小説 夏の華
瀬戸大橋の風景です 借り物です
この小説は
海の華
の続編である
冬の華
の続編である
春の華
の続編である。彷徨する省三の青春譚である。
ここに草稿として書き上げます。書き直し推敲は脱稿の後しばらく置いて行いますことをここに書き記します。
夏の華
(省三の青春譚)
夏の華は朝に咲き夜に閉じる・・・強烈な個性を発しながら・・・。
1
檸檬の実は大きくなり色づく・・・。
昨年、東大紛争は機動隊八千五百人、催涙ガス四千発で安田講堂に立て籠もった学生を排除し終結した。この紛争の発端は東大医学部学生自治会、インターン制に代わる登録医療制導入に反対して無期限のストをしたことが原因だった。
成田空港阻止集会で反対同盟と全学連が警察隊と衝突した。
日大では経理が二十億円の使途不明金を国税の調査で発覚し、日大紛争の発端になった。
この年は学生運動が盛んで、日米安全保障条約延長反対、アメリカの原潜寄港反対と相次いで警察、機動隊と衝突をした年であった。
日本は大阪万博で賑わっていた。
省三は育子と結婚をし、新しい店をオープンさせた。質素で簡単な式を挙げて二人の門出としていた。
省三は公害闘争をしながら育子の喫茶店を手伝っていた。全国の市民運動は連帯し相互の支援を行っていた。
森永乳業砒素ミルクの責任追及を糾弾し不売不買を訴えた。岡山は砒素ミルク中毒によって多くの幼い命を奪われていた。
企業は煙突をより高くし煙の拡散を図っていた。五十メートルの火焔は大半がなくなっていた。まだ何本かは夜空を焦がしていた。曇りの日には山が消えた。公害センターの赤い風船はあがる頻度はすくなくなったが、風のない日にはあがり大気汚染を警告していた。それらは省三の店から外に出るとよく見えた。
省三は文学の勉強の為、直木賞の候補になった大林が主宰する同人誌「備前文学」の同人になった。
育子は曇り空の日は頭が痛いと言った。雨の降る前日は頭が重くなるのか、明日は雨が降ると予言した。足が良くなればと、良く治すというところへは治療に通っていた。育子が留守の間は省三が店番をしコーヒーを淹れた。
店は、新聞記者、文学青年、絵描きの溜まり場になっていった。
店の窓枠に掲示板を掲げそこに時事を皮肉った壁新聞を貼った。その壁新聞を読むためにわざわざ車で来る人もいた。
「今村さん、これでも真剣にやっとんのやで、新聞記事まで茶化すのんかいな。めったな記事は書けへんがな」
中央紙の記者の益田が笑いながら言った。益田は大阪の大学で新聞学を修め、記者一年目で倉敷に来ていた。北陸の金沢出身でおっとりした性格だった。
「挿絵があったほうが面白いで」
銀行に勤めながら絵を描いている武本が言った。
「ミニコミ誌でも出すか」
学生運動ばかりしていて就職口がなく、本屋を開いた山下が言った。
山下は公害闘争の仲間で、成田、水俣、四日市へオルグとして出かけることが多かった。中学校の教師だった奥さんに店番を任せ飛び歩く活動家だった。
省三は山下と活動をしながら一線を引いて独自で動くことが多かった。
「今村さん、山下さんをあんまり信用したらあきまへんで・・・」
益田が省三にそのように注意をした。
「・・・」
「分りますやろ・・・あの人は鶏コケコッコや」
省三は笑って聞いていた。
「頭があこうて体が白や」
「何が言いたいのだ」
「頭は革新で体は保守と言うことやがな」
「何か掴んだのか」
「商売上手で仰山金儲けて・・・せっせと貯めこんどるちゅう噂やで」
「それが悪いと言うのか」
「そら、金持ちの共産党員は仰山いるよって・・・不思議ではないけど・・・。今村さんの生き方と違うような気して」
「有難う、心配してくれて・・・。山下には山下の考えが・・・俺には俺の・・・。それでええと考えとる」
「わかっとったらええんです」
省三は若いが観察力があると思った。
川は異臭を放っていた。川の流れより家庭排水のほうが多く泡が立ち淀んでいた。合成洗剤と中性洗剤が槍玉に上がっていた。住宅が急速に増え、川は何でも捨てられごみ捨て場と化していた。川下の児島湖のヘドロが問題になり、水質の汚濁が激しいと警鐘をならす記事が飛び交った。
