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yuuの一人芝居
一人芝居 花時雨西行・・・芸文館公演
弘川寺 西行の最後の地
西行法師の絵
平家物語三局
一人芝居
今 田 東・作
花しぐれ西行「佐藤義清・円位・西行」
脚色 吉馴 悠
序
建久元年(一一九0年)旧暦二月十六日
河内國南葛城山西麓(俗に言う河内)
弘川寺の境内にある西行の草庵
西行・佐藤義清・円位ー空寂・秋実
暗闇。真っ黒の大きな布に包まれているイマージ。
何処からともなく聞こえてくる、少しくぐもった声で。
願はくは花のしたにて春死なん
そのきさらぎの望月のころ
(西行)
暗闇が軟らぎ、中央に細い明かりが降りる。櫻の木が一本優雅に枝葉伸ばし今咲かんとしている。まだ早い春の頃である。
法衣のままの老僧が横たわっている。
鐘楼の音、時を告げ打ち響く。
老僧がゆっくり起き上がり、端座し合掌。
老僧 このわたしを髪火流(はずかる)地獄へと・・・・。女淫の罪で・・・。はい。たしかに源信上人様が書かれた「往生要集」に地獄の様が述べられておられましたのを読んだことがございます。
いいえ、何も・・・。
言い訳など申し上げることはございません。神妙に受けいたします。
中有(ちぅうう)のお裁きありがとうございました。
老僧はゆっくりと頭を垂れた。
下手に明かりが降りて、
足音がして、一塵の煙があがる。
容暗する。中央の上手側に明かりは降ろされている。老僧が頭を上げたとこは、空寂に変わっている。老僧が舞台中央に横たわっていると言う設定で演じること。
空寂 円位上人さま、如何でございますか。食が進み ませぬか。お食べくださらなくては・・・。膳がそのまま・・・。お申し越の紙と筆、ここに置いて参りますゆえに・・・。なにかございましたら、鈴を打ってくださいまし・・・。
すぐるとき・・・。
この弘川寺に円位上人様がお訪ねになられたのは、昨年の四月二日、奥深い山麓は、新芽に咽せるような風が淀み又流れていましたか。嵯峨の庵、吉野の庵、二見の庵、善通寺の庵。円位様は御心の侭に庵を結ばれそこで修業をなされ、歌を詠み、己れの身の処し方に思い耽り・・・。そして、この地に庵を・・・。
その何の脈絡もない庵の結びかた、そのように見えたのはこの私の浅量な考えでございました。思うところがあって庵を・・・。そのことは今申さないことに・・・。
それらの庵からここへ、この南河内の葛城山麓の弘川寺の私を訪ね足を運んでくださいましたな。もう一年になりましょうか、身体の具合のいい時には近在の古刹名刹や自然が奏でる勝れた地を訪ねていたようですが、だんだんと草庵に篭もり・・・。墨筆と拙紙とをいつも枕べに置いて・・・。花に月、を心に広がる侭に歌に代えて・・・。それも、夏の半ば迄、庵に篭もり横臥する日々が多くなりましたな。
ここに庵をお結びになられたのは、生れ故郷に近いという・・・。紀ノ川の辺(ほとり)田仲荘に近いということでございますか・・・。生まれた所で終わりたい・・・。と言う・・・。そのように感じました。
上手側の明かりが落ちると同時に、中央の明かりが降りる。円位が横たわっている。
円位がゆっくりと起き上がり。
円位 ああ、夢であったのか。慈悲に満ち満ちた優しげな眼差しとお声、あれは釈迦如来さま。たしかに釈迦如来さま・・・。私を哀れんでお呼びくださいましたのか。もうお前の役目は終わったと・・・。
どなたでございますかな、この私を・・・。
風の音がまるで横笛のように聞こえまするが・・・また、鳥の囀り、せせらぎの音・・・。
この私に仏の道を聞きたいと・・・。
それは奇特な方もおられたものですな。
言ってみれば、この年まで生きて感じてきたことは何も分からなかったということでして・・・。
