第00話-4




ロディはさっきまでのボケた表情や怒りの表情が嘘であるかのようににっこりと笑っていた

セラと呼んだ少女の元へ歩いて行くと、彼女の持っていた買い物袋を受け取る

お兄ちゃんと呼んだ事からもわかるように、彼女はロディの妹・・

本名「セリア=レム=スタンフォード」と言った。柔和な表情、淑やかな仕草・・とても彼の妹などとは思えないのだが・・


「あぁ?・・・文句あンのか?」


・・ありません。


「だ、誰と話してたの・・お兄ちゃん?」

「天の声ってやつですか」


きょとんとするセラ

ネスはずばりそのものを当てて見せた

ロディはツッコミを返すこともなく、すでに受け取った買い物袋からパンを取り出している

・・しかし、もう一人・・いや、「もう一匹」の事はすっかり忘れ去られていた


「あんの~?・・ワイの荷物は持ってもらえへんの?」

「あ、悪ィ、忘れてた。」

「忘れんといてぇっ!!」


さっきから妙な関西弁で喋っているのは「シード」、シード=アイゼンクライトという

七人いるユニオンリバー社員最後の一人(一匹)、ネスくらいの身長で、薄青い体色をしている

装甲のようなものを着ているが、本体は恐竜のような姿形で、爪や牙もあった

さくらがちょっとした実験中に偶然作ってしまった「合成生命体」で、実は法に触れる要素も含まれている(汗)

ちなみにシードとは彼女が「新たな種族の種」という意味から名を付けたのだが、名字がドイツ読みなのはなんとなくらしい。


・・ロディはシードからも荷物を受け取り、二つの袋を改めて机の上に置いた

ふと、考えがよぎる・・それにしても最近・・


「俺ら、パンしか食べてないな」

「そらそーや、トランスポーターもバッテリーないと動かんへんし・・」


シードが言いたいのは一階ガレージにあるトランスポーターの話

長い頭文字を文字って「ラディオン」と呼ばれている彼らの唯一の移動手段は、バッテリーを使用して稼働している

しかし・・今のユニオンはたかがバッテリーを充電する資金すら危ういのだった

だから、街の中心部へ買い出しに行くことは当然出来るわけもない。


「ヘタすりゃ電気止められてしまいますよ・・」


ネスが大汗をたらしながらつぶやく

その手には計算機が握られ、画面には見たくない数字が表示された


「さ、さて・・シュウはどこ行ったかなぁ?」

「誤魔化さないの。」


ネスにツッコまれて「ぎく」とあからさまに焦るロディ

振り返ると・・気が付けばメイやシード、セラまでもが彼を睨んでいる


「・・もう二週間毎日パンだよ~?」

「せや、あんさんがんばってくれんと・・」

「だから・・「甲斐性なし」って言われちゃうんだよ、お兄ちゃんは。」


ぐさぁっ!!!

痛いトコを突かれたために、ロディは大げさなくらいのリアクションで立ち上がった

よろよろとして背後の窓によりかかる


・・甲斐性なし・・


彼は真っ白になってずるずると床に伏してしまった


「・・マスター、セラ様の一言が一番効いたみたいですね」

「そらそーや、実の妹に甲斐性なし言われたら・・相当きっついで。」


呑気な傍観者達はそうつぶやいていたが、実際ロディはらしからぬ程の精神的ダメージを負っていた


・・・・・甲斐性なし・・


ぼそぼそと同じ台詞を繰り返す


「・・お、お兄ちゃん??」


さすがに心配になったセラが彼に駆け寄る

その様子を見ていたネス、シードはたらたらと汗を流すしかなかった


そんな、ある意味どーでもいい様相の中・・


がちゃ・・とドアがゆっくり開いた


「おはようございます。」


またしても時間を間違えた台詞で、青いコートを着込んだ少年が現れた

頭には目のような物がくっついたバイザー、右手にはなにやら怪しげな箱を抱えている

その表情はとにかく嬉しそうに、にこにことしていた


「あの、シュウ様・・今もう12時ですよ?」

「気にしない気にしない。」


左手でネスのツッコミを制すと、「シュウ」はその右手に抱えた箱をメイに渡した


「ふぇ?・・な、な、何・・???」

「それはメイちゃんへのプレゼントだよ」


シュウはそう言ってまたにっこりと笑う

彼は一見爽やかな印象を受けるが、油断すると恐ろしい目に遭う

笑ったかと思えば突然無表情になったり、お笑いネタに走ったかと思えばいきなり真面目な話を始めたり・・

とにかく、別な意味で奇想天外な少年だ

天才とか発明家というのはこういうものなのだろうか(←世間一般の天才or発明家に対する偏見)