川上の住民が天麩羅油で石鹸を作って話題になった。天麩羅油と苛性ソーダーを炊いて作ると言う簡単なものだった。そのことが正しいか・・・いや・・・家庭は浄化槽を作り、行政が下水道の完備をしなくては問題の解決にならないと省三は思った。
省三と育子は、歯は塩で磨き、体は固形石鹸を使い、頭は酢を水で薄めて洗った。食事の後の洗い物と洗濯物は植物性の粉石鹸を使った。車は乗らないようにし、バスと自転車で用を足した。公害運動をしている者が公害に加担出来なかったのだった。
「大事の前の小事・・・そんな瑣末なことをするより・・・市に下水道の完備を、車のメーカーに無公害の車を作らすことが大切なのだ」
山下はそう言って省三の行動を暗に批判した。
「そこまでせなあかんのですか、大変やな。今村さんは完璧主義なんやな・・・不自由ではないんですか」
益田はそう言って感心した。
「バカらしい、そんなことをしてどうなると言うのだ」
油絵の具の筆を洗って川に流しているのだろう武本が言った。
省三はなんと言われようと人に公害反対と言う以上これがけじめだと思った。育子は不自由だが省三に従っていた。
川の自然浄化は三百メートルだが、護岸がコンクリートになり、水が流れていなければそれも無理だった。水が流れていれば合成、中性洗剤も植物粉石鹸も自然浄化をされるのだ。流れ込む海の自然浄化が追いつかない汚染が広がっていた。
赤潮が発生して酸欠で大量の魚が死ぬという事件は頻繁に起きていた。
瀬戸内海が死の海へと変わろうとしていた。瀬戸内海から獲れる魚で日本人の魚蛋白は賄えると言う事だったが漁獲量は激減していった。
公害についての勉強会は週に一回もたれていた。
水俣の、川崎の、四日市の、富山の公害発生源とその対策を学んだ。ゲストはその各地から呼んだ。警察官が会場を見張ていた。赤丸の付いた活動家が何人か出席していた。企業の人事担当が出入りをチェックし、出席した社員は外の事業所に飛ばした。
「わいらが新渓園で集会をしていた夜、隣の大原美術館で絵が盗まれたんじゃ・・・。その集会には何十名と言う警官が張り込んどったのにだ」
山下はそれを自慢話にしてよく言った。
山下と省三はミニコミ誌を出すことにした。発言の場が欲しかったのだ。壁新聞では限界があったからだった。
月に一回、同人の集まりがあって、課題作を合評していた。年に二回同人誌が発行されていた。編集は主宰の大林が行い掲載作品を決めていた。この同人誌は東京でも有名だった。同人は五十人ほどいて集まりがあると早く行かないと席がなかった。
省三は東京の下宿であったことを書いて出した。それが主宰の目に留まり処女作が掲載された。それは「文芸」の同人誌批評に取り上げられ、主宰は中央に出しても遜色がないと評価した。省三は自信を得て次々と作品を書き発表した。が、処女作を超えるものは書けなかった。
育子の店を手伝い、公害市民活動をしながら文学修行を続けていた。ストリップ劇場のコントの書き方は精通していたが、小説は初めてで、初めて書いたものが褒められたと言うことで、こんなものかと高を括るところがあったのだった。同人の間ではサルトルと言う言葉が飛び交っていた。それを省三は猿飛びと間違って聞くと言う文学音痴だった。カフカをカフェーと聞き、ジィドを柔道と勘違いすると言う時期を通り越して文学に親しんでいった。
サルトル「嘔吐」
カフカ全集
大岡昇平がジィド論を・・・。
「青年のために台本を書いて呉れんだろうか」
夕刊紙の記者をしながら公民館で青年に演劇を教えている戸倉が言ってきた。
四十分の台本で地域性があり青年の生き方を書かなければならなかった。
「ええよ」
簡単に安請け合いをしていた。演劇と言ってもコントの延長くらいに思っていた。
東京に出た娘と送り出した親のやり取りを書いた。
ーとおさんの背に乗って倉敷川に流れる櫻の花びらを見たの、忘れないー
