第09話-L




いや、何も動かない、音すらも響かない世界・・

宇宙は光と闇のみが支配する、そういう空間になっていた

中心部にいたエリクシルの中から・・正しくはエリクシルの外装の中から、一機のギアが姿を現わした

デストロイ・・よりも一回り大きい、50メートル台のギア


時間が止められたようになっているが、正しくは光を経由するナノマシン・・

しかもコレは、各地のガーディアンの力によって亜空間を経由、瞬間的に宇宙全土に広がる仕組みになっていた

ナノマシンの影響はギアなどの機械にも及び、抗体を持つガーディアンのみが行動できる・・・

どのみち、残り30分足らず

生ける者全てが、自分に絶望しながら死んでいく、そういう寸法なのだろう


・・しかし・・エリクシル・ギアが壊れた外装から抜け出ようとした時・・


周囲にわずかながら、反応があった

・・あり得ない事だが、何かが動いた

・・近くにガーディアンはいない、エリクシルのみのハズ。


ならば・・何が動いたのか?

赤い、尖った頭部にモノアイを輝かせ、白いカラーにそれとなく騎士の面影を残した機体

・・少しずつ少しずつ、リハビリをするように指を動かして、腕を動かす

振り回すように肩を回して、膝から下もようやく稼働する


「・・・ヤな夢見たぜ・・」


ロディ・・は、メガネを外して、いつの間にか溢れていた涙をぬぐった

白い騎士「ゼファー」は身を震わせるようにして、大きく伸びをする


「・・お師匠がどうして俺みたいなのに後を任せてくれたのか・・それは俺の目的がはっきりしてたからだ」


誰に言うでもない、自分に言い聞かせるようにつぶやく


「余命5年、後のない状況でその5年を使って、俺とセラの面倒を見てくれた」


後で知った事実である

・・遺書のように残されていた、病院から師への診断書

あの決闘だって、もう死んでもおかしくない月日の中での日取りだった


「イヤな事だろうよ、俺にとっては・・だけどなぁ、 それ以上に俺は嬉しかったんだよ!!


ゼファーはついに完全稼働する

サイシステムが青い波動をみなぎらせ、ゼファーのモノアイが・・二つの「目」になる

頭部のパーツが外れて、モノアイの下からツインカメラが現れ・・

ゼファーの腕から、一本のレーザーブレードが伸びた


「俺は母さんとセラとメイとシュウとサクラとシードとネスとガンマと・・・とにかく、全部守って助けるためにお師匠と戦ったんだ!!」


・・なんと・・

ロディは「イヤな記憶」と対峙する事で、逆に闘志を全開まで発揮し、あの光の効果、ナノマシンさえも焼き切ってしまった

ゼファーも真の顔、改造前の姿「スターゲイザー」の頭部を現わす

敵を真っ直ぐ見据える二つの目は彼の目

深く握り込んだ腕は彼の腕

淡く輝く光の剣は彼の意志


・・「熱血バカ」と呼ばれる程単純に、行動し続けてきた理由・・

・・「立ち止まったら終わり」、という自分に課した使命


全てが彼を支え、動かしてきた


「バカと呼びたければ呼べ」


バーニアをふかして、瞬時にエリクシル・ギアに迫る


「いくらでも罵倒しろ」


まだ外装から抜けきっていないエリクシル・ギアに、ゼファーが組み付く


「俺は正しいと思ってるからやってるんだ、ダメだというならそいつは俺にとっての悪だ」


みしみし・・とマニピュレーターが軋む

しかし装甲がひしゃげて、ダメージを受け始めているのは明らかにエリクシルの側である


「てめーみたいな過去の遺物に、俺の夢とか、あいつらの願いとかそういうモンを潰されてたまるかってんだよ・・・?」


ついに、勢いよく腕が潰れた

エリクシルは怪物のように、低い声・・声のようなもので、吼える


「俺はいつもみたいに呑気な生活ができりゃいいんだ、それを全部無いことにしようってか!?」


ゼファーは容赦なく、その吼える頭部を掴み・・右手で力を加え始める

青い光の灯った二つの目は、ロディの怒りを現わすように「炎」が揺らいでいた


「願い下げだ!」


・・きぃぃぃぃぃぃぃぉぉぉぉぉぉぉ!!!



