青き天体研究所

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第四十二話  散る命


性能の差が大きい為か、白い方が若干劣勢をきしているようである。

「オルァ!T-Linkナッコォォォ!!」
『そんな攻撃、食らうかよ!ジェットプラズマステーク!!』


白い機体の拳と黒い機体の拳がぶつかり合い激しいスパーク音が鳴り響く。
拳と拳がぶつかり合ったところから小さい爆発が起き、一瞬にして煙が立ち込める。
その隙をつき、白い機体はその場から少し後退した。
「くそッ!あの機体、今までのもんとは比べもんにならねぇぞ!?質量的にもR-1じゃ力負けしちまう・・・」
白い機体――R-1――のパイロット、リュウセイは戦っている黒い機体を見ながら舌打ちを打った。
黒い機体はR-1と比べて倍近く大きい上、出力まで高いのである。
更に乗っているパイロットがパイロットだけにこれほど面倒臭い敵機はいないだろう。

『何処に消えやがった!あの変態野郎!!』

噂をすれば・・・と言うのだろうか。
小爆発に紛れて離れた事を今頃になって気付いたのだろう。
リュウセイは再び舌打ちをし、R-1をRウイングに変形させる。
そして・・・。

「テンザン!」
『見つけたぜ、変態野郎!』

Rウイングは黒い機体に近づきながら、装備されているバルカンを撃ち続ける。
黒い機体は回避する必要も無いと言うかように右腕を盾にする。

「いくぜR-1!破を念じて刃となれ!」

R-1に戻り両手を広げた中央部にエネルギーが収縮され、そのエネルギーが両刃剣ねような形になる。
そしてその両刃剣を黒い機体に投げつける。
テンザンの反応が少し遅かった為、その両刃剣は盾にしていた右腕に当たり、中爆発が起きる。

『!?き、貴様ァ!』

黒い機体は右腕を使って腰部に付いていたビームランチャーを取り出し乱射する。
ダメージが無い事を知り、R-1は発射されたビームを軽やかに避け始める。

(チッ。武装も装甲も、か。どうする、俺)

今の武装では太刀打ち出来ない・・・。

その焦りの表情が隠す事を忘れ、打開策を再び考える。
既にR-1の持つあらゆる手段を用いて攻撃しているがダメージを与えた様子も無く、黒い機体は反撃してくる。
今までこのような状態に陥った事の無いリュウセイに恐怖の念が積もってくる。

『貰った!これで仕舞いだ!!』
「!?」


気付いた時には遅かった。
いつの間にかかなり接近しており、黒い機体の拳がR-1のコックピット部に向かって振り下ろした。
やられる――そう思った次の瞬間、見覚えのある黄色い光りがその拳を撃ち抜いた。
何が起こったのか分からないリュウセイと黒い機体のパイロット、テンザンは呆然としていた。

「どうやら間に合ったようだな。大丈夫か、リュウセイ。」

聞き覚えのある声を聞き、はっとなったリュウセイは後ろを振り向いた。
そこにはハイゾルランチャーを構えっぱなしのR-2パワードとR-3パワードが居たのだ。

「ライ・・・か。大丈夫だ。」
「全く、少しはこちらの身にもなったらどうだ?」
「済まないって。」
「謝るのは後にして。来るわ!」

アヤの声を聞き、目線を黒い機体の方に戻す。
黒い機体のパイロット、テンザンはR-2パワードが撃ち抜いた拳を見ながら笑っているようである。

『最高だ・・・最高だぜ、この展開!こうでなくちゃ面白くねぇぜ!』
「テンザン!貴様、まだそんな感覚で・・・」
『当然だろ?俺にとっちゃあこれはゲームなんだ!?・・・・』
「・・・・・・?」

急に黙り始めたテンザンに不信感を抱く三人。
そして一、二分が経過したとき、テンザンに急激な変化が生じた。

『グフフ・・・・・・ギャハハハハ!!コワセ・・・コワセ・・・』
「な、何だ!?いきなり!」
「この症状・・・・・・まさか!?」
「リュウ、危ない!」
「なっ!?」