そんな湿っぽい中に笑いを盛り込んだ人情喜劇だった。
それが全国青年大会演劇の部へ出場することになった。倉敷からは初めてのものだった。
全国青年大会とは、国体とインターハイと同じで勤労青年の体育と文化の祭典で各県代表が東京で競うものだった。
国立競技場で開会式が催され、目黒公会堂で公演することになった。脚本賞、最優秀演技賞、最優秀舞台美術賞と総なめし、青年会館で受賞公演をして帰った。倉敷は沸き返っていた。だが、倉敷を批判したとして倉敷市教育委員会より戸倉は注意されたのだった。
「そんな小さいことを言うとるから観光客に『一度でたくさん、二度と来ません』と言われるんじゃ」
戸倉はそう言って鬱憤を晴らしていた。事実、倉敷を観光した人たちはそのように言っていたのを省三も聴いたことがあった。倉敷川を挟んで三百メートルの江戸情緒を思い浮かばせる蔵屋敷と、世界の名画を所蔵する大原美術館だけでは一度でたくさんというのは当たり前だった。商人は気位が高く人情にかけたところがあった。良く言えばマイペースで悪く言えば融通が利かなかった。
以後、倉敷の勤労青年は全国青年大会へ五回出場したがその総てが省三の創作劇によるものだった。いろいろと小さな賞は貰ったが初出場のとき貰った賞を超えなかった。初出場の公演を超えてなくては大きな賞につながらないことを痛感した。
安保反対のデモが国会に押しかけ、原潜寄港反対のデモが横須賀に集まり警察官と衝突していた。全国の市民運動家も参加していた。
作家の三島由紀夫が盾の会会員四名を率いて、市谷の自衛隊に乱入しクーデターを訴え失敗し会員一名と割腹自殺をして世間を驚かせた。
省三の店は刑事に見張られていた。省三の行動を監視していたのだった。
「この店は安全やな、警察官が無料で護衛や」
益田が笑いながら言った。
「コーヒーでも出さなくては悪いかな」
省三も冗談を言った。
益田は警察官の悪事を些細なことまでメモに書き付けていた。何処の店でただ呑み、ただ食いをしたか、抱き逃げをしたか、暴力団の誰と仲が良く飯を食ったか、スピード違反を何時見逃したか等を記録していて取引に使うと言っていた。
店にはやくざが来なかったが、お客も寄り付かなかった。刑事に後を付けられたら気持ちよくはなかったろう。実際、やくざに潰された喫茶店がかなりあった。外車を店の前に横付けし、コーヒー一杯で何時間もおられたらたら、それは嫌がらせ以外の何もでもないのだ。
省三の店も一度その手の嫌がらせを受けたことがあった。大きな声で喋り居座っていた。育子は脅えていたが、省三はそうではなかった。
「外のお客さんに迷惑がかかりますから、小さな声で話してくださいませんか」
省三はやくざに言った。やくざは一人ではなかった。仲間が居ると居丈高になるのだ。
「何や、わし客ではないんか」と怒鳴った。
「誰に頼まれたか知りませんが、お帰りください」
「何んやと」更に大きな声を上げた。
省三はやくざの前に近寄った。
怖いと後に引くとよけいに声は大きくなるのだ。こんなときは前に出ると声は小さくなるものだ。
「何やお前」
「大里さんをご存知ですか」
省三はこの手は遣いたくはなかったが、と言うのも逆効果になることもあるからだった。
「おおさと・・・」
やくざはそう言って口ごもった。
「お元気ですか」
「知っとんか」
「この前・・・肩が痛いと言ってましたが・・・」
「なにもんや、お前」
「しがない喫茶店の手伝いですが・・・」
「そんなあんたが、大里さんを知ってる訳がないやろが・・・」
やくざの声は小さくなっていた。
「それは、大里さんにあなたが聞いてみてください」
「あほな、顔も見られへん」
「有難う御座いました」
やくざはすごすごと帰っていった。
それからと言うものやくざの嫌がらせは起こっていなかった。
大里は昔気質のやくざだった。大阪から若い衆を連れて製鉄会社の港で荷揚げの仕事をしていた。若い衆の何人かがその荷揚げの材料を横に流すと言う事件があった。小さな事件だったが、水島署に挙げられた。それを省三は追っていたのだ。やくざでなかったら賠償で済んでいる事件だった。倉敷に詳しくない大里は弁護士に困っていた。大阪から呼ぶのも費用かかり大変なことだったので省三に相談を持ちかけたのだった。