ゼファーの鳴き声は、さらに甲高くなる

頭部を・・握りつぶす


・・コントロールは他に存在しているのか、エリクシルはなおも動く

背中側から現れた隠し腕が、ゼファーの頭を逆に掴む

・・しかし、ゼファーは右腕を軽く振るって、光の剣・・レーザーブレードでそれをさっさと切り裂いた


目は相変わらず、一直線にエリクシルを見つめている

その敵が、尻込みしたように見えた

・・恐怖するとか、そういうこともあるのだろうか?

だが彼をガンマのような存在と認めるワケにはいかなかった

・・仮に意志があったとて、今の自分にはそれが悪意ある者としてしか映らない


・・ゼファーの目は、一層の輝きを増す

周囲のナノマシン光を吹き飛ばし・・全宇宙とはいかずとも、この宙域の光が消え失せる


「さようなら・・だ。・・・・・・・俺たちは生き延びる!俺はこれからのために頑張って来た!・・」


レーザーブレードは最大発振の領域を越えて、果てしなく伸びる

・・先が見えない所まで・・

たとえて付けるなら、無限の剣「インフィニティセイヴァー」とでも呼称できそうな、長い長い光の剣・・


「これからが俺の幸せの始まりなんだぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」


ロディの絶叫は、今度は希望のこもったものになった

マテリアが死んだ時の、絶望に苛まれたものではない

振り下ろされた剣はエリクシル本体、もろとも全てを切り裂き・・・・・


宇宙が光に、包まれた

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・・・・・・・・・・・・・

・・・・・・・・・・

・・・・・・・

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「・・あう・・」

「あ、お姉ちゃん・・起きた?」


ロディが、エリクシルを倒してまもなく・・

セラは、目を覚ました

続いて、メイも今・・・・


「・・しっかしこいつら、まだ寝てるのかよ?・・みんな揃って夜更かしでもしてたんじゃねーの~?」


ゼファーは、頭部だけがゲイザーのパーツに戻った事で、全く別の機体にも見えてしまう


「・・イヤな夢みたの」

「そうだろうな」

「ボク・・楽しそうに何人も何人も人を殺してたの」

「バカ、俺が前に言っただろ?・・そら、昔の話だ」

「・・でも・・ボクの記憶なんだよね、アレ・・」

「だから、そういう風にねじ曲げて記憶してたって事だろ?・・お前、自分が楽しんで殺人だの、テロだのやるようなヤツに思えないだろうが?」

「・・・・うん・・・そう言われると・・そんな気がするぅ・・(汗)」


自分で見た以上、なんだか納得がいかないような気もするが・・

メイは、落ち着く事ができた。


「お兄ちゃん・・」

「なんだ、お前も引きずりそうな夢見たのか?・・・あんなモン夢だ、とっとと忘れた方がいいぜ・・」

「・・・もしかしたら私たち・・・・・ 人間じゃないのかもしれない ・・・」

「な・・何っ!?」


ロディが驚いたのは、セラの言葉を聞いていたがためではない、その途中で、エリクシルが動いたためだ


・・すでに形骸と化したハズの、真っ二つの鉄の塊が・・・

瞬間、今までになく収束された粒子砲が、ゼファーを襲う


・・じゅぅぅぅ・・・と、腕が融解して・・どろり、と溶け崩れていく


「なんで!?どうして・・動くんだよっ!?」


融解した腕は・・「右腕」・・今のゼファーにとって、唯一の武器のついた腕

P.Sブレードも、レーザーブレードもマシンガンも、全て右側に装備されている


・・迂闊だった


敵が人知を越えたロストテクノロジィである事を、ナノマシン技術の集合体である事を再度認識しておくべきだった

全ての武器を奪われ、粒子砲の余波を受けて・・ゼファーのコクピット、コア・ローダーまで貫通した小さな穴がいくつか開いた

真空に向かって、コクピット内の生命維持に必要な要素が流れていく

気流がコントロール機材を引きはがし、数千万度にもなる粒子の塵が、モニターやレバーを焼いた


きぃぃぃぃっ・・!!!


