第01話-9




鳥のような、甲高い咆吼を上げるゼファー

ファントム同様機体のサイズは10メートル、一般的なヒューマノイド・ギア。


颯爽と構えるゼファーに対し、ファントムはやや怖じ気づいたようにも見える


右手の大きな爪、左手の小さな爪を構えた、アンバランスな接近戦型のファントム

見たところ何の武器も持たず、正々堂々とした構えのゼファー


両者はしばらく対峙し・・・やがて・・


ファントムが、先に動いた


『これでも食らうがいい!!』


巨大な右手からレーザーの雨、左手からはマイクロミサイルの雨を降らせる


どごぉぉぉ・・・


ゼファーのいた場所を中心に辺りを照らす爆発の光・・

ファントムのモニターには、微動だにしないゼファーのターゲットカーソルが表示されていた


『・・随分と呆気ないものだな』

『それで終わりか?』

『!?』


モニターに次に映った光景は、ゲイルにとって驚愕すべきものであった


ゼファーは・・カーソルの指示通り、その場からまったく動いていない

爆心地のど真ん中、まして爆発に耐えたとしてもレーザーの直撃も食らっているはず・・

体勢は最初にロディが乗り込んだ時のまま、唯一「右腕」が前を向いていただけだった


『何をした・・!?』

『何の事はねーよ、ただのバリアだ。』


・・シュウの改造した、な。


彼に改造されれば、市販の「電磁フィールド」も立派な絶対防壁となる

・・最も、エネルギー消費が通常の5倍という実用性の低いものであるが・・


ゼファーはゆっくり右腕を降ろすと、今度は真っ直ぐファントムめがけて走り出した


がしゃん・・がしゃん・・がしゃん・・・・・・!!

確実に、勢いよく・・どかどかと疾走するゼファー


『このぉ!!』

『遅い!・・二度目はねーぜ!!』


二射目を放とうとしたファントムの右腕・・もう開こうとしていたその腕をゼファーの両腕ががし、と掴む

ぎぎ・・と組み合う両者だが、その時ファントムの左腕が開いた


『残念だが「至近弾」だ・・死ねッ!!!』


ゼファーとファントムとのゼロ距離で炸裂する大量のマイクロミサイル

この距離ではゼファーも流石に電磁フィールドの展開は不可能


どどど・・・・っ


両者は再び発生した、この大きな爆発に包まれ・・


『ど・・どうだっ・・・これで・・!?』


爆発の煙が段々と晴れていく・・

しかし・・やがて現れたゼファーの装甲には、軽く黒いすすがついているだけ・・


ゲイルはついに、恐怖さえ覚えた


『ど・・どういう機体なのだ!?・・S.Gの実験部隊でもこのような・・』

『へへ・・ん・・・廃棄寸前のトコ引き取った、ただの77式ギアだぜ?』


・・もちろん改造したけどな。


『77式!?・・・数世代前のポンコツが・・この82式に!?』

『あん?・・・今なんつった?』


急に、ゼファーから放たれる余裕のオーラが色を変えた

ロディが声のトーンを変えたのと同時に、機体からは・・「殺気」が見えてくる


『すでに90式の開発が始まったご時世に、なぜデモ用の70系列が・・なぜここまで強力な機体になっているのだっ!?』

『デ・モ・用・だ・と・ぉ・・!?』


ゲイルはすでに気が動転しているのか、ロディの変わりようには気が付いていないらしい

ロディは口元をつり上げ、その目に明らかな怒りと殺意を込めて叫ぶ


『新しければ偉いってもんじゃねぇだろぉがぁーっ!!!!!!!』

どがぁっっ!!


叫ぶと同時に、ゼファーは左手をファントムの顔面・・大きく見える巨大な「目」にたたき込む


『ぐぉぉぉっ!?』


ゲイルの正面にあったモニターがダウンし、真っ暗な画面になる

辺りには電気系のダメージによるものか、ばぢばぢっ・・という放電のような迸りが見える


ずぅぅぅ・・・ん

機体は尻餅をつくように倒れこみ、しばらく痙攣したかのようにぴくぴくと動いている

ゼファーは自分の「目」・・緑色のモノアイを淡く輝かせた


『やらせは・・せんッ!!!』

『粘るな!ザコ野郎がっ!!!うらうらうらっっ!!!』


げしっ!・・げしげしげしっ!!