「そこにお兄さん、誰かええ弁護士しっとらんか」
一人で記者クラブにいた省三がそれを受けて紹介したのだった。
「恩にきまっさ、何かあったら何時でも言うてや、兵隊送るよって」
大里は女の子ばかり五人いた。足を洗うために水島へ来ていたのだったが、若い衆がその足を引っ張ったのだ。
「今村はん、水島の水はあいまへん、大阪へ帰りまっさ・・・。あんたのことはここのもんへあんじょ言っときましたさかい・・・大阪へ来た時は寄っておくんなはれ」
奥さんと五人の子を連れて寄ったことがあった。そして、帰って行った。
水島にはそんな人たちのドラマがいっぱいだった。
ひと山当てようと水島に来て、何人の人がその山を当てたろうか・・・。身包み剥がされて帰った人が多かったのは事実であった。水商売の女と、やくざは多かった。女性がいればハエのようにやくざは集まった。彼らは金の臭いと女の臭いに非常に敏感に反応した。
業界紙の記者は名刺一枚で良い金儲けをしていた。企業へ行って中央の政治家の名刺をちらつかせ車代をせしめていた。政治家の名刺の裏にはOO君をよろしくと書いてあった。省三も企業の忘年会でそこの製品を一杯貰ったことがあった。一種のご挨拶、口止め料だった。やり場に困って企業の玄関口に捨て、それからは二度と行かなかった。
戦後、水島飛行機製作所の物資を横流しして莫大な財産を作った三人組がいた。一人は何軒も映画館を持ち市会議員になり、もう一人は百貨店の社長に納まり、後の一人は大きな酒屋の主人になっていた。
ストリップ劇場の照明さんが言った人間を横から眺めて掴んだものだった。
「人間の腹は塵溜めさ、何でも貪欲に流し込む・・・それがなんともいじらしい」
座付き作家が言った言葉を省三は思い出したものだった。
2
「地域闘争」「エロス」の雑誌との係わり合いが出来ていた。
地域闘争は全国の地域で闘争するグループを支援し、情報を流していた月刊誌だった。エロスはウーマンリブを掲げる女性が出す月刊誌だった。男の不貞を素に会社に押しかけるウーマンリブとは一線を引いていて、女性の本質を書き訴えるものだった。どちらにも省三は原稿を送りページを賑わしていた。
ミニコミ紙「さぶいまち(寒い町) 」は一ヶ月に一回発行し、全国の市民クーループへ配っていた。が、そこに書いてあるような意識も行動はなくかなり誇張したものであった。山下が編集し省三は巻頭の記事を入れていた。多分にふざけたもので省三の壁新聞と大差はなかった。公害は収まってはいなかったが、記者を辞めた省三は取材する機会に恵まれず、情報が少なくなって、バッグにカメラとテープレコーダーを入れ何時でも飛び出すことが出来るように待機していた。
工場の爆発は頻繁でその都度一番に現場に着いていた。
省三は夜中にせっせと小説の原稿を書いた。毎号同人誌「備前文学」に省三の作品が載った。主宰の大林が連載小説の依頼を受け大阪で生活をすることになったのを機に省三は同人をやめた。そして、岡山の物書きを集めて同人誌を出すことに決めた。
その会議だと言って、益田や武本、山下とよく夜の街へ出かけ酒を飲んでいた。カウンターに並んで呑みながら文学や哲学の話をした。ホステスは近寄ろうとしなかった。
「土手で一番流行っていない喫茶店の前」と言うとタクシーは省三の店の前につけた。物書きの放蕩を気取っていた。
育子はどんなに遅くなっても省三が帰るまで起きて待っていた。それには省三も参った。何時になるか分らないから早く休むようにと言っても生まれたばかりの長男の悠一を抱えて待っていた。
「今起きたのよ、悠一が泣いて・・・」
育子はそう言った。それは育子の抗議なのだと省三は思った。が、そんな女性ではないことを知っていた。交通事故で後遺症を残し、今は幸せな生活をしているそのことで何も言えないと言うのでは夫婦ではないが、何も言わずに明け方まで起きて待っている姿は省三に後悔を齎せた。