右腕をもがれて、胸部から腹部にかけていくつもの穴を開けられたゼファーが、吼える

・・意志はないはずの、ゼファーが。


「くっそぉぉぉぉぉっ!!気圧が・・下がる!?」

「お兄ちゃん!!」

「ロディ・・」



再び粒子砲が、ゼファーをロックする

敵のナノマシンによる再生はどうやら完了したようで、今度は正確に狙いを付けてくるだろう

・・一撃でゼファーがこうなる粒子砲・・まるでイオン・デストロイドキャノンを絞り込んだような破壊力のそれは、間違いなく・・

ロディの存在、そしてゼファーの存在も、塵にしてしまうだろう

ドーマとユニバリス、セラとメイの機体が、その前に滑り込んだ

・・放たれる一撃・・

ゼファーは、動けない

自分たちが起きたのが「奇跡的に早い」と思われる以上、周囲の誰かが起きて支援してくれる可能性も、限りなく低い

ユニバリスは全開で、プラズマ・フィールドを展開した

しかし、共に並ぶハズのドーマが、そのさらに前に出てきた


「・・お姉ちゃん・・!?」


・・ロディは「動けない事」をこれほど悔やむ事は、今後の人生で二度とあり得ないだろうと思った

粒子砲の破壊力に対して、ユニオンリバー社最高の装備であるドーマの「相転移フィールド」を使用した所でギアのエネルギーでは限度がある

・・いっそ、ゼファーがサイシステム全開で、二人を弾いて助ける・・

辛くも相打ち、そういうシナリオの方がマシだ

・・メイが死ぬ、セラが死ぬ・・そして恐らく自分も、皆も死ぬというバッドエンドよりは。


・・ちっ・・・・くしょぉぉぉぉ!!!!!・・・・


・・

・・・・

・・・・・・・

長い時間の後・・

いや、それでも宇宙の終わりまでそう時間のない中で・・

三人は再び、目を開ける事になった


「・・こいつはなんだ・・・?」


腕に、足に・・体中に巻き付く、ケーブルのようなもの

妙に、暖かい


「・・あれ・・ボク、セプターになってる・・の?」


そう・・

メイは、攻撃を受けて自分の身体も融解する、という寸前で・・

吹き飛ばされ、ぶつかった3つの「無機物」を融合していた

すなわち、「ゼファー、ドーマ、ユニバリス」


元の形を少しだけ止めたその巨人・・敵より一回り小さな、40メートル台の巨人は・・そこにいた

ロディがいる場所は、ごちゃごちゃしているが、コクピットの形を残している


「セラ!?」

「大丈夫・・びっくりしたけど・・」

姿は見えないが、恐らくこの「巨人」のどこかにいるのだろう

・・ロディが右手を動かすと、巨人も同じように、右手を動かす

・・ロディが左手で、宙を漂っていたゼファーのP.Sブレードを掴もうとすると、巨人が実際に、見えていたそれの握りを掴む


「・・完全消滅させるしか手段はないようだな」


自分の動き通りに動く、その事実だけでロディは十分だと思った

真っ二つにして死なないなら、死ぬまで粉々にしてやるだけだ

巨人・・


「行くぜ!「ゼファイラス!!」・・」

「何その名前!?・・・格好悪いよぉ~・・」

「センスないね、お兄ちゃん・・・(汗)」

「いいじゃねーか、シュウに作らせてた新型装備の名前なんだよ!」


無理矢理ながらに巨人は「ゼファイラス」と名付けられた

ゼファーをフル強化して、デストロイと同等の大きさにしたような巨人、ゼファイラス・・

操作するロディ、そしてメイは機体と融合、セラはどこかに搭乗している


P.Sブレードを、力一杯握りしめて・・


・・「ゼファイラス」は、最後であろう戦いに、挑んだ


「うぅおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッッ!!!!」


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NEXT- "FINAL" EPISORD・・

第10話(最終話)「はっぴい・えんど。」




メイ「ごはん~・・おなかすいた~・・・(泣)」

ネス「そう言われましても、まだ仕度なんて全然出来ていませんよ(汗)」

メイ「・・ねぇネス」

ネス「はいはい・・なんでしょう?」

メイ「ボク、すっごい幸せだよ♪」

ネス「あ・・そ、そうですか・・・?(汗)」

メイ「うん♪・・今はおなか空いてるけど」

ネス「・・それにしても、今日の夕には皆さんが久しぶりに揃うんです、精一杯のおもてなしをしなくてはいけませんね!」

メイ「うん♪・・だからゴハン。」

ネス「あとでお買い物手伝ってくださいね?」

メイ「うん♪・・・・だからぁ・・早くゴハン・・・」

ネス「・・ふぅ・・(汗)」






・・第09話・・・終・・・・・


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