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Zero-Alpha/永澤 護のブログ
po1
*以下四篇:179号(1999.5/18-19作成)
あの街にもう一度出逢いたい
もう三十年以上も前のこと
夕暮れ時になるといつも
角の駄菓子屋で僕は牛乳を一気飲みした
街で初めてのスーパーができた
駄菓子屋もスーパーも楽しかった
でもいつしか
駄菓子屋だけがどこかへいってしまった
怪獣のカードが
毎日毎日増え続けていった
TVもどんどん面白くなる
ウルトラマンやウルトラセブン
何とか怪獣や**星人たちがやってくる街
それは まぎれもなくこの僕の街なのだった
いま俺は確かめたい
あの街が一体いつどこにあったのか
お前は一体誰だったのか
俺は今気づいた
そこには何もかもがあったんだが
それがいつかみな消えたとき
俺たちはまたお前を求めたのだと
俺はあの街にもう一度出逢いたい
夢とうつつの狭間で
この俺を引き裂いた何か
それをこの眼で発見するために
「少年A」
彼が一体誰なのか
もちろん 俺は何も知らない
ただ
『「少年A」 この子を生んで……』
(文藝春秋)という本に
気になることが書いてあった
(以下引用 153頁)
「これ本当にあったことなん?」
(中略)
「いいや。違うけど、こないして書いたほうがおもしろいやろ」
Aが平気な顔で答えるので、
「あんた、作文言うたら本当のこと書かなあかんで」
と言い聞かせたことを覚えています。
(引用終わり)
俺は Aもその母も責める気にはなれない
ただ「本当のこと書かなあかんで」と
母に言い聞かせられたとき
恐らく
彼の中で 何かが壊れた
五年後
彼は その何か/他者を壊した
180号:1999.7/13作成
末期にて 1999夏
雨が降っている
目の前のパソコンのディスプレイ
この両腕
机の脇に積み上げられた本の周り
到る所
夜の闇に溶け込む
蛍光灯の光の下で
数十匹の羽蟻たちが蠢いている
私は羽蟻たちを遠ざけた
息を強く吹きかけ
指で払いながら
そう言えば
仕事からの帰り
駅前のいつものバス停に
『民主主義とは大衆が暴君になることだ』
と書かれた紙が貼られていた
こんなことは初めてだ
誰に言われてやったのかは知らないが
今朝
羽蟻たちはいなくなっていた
昼間
神保町で
十数台の街宣車の群れが絶叫していた
その叫び以外には何も聞こえない
褐色の血と黒の血が混じったパレスチナ人の基督が白い血のローマ人に殺されてから
もうどれだけ経っただろう
今年もまた
人々は爆撃で殺された
だが
殺したのは誰か
そして殺されたのは誰なのか
お前に答はあるのか?
そう
殺せ
殺しに行け
何も考えずに
その時
お前は殺される
当然のことだ
お前はそう言われてやっただけだ
お前自身の思考も
血も
消し去って
他ならぬお前が人を殺したこと
そして殺されたことを
語る者は誰もいない
眼差しではなく
舗道の上に放置された 行き倒れの人々は
誰の眼差しも求めはしない ただ
黄昏の中で 誰も知らないバラックへと
運び込まれていくだけだ
たとえ その場で
息絶えなかったとしても
いずれ 消えていく
我々の すべての 眼差しから
我々だって? そうじゃない 思い出せ
バラックは いつの日か 廃墟となった
病院だった
お前は覚えているのか? 堅く閉ざされた
病室の扉を開くと 横たわる一人の女
その乾いた指先 失われた声
触れよ その指先に その声に
忘却の彼方で 彼女の微笑みが
お前の瞳に触れ 通り過ぎていった
それは
眼差しではなく
生き物の
最後の
息吹き
180号:1999.8/7作成
末期にて 1999夏
仕事からの帰り 駅前のいつものバス停に
『民主主義とは大衆が暴君になることだ』
と書かれた紙が貼られていた
それは誰かが 誰かに言われてやったことだ 白昼の記憶の中で 十数台の街宣車の群れが絶叫する その街の一切の声を消しながら
ゴルゴダの丘で褐色の血と黒の血が混じったパレスチナ人の基督が白い血のローマ人に殺されてからもうどれだけ経っただろう
今年もまた人々は爆撃で殺された
だが 殺したのは誰か
そして殺されたのは誰なのか
お前に答はあるのか?