「ぷれぜんと・・??・・ありがとう。」


シュウから手渡された箱を不用意に開けるメイ

すると・・中からは彼女の手に合わせたものらしいハンドグラブが出てきた

どちらかというとレーシンググラブに妙な四角いユニットをくっつけたような・・

よく見ると「ハンドバリアシステム」という文字が・・


「はんどばりあ?」

「うん、まぁ・・手を前にかざすと、バリアが出てくるんだ。」


シュウはいきなり無表情になると、その解説を始めてしまう


「つまり・・これはこの四角いユニットに多数のエネルギー発生装置と対になるエネルギー放射装置の二種類をいくらか組み込んでそれらの干渉によってエネルギーを無尽蔵に発生させる原理なんだ、これはつまり無限機関の試作型みたいなものでかつての科学者ができなかった無限に動く事のできる機械を作る上でのテストタイプとも言える。でもこのバリアには相互作用があるからバリアに干渉する負荷があまりに大きいと・・」

「・・あう・・わ、わかんないよ~???」


メイは頭を抱え、半泣きで混乱している

シュウは何でも「自分のスピード」で説明するので、聞き慣れても多分理解できない


「おー、シュウ・・ようやく来たか。」


ようやくロディがふらっ・・と起きあがった

軽く顔を叩き、メガネをかけ直すと・・


「さて、全員集合したトコで・・!」

「さくらはんがおらんけど?」

ずどっ!!

シードのツッコミは予想外だったらしく、せっかく元に戻ったロディもコケてしまった


「こ・・細かい事は気にするな!!」

「そうですよ、さくら様がここに来るなんて気まぐれなんですから」


・・・ホントにそうだから仕方ない。


「それじゃみんな、今日はこの状況だ・・仕方ないから!!」

「仕方ないから・・?」


ロディの思いつきはなんだったのか

彼は皆を集めて何をする気か・・


・・まさか、資金難だからって強盗とか考えているのでは・・

・・やりそうやな、ウチの社長はんの場合・・


だが、ネス&シードの思惑は外れた


「これだ!」


こと・・と机にトランプが置かれる


「・・トランプ?」

「なんでやねん」


がくっ、と肩を落とす皆に、ロディはやる気に満ちた表情で言う


「やることがなければ大富豪でもやるっきゃないだろ!さぁ暇つぶしだ暇つぶし!!」


子供のようにはしゃぐ彼に、シードは口を開けたままぽかんとしている

一方、皆の後ろではメイがまだ説明を理解できずに、今にも泣きそうになっていた

そして・・シュウやネスは呆れて無反応だったのだが・・

セラだけは右の拳に力を込め、ぐっと踏み込んでいた


「お兄ちゃんの・・・!」

「え」


びゅ・・と風が吹いた気がした

ロディが気付いた時には、セラの攻撃が当たる瞬間で・・


「超ぉーっ!甲斐性なしーっっ!!!!!!」

「ぐぇっ・・・」


見事に鳩尾に一発が決まっていた

膝を落とし、ゆっくりと崩れるロディの身体・・


「・・せ、セラ様・・?」

「あ、いけない・・つい本気で・・・」


我に返り、今更のように汗だくになるセラ

その様子からは先ほど一撃を決め、しかも決めの構えまでやっていたとは思えない

・・このように、彼女は実際の所ロディより「強い」

拳銃操作などはロディの専門分野だが、彼女に対し格闘で勝ち目はなかった。


「お、お兄ちゃん・・大丈夫?・・大丈夫???」

「・・脈が止まってる。」


気の早いシュウはすでに「合掌」をしていた

セラはいよいよ泣き出しながらロディの肩を揺さぶった


「起きて!死んじゃだめだよーっ!お兄ちゃん!」

「・・うー・・・・」


ロディはセラの手を制すと、静かにメガネを置いて言った


「・・世界をねらえ・・・お前なら・・・やれ・・る・・」


そこまで言ってがく、と首を落とす


「どあほーっ!!」

「冗談だ・・ちょっと思い出しただけでな。」

「ごめんね・・ちょっとやりすぎちゃって・・」

「悪いのはお前じゃない・・そーいう危ない格闘術をお前に教えたお師匠だ。」


彼は昔戦術を習った師匠を思い出していた

シュウ並にヘンな人物で(弟子が言うか)それ故になぜかセラまでもが戦う方法を学んでしまったのだ


「・・まぁあーいう昔の事は忘れて・・と」


ロディはにっ・・・と笑うとセラとネスに突然抱きついた


「え・・!?」

「はうっ・・!?」


目を白黒させる二人。

その間に・・シュウはいつの間にかメイに再び説明を始めていた

もちろん彼女は目に涙をため、理解不能で頭を抱え困り果てていたが


「な、なんですかマスター?」

「びっくりするよぅ、お兄ちゃん・・」

「まー、自然の流れでなんとかなるさ・・今こーいう暇な状態でもな、いずれなんとか好転するって♪」


全く適当な話だった。

要するになるようになる、ダメならダメ・・という事らしい

・・彼の場合は上手く行く事しか考えていないと思うが・・

どちらにしても彼らのお仕事は今日はなし・・

暇をもてあまして早一ヶ月

この先彼らに依頼をするような物好きは現れるのだろうか?


・・現れないとロディがホントに強盗に走ってしまうかもしれない(笑)


ともかく・・

ユニオンリバー社の毎日は、こんなハイペースで進んでいく


仕事のあるなしにかかわらず・・(汗)


・・第00話・・終・・

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