先達はあれこれと教えを解き、真しやかに、解脱したような言葉を連ね、訪ねる道標を幾通りも・・・。たとえば・・・。
朝に生まれ夕べに逝く。この世は終の棲みかぞ。
一刻先に生まれ、今に死す。泡沫は一塵の風の有り様。
自然の移ろいの中で時の流れを幾度となく感じ過ぎたれど、その時々の風の色香を心のなかに止め歌にしたけれど、みんなはかない絵空事。
日は沈み月過ぎたれどもみな無常。
無常、自然の整然とした移り変りに比べ、人のなん と空しきかな。総て忘却の川に流し、流れのなかに転がるひとつの石に変わらんとねごうたが、三千の煩悩一瞬にして変わり常に心定まらず迷い道。
仏とは、わが心にあり、悩み苦しむこと・・・。
また、それもまた現世の泡沫の夢路・・・。
花みれば そのいわれとは なけれども
心のうちで 苦るしかりけり (西行)
どなたかな・・・。齢を七十を過ぎた頃から物事を川の泡に変え、身近のことにも心動かぬ様になりましたわ。こうして、床に身を横たえていても、障子を開ければ朝に夕べに庭に散るさまざまな景色、風の色香、月明かりの下に戯れるいとなみ数々・・・。 さて、どなたでございましょう・・・。
あの櫻は何時蕾を開き、私の前に絢爛なる舞を見せてくれるのであろうか。
そのお声は母じゃか・・・。産み育んでくださいました・・・。この義清、もうすぐ・・・。色々とお話をしなくてはならぬことが・・・。この匂いは懐かしい母じゃの匂い・・・。言ってみれば、私の生涯はこの香りの中に綴込められていたのかも知れませぬ。
子とは何時迄も母の腕から逃れることが出来ぬ者の様でございますな。小さな身体に大きな想いを・・・。その慈しみからは一生逃れられませなんだ。
この歳になっても・・・。
何処へ行かれる・・・。この義清を見捨てられると言われますか。母じゃの期待に背き、佐藤の家を捨て出家した・・・。
紀ノ川を見渡せる館には父の康清と母のみゆきの前、それらの優しい眼差しの中で育まれた。私が八歳のある日父康清は眼を閉じられた。
森羅万象は不死ではなく、滅びるものと、無常を感じたのはその時であったか。
父が生きていたら、今の西行はなかったか、無常とは常に変化をする、その移り変りを、侭ならぬ想いを運命と感じるときに、諦めと無為が無常なりと。
あの頃修めた、和歌、弓と太刀、乗馬・・・。
鳥羽院をお守りせんとし、藤原家北家の名を汚さんが為。今思えば空しい徒労。義清よ、円位よ、西行よと有頂天になっていた頃、森羅万象の生業に苦悩し、仏に縋って彷徨うことに・・・。
思えば、あの時あんなにはっきりと心を決めることが出来たのか。なにが、なにかの物の化が・・・。
妹の萩と四歳の頑是ない我が子を残し出家が出来たのであろうか。鬼、狂った、その中傷誹謗が寧ろ快かったのはなにがそうしたのか。
見えていた。人の運命が、世の行く末が・・・。何時の日かこの私には過去が未来が、僅かに開いた雪見障子から射し込む月明かりによって照らしだされるさまが見えるように脳裏に広がってくるようになった。
祇園精舎の鐘の声 諸行無常の響きあり 娑羅双樹の花の色 盛者必滅のことわりをあらわす おごれる人も久しからず 只春の夜の夢のごとし たけき者も遂にはほろびぬ 偏に風の前の塵に同じ
この言葉が、北面の武士として洛中を警護していた時に、西に走った星の流れの中で感じたものであった。ブッダの涅槃の様である事を感じたのは出家して、仏典に触れた時でありましたが・・・。円寂・・・。
ああもう帰られるか・・・。もそっと・・・。行かれるか・・・。おお、その後ろ姿は我が妹の萩ではないか・・・。なにか私に恨み言があろう・・・。五年も連れ添っていきなりお前達を世間を捨てたこの私に訳を聞きたくはないのか・・・気丈にも涙を見せることもなく、黙って見送ってくれたのは・・・。母じゃの怒りを諌めてくれたのは・・・。愛故の労わりか、憎悪からの諦めか・・・。罵倒が背を押し叩くほうがきっぱりと心断ち斬れたものを・・・。あの時、私は無類の悪業を犯して逃げるように・・・。
