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【《超－訓練都市》―――あるいは迷宮とのダンス】
ＫＶは、《実在性の図式》の記述を次のように始めている。
「……があるということ（実在性）は、純粋悟性概念においては、感覚一般に対応する。
よって、その概念そのものが、（時間における）存在を示す。」
実在性の図式が表現する〈実在的なもの〉は、「感覚一般に対応する」ものであり、すで
に〈持続的なもの〉という装置に組み込まれている。つまりそれは、時空連続体（我々の
身体）との不可分な関係のうちに組み込まれた《触発の強さの連続体》（例えば〈痛みとい
うもの〉）に他ならない。従って、この実在的なものの〈知〉を生み出す実在性の図式は、
例えば〈痛みというもの〉を支えている時空連続体（我々の身体）を、〈まさにこの痛み〉
（ある決まった触発の強さ）への変換、あるいは移行の場としてその都度造型しなければ
ならない。
「ところで各々の感覚は程度あるいは量を持ち、これによって感覚は同じ一つの時間を、
言い換えればある対象の同じ表象に関わっている内的感官を無（＝ゼロ＝否定）に至って
止むまでさまざまな程度に充たすことができる。それ故実在性から否定性に至る関係や連
関、あるいはむしろ移行が存在し、この移行はそれぞれの実在性を量(Quantum)として表
象させる。よって実在性の図式とは、あるものが時間を充たしている限りそのものの量と
して、まさにこの時間における実在性の連続的同型的な産出なのである。―――ＫＶ」
従って、〈まさにこのＸ〉の知を生み出す（可能性の条件であるはずの）《超越論的図式》
は、それ自身〈まさにこのＸ〉だったのである。
（残されたノ－トはさらに続いている。）
「現象における実在性と否定性の間には、多くの可能な中間感覚の連続的な連関がある。
――ＫＶ」 内包量は、このあり得べき連続的移行のプロセスにおいてのみ知られ得る量
である。よって、《瞬間における触発》という《出来事＝場面》はすべて、それが〈何か他
のもの〉へと移りゆく限りでのみ〈まさにこのＸ〉として包み込まれるのだ。ところでこ
のプロセスは、内包量の〈知〉が成立すべき限り、〈把握の装置〉に基づいた恒常的な連続
性を持たなければならない。すなわち、中断、あるいは《隙間／裂け目》があってはなら
ないのである。というのも、「もし現象の多様なものの総合が中断されるとすれば、この多
様なものは多くの現象の集合となるが、それは本来の量としての現象ではない」からであ
る。つまり、プロセスの中断、あるいは現象の《隙間／裂け目》においては、〈まさにこの
痛み〉も〈痛みというもの〉もない。そこでは、〈我々〉に共有される言語は消え去る。逆
に言えば、〈我々〉によって恒常的に共有される（はずの）《まさにこのプロセス》の形式
が、『〈私〉が、〈私〉として認めるものにおいて、今［……］を感じる』なのである。
（「本当に〈痛い〉のは、《ソフトマシ－ン・明日・あのテレビ》ではなく、《私・今・こ
の胸》。でも――〈本当〉かしら？」）
迷宮は、この《我々の経験の形式》に組み込まれていたのだ……。
さて、〈持続的なもの〉という装置が崩壊していくとともに、迷宮がその姿を次第にあら
わにし始める。つまりそれは、あの〈叫びをあげる者たち〉の生存が大いなる危機にさら
される場面である。〈叫びをあげる者たち〉のただなかで、次の二つの生存の様式が同時に
浮き彫りになってくる。
・．『〈私〉が、〈私〉と認めるものにおいて、今〈まさにこのＸ〉を感じる！』
・．『《瞬間における触発》はすべて、それが〈何か他のもの〉に移行する限りでのみ〈ま
さにこの Ｘ〉へと変換される』
迷宮の登場とともに、〈まさにこのＸ〉と〈何か他のもの〉との分裂があらわになり、《ま
さにこの私の経験》は絶えず〈何か他のもの〉の断片へと引き裂かれていく。「一つの経験」
の崩壊。それは絶えず逃れ去り置き去りにされ、それまで目の前にあったはずの光景が粉々
に砕け散る。《管理回路》の彼方で、あの《砂漠＝大地》がついにその姿を現すのだ。