そう 殺せ 殺しに行け
何も考えずに
だが その時お前は殺される
当然のことだ お前はそう言われてやっただけだ お前自身の思考も 血も 消し去って
他ならぬお前が人を殺したこと
そして殺されたことを
語る者は誰もいない
181号:1999.11/23作成
世紀末/応答/他者へ
21世紀という言葉で呼ばれる時と場所に生きるあなたが
私には応答不可能な眼差しを投げかける
その眼差しは
誰に差し向けられているのか
いつか
どこかは分からなくても
あなたが生きる
その時と場所に立ち会い
あなたに語り掛けることができるだろうか
私の眼差しは
あなたの生きる時と場所へと差し向けられているのだが
それがあなたへの応答になるのだろうか
未だ私には
その私の眼差しが見えない
今は微かな予感として
あなたをこの身に感じているだけで充分だろうか
あなたへの応答を
この身が織り成す
不可視の鞘に包み込みながら
182号 2000年1月26日作成
ニッポンの食卓
冬の日の午後零時10分ちょっと前に冷蔵庫から取り出した冷凍加熱食肉製品(包装後加熱)『焼鶏丼の具 炭火焼』を無論冷凍のまま封を切らずに袋のまま熱湯の中に入れ約10分間加熱した後初めて封を切り朝食の残りご飯にかけて食べた 腹が減っていたのでかなり美味かった ふと目に入った「原産国 タイ」という文字
そう言えば次のことは私にはとてもできそうにない
私がまさにこの『焼鶏丼の具』を製造したタイの人々に出会いまさにこの『焼鶏丼の具』を上記のようにして食べたときの味が一体どのようなものだったかを伝えることがそれだ
もう随分昔からずっとそうだったように
多分2000年もこうして過ぎ去っていく
ニッポンの食卓
183号
「自覚」した「詩人」
2000年にもなって
――なにかの間違いで――
もし 誰かに
私は「詩人」だ
なんていう「自覚」が
生まれてしまったとしたら
それは危険な徴候だ
「私は何て崇高なんだろう」
いや
「私は何というクズなのだろう」(以下反復)
「ああ 苦しい 切ない」とか
「ああ 水が足りない」とか――(以下反復)
たえず揺れ動くことになる
おそらく「自覚」した「詩人」は「詩作」によって胃腸や血管や遺伝子などのゴミを吐き出し「すっきり」し続けることができなければとても「生きて」いけないだろう
が それは
かなり 無理っぽい
184号
1?歳
その日の放課後 学校で あいつは「生徒指導係の人」に突然呼び出された
「いったい何があったんだ! なぜそういつまで黙ってる! お前なあ、この俺と話すの嫌なのか? あァ?」
(……何が起こったのかなんて いったいどうして話せるんだ? 誰一人そんなこと望んでやしないじゃないか! そんなことを俺が話すことなんか 誰も 要するに やつらの思う通りに「大したことなかった 何もなかった」って この俺がみんなに言えばいいんだろう! ……けれど もし何も話さなければ 誰の眼も届かない場所で ただ殺られるしかない……やつらに殺られるのか それとも その前に自分で自分を殺すのか さあ! 最後の選択はお前だけのものだ ……だが本当は 第三の道があることをこの俺も知っている 本当は誰もが知ってるんだ 誰一人 口には出さなくても そうだ! やつらを殺ることだ! そうさ そうだとも! 絶対にぐちゃぐちゃにしてやる! この俺が あの日 そして次の日も いつも世界の底で血の泡を吐き続けた様に…… 誰一人死にたいヤツなんかいやしない! 殺られるのも その前に死ぬのも どちらも御免だ! 今度この俺に近付いてみろ 俺は……やつらを みんなぶち殺してやる!)
黄昏の光を背にして ポケットに片手を突っ込んだ男たちがにじり寄って来る 俺には聞こえない口笛を 一見陽気に吹きながら……
(その時 俺はどうしても声が出なかった 窒息寸前だ 何も見えない 聞こえない この俺は……いったい……何をやろうっていうんだ? もう家には帰れない もう二度と さよなら母さん さよなら……)
今 私はTVを見ている もう随分と あいつには会っていなかった そして もう二度と会うことも無い もう二度と そこから戻れない場所へ あいつは行ってしまった
クノッソスの影(連作・1)
今はもう誰もいない部屋
窓辺から射し込む黄昏の光にうながされてふと振り向くと ――記憶の彼方で すでにそこにいない なにかの影がかすかに揺れ動く
……どうしても その部屋の記憶が甦ってこない 眠れない夜 記憶の糸が途切れかけたそのとき――身体中に冷たい 不思議とねっとりとした液体が染み通っていった まるで未知の生き物のように なにかで刺し貫かれたような痛みが走る 一体何だ?