後ろめたさが・・・。私とて心は苦い懐いを抱いていた。縋りつく我が子を蹴っての出家、それは、私を鬼にすることで踏ん切りを付けようとしたのだ
世をのがれ身を捨てたれども
心はなほむかしにかはらず
たてたてしかりけるなり(西行)
そんな顔で視なさるな・・・。憐れんだ瞳の色。
私は、幼い頃美作に育ち、いつも灰色の雲が垂込めていた彼の地、その瞳を視ると幼い頃の懐いが走る。どんより曇った大気は、心まで暗くした。また、父が預かった紀伊の國田仲庄は貫けるような青空、木立の緑も、その匂いも心を浮き立たせ、大きな夢を育んでくれた。美作の暗と紀州の明、私の心に裏と表が育っていたとしたら、幼い頃に感じ培われたもの。両親の愛が常に変わらなくても、感じるは自然の営みか・・ ・。それに漸く気がついた。そのことが、櫻に生き、櫻に死す・・・。花に月、まさに昼と夜・・・。自然の生を愛でる、慈しむ、頬笑むのも私の幼少時の道程矜持。
そなたは、私の後を追い剃髪をし仏の使いに・・・。また、娘は転々と浮き世の嵐に合いながら、おのが意を聞き入れられずに彷徨い・・・、ある日、私は逢い、そなたの所へ身を寄せるようにと諭したが・・・。愛も情もない私の言葉を聞き入れてくれ、そなたと同じ道を・・・。
待ってくれ・・・。一言、一言でよい、この私に声を掛けては呉れぬか。
ゆくのか、さもありなん。契りし誓いを書き損じの歌を書いた紙をいとも簡単に破るような所業をした私ゆえに・・・。言葉もなかろう、願ったのが筋違い、すこやかに、つつがなく・・・。
風が出たのであろうか、燈が大きく揺れる。秋実の声がする。
破
秋実の声 お師匠様、なにぞ御座いましたか。先程から何やら譫言で、何ぞいい夢でも視られましたかな。はい、藤原秋実でございます。お側で・・・。京より病気見舞いに参りそのまま・・・。昼間は本堂に座して、快癒を願って経文を書写致しました。
櫻は未だかとの・・・。はい、この南国に近い河内でも櫻の訪れはまだ・・・。吉野、河内とまいりそれから奥嵯峨へと時が所を移し運びましょう。
先程、慈円どのの選による「拾玉集」の中にお師匠の歌を入れさせて欲しいとの嬉しい便りが御座いました。これを機に病もきっと善くなるの兆しでございましょう。はい、慈円どのが選ばれました。間違いは御座いません。
少し頬が弛みましたな。そのようなお顔を拝見いたすは昨年の今頃、嵯峨の庵でお目にかかって以来で御座います。
この秋実は、お師匠が能因法師に憧れて、歩まれた道程を辿られた様に、この私も同じ道を踏むで 少しでもお心に近付かんが為・・・。あのような華麗にして優雅な歌の素が何処にあるのか知りたくての事で御座いました。同じ道を辿れども出て参りませぬ、素養、天分の差・・・。我が身のいたらなさを知り落胆の極み・・・。今谷底に落ちた心境では御座いましたが、「拾玉集」に入られたと聴き、我が事のように嬉しくて・・・。
声がとうざかる。嗚咽に似ている。「北面の武士佐藤義清」と呼ぶ声。ゆっくりと起き上がり声の方へ向く。その様は凛として見える。
西行 その声は平清盛殿では、聞き覚えが・・・。さてもさても、この義清に何様でございますかな。歳も確か同じ、幼い頃清盛殿は備中備前安芸でお暮らしになられ、その頃私は、紀伊の國田仲の庄にて過ごし、共に棲むところを移り成人して、鳥羽天皇に遣えし北面の武士として・・・。あれから、折に振れお呼び下さいまして、下手な歌など興じましたが・・・。太刀の捌は、義清が幾ら励んでも叶いませなんだ。嗤っておいででございますな。弓は叶わなんだと・・・。一つくらい取り柄がのうては・・・。忠盛様、清盛殿のお父上でございます、は白河法皇にいたく気に入られ、あなた様も・・・。ええ、私は白河法皇と祇園女御の間に産まれたとの・・・、崇徳とは異腹の兄弟だったと・・・。その噂はやはり本当でございましたか。
