青き天体研究所

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第三十八話  夜明け前の一時休息


「結構良い出来だと思うよ?戦闘経験の無い一般人を部品にするよりはマシって感じかな。」

暗闇の部屋の中、サディケルは先程の戦闘結果をミカエルに報告をしていた。
その部屋の中にはミカエルの他にも二人、神級に近い天使級が椅子に座っている。
そんな事を気にせずにサディケルは話を続ける。

「あのプロトタイプを参考にしたとは思えないほどの忠実だったし、さすがヘファイストス様の作品ってだけはあると思うよ。」
「しかしあのプロトタイプには量産型の『人形』には無い感情がある。それに我らが天敵を元に作られてもいるんだ。油断は出来まい。」
「まぁ拘束・・・いや、封印されているから大丈夫だとは思うがな。」
「雑談はそこまでにしろ、ウリエル、ルシフェル。兎に角『人形』の出来を上に報告、それから出撃の準備に取り掛かるぞ。」

目の前で雑談していた三人の間に入り、話の腰を折るミカエル。
その強引さに少しながら不満を感じながらもそそくさ準備を開始する。

「さて・・・青い髪の堕天使、セイン=ブルースウェア。お前が何処まで強くなったのか、確かめてやろう。」

何を思ったのかミカエルの口元には笑みを浮かべていた。






ライ達の帰還後マオ社ではかなりの速度で機体の点検等が行われていた。
そのスピードに呆気に取られながらも、ライ達はこれまで起こった事の報告をする為にセイン達のいるブリーフィングルームへと向かって行った。

「・・・今日中に全ての機体の整備を終わらせてくれ。クロガネには入るだけの弾薬を。」
「分かっている。まさかこんな時に・・・・・・をするとはな。」
「愚痴てても仕方が無い。やれる事をやるしかないんだからな。」

ブリーフィングルームではかなり緊迫感を増したセインとリン社長が会話をしていた。
焦りの色がかなり見られ、明らかに急いでいる事が分かった。
その緊迫感の理由の分からないライ達はとりあえず報告の方を優先し、会話に入ることにした。

「失礼します。セイン、マオ社長。任務完了の報告にまいりました。」
「話は聞いている。量産型ヴァルシオンが現れたそうだな。」
「はい・・・。SRXの合体に成功し、それで撃墜しました。」
「そうか・・・分かった。少しの間で済まないが休憩をとってくれ。」
「了解しました。」

そう言ってライ達は部屋から出ようとしたその時、リュウセイがふと疑問を浮かべた。

「なあセイン。何かあったのか?」

その言葉を聞きセインとリン社長の顔が少し変化した。
イリス以外の人達もリュウセイに疑問の表情をする。

「やはり気付くよな・・・。実はシロガネ・・・いや、FATESから宣戦布告の通信が来たんだ。今から約12時間後、一斉攻撃するとな・・・」

セインのセリフを聞き退室しようとしていた彼等は衝撃を受ける。
自分達が居ない間このような事態になっている事を想像することが出来なかったからだ。
ただ一人、イリスを除き・・・。

「だからか。あそこまで急いでいたのは・・・」
「そう言う事だ。不測の事態にこちらも急いでいるんだ。」
「・・・・・・そう言う事だ。先程も言ったが少しの間休んでいてくれ。明日は今まで以上にきつい戦闘になるからな。」
「・・・・・・・・・了解した。」

皆を代表してイリスが言うと次々と退室して行った。
セインはその様子を見つめながら小さくため息をついた。





クロガネの一室内で何かと何かがぶつかり合う音が響いていた。
そのぶつかり合う音と同時に何かの叫び声も・・・。

「ハァァァァ!」「チェストォォォォ!」

気合の入った重い一撃がぶつかり合う。
お互いの思いを込めた木刀がギシギシ鳴り始め、今にも折れてしまいそうである。

そして・・・。

バキンッ!!