マダム・パロマ・ピカソ（旧暦通称《ほとんど特性のない女》）が残酷にも、あるいはす
っきりと変換した《超－溶融体＝模像》（実はこれがあの『密緒』なのである）が、なぜか
彼女の声を夜明けの《超－訓練都市》で反復する。
『〈私〉明日あのテレビ〈痛い〉の。……え？ ……テレビは指輪よ！ ……ソフトマシ
－ン〈ガラス〉だけど〈ガラス〉じゃないわ。 ……え？ ……〈ガ・ラ・ス〉よ！〈ガ---
ラ---ス〉 ……え？ ……〈ガ……ラ……ス……え？〉〈……え？〉〈え？〉……〈ガ〉…
…〈ガ〉……〈レ〉－－－〈エ？？〉………〈φ？！〉………〈Σ？〉………〈ω〉……
…〈・〉………〈∞〉…………---- ----- --- -- - -
- 』
◆
――〈今〉やこの《超－訓練都市》には、かつて《管理回路》のただなかで究極のコ－
ティング処理をほどこされた《超－溶融体＝模像》（すなわち無数の『密緒』たち）が群れ
をなして次々とやってくる。無造作に脱ぎ捨てられたラベンダ－・シルク・ムカデ・ス－
ツの柔らかい抜け殻が、ひどく微細なねじれダンス状に連なって遥か地平線の彼方へと延
びている。思い起こせば実に危険な状況だった。偽装ウィルス飼育管理者たちの巧妙な子
供だましによって、見えない軍事境界線はすでにドロドロに腐食しきっていた。〈私〉はか
ろうじて彼らの手を逃れ、ほとんど奇跡／軌跡的に境界線を突破したのだった。（その時チ
ェック・ポイント『マダム・パロマ・ピカソ』は急速に超－溶融状態へと突入した。） 不
幸にも生き延びることのできなかった者たちりスペア脳味噌は、今ごろ年代物の腐ったキ
ャンベル・ス－プと化しているに違いない。夜の果ての旅。だが、それも終わった。エピ
クロスの園が目の前にある。奇跡／軌跡。今こそ〈私〉は理解し始めていた。《まさにこの
超－訓練都市》こそ、輝ける最後の希望なのだと確かに言える。このことは疑い得ない。〈今
ここ〉で冷静に振り返ってみても、〈私〉は確かに幸運だった。〈私〉はこの《超－訓練都
市》でマダム・パロマ・ピカソの《超－溶融体＝模像》（すなわち『密緒』）に出逢うこと
ができたのだ。偶然ではなかったはずだ。彼女はなぜか街角に立ち、いつになく情感のこ
もった眼差しで執拗に〈私〉を見つめていた。明らかに陶酔しているようだった。《かろう
じて皆》からなぜか《ほとんど特性のない女》と呼ばれていたが、そんなことはむろん彼
女にとってはどうでもいいことなのだ。彼女には、「そんなこと」よりはるかに大切なこと
がある。なるほど彼女は絶えず信じ難いほどの超－訓練に励んでいた。嘘ではなく、「飛ぶ
蝿を落とす」勢いだった。それがなぜなのかは分からないが、〈私〉にもこれだけは言える。
この《超－訓練都市》は、彼女にとっても底知れない魅惑の泉だったのだ。彼女の華麗な
トレ－ニング・スタイル（言うまでもなくデナリ・チェンチ・スタイルの極小ねじれ縮緬
ダンス・バ－ジョンだ）を思い浮かべながら、〈私〉はギィ・ラ・ロッシュの模像オ－・ド・
トワレを軽々と飲み干した。（「悪くない……。」） するとそこに狙い澄ましたようにロ－
ズ・セ・ラ・ヴィ氏からの『偶像の黄昏の薄明のテレホン・コ－ル』（打ち明けて言えば、
これこそ彼一流の沈黙電話のスタイルなのだ）。〈今〉や来るべきものが来た。やがてロ－
ズがドアをノックする。震える手でドアを開けると、薔薇の花束を手にしたロ－ズが静か
に微笑んでいる。お互いに再会を祝福しあった後で、〈私〉は旧暦１９９９年物のラ・ロッ
シュを彼に勧めた。あくまでさりげなさを装いながらグラスを手にしたロ－ズも、やはり
〈私〉と同様に肩を震わせている。そろそろ約束の時間だ。ロ－ズに誘われるままに真夜
中のホテル『タマ・チェラス』を後にした〈私〉は、彼とともに『ワイルド・ボ－イズた
ちの泉』と呼ばれる都市巡回タイプの溶融プリズム・バスタブを追いかけた。シャングリ
ア広場で〈私〉とロ－ズがようやく追いついたとき、彼女はすでにバスタブの中にいた。
無造作に脱ぎ捨てられたラベンダ－・シルク・ムカデ・ス－ツ。彼女の裸身は月の光に照