では何故にどうして崇徳上皇を善通寺へ流されたのでございますか。私の意でないと、後白河天皇との内乱に破れたのだから仕方がないと。御最もでございますな、ですが、清盛殿は甥にあたる後白河天皇に味方をなさいましたな。崇徳上皇が復権を願っての戦、道筋が違っていたと・・・。清盛殿に摂ってはどちらでも善かったのでは御座いませんか。殿上人の清盛殿には・・・。いいえ、後白河天皇の方が御しやすかったのでは御座いませんか。鳥羽上皇はいたく後白河天皇を寵愛なされておいででございましたから。崇徳上は白河法皇と後の鳥羽上皇の中宮待賢門院様との間に産まれ、鳥羽上皇が育てられたが、法皇の子じゃと疎遠 になされておいででありましたな。その頃はまだ白河法皇は存命であられ、故に鳥羽上皇は崇徳上皇に譲位なされたものでございましたな。崇徳上皇も、白河法皇が崩御されて後ろ盾を失い保元の乱を・・・。義清の言う通りじゃとの・・・。ややこしい事を言うなとの、今は懐かしく未だ汚れを知らぬ頃の歳に還って、綺麗な懐いを語りたいとの・・・。はい、私もその方 が・・・。
あの頃は穏やかな日々が流れていた。戦は時折・・・。だが、歌に蹴鞠の平安の暮らし、若かった、懐いは真直ぐであった。あの頃が一番の幸せな時であった。出雲、鳥羽、備前、安芸と父忠盛に連れられて移り棲んだ頃は何を見ても美しく目を見張ったものであったが。京に還り歳を重ねて行くうちに、汚れなき心に墨が滲むように広がっていったものは何であったか。後の殿上人は清盛じゃとの声は、往く道を迷わしたか。知らず知らずに前に道が開け気が付いてみれば殿上人になっていた。人の心に色があることを知ったのもそれからであった。周囲はみな我が敵のように・・・。孤独であった。義清が側にいてくれたらと・・・、何度想ったであろうか。嵐山へ馬に鞭を入れ争った頃、櫻の花びらが吹雪のように舞っていたが。独りで見る落花に何の風情があろうか。より忍び寄る空しさ、花を読む義清に何度逢いたいと願ったか。出家して自 由気ままに諸国を放浪し、自然を友とし、月に花を歌い・・・。羨ましかった。
汐と風は変わるもの、だんだんと力が衰え身辺が騒 がしくなり、身を守るのに窮窮とし孫の安徳と福原へ逃げ、京へ帰って熱病に犯され・・・。
お辞めなさい。あなたはご自分の道を歩み築かれた。私は、私の道を・・・。人が生きていく事に苦労が友をしないというのは・・・。そのように見えるだけ・・・。良いの悪いのは後の人が定めることでしょう。この私はあなたを恨んだことはありませんぞ。むしろ、そのような星の下に生まれたあなたを不憫に感じていたのです。盛者必滅のことわり、驕れる者は久しからず・・・。戯言を・・・。良い政治をなさいました。
ああもう行かれるか、引き止めは致しますまい。
何処からか鐘楼の音が響いてくる。それから染み入るような朗経がひたひたと会場を潤す。
そこえ往かれるのは遠藤盛遠殿・・・。私の前を黙って通りすぎることはないでしょう。想い届かぬ恋の為に北面の武士としての地位も捨て・・・。哀しい運命でありましたな。森羅万象悉くあなたに味方をせなんだわ・・・。袈裟御前もあなたを慕っていたというのですか?・・・。憐れですのう。御前の主人の寝所へ忍び込み、亡きものにして・・・。あなたが突き殺したは、何もかも捨ててもいいと捧げた袈裟御前・・・。後の文覚法師、何ぞ仏門に入り闇に光明が射しましたかな。真言密教の祈祷を会得し・・・。己れの罪業を消滅できましたかな。