「怠け者」の同人は八名が集まった。その中に益田も武本も山下もいた。女性文学賞を貰った梅木女史、歴史文学賞を貰った栗田女史、解同文学賞佳作の大道、随筆賞の石川女史もいた。そうそうたる顔ぶれだった。創刊号を出す前から新聞もテレビも取材に来た。
「この同人誌は賞を目指し、次の賞を頂く為に作りました。それだけの才能がここに集いました」
省三はそう言った。
この倉敷から文学を変え発信すると山下は言っていた。
同人が提出した作品はコピーをし総ての同人に渡し読む責任を課せ一作一作を徹底的に合評した。主張を曲げず言いあいになり席を立つものもいた。同人誌を出して合評をすると言う常識を破るものだった。出して幾ら合評してもそれは次の作品に役立っても発表した作品に何のプラスにもならないと考えたのだった。その為に事前にそれをやったのだった。
同人誌の扱い方は前の同人誌で学んでいたからスムースにことは運んだ。東京の出版社に送り、呼んでくれそうな作家に送り、新聞社に送った。そして、有名な同人誌の主宰者へも届けた。載せる載せない、そして枚数に関係なく負担は全額を同人の均等にした。書けなかった責任を取らせたのだった。本は事務局置きを取り後りを同人で分け、売って費用の足しにしょうと言った。
創刊号は二百七十ページ、「文学界」より厚かった。掲載した作品はそこから独り歩きを始め、作者の元から離れた。
作者はその作品の行くえをただ見つめるだけで、良い人に出会い読んで貰えと祈るだけだった。
省三は「冬の彷徨」と言う安楽死を題材にした小説を発表していた。「備前文学」の主宰は医療の現場にない人が軽々しく安楽死の問題を書くべきではないと言う批評を寄せてきた。森鴎外の「高瀬舟」を例としてあげていた。
森鴎外「高瀬舟」読んでない方はここで買えばよい・・・。
同人誌「怠け者」は評価が二分した。評価に拘るものはいなかった。みな次作へ向けて取り組んでいた。
省三は店の手伝いをしながらお客に尻を向けカウンターで書いていた。
育子は悠一を生んだ頃から頭が痛いと言わなくなっていた。額の十円玉のような痣が薄くなっていた。それまでは何か出来ないときは後遺症の所為にして逃げていた。後遺症が原因だと言わんばかりだった。
「その傷を背負っている間はお前さんの負けだよ・・・その痛さを胸に抱かなくては勝てないよ」
傷を忘れてこの傷はみんな持っている傷だと自覚して生活するところに人間の努めがあると言いたかったのだ。何事も傷の所為にしなくて、自分の至らなさの所為にする事の大切さを説いたのだった。
育子は省三の言ったことを守ろうと一生懸命だった。傷の所為にしていたときより前向きな生き方へ変わって行った。乗り越える過程で表情が明るくなって行くのが分った。
「最近、表情が良いね」
省三が言うと、
「また、あなたに助けて貰ったわ」
育子ははにかむ様な仕種で言った。
ときを水島に連れてきて一緒に生活がしたかったが、この空気の悪いところでは余計喘息が悪くなるかもしれないと省三は思い躊躇していた。
長野県軽井沢で連合赤軍メンバーが管理人を人質にして立て籠もりという事件が起き、一週間にわたり終日中継放送された。
連合赤軍逮捕者の自供から妙義山中で殺されたメンバーの十三名凍死体を発見したと発表した。
日本人ゲリラが、イスラエルのテルアビブ空港で自動小銃を乱射二十六名を殺害した。
森永乳業は砒素ミルク中毒の責任を認め、患者・家族の救済要求を受諾した。
川端康成が仕事場でガス自殺。
中国からパンダのカンカンとランランが上野動物園に到着した。
赤軍幹部が逃走していて立ち寄ったことはないかと刑事が尋ねてきた。映画監督の田川が接触していたことがあり、その友達の省三の所へ聞き込みに来たのだった。
森永砒素ミルク事件は解決に向けて動いていたが、十分な補償は得られず次々と法廷へ持ち込まれていた。
省三たちが行った公害闘争で良い成果が出ると各政党の手柄になっていた。