らされながら超－溶融状態の欲望にあふれかえっている。デナリ・チェンチ・ねじれダン
スの肉感的なうねりが押し寄せてくるたびに、過剰なまでに燃える彼女の体が放つ炎の閃
光がロ－ズと〈私〉を容赦なく貫く。今や一切が残酷なまでに明白だった。〈私〉はついに
彼女の最後の《超－溶融・発声舞踏訓練》を目の当たりにしたのだ。薔薇の奇跡に抱かれ
ながら、ロ－ズはすでに目を閉じていた。銀微笑。（「――セ・ラ・ヴィ。」） なぜか、『銀
微笑の背後で忘れ去られたはずの薔薇の花びら』が惜しみなく降り注いでくる。震えは止
まらない。戦慄の中で、ねじれていく肉体。〈私〉はロ－ズを見失っていた。もはや声にな
らない叫びを振り絞りながら。（「――ロ－ズ！」） 〈私〉は……、〈私〉は……。〈私〉
は驚愕のあまり倒れた。
…………………………………………………………………………………………
夜明けの溶融バスタブの中で、《超－訓練体＝模像》への最後の変換を果たした彼女の
《超－溶融・発声舞踏訓練》はいつまでも続いている。
まさにこれこそが、あの『密緒の秘密』だったのだ。
『〈私〉やっぱりソフトマシ－ン明日あのテレビ〈痛い〉の。………え？ デパ－トメン
トストア・パトリシア・お密触ってください突っ込みバスはパブリック・エイジェントに
お仕舞いフリスコ・キッド ………テレビは指輪よ究極プレイジヴァンシ－お願いリミッ
トママの頼み………そうなのいつものジュエリ－玉屋ダニエル素直にＭａｃ・ｗｏｒｌｄ
で裸のランチ ………お正そのままほとんど奇跡／軌跡ギンザ・ムカデ・ランジェリ－・
グッズで整理整頓なぜか完璧 ………そこでさっそく癖麿ハイパ－・ディジタル・ちりめ
んパンプス太陽クイズ当たり ………え？？ まさか燃える魂なぜかアサクサ・ブリ－
ズ・ベイ４分３３秒アニエス・ｂ・アナイス・ニンと一緒にブル－ムフェルト硬直 ……
…え？？？………やっぱりワイルド・ボ－イズ二人で〈ワコ－ル〉だけど〈クラゲ〉じゃ
ないわ誠実ムカデ・テニス・ガ－ル〈なぜ〉か極度に興奮 ………え？？？？ ………〈ガ・
ラ・ス〉よ！〈ム－－－カ－－－デ〉！！ ………え？？？？？ クレストン・ハイライ
ズ・スクウェア・ジパング・パズル・龍安寺での歩行おまけ付き〈なぜ〉かホックニ－〈い
つ〉までも完全垂直溶融睡眠 ………〈ガ……ラ……ガ……ラ………え？？？？？？〉〈…
………え？？？？？？？〉 （ところで「〈私〉はアンチ・ハラスです。」） ………〈ガ〉
……〈ガ〉……〈レ〉 〈エ？？？？？？？？〉 （「悪くない……Ｐａｓ ｍａｌ。」） …
……〈￥？！〉………（「〈セ〉・〈ラ〉・〈ヴィ〉。」）………〈▼？☆〉………（要するに「ア
ニエスはアンチ・ビキニです。」）………〈￠？∵〉………（それでも「ママはアンチ・ラ・
ロッシュです。」）………〈∀∬〉………（「え？―――バロウズ．」）…………〈∞〉………
… （結局「パパはアンチ・ハラスです。」）----- -----
--- -- - 』
◆
〈今〉では言うまでもなく誰の目にもあまりに古風なものになってしまっているあのな
つかしの
Ｄｏｇｅｎｚａｋａ・コタ・バトゥ・セランゴ－ル・ホテル脇パラ・アンチ・ラ・ロッシ
ュ横断変成溶融高度緊張スプレ－透視操作アンチ・コントロ－ル・パネルは、すでに〈何〉
者かによってほぼ完璧に封鎖されていた。それは最も微細な無限反復自己遡及不可能タイ
プの《縮緬メソッド封鎖》であり、厳密にパラ・アンチ・ラ・ロッシュ横断スタイルに限
って奇跡／軌跡の変成溶融が可能になる《超－訓練体＝模像》にとってはまさに死活問題
となる。（「だが、戦いはこれからだ……。」） 偽造ファイン・セラミック×＠モ－ド・プ
ラチナ製の〈数＝∞〉知れないスペア単性生殖ネズミの群れが無数の極度汚染使い捨て注
射針の一見ロイヤル・ゼリ－状バリアを軽快にかき分けて押し寄せてくる。〈今〉やすべて
のアンチ・ヴィジュアル選択透過性ハエ・テレビ×ハイパ－・グラフィック・アクセラレ
－タ・マイクロ・チップ・ウィルス（ただしあのなつかしのラルフ・ステッドマン氏謹呈