――夢の中で 閉ざされた部屋の壁の裂け目から 娘の叫び声が聞こえてくる 誰かがそこにいたのだ それが一体誰なのか 誰一人私に聞かなかったし 私も 誰にも聞かなかった (「私は今、たった独りだ。今は、もう誰も、この私を知らない。私はいつどこで生まれ、 生まれてきて、一体どうなったのか? でも、たとえ誰も知らなくても、私はそれを追いかける。どこまでも……それが私にとって、まだ見ぬものだからこそ……」)
……眠りの内側に折り畳まれた……蜘蛛の巣のような回廊……無数の曲がり角が見せかけの出口へと誘う……あのときの 言葉を持たない光の照り返しが どこへ辿り着けるのか 誰も知らない道の上に延びる影と出遭う 夕陽が射し始める直前の 不思議と静まり返ったあの時刻……
(「――私はそこに閉じ込められた。もうずっと、幼い頃から、いや、生まれたときにはすでに……。そこがどこかって? ――私にはもう見えない。なにも……」)
街角で――
「……私が生まれたときだって? みんな、言ってたじゃないか。――お前が生まれたときなんか、誰も知らないって。なぜって、お前はいつも、オレたちとはぜんぜん関係ないところで、いつも独りでいたじゃないか。お前一体誰なんだよ!」
街角で 噂――
「で、それからどうなったって? いつだったかも、ここいらでそんな噂があったって言うけどよ。――オレもそこまでは知らねえからな。へへ。それにしても、――ったく、娘そんなになっちまって。ハハハ ハハ」
(――私が眠りから目覚めたそのとき、なにかの陰で、深紅に滲んだ血の痕跡が浮かび上がる)
だがいつしか 人々の噂は沈黙へとその姿を変えた それと共に 街の記憶も消え 人々は消えた街の奥底に閉じ込められた
そしてこの私も?
どこまでも見えない記憶を辿って 私は人々の〈噂〉へと接近する 〈自己〉という名の迷宮に いつしか侵入してしまった 無数のウィルスの群れを追い求めながら
186号
クノッソスの影(連作・2)
「……さあ、いつだったかねえ、よく覚えてませんが。で、昔のことが、なにかあのことと関係あるんですか? あるわけないよね。とにかく……なにも私に聞くことないでしょう。関係ないんだから。あんた、迷惑なんだな。あのことなら、直接本人の親に聞いたらどうです?」
「今の所はちょっと……」
(俺は、こいつを憶えているような気がして仕方がない。……そうだ! 俺がまだ**のとき、こいつは俺たちの学校へやって来て、クラスで一番痩せ細っていた×××の――どこかの闇工場から流れたスペアの屑だったが――耳を笑いながら切り落とした。そのとき、すでに、×××の眼球は無かった。
「もう、こんなものいらねえだろ? ヘヘ」
――×××は半泣きでヘラヘラ笑っていた。やがてその声は消えた。衰弱した×××の身体は、動かなくなった。その次の瞬間、もう×××は収容されていた。俺の身体も、動かなかった。どうしても、声が出ない。こいつは、呆気ないほど簡単に、×××を消しちまったんだ! そのとき、俺は、唯それを見ていた……)
…………………………………………………
「……そうねえ、あの頃にはすでに……ハシリだったんですかね? もうかなり昔からだったと思いますが。あいつら、随分慣れたもんだったようですから……ええ、もう××年以上も、いや、やっぱりもっと昔のことですね。まったく……古い、古い、いやアホですよ、今どき、闇で中古品の〈人形〉を売るなんてのは。一体誰がそんなもの買うんだか……。――え? 買うんじゃない? 大人の真似をしてた? ヘヘ さあねえ、そんなこと分かりませんが。しかし、ずっと続いてるとはねえ。ヘヘへ」
……………………………………………………
(俺はまず、この街から消えたあいつの行方を追った。それがどうしても見つからない。どうやら俺は、ある未知のときがやって来るまで、この街から脱出できないらしい。もっとも、そのときが仮にやって来るとしての話だが。だがそれが、俺が消されるときだったなら……。あいつが消えたのとほぼ時期を同じくして、噂の中のあの「オヤジ」も姿を消してしまった。ああ、最悪だ! だが俺は遂に、あの「オヤジ」に関わる鍵を握っていると思われる一人の女性を探し当てた。恐らくは、あいつの母親。彼女は、潜伏していた。ある眼に見えない、この街の未知の力によって消される前に? それはすでに始まっているのか? 俺はあいつのことが知りたい。)
187号
クノッソスの影(連作・3)
