第08話-1



「ネス、お前なぁ・・」


何を呑気に・・・と言おうとして、ロディは言葉を詰まらせた

・・オーロラだ


「お前、 メモリーイカれてないか?

「失礼なっ!私は正常ですよ、正常!」

「・・・」

「ちょっと電磁波の影響が・・出てるけど」


ばたん、とネスが倒れた

体から煙が出てきて、ショートしたらしい事がわかる


・・オーロラか・・・そんなに寒くなったのか?

ネスには無頓着で、ロディはそちらの事に考えを及ばせた(汗)

異常気象とはいえ、さすがにオーロラが出るなんて事は珍しい

・・真冬のセルムラントに、その綺麗な光景が見られたのが・・全ての始まりだった

それは冬の寒さも忘れそうなくらい、人々の目に焼き付いていた


「きっれーい・・・」

「オーロラって本当にカーテンみたいな感じなんだね」


事務所の屋上に出て、セラとメイがオーロラを見上げている

・・その傍ら、ロディは腑に落ちない様子で空を見上げていたが・・


「なんかイヤな予感がするぜ・・・電波障害でニュースも聞こえないからな・・」

「最新情報が新聞だけになっちゃうもんね?」


最初にオーロラを見かけてからもう半日が経とうとしている・・夕暮れが迫るが、オーロラは一向に消える気配がない

全ての電波に障害がかかっている以上、直接情報以外にセルムラントの情報源はなかった

明日の朝になれば、少しは何かがわかるだろう

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「・・何?・・ヨーロッパだけじゃなくて地球規模だったのか?・・昨日のオーロラ!?」

「みたいですねぇ・・」


なんとか応急処置で回復したネスは、同じく回復したネットワークを使い、情報を事務所のディスプレイに表示していく


「オーロラはなんの変哲もないオーロラ、ただ・・ 発生要素が一切無い状態で、どうして起きたのか が不明です」

「ほぉ・・」


ロディは椅子の背もたれに思いっきりもたれかかって、空を見上げる

今日は快晴、まるでおかしい所はない


「・・ただいま」

「お帰りなさいませ」

「あ・・・シュウ?・・お前、どっか出かけてたのか?」


シュウはコートの襟を直し、手にした荷物を降ろしながら言った


「ええ、一昨日からちょっと日本に行って来ましてね」


・・先日の事で、一年ぶりにハルカに会いに行ってきたのだ


「楽しかったですよ・・はい、おみやげです」

「お・・?おう」


ロディは怪訝な顔をして渡された包みを開いてみる


「・・・ 「そばまんじゅう」 ・・?」

「美味しいですよ」

「・・メイにでもくれてやれ、俺は一つ食ってよしにしとく・・」

「それと、仕事の依頼人を連れてきました」


奥から現れた女性が、ぺこりと頭を下げた

ロディは半分かじっていたそばまんじゅうを「ぶっ!!」と吹き出す


「お・・お前!!そっちを先に言え先にっっっ!!!」

「すみません」

「あ・・あの、よろしいでしょうか?」

「ありゃ、どうぞ(汗)」


ロディは依頼人の前なので、流石に大騒ぎするのを控えた

・・まして、今回は彼の目にとまる程の美人だった

赤いリボンでまとめた髪、青でコーディネイトされたチャイナドレス、金縁の眼鏡と、さりげなく溢れる気品・・・

社員で同年代であるサクラも「美人」という部類には入るだろうが、どうも彼の趣味には合わないらしい(汗)


「・・わ、私は皇李詩亞(おうり・しあ)という者で、事象研究をしている学者です・・」

「事象研究・・ああ~確か事件だの何だの、そういうのの誘発率とか調べてる・・」

「え・・ええ、それでかねがねお噂を聞いているユニオンリバーの方々に、調べて頂きたい事がございましてぇ・・」

「俺たちに?」

「き、昨日の~・・えと、オーロラの事です」

「ああ・・俺たちも気になってたトコだ」

「マスターが真剣な顔をしている・・(汗)」


ネスのツッコミは珍しく流して、詩亞の言葉をおとなしく聞くロディ

詩亞は眼鏡を直しながら用意していたカンペを読み始める

・・わたわたと声がうわずっている様子からも、どうも外に出て、人と話すのが苦手なタイプらしい

なのに目立つ服装をしているのは、一応彼女なりの正装なのだろう


「コーディネイトは姉さんです。」

「・・やっぱりか」


それはさておき、本題に戻そう


「えと・・このページ・・・オーロラが発生した後で、奇妙な事が起きているのは知っていますか?」

「・・いや・・知らねぇが・・?」

「グリニッジにある「標準時間」を正確に現わした時計は知っていますよね?」

「ああ・・確か日付まで確実に計測して、狂うことはそうそうないって時計だろ」

「あの・・えと、アレが・・あの時計が突然 「9年」も時を戻してしまった んです」

「時間が戻ったッ!?」

「そりゃどういう事ですか!?」



詩亞はロディとネスのそのリアクションに驚いて数歩退いた


「・・・って・・このリアクションで泣かれても困るぜ・・??」

「す・・すみません・・・学会以外で人にお会いする事が少ないもので・・慣れてなくて(泣)」

「いいから続けてくれ・・なんで標準時間の時計が突然戻ったんだ?」

「それがよくわからないから・・もしかしてロストテクノロジィの影響かと思って専門家の方を訪ねたら・・ここに来ればいいと」

「・・「サクラ」の事か、専門家って」


こく、と頷く詩亞とシュウ


「・・・9年前かぁ・・なんか、まるで母さんが消えた年みたいだ」


ぴたっ・・とロディの思考と、動きが止まる

再び思考回路が動き出した時・・ロディの脳裏に、色々なことが思い出されてきた


「母さんだ・・9年前・・ 空白の10日間のあった年だろ!?

「は・・はいぃぃぃっ(泣)」

「・・まてよ、その時計が9年前に戻ったって事は・・」


ロディは自分のナビを見てみる

ナビの表示は「2981年12月14日」となっていた


「・・空白の10日間の一日目だ・・・」

「・・ほぇあぁっ!?ね、ネット上の時刻データも全部が全部、当時の時間にさかのぼってますよぉ!?」


ネスがネットワーク情報を確認すると、間違いなくデータがおかしくなっていた

適当な掲示板に立ち寄って情報を交換してみるが、やはりこの事務所の時計や、機器の表示状況がおかしいというワケではないようだ


「詩亞、あんたの依頼・・受けさせてもらうぜ」


ロディは詩亞が応答する前に立ち上がり、上着を羽織った上でラディオンのキーを握っていた


「・・行くぞ、ネス」

「りょ、了解・・」


・・何なんだ、いきなりあの日の表示が一斉に現れるなんて・・?


ロディは一連の現象に不吉なものを感じると同時に、「あの時に戻ったのかもしれない」という事で淡い期待を抱いていた


・・母さんを見つけられるかもしれない・・


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第08話「REVERSE TO 10days」


仕事内容(メニュー):各地で起きている「タイムラグ」の調査

目的地・標的(ターゲット):宇宙全域


依頼人(クライアント):事象研究家・皇李詩亞(おうり・しあ)

注意事項(ワーニング):なぜ9年前に戻ってしまったのかは不明ですが・・気を付けてくださいね、皆さん
もしかしたらあの10日間には、何か恐ろしい事が起きていたのかもしれませんから・・



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