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yuuの一人芝居
波倉
阿智神社へ通じる道筋に提灯屋があった。
提灯は夜分に足下へ明かりを落とし歩きやすくすることがその用途であったろうが、屋号を書いたり、「今晩は」と挨拶を書いたり、「一寸と用足し」と書いたりして宣伝や持つ人の素性、状況を伝えるものになった。それは一種の洒落である。
「ごめんよ」
と言って嘉平は提灯屋の暖簾を持ち上げた。
提灯の火袋に筆で文字を入れていた白髪頭の男がちらりと嘉平を見たが知らぬ顔で仕事を続けた。
「聞こえなかったのかい」
「聞こえているよ・・・この年になっても目と耳は弱ってはいないからね」
男の名前を留吉と言った。
かわらねえ・・・いつものとつぁんだと嘉平は安心した。
「何か用かい」
手を止めないで留吉は言った。
「達者で何よりだ・・・それにしてもその籠文字には勢いがあっていいね」
「世辞はいいよ・・・何しに来た」
忙しいのに邪魔をするんじゃあないよと言わんばかりの不愛想であった。
「用事がなかったらのぞいてはいけねえのかい」
「いけねえ、気をそらすからいけないよ」
「悪かった」
「じぁあ、帰りなさいよ」
「とつぁんの顔が見たくて・・・」
「何か訳ありのことがあるんだろう」
留吉は手を休めず、嘉平は暖簾を持ち上げての会話だった。
「早とちりはよくねえよ・・・」
「半纏に文字を入れろと言うのじゃないだろうね」
昨年は火消しの半纏に「くらしき村」と籠文字を書いてもらっていた。そのときも書く書かないと一悶着あった。その文字は生きた文字だった。いい腕であった。
「近頃この村も夜道は物騒だから提灯に「嘉平」と書いてもらいてえと・・・」
「そんなものおめいさんに必要はあるまいがのう」
留吉は嘉平の心を見透かしているように言った。
「それはそうと、お鹿ばあさんは元気かね」
留吉はぽつんと言葉を投げ話題をそらした。
「近頃ご無沙汰で・・・」嘉平は呆けた。
「何でも長州からお忍びで林のじいさんに会いに来たという・・・」
「おっと、その先は・・・」嘉平は言葉を遮った。
「知っているんだね」
「話が広がればやっかいなことになる・・・」
「この話はお鹿ばあさんとわししか知らないことだ」
嘉平のところへもお鹿ばあさんから使いが来てその話を聞きに行ったところだった。
「夜、尋ねてもいいかい」
「ああ、おとよにままかりの酢漬けでも作らせておくよ」
「そういやあ、おとよちゃんは・・・」
「年寄りが心配だとか何とかいって帰ってくる」
「親孝行だ」
「親不孝だ。孫でも連れて帰るならまだしも」
「とか何とか言って・・・嬉しいくせに・・・か・・・」
嘉平は夜の出会いを約束して留吉の店を後にした。
時の移り変わりの時に犠牲になるのはいつも慎ましく暮らしている国民(くにたみ)だ。尊皇も攘夷もねえ・・・平和な暮らしなのだ。一家がみな元気で囲む夕餉なのだ。そのささやかな幸せを奴らの大義名分で奪おうというのか・・・人の命を犠牲にしてまでそれは大切なことなのか・・・わらわかしちゃあいけねえ・・・。
嘉平は口の中でぶつぶつと呟いていた。
「今日、嘉平さんが来るかもしれないから、ままかりでも用意しておいてくれ。とおとっちゃんが言うもんだから買っていたの。嘉平さんはままかりが好きだからって・・・」
おとよはそう言って徳利とままかりの酢漬けを入れた皿を嘉平と留吉の前に置いた。
「滅多なことを言うもんじゃないよ・・・嘉平さんが気をつかうだろうが」
と留吉が遮った。
「これはまいったぜ。あっしが来るのがわかっていたとは」
「おとっちゃんは鼻がきくのよ。おじさんの匂いは・・・」
「よさないか」
三人はそこで笑った。
日が暮れて嘉平は留吉を尋ねたのだった。旦那衆の寄り合いがあるのか屋号を書いた提灯が行き来していた。村の空気はざわざわとし出していた。何かの気配を感じ取っているようだった。これは獣の感というやつで商人には必要なものであった。