「急に聞かれても…あの子がその子たちとどんな関係があったのか、今でもはっきりしないんです。なにも知らされなくて。本当になにも…。証拠があるわけじゃないですから。それに、あの子の友達や、ちょっとした知り合いを皆知っていたわけでもないんです。でも、その内の一人は…いつもあの子に言ってたそうです、俺の知り合いに、先輩なんだけど、すっごい金持ちで恐いのがいるんだぞって。そのことを私に言ったとき、あの子は今迄見たことがないような凄く暗い顔をして…。今思えば、黙ってはいましたが、私に訴えたかったようでした。母さん、俺もう行きたくないよ、俺まずいよって…。もう**年前のことですが…今だったら、もしかしたら私も違っていたかも知れない…でも、気付きませんでした…まさかあの子がそのときから狙われていたなんて…」
(狙われていたのは、やはりあいつだった。勿論、あいつが最初でも最後でもない。だがあいつは…俺があの頃、いつもたった独りでいるその傍らを黙って通り過ぎることができなかった、唯一人の奴だった。学校の近所の公園で、放課後、俺はあいつと一緒に走った。その時、あいつはどんなに嬉しそうだったか…。―もう、あいつには逢えない。恐らくこの俺もじきに、時間切れで消えるって言うのに。あいつに逢えなかった。間に合わなかった…)
「皆知ってます。あの子が逝ってしまったその場所は… 多分、皆が一度は行ったことのある所ですから。それでも、一人でも人がいるときには、私が出ていってそこへ行くことはできません。皆知らないことになっているんです。本当のこと、そして本当の場所は。私以外には…。 皆私のせいでどれだけ迷惑がっているか… 客が寄り付かんようになったら、皆あの女のせいだと、死んでしまうような子に育てたあの親のせいだと…。
…それからしばらくして、私は気付かれないように、商店街のはずれの、その地区から出ました。それでもあの頃は、毎晩自転車を走らせてそこへ会いに行ってたんです。あの子に会いたい一心で…。必死になって拝んで、もうここに は長くは居れないから、出て行くときにはあの子も一緒に連れて来れるようにと。これからあの子が、こんな所で独りになって苦しまないようにと…」
188号
クノッソスの影(連作・4)
【アリアドネ/Ariadne】:ギリシア神話でクレタ島の王ミノスの娘。アテナイの王子テセウスに糸巻きを与え、クノッソスの迷宮に棲む人身牛頭のハイブリッド怪獣ミノタウロス殺害と迷宮からの脱出を助ける。後にディオニュソス神と結ばれる
俺は今…『アリアドネ・クラブ』の或る代理人を通して依頼された聞き取り調査の帰りだ
現在『アリアドネ・クラブ』は、超遅発性外傷効果の分析と治療実験をこの街で展開している。恐らくは、この街自体が、実験場として生産された装置なのだろう。だとすると、この街もまた、あの人々の噂の中の、占領され、忘却された街だということになる…
分析は久しぶりだ。分析を通じて、被分析者は、彼(女)の言表が展開する時空―誰かの光景―に遭遇することになる。調査の過程で聞き取られ、言表へと変換された資料はすべて分析にかけられ、その分析結果の読み取りが或る光景となって展開される。その光景が、俺自身の、あるいは、もはや俺ではない誰かの現実となって繰り返し回帰するのだ
さあ、そろそろ次の出発の時間だ
その時…ふと俺は、あの『嘘吐きのパラドックス』―『我々クレタ人は皆嘘吐きだ』―が、クレタ島のクノッソスからBC590年頃アテナイへとやって来たエピメニデスの言葉として今に伝えられていることに気付く
その瞬間、届くはずのないあの迷宮からの叫びがこの胸を貫いた。同時に、鮮明なイメージに遭遇する。街角のカウンターバーの片隅に、あたかも蝿の複眼のような無数のモニター画面の柔軟な集合体として組み立てられた準生体タイプのディスプレイ。そこに今、誰にも見えないはずの文字列が、微かな燐光とともに浮かび上がっている…
(すでに語られたこと…書かれたこと…そして語ること…の間の裂け目は決して埋まらない…)
その瞬間、何者かの眼差しが、素早く俺を射る。彼(女)ら?は、おのおの時計と俺とを交互に眺めながら、何かはっきりしない笑いを浮かべている。俺は、誰だか見えないやつら、それも互いにまったく区別の付かない、何の変哲も無い者たちに絶えずモニターされているのだ。
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