ロディが吼え、ゼファーは狂ったようにファントムを足蹴にしている

見るも無惨にボコボコにされていくファントム


・・先ほど、「騎士に見える」と言ったのは取り消さなくてはならないかもしれない・・

・・子供のケンカかコントのような光景だ


『起きろ・・!!起きろっ!!!』


ゲイルはフレームが歪んですっかり動きの悪くなったファントムを、どうにか立ち上がらせた

この状態でなおマイクロミサイルを放とうとトリガーを引くが、全く反応がない・・


『な・・何ィっ!?』

『・・・残念だったなぁ~!』


ロディはまた、余裕の笑みを浮かべた

彼が最後に敵にトドメを刺す・・いや「かます」時の癖だ。


『必ぃっ・・殺ぁぁぁぁぁつ!!』


突然、ゼファーが肩のバーニアを噴射し真っ直ぐ大空へ飛び上がった

埠頭の航空機用サーチライトが交差し、丁度良くゼファーの構えを照らし出す


う゛ぅ・・ん・・


うなり声のような音と共に、右腕の「レンズ」からレーザーブレードが伸びる

緑色の光は機体の2/3ほどの長さで止まり、光の剣がゼファーに装備された


肩のバーニアが今度は横に飛び出し、真上を向く

右腕を左腕が支え、大きく振りかぶった体勢のままゼファーは急降下を始める


『一・刀・・・両・断ぁぁぁぁぁぁぁぁぁんッ!!!!!!!』


動けないファントムはその位置のまま、真っ直ぐ上を見上げている


『う!・・っ!?』


ゲイルが呻いた刹那・・


びじゅぅぅぅぅ・・・・・・


装甲の溶ける音、ブレードのうなる音、センサーや動力系の爆発する音・・

それらが、彼の耳を支配していた


・・・なんだと・・?


もはやそれが驚きなのかすら、ゲイルには理解できなかった

次の瞬間、ゼファーにより「右半身」を切り取られたファントムは完全に機能を停止・・


・・ずずぅぅ・・ん・・・


機体は倒れると同時にあちこちが崩れ、黒い煙を上げ始めた


『・・安心しろ、峰打ちだ』


「・・どこがだ・・?」


ゲイルはもうどうでもよくなったようで、その顔はふふ・・と笑っていた

たかが何でも屋と、正直タカをくくっていた彼は・・思い知らされると同時に、なんだか知らない間に「ケンカだらけの青春」にも似た気持ちになっていた

・・拳で語る友情・・一般人にはなかなか理解しがたいアレだ。


「・・負けたよ」

『へっ・・・俺の相棒を旧式とナメるからだ・・当然だろ』


ロディはそう言うとゼファーの背部ハッチを開け、ゼファーの肩に登ると、どかりと座り込んだ


「正直納得がいかなかったんでな・・裏に手を出したとはいえ、エリートの俺が・・」

「へっ・・」

「まぁ・・なんだか今はどうでもよくなった。」


ゲイルの顔は本当に清々しいものだった

つい先ほどまでプライドのためだけにロディと戦っていた、妙な復讐心を持つ男ではない・・

完全に、常識の面でも、実力の面でも、機体性能の面でも・・完敗した結果だ。


「・・さて、俺は早々に失礼させてもらっておくよ・・S.Gに捕まってはかなわないからな。」

「何を言ってる。」


ロディは少しドスのきいた・・だが顔には満面の笑みを浮かべて言った

ゲイルの頬を、たら~・・と小さな汗の滴が伝う


「え?」

「俺の妹ら誘拐して、なおかつ俺を叩き殺そうとして、俺の相棒にすす汚れなんざ付けたヤツをどうして逃がす必要がある?」

「・・・・・」


この後、なんとか逃げようとしたゲイルだったが・・

結局ロディには捕まらなかったが、S.Gに逮捕されることになった。


・・彼にボコられなかっただけマシだろう。


「・・なんか釈然としないな・・殴ってないからか。」


やはり殴る気でいたロディ


「・・ま、久しぶりにお前と暴れられたんだから・・・いいか。な、ゼファーよ」

きぃぃぃぃ・・・・

ゼファーの甲高い咆吼が、再び夜空に響き渡った・・


そして・・本当の意味で、今回の依頼は幕を閉じる事になった。


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