ごゆっくりとおとよは声をかけと奥へと引っ込んだ。
「提灯だ、帰りにでも持って行きなよ。物騒な時代になったから・・・おめいさんには必要あるまいが」と留吉が差し出した。
「とつぁん・・・」
「客の頼みだむげにも出来ないよ」
二人は無駄口をたたきながら茶碗を交わしていた。
嘉平はあまり酒を飲まなかった。人間というものは深酒をすると理性を忘れいらぬことをしゃべるという性癖がある。それをおそれて飲まなかったのだが、留吉とは気心が知れていて遠慮がなかった。どこか似通っていて心を許せた。
「とつぁん、昼の話をどうみなさる」
「尊皇の林に・・・長州が何を言ってきたかが問題だが・・・」
そう言ってままかりの酢漬けを口に運んだ。
「狸のところへ狐が・・・」
「誰かを化かす評定をしたのかな」
「文久の飢饉で津留め令が出て、この村の商人が買った米が倉につまっているが外には出せねえ・・・。何か手をうたねえと儲からねえと・・・」
「代官所に泣きついたが・・・のらりくらりと逃げていた代官大竹左馬太郎にかわって着任した櫻井久之助がこの村は港ではないと裁いて事なきを得たようだが・・・何か起きるよ」
「そんな時に狸と狐がひそひそ話か・・・」
「おめいさんは何があっても動かぬほうがいいよ・・・おたねさんを大切にしてな・・・」
「とつぁん・・・」
「忘れることだね・・・義理なんかない・・・打ち寄せる波は引くのを待てばよい・・・忘れることだよ」
留吉は何度もそう言った。嘉平の素性を知っているようだった。
何かあったらおとよのことは頼むと何度も言われた。
留吉とおとよは義理の中であることも語った。
りくを嫁にもらったとき小さなおとよを連れてきたと・・・。それを承知で嫁にもらったと・・・。我が子の様に育てかわいがったと・・・。りくが亡くなってからその思いはよりまして大きくなったと・・・。おとよも義理と知って尽くしてくれていると・・・。
「あっしに言った言葉をそっくりとつぁんに返しやしょう」
「義理がある・・・この義理は男の努めという義理だよ」
「そんなもんがあるのかい」
「ある、おめいさんはうすうす感じていただろうが・・・この提灯屋は・・・」
「わかった、その後はいいなさんな・・・。それではあっしが何者か知っていなさるんで・・・」
「おめいさんが私のことを知っているくらいはな」
「かなわねえ、かなわねえ・・・」
嘉平はほほに涙が伝っていた。
「初めてだ・・・あっしのことを知られたのは」
「同じ匂いがしたのよ」
二人はそこで少しの間黙った。
「長州者をやったよ」
留吉はそう言って茶碗の酒をあおった。
「今更やっても変わるものではないだろうが・・・これも義理を果たすと言うことなのだよ」
嘉平は江戸を去り倉子城に来て二十年になるが父から言われた言葉を忘れたことがなかった。時来たれば・・・。毎年毎年春が来れば芽を出し花をつける草・・・。我が身をそれになぞらえて生きて来たが、おたねと暮らすようになって心が揺らいだのだ。
「今の世の移り変わりをこの目で見て判断してえ」という生き方に変わっていたのだ。今でも義務と考え生きている人がここにいると思うと胸が熱くなった。
「床屋の嘉平、火消しの嘉平で終わることだよ」
留吉は最後にそう言った。
この村にも尊皇派の人たちはいた。嘉平はその総てを知っていたが・・・。
後に留吉は榎本武揚の五稜郭戦争に出向いたが・・・消息はわからない。
人の生き方には様々な形があるが、さざ波のように・・・また大波のように襲って来るが・・・。留吉は波を枕に生きたというのか・・・。
蔵屋敷の石垣を満潮になって押し上げて来た小波が洗っていた汐入川も、今ではくらしき川と名前が変わり小舟が川下りをして観光客をもてなしている。むかし、波倉と言われたこの地を・・・。
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