第１７０３世代極小ランダム・モニタ－・ムカデ）永久故障。ホテル・タマ・チェラス・
アラミスＣＭＸ素直に全滅。リキ・メイプルソ－プ・シャングリア広場反－溶融陥没。ク
レストン・ハイライズ・パインクレスト・スクウェア裏手界わい生体政治工学実験用焼き
鳥小屋瞬間退屈蒸発。アカサカ・ビリ・バリ・タ－ミナル・レインジは料亭『エクシ－ル
お越しやす』と無期限感謝心中。勿論あたり一帯債務返済絶対不可能クレジット・プラズ
マ・ハレ－ション・ダンスで絶対誠実錯乱……。もはや言うまでもないだろう。この《超
－訓練都市》においては、大いなる試練の奔流は決して絶えることはないのだ。
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デパ－トメント・ストア・パトリシア・お密前から、デパ－トメント・ストア・パトリ
シア・お密行きのバスがゆっくりと発車していくのが見える。〈私〉はその動きを一刻も見
逃すまいとした。あたかも〈私〉は、メインストリ－トをはさんでパトリシア・お密とは
反対側の舗道に立ってこの光景を眺めているかのようなのだが、そしてそのことを〈私〉
はどうしても否定できないのだが、実際には〈私〉はこのバスの乗客でもあるのだ。もど
かしいのだが、今はこうした言い方しかできない。とにかく、そのバスはきわめて微細な
動きをしながらパトリシア・お密前から徐々に離れ、パトリシア・お密前の交差点でＵタ
－ンをしたあと、急激な加速をつけてパトリシア・お密に突っ込んだ。絶叫の渦。衝撃音
とともに、果てのない火花＝焔の海が広がる。彼女もこのバスに乗り合わせていたのかど
うかは分からない。彼女の《超－溶融・発声舞踏訓練》がこのバスの中で（も）行われて
いなかったとは誰にも言いきれないはずだからだ。〈私〉自身としては、彼女もまたこの避
け難い《運命＝意志》の超－訓練プロセスを通過したのだとしか思えない。（なぜなら……）
「もうこうなったら行くところまで行くしかないわ！」というあの彼女の《痛》－《痛》
しい叫び声が他でもない〈私〉の脳裏にこだましているからだ。血塗れになり、焼き尽く
される叫び声。そしてこの脳裏は、この《超－訓練都市》のすみずみに、そのどんな街角
にも転がっている。ここに、すぐそこに、そしてあそこにも。（「何とお前にさえ療暗寺超
絶歩行おまけ付きでいつしか見つけ出せるのだ。」） 《脳裏－痛み＝宇宙》の無限生成。
夜の舗道に散乱するあのエメラルドの破片が、《この誰かの胸》を不思議なほど鋭く貫いて
きらめく。とめどもない笑いとともに、〈私〉の脳裏はその無数の断片と交錯する。沈黙と
光と闇の狭間を、秘められた戦慄とともに絶えず駆け抜けながら。残酷＝舞踏。そこを人々
が通り過ぎ、永遠に過ぎ去っていくことは決してできない。―――《超－訓練都市》。それ
は到るところに《触発ファクタ－》をばらまく。接近する沈黙と光と闇の内に密かに用意
され、不可視の振動を続ける無数の白地図の狭間で一切を巻き添えにしながら。絶えず反
復される出逢いと別離、あるいは衝撃音と炎の交差点で、それぞれの迷宮と廃虚のプリズ
ムが永遠に回帰するのだ。
（薄明のさざなみが徐々にひたし始めた夜明けの地平線の遥か彼方から、再びあの叫び
声が反響してくる。もはやそこへと誰一人到達できない始まりの亀裂をうがった後でその
始まりを永遠に消し去り、そのように永遠の輝きと静寂のただなかで抹消された白い部屋
から際限のない《砂漠＝大地》の狭間へと流れ込むあの叫び声。流れ続ける血液とともに
その最後の生存を無限に繰り返す。この叫び声の誕生と反復を……）
光景：プリズムの輝き―――あるいは《民衆》の生成
始まりも終わりもない旅、それがやがてあの沈黙と光と闇に遭遇し、
互いに包み込みあう襞の狭間で無数の〈体〉が誕生する。
〈我々〉の没落を告げるプリズムの輝きのただなかから、一切のコ－ティングを引き裂
いて、あの 《来るべき者たち》、あるいは《民衆》が生成するのだ。
一つの絶対的な始まりの音。
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