そんな顔をなさいますな・・・。人を愛する心は誰もが持っている様で、その愛は殆どが叶いません。あなたの想いが深ければ深いほど、袈裟御前は苦しまれた。いっそ死んだ方が文覚殿を救うと考えて・・・。わかりました、もうその話は致しません。
文覚殿は、この私を怒っておられた。仏門に帰依し 、修業を積まなくてはならぬ身でありながら、歌に心を奪われた軟弱者と・・・。西行におうたら首捻りと・・・。あの時、私は覚悟して・・・。荒法師文覚と異名を摂るご仁が私の前に立ちはだかった時には、腕の覚えのあるこの私も一瞬たじろぎましたぞ。白河法皇の北面の武士の遠藤盛遠殿の事は、時代は違いますが剛の者との噂旨きりでありました故。頭髪は伸びるに任せ、髭は頬と顎を覆い、ですが、双眸は優しかった。真剣に恋をする、命を懸ける恋をした男の眼には余人が持っていない光があるもの。それを私は見抜いておりました。激しく私を叱責する声とは裏腹に、滲み出る慈愛慈悲。私はあなたとお会いして、私の歩んできた道が、たとえ現世で非難されようとも、真実を生きた者として思い残すこと、振返らずとも良いと感じましたぞ。往かれるかもう少し・・・。ああ・・・。遠藤盛遠殿、いや、荒法師文覚、一つ尋ねるがこの世は貴殿にとってどうであった・・・。地獄、浄土はたまた・・・。何、よく聞こえぬが・・・。なんと申した・・・。なんと・・・。
けたたましい春雷が心の闇を裂く。明かりは静かに暗闇に溶け込み静謐。義清の心で。
間
宵山の様が音と光で表現される。
つまり、公家の宴の様。春、鳥羽
天皇の花見と歌会の時。
まだ、北面の武士であろう時の元気さが、円位の立ち振る舞いの後ろに潜む。老いの姿の
中に心の若さあり。正面の櫻が鮮やかな白と赤に変わっている。
義清 さてさて、ここは、鳥羽天皇の御所。洛中は宵山で賑わい、心を開き物思う運命の糸を一瞬断ち切り無の色に変えて、酒を浴びて泡沫の狂喜に浸るるなり。戦なきが國民にとって何よりの馳走・・・。一日の糧が続きその彼方に夢が見られてこそ人はそれを生き終えられるというもの。心平安にあってこそ望みが叶えられ、また叶えようと勤るなり。
あの夜のことは・・・。たまたま警護の任にあたってなかった日この私も鳥羽天皇の中宮璋子妃に仕える堀河の女房に誘われまして宴の末席を汚しておりました。堀河の女房殿は璋子妃の伯母にあたり、璋子妃に一生仕え、支えられたお人でございます。璋子妃は宮廷内で時折遠くから眺めさせていただいておりまた。細筆で横に引いたような涼やかな双眸、上下の整った朱の紅に染まった口元、腰に垂れるたゆやかな豊かな黒髪、鶴のような華奢な首、白い肌が透き通っているからだ・・・。そんな女人はこの義
清は見たことはありませなんだ。私はその時、何故か深い溜息が落ちて いましたな。
ここまで語り、明かりが消え、灯明だけが残っている。
声のみの受け答えが続く。
堀河の局が袖に入るという事。
堀河の局殿、この私は今までこのように美しい櫻を観た事がなかった。蕾の初々しい危うさ、満開の豊穣な美事さ、落花のしなだれかかるような弱々しき妖艶さ、この年迄、花に問って生きて参りましたが、様々な花の命の美しさ、義清、まだまだ勉強が足りませんな。
貴女のお父上、源顕仲殿に歌を習っていた時に、歌は読み人の心を映すもの、大きさ寛さは如何に多くの事を心に貯え、森羅万象を慈しみ見つめるかである。と申されたこと、今はその半分も習得できませぬが、漸く糸口が分かりかけましたぞ。月も三十の顔を保ち、河の流れも一つとして同じではない。人の心は一瞬にして三千の変化を繰り返す。言ってみればこの世の中にあるものすべて同じ物がないということ、それだけ読み人の命が如何様にも歌の命を育みたるということ、いま漸く気付きましたぞ。