「ッ!?グァァァァ!!」

「ブリット君!?」

クスハは倒れた青年――ブリットの方へと足速に向かって行く。
軽く検査をしたところ背中を軽く打っただけで問題はなさそうである。

「・・・つ!大丈夫だよ、クスハ。」
「・・・迷いも無く良い太刀筋であった。成長したな、ブリット。」
「ゼンガーさん・・・。」

微笑を浮かべるゼンガーの表情を見ながら笑みを浮かべるブリット。

「・・・お前なら俺と同じ間違いをしないだろう。お前が守ろうとしているその手を離すなよ。」
「は、はい!」

その力強い返事に再び笑みを浮かべ、ゼンガーは退室した。



「伝える事はそれだけで良かったのか?」
「ああ、教える事は何も無いからな」

ゼンガーは後ろを振り向かずにその声の主に話を返す。
その声の主――レーツェルも気にせずに話を聞いていた。

「お前こそライに――お前の弟に何も言わなくて良いのか?」
「フッ。彼には仲間がいるからな。私の役目など何も無い。それに私はレーツェル=ファインシュメッカー。彼の兄では無いのだよ。」
「・・・そう言う事にしとくか。」

少し呆れ交じりのその言葉にレーツェルは微笑を浮かべた。





「キョウスケ。明日の戦い如何なると思う?」

マオ社の住居区内に設置されている酒場の中、キョウスケとエクセレンが酒をたしなんでいた。
中身少なグラスを揺らしながらほろ酔い気分のエクセレンは何となく尋ねる。

「さぁな・・・。だが厳しくなる事位は予想できるな。」
「そう・・・よね。彼らにとってきつい戦いになるわね。」

リュウセイ達とキョウスケ達の違い、それは戦闘経験の多さである。
インスペクター戦線の前線で戦っていたキョウスケ達は戦場での恐怖、そして覚悟が自ずと決まってくる。
しかし最近戦場に出てくる事になったリュウセイ達はその経験が無い為、今までとは違った命を懸けた戦い重さで潰れてしまう可能性が出てくる。
エクセレンはその心配がふと浮かんだのだ。だが・・・

「俺達があいつ等に出来る事などあいつらを信じる事しか出来ないだろう。だったら信じるしかない。お前は信じる事が出来ないのか?」
「そ、そう言う訳ではないけど・・・。」
「だったら信じる事だな。それに俺は・・・・。」
「それに?」
「・・・・いや、何でも無い。」

キョウスケの中でふとよぎった事を振り切りグラスの中に残っていた酒を一気に飲み干す。
その一気飲みが不幸と出たのか頭がクラクラし出す。

「チップは全部賭けた。さて俺の勝ちか、それとも・・・・。」

酔いの回った頭を抑えつつキョウスケは水を一気に飲み干した。






マオ社のとある研究スペースにリュウセイ達、SRXチームがイングラムに報告をしていた。
SRX起動に成功した事、次の出撃で全てが決まる事を・・・

「そうか・・・。起動に成功したか。」
「はい。こんな奇跡、もう二度とあるとは思いませんが・・・。」
「奇跡だろうと起動の成功には変わりはない。おめでとう――と言いたい所だがそんな余裕は無い様だな。」
「明日が決戦と思っただけで俺、震えが止まらなくて・・・。」
「私もよ、リュウ。」

このような決戦場面を殆ど経験した事が無いリュウセイとアヤは緊張しているようであった。
勿論平然を装っているライも・・・。
そんな様子を見たイングラムは微笑し、話し始める。

「・・・お前達なら勝てる。そう信じればこの機体は、SRXは答えてくれる。だから自らの力を信じろ。」
「イングラム・・・さん。分かったぜ!」
「その意気だ。マイも今ヴィレッタの訓練を必死になって頑張っている。お前達は一人ではない。それを忘れるな。」
「応!」「ええ。」

その返事を聞きライとイングラムは再び微笑を浮かべた。






「いよいよ、か。オウカ姉さんやっぱ出てくるんだろうな・・・。」
「そうね。オウカ姉様はシロガネ側に居る。敵である私達を倒しに来るでしょうね。」

クロガネの格納庫で自分の機体の調整をしているアラド、ゼオラ、ラトゥーニは通信機を使いながら話していた。
明日は万全の態勢で望まなければ勝てない――そう思い調整をしていた、