喘息患者が次々と亡くなっていた。年寄りと幼い命が奪われていた。
国は公害認定患者を承認し、公害障害手帳を交付、医療費の全額を免除し障害補償費給付した。
(公害健康被害補償法(昭和四十八年法律第百十一号)第十八条及び第百三十五条の規定に基づき、並びに同法を実施するため、公害健康被害補償法施行規則を次のように定める)
大きな前進だった。これで金がない為に医者の門を潜ることの出来なかった人たちが助かる、喘息で仕事も出来なかった人が給付金を貰え安心して治療に専念できると省三は思った。
オイルショックでガソリン価格が急騰し品不足の為ガソリンスタンドは日曜、祝日の休業を国から定められた。町には紙等の品薄が広がりなくなるという流言が買いだめへと走らせた。新聞、雑誌のページ数は減っていた。
町のネオンは消され暗い日本に変わっていた。
戦後の復興から成長経済へ移行していた日本の不安定な地盤を露呈した感があった。
省三は書くことに追われ、「怠け者」の発行に躍起だった。
省三が危惧していた事件が起きたのは次の年の師走だった。
三菱石油水島製油所の重油タンクに亀裂、一万五千リットルが流出したのだった。
瀬戸内海は油の皮膜で覆われた。沿岸魚業は壊滅的な被害をこうむったのだった。
省三はカメラとテレコをバックに入れて飛び出した。
死の海だった。こんな恐ろしい光景を見たことがないと省三は思った。
寒風が波を立たせ海の上をお覆った油を拡散していた。黒い波が漂っていた。黒い帯が東に西にと流れた。海岸線には打ち寄せる油が岩にこびりついて黒く光かっていた。魚は浮き、鳥は飛び立たなかった。むせ返るような臭気だった。
漁師は小船を出して魚場を守ろうとオイルフェンスを引いて止めようと必死だった。海上保安庁の巡視船が中和剤を撒きながら航行した。何艘もの消防船がサイレンを鳴らしながら沖へ出て行った。水島灘はおろか備讃瀬戸内海も油と行きかう事故処理の船で一杯だった。上空を何機もヘリコプターが飛びかっていた。騒音の中マイクの声が交錯し劈いていた。緊迫した状態が続き緊張感が漲っていた。総てが興奮の中で作業に没頭していた。
タンクには各企業の科学消防車から中和剤が放水され、市の消防車も中和剤の散布に追われていた。消防ホースは縦横に走り零れた油の中に沈んでいた。構内の殆どが油で足の踏み場もない状態だった。オイルはタンクを取り巻く堤防を越えて海へ流れたのだった。バケツで掬いドラム缶へ移す人海戦術しかなかった。陸続と応援の人が詰め駆けていた。
工場の玄関は押しかけた市民で埋まっていた。企業の保安係と警察が血走った目をしてそれを阻止していた。
新聞記者がフラッシュをたいて写真を撮ろうとして保安係りにカメラを壊された。火災になったら大変だった。
連日海に中和剤が撒かれ、岩にこびり付いた油を手でこさげて取り、タオルでふき取る作業が続いていた。
日本最大のオイル流失事故だった。
省三は全国から集まった反対デモの中にいた。二度とこのようなことのない設備の改善を訴えた。水島の目抜き通りを工場へ向けて横断幕を掲げ、旗を立て、拳を突き上げ、防止を訴えて歩いた。それを警察官が取り巻きデモと一緒に流れた。衝突はなかったが言葉の応酬はあった。デモ参加者の写真は証拠写真として撮られた。こちらが警察官にカメラを向けるとプライバシーの侵害だと息巻いた。
この事故の自然破壊は回復するまで何十年もかかると専門家は推論して言った。
昭和四十八年の師走だった。
「夏の華」はここで終わらせていただきます。ご愛読有難う御座いました。
しばらく置いて推敲いたし完成作を載させて頂きます。
2005/11/11 草稿脱稿
公害健康被害の補償等に関する法律
(昭和四十八年十月五日法律第百十一号)
この小説は
海の華
の続編である
冬の華
の続編である
春の華
の続編である
夏の華
へ移ります彷徨する省三の青春譚である。
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