今宵の空気のなんと澄み渉っていることでありましょうか。昨日と然してかわりのない日なれど、目の前が大きく開け何事も頒け隔たりなく眺めることができまする。
この義清、少しお神酒が入りましたかな。あの閉ざした羅城門の重い扉も今なら小指で押せば開くような気がいたしまする。
さすれば、今宵は櫻にこの想いを投げ掛け・・・。
しのぶれど今宵の櫻あやうけき
落葉のつゆ紫にかえ
今宵は今までの懐い星の数にもまして言葉を紡ぎ打ち明けまするぞ。
僅かのお酒で心まで酔ってはなりませぬとの・・・。いつも、堀河の局殿には細やかな叱責を・・・。
ですが、もう逸る勢いは止められませんぞ。
月が落ち、然る後に櫻の下にて待てと・・・。
ああ、月を動かす力がこの義清にあらば、もどかしい・・・。
想いを縛る、こんな事は終ぞなかった。押さえて待つそのことも今迄なかった。懐い叶わぬ事とてなかった、心の在り方、思いの丈を歌にして送れば終ぞ叶わぬ事はなかったに・・・。私の歌には霊力が宿り、願いが届かぬ事はなかったに・・・。まだまだ修業が足りぬ。言葉の霊との取引が叶わぬ、動かせぬとは・・・。
あの夜のことは今でも私を弱気にさせる。あの人の前に出れば、まるで女子の肌の温もりを知らぬ幼げな男を演じ切り、眼を足元へ投げ、言葉も、文字も湧く ことなく消沈したわ。
それが真実の人を愛するという行いか。
ならぬ恋をならぬ人に行なおうとする邪淫故か。
何もかも捨てて、その人になりたいと願う懐い。これほど崇高な姿があろうか。
月が落ちるまで、その長かったこと、人の人生を何度繰り返したかと懐える程であつたろうわい。
宴の後の静まりかえった時の流れの中、月明かりが落ちた後、庭に咲く櫻の木々にはまるで魂が宿ったように薄い紫のほのほが立ち昇っていたわ。恐ろしい景色。されど、それ故に立ち向かいたいとねごう身の果なさ。総身ぶるぶると震え背筋に奔りたる感激、最早人としての理性など叶わなんだ。
のりきよ、という声にまるで呪文にかけられたように引き寄せられて潜った衣擦れの音。
金縛りにあったようなもどかしさ、なれど何故かこの世の物とは懐えぬ恍惚の彷徨、その中に戯れ遊び溺れた一時は、私の命を何度繰り返したことであったろう。
女院の声がする。
女院 義清・・・。 今日は宵宮、よくきてくれました。洛中の賑わい、そのざわめきがわたしの心まで浮き立たせてくれていいえ、義清との約束が血を沸きたたせるのです。
そなたの想い大変うれしゅう受けとめましたぞ。わたしの心を熱くしてくれましたぞ。堀河がそなたの和歌を何度も何度も・・・。
義清、月が隠れるまで待ってほしいと頼んだのは・・・。髪を漱ぎ、肌に香を沁みまこませ・・・。
宵宮の名残のざわめきが消えて行く時を、どんなに待遠しく感じたことでしょうか。
さあ、義清こちらへ。堀河明かりはいりませぬ。
わたしは体を堅くして震えていました。まるで何も知らぬ無垢な女子が見せるとまどいと打ち寄せる好奇心に揺れておりました。じっと身を横たえて・・・。今まで感じた事のない恥じらいが・・・。
初めて付けた蕾が義清の吐息によって少しずつ開かれ流れる蜜。その蜜はいつのまにか滾るほどに熱を持ち、花びらを開いておった。
俯いて生かされたわたしは運命に流されたといえ花とは言えなかったろう。これも運命と思い生きたことが、なんという哀しい事であったのかと・・・。
義清によって、今まで生きた日々の汚れが綺麗に流されて、生まれ変ったように思えはじめたのです。
この世の男と女。別々に生まれているけれど、義清との想いによって、わたしも、女子として強く生きられることを知ったのです。
いま、はじめてこの世に生まれて良かったと、これほどの想い決して無駄にはいたしませぬ。
義清がついていてくれる。幸せとはこのような思いを感じる時かもしれぬと。