「でも私は・・・アレが本当のオウカ姉様だとは思いたくない。」
「ラト・・・。」
「私達を助けてくれたのは紛れも無くオウカ姉様だった。だからアレは・・・。」

信じたくない、認めたくない。そのような気持ちがラトゥーニの中で渦巻いていた。
助けてくれた筈のオウカは恐らく記憶を操作されている。
それ位は自分でも分かっている。
しかし分かっていても最愛の、最も尊敬している人と戦いたくは無いのだろう。
それも生死をかける戦いに・・・

「俺はオウカ姉さんを信じている。本当の記憶を取り戻す事を。」
「アラド・・・。そうよね。私達が諦めたらそれまでだもんね。」
「本当に戻ると思うの?」
「戻る!いや、戻らせる!!絶対にな!!」

アラドの自信に満ちたその言葉に自然とゼオラ、ラトゥーニの中にも希望が満ちてくる。
またあの幸せな日々が過ごせるかも・・・と。

「明日その答えが分かる。ゼオラ、ラトゥーニ。頑張ろうぜ!」
「ええ。」「うん。」






マオ社のロビーで一人、窓の外を眺めていた。
一面の星空、そして地球が彼女の目に飛び込んでくる。

「如何した?セインの所へ行かなくても良いのか?」
「良いんです。セイ兄も忙しいですから・・・。」

窓の外を眺めていた女性――フィスは振り向きもせずにそう答える。
声をかけた女性――イリスもその様子を気にも留めずに近くにある自販機でコーヒーを2本買う。
そしてその内の1本をフィスに渡す。

「あ、ありがとうございます。」
「いや。・・・無理するのは良くないと思ってね。」

イリスの言葉に図星を突かれたのか、少し驚いた表情をするフィス。
その様子など気にせずにイリスはコーヒーを一口、口に含む。

「何故分かったんですか?私ってそんなに分かり易いですか。」
「逆に分かり難い。故に分かったってのもあるな。」
「如何言う事ですか?」
「私もフィスと同じって事だ。明日に不安を持っている点がね。」
「イリスさんも・・・ですか。」
「ああ、私には記憶が無いからなのだがな。」

フィスは貰ったコーヒーを開け、イリスの横に座る。
イリスの表情は少し悲しげではあったがフィスは気にしないで置く事にした。

「私は今まで記憶の為に生きてきた。例え汚い仕事でも記憶が戻るなら、そう思って。でも今回は違うんだ。」
「生きる為・・・ですね。」

イリスは素直に頷く。

「今まで生きる事なんて二の次だったかこれから如何すれば良いのか分からないんだ。何を何の為に如何すれば良いのかさえ分からなくなって来る。」
「・・・・・・そうですね。私も未だにそうですよ。何の為に戦うのか分からない。ただ親が、セイ兄が戦っているから・・・ですから。」

確かにこの世界を守りたいと言う気持ちはある。
だが自分にとっての戦う理由が二人とも見つからない。

「・・・だったら明日見つけませんか?」
「何をだ。」
「戦う理由をです。きっと見つかりますよ。私達より後に戦っている彼等が持っているんです。だからきっと・・・。」
「・・・そうだな。」

そう言って二人とも窓の外を見る。
一面の星と地球が二人を祝福しているかのように輝いていた。





「この戦いで少なからずとも平和が訪れるのか。一時的ではあるが・・・。」

セインは自分の機体、スレイヤーの機体調整をしていた。
ミカエル戦時にコックピットが破損した為、そう取替えとなったコックピット周りを自分の好きな様にカスタムしていく。

「まだ話さなくても良いよな。母さん・・・。」

コンソールを動かしながら呟いたその表情は何やら悲しげではあった。
自分の死期を知っている・・・様な。

「明日は如何出るか・・・FATES。」

その言葉と同時に設定を終了し、スレイヤーのコックピットから出て行く。
そして装備を確認し、格納庫から出て行った。


そして夜が明け始めた・・・・。


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