青い空と蒼い月

青い空と蒼い月

2話



外は少年が店に入る先程より日が沈みかけていて、空の色も赤みがかった色から、徐々に青みがかった黒へ
と変わりつつあった。その変わり様に応えるかのように、辺りのほとんどの店には灯りが点いていた。そして、
その灯りに導かれるように、先程にも増して、どこからともなく人の往来も多くなっていた。

「さぁ、こっちだ。少しここからだと遠くなるが、坊主は一日中歩き通しと見えるが大丈夫か?そう言やぁ、
お互いに自己紹介がまだだったな?俺は、マルク、マルク=ザンジベル。見ての通りの爺さ!坊主の名前は?」

「僕は、レオナルドと言います。それから、僕のことは気にしないで下さい。まだ歩けますし、慣れています
から。」

「そうか?お前さんが気にするなというんなら、俺は気にしねぇが・・・。レオナルドか、レオと呼ばせてもら
うが・・・。苗字はなんてぇ言うんだ?」

「・・・。」

「まぁ、言いたくなければ、言わんでもいいがな。さぁて、そろそろ行くとするか?」

「はい・・・。すいません。」

「なぁに気にするな。レオが言ったとおり、俺も気にしねぇことにするからよ。お前もあまり気にするなよ?」

「はい・・・。ありがとうございます。」

マルクは、言葉では気にしないと言ったものの、この継ぎ接ぎのマントを身にまとった少年、レオナルドのこ
とが妙に気になって仕方がなかった。
レオナルドのその身なりは、かなりお金に困っているような感じに見えるが、先程の酒場、ユリギータでの
振る舞いや、言葉使いが妙に丁寧な感じがした。よほど、レオナルドの教育がしっかりしているからなんだ、
とその時は思わずにはいられなかった。

「マルクさん?どうかしましたか?」

「ん?あぁ。いや、すまねぇな。少し考え事をしてたもんでな。さぁ、こんなところに長居は無用じゃ。じきに
この辺りは暗くなるからな。俺の店に急ぐとするかのぅ。少し早くなるが、俺を見失わないように付いて来いよ。
出来るな?レオ。」

「はい。」

レオナルドは、苗字を名乗らない自分に追求もせずに、ただ、先を急ごうとするマルクに少し好感を持っていた。
今は、何も聞かれて欲しくなかったからだった。

二人は、未だに人の往来が続いている酒場通りメインストリートをあとに、マルクの店へと急ぎ足で歩くのだった。

*          *          *

夜店に繰り出す人混みの中、迫りくる人波をかきわけながら、マルクを見失わないように、その後を一生懸命に
付いていくレオナルドだったが、そのうち徐々に人の数もまばらになってきていた。どうやらマルクが人混みを
避けて、自分しか知らない人、二人がギリギリ通れるほどの狭い裏路地へと変えたせいであった。
マルクと出会った酒場、ユリギータからどれくらい歩いたのだろう。薄暗かった空もすっかり暗くなり、天気が
良ければ、星が瞬くのを目の当たりにすることだろう。しかし、今のレオナルドにとって、星の観察などは興味
がなかったし、何より裏路地に入ってからは、弱々しい初老の外見とは裏腹に意外に足の早いマルクに付いてい
くことが精一杯だった。

「あのう・・・、マルクさん?まだ、あなたの店には着かないのですか・・・?あと、どれくらいで着く
のですか・・・?」

歩くのは慣れているとはいえ、半ば疲れた声で未だに辿り着く様子がない店の場所をマルクに尋ねてみた。

「ん?さすがに歩き疲れたか?レオ。だが、もう少しだからよ。あの明かりが見える通りを右に曲がれば、すぐ
見えてくるってぇわけだ。イヤでもな・・・。」

レオナルドが話し掛けたために、立ち止まったマルクが指差す方向に目をやると、50メートルほど先に今まで
歩いてきた狭く薄暗い路地とは正反対の大きな通りであろう道の灯りが見えていた。

「わかりました。もうすぐなんですね?」

「そうだ。もうすぐだからな。我慢してくれよ。」

「はい。」

あともう少しで、目的地に辿り着くと言われて、レオナルドは少々早足になっていた。そして、マルクの言った
とおり裏路地を抜けると、先程のメインストリートと同じような幅の通りに出てきたのである。
そして、マルクに言われたとおりに右側に目をやると、赤や青、黄色などの電飾で彩られた目立つ看板が目に
飛び込んできた。今まで、暗い裏路地を歩いてきたレオナルドには少し眩しく感じるほどだった。
そこには、‘地下競技場’と書かれていた。レオは思わず、そのド派手な看板の近くまで駆け寄った。

「ここなんですね?マルクさんの店というのは・・・。」

「あぁ。この地下競技場が俺の店なんだよ。看板だけ少々目立ち過ぎる気はするがなぁ。ハッハッハ!」

マルクは自慢気に、自分の店を少々驚き気味に見上げているレオナルドに見せつけるように言ってみた。

「そうですか、ここがマルクさんの店ですか・・・。それで、僕は何をすれば良いのでしょうか?」

「良いのか?レオ。やってくれるのか?」

「はい。それでお金が貰えるのであるなら僕を雇って下さい。マルクさん。」

先程まで、マルクの勧める仕事に半ば、戸惑いを感じていたレオナルドではあったのだが、実際にマルクの店
に辿り着き、目立つ看板を目の当たりにした時に何かを感じ取ったのか、ここで働かせてもらうように頼むこと
にした。

「そうか!働いてくれるか。ようし、それじゃ中に入るとするか?」

「はい!」

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