義清の肩に頬を寄せてこうしているとなんと落ち着くであろう。まるで母じゃの腕のようじゃ。
花は誰のために咲くのであろうか。
今日のわたしは義清だけの櫻として咲いた。
義清にわたしは問うていた。
義清、櫻はどうして花びらを陽に向けて開かぬのじゃ。他の花はみな明かりを欲しがり顔を向けるのに。
義清、見えるであろう僅かの明かりの中に紫しだれ櫻、今宵の櫻、まるで今のわたしの胸の中に咲くようじゃ。
義清、ひととき下を向き恥じらう桜の花のように咲きましょう。そなたとこのわたしの最初で最後の恋い。ここは庭の櫻のせいにして・・・。
あすからはお日様を仰ぐ花として生きてみたいと思うゆえ・・・。
義清 あの時、いつしか宵が東の空に明け、大空を薄く緑に換え、澄んだ紫に、紺碧の青空に戻していくのを恨めしくながめた事か。時を自由に弄ぶことがどうして出来ぬかともどかしく懐ったことか。
ひと夜の夢、この夢は現世にあってはならない事と感じ、また罪の大きさに身をよじった真。
その代価に何もかも捨てて仏門へ入りました。
めくるめく運命を遥か遠い過去にしてしまわないとこの世が閉じてしまうと考えたのです。
「義清、どうして構っては呉れなかったのじゃ」との耳にとどく声、今は懐かしく聴くことが出来ますが、あの頃は何故か身を射す氷の刃のようにさむう御座いました。
堀河の局様、この義清、罪なことをいしたのでございましょうか。
頷かないでくださいますか。
違うと言って欲しいのでございます。
璋子様も同じ想いであられたと・・・。
さすれば、義清も心がやすう御座いますが。
あれから・・・・。
言葉で、決して人の生き方を弄んだり致してはおりませぬ。
言葉で閉じこめたり致してはおりませぬ。
月に花、その前に額突き、端座して語り、かつ遊びましたが、人様のことは一言も書き記してはおりませぬ。
歌唄いの言葉が現実の物になりましたら、恐ろしいことでございます故。
あの方の言葉を決して忘れてはおりません。
この年迄、それを支えに生きて参りました故。
世の中を捨てて捨てえぬ心地して
都はなれぬ我が身なりけり
明かりが落ちる。
急
空寂が現われる。
空寂 ただ今、円位上人様、円寂なさいました。
いつか、円位上人様は私に申されました。
ある人との約束があって、ただただ生きてきましたと。本当はあの方と契りを結んだときに何もかも終わったのじゃと。
義清の歌は人を殺すといわれ、人のさまを歌ってはならんと・・・。
げに恐ろしきは女人の感と、歌の底に潜む恨みじゃと。西行法師になられては、月華の人になり、ただそのことばかり歌い過ごされた。だけれども、そればかりでは御座いません。この時代、が一番見えていたのは西行様・・・。あの方とのお約束のこと・・・。いずれ巷に流れる謡、その書き手は西行法師様。時代を外から眺め書き記したる人・・・。
祇園精舎の鐘の声
諸行無常の響きあり
娑羅双樹の花の色
盛者必滅のことわりをあらす
驕れる者は久しからず
只春の夢のごとし
たけき者も遂には滅びぬ
偏に風の前の塵に同じ
の琵琶法師の歌声が響く。
何をここに言わんとしておりますか・・・。
実は・・・。
やめときましょう。時代が明らかにしてくれましょうゆえに。
ああ、歌とは何かと西行法師様に尋ねましたところ 、
「和歌とは如来の真の形体である」、と・・・。
つまり、歌を読むということは、仏を作るということだと申されておいででございます。
そのことを、待賢門院様に教わったと・・・。
真言密経の読経がだんだん大きくなる。
そらになる心は春の霞にて
世にあらじとも思ひ立つかな
夕闇が降りるごとく舞台は暗くなり僅かな一筋の明かり降り注ぐ。
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