アヤの声を聞き、正面を向いた時には遅かった。
豹変したテンザンを乗せた黒い機体は今までとは比べものにならない程の早さで攻撃を仕掛けてきたのだ。
その早さに反応出来ず、R-1は重い一撃を食らう。

「かは・・・・・・」
「リュウ!?ストライクシールド、展開。リュウを守って!」

R-3パワードによって展開されたストライクシールドはR-1を援護するように黒い機体に攻撃を開始する。
だがその早さに付いていけず、全てが空を切った。

「なんて早さなの?大丈夫、リュウ。」
「な、なんとかな。念動力による防衛反応か・・・・・・上手く働いてくれて助かったぜ。それより何だよ、あれは!?」

今まで戦っていたリュウセイはテンザンの豹変に驚きが隠せないでいた。
以前の時と、全てに置いて比べものにならない位動きが良いのだ。
それに加え、あの言動、明らかに異常なのだ。

「・・・・・・テムだ。」
「ん?ライ、何か言ったか?」

今まで沈黙を保っていたライの口が開いたのに気付き、二人とも尋ねる。

「ゲイムシステムだ。マン-マシンインターフェイス――分かりやすく言うと補助プログラムの一つで、搭乗者の基礎的な運動能力、反射神経等を向上させる物だ。」
「聞いた事があるわ。確かインスペクター戦線時に実用化しようとしていたものだって。とある事が理由で開発中になったって聞いたけど・・・・・・」
「中止になって当たり前だ!ゲイムシステムは基礎的な運動能力、反射神経等を向上させる代わりに、その搭乗者の人格、精神を破壊し戦闘マシンにしてしまうのだからな!!」
「な、何だって!?」

ライの口から語られた事に驚きを隠せないリュウセイとアヤ。
二人の様子等気にしないかの様にライの話は続けられる。

「インスペクター戦線終結後、ゲイムシステムを開発していた科学者等は連合に逮捕されたんだが、どうやら奴等がその開発を促進させたんだろう。」
「FATESね。」
「恐らく。そして、ゲイムシステムを完成させる為にモルモットになっていたのはスクールのメンバーだろうな。まぁそこら辺は憶測に過ぎないが・・・・・・」
「糞が!人間を何だと思っていやがる!」
「さぁな。兎に角、さっさとケリを付けないととマズイと言うことだ。」

そうこう話している間も黒い機体は攻撃を仕掛けて来ているのだ。
何とか紙一重で回避し、反撃するもののその反撃は簡単に回避されてしまう。
1対3と言う有利な状況でも危うい状況になっているのだ。

「なぁ、ライ。・・・・・・システムを壊せば元に戻るの可能性はあるのか?」
「さぁな。被験者で精神力の強い者なら呑まれず何とかなったとは思うが、恐らくもぅ・・・・・・。」
「そうか・・・・・・。んとに馬鹿な奴だぜ。」
「リュウ・・・・・・」

リュウセイの悲しそうな声を聞き、思わずリュウセイの名を口に出してしまう。
そしてリュウセイは何かを決意したかの様に正面を向いた。

「ライ、アヤ!ヴァリアブルフォーメーションだ!SRXで一気にケリを着ける!!」
「・・・・・・了解だ。良いのか?」
「ああ・・・・・・。」

重々しく言った言葉には何やら決意が込められている感じがする。
その重さを理解したのか、ライとアヤはリュウセイの判断を信用する事にした。

「分かったわ。・・・・・・T-Link、フルコンタクト!」

アヤのその一言からR-1、R-2パワード、R-3パワードは次々と変形していく。
R-1、R-2パワードの接続が完了し、上半身部が完成する。
R-3パワードは下半身部に変形し、後は上半身部と接続するのみとなったその時である。
黒い機体はこれを狙わんが如く、変形したR-3パワードに向かって攻撃を仕掛けてきたのだ。

『コワセ・・・コワセェェ!!』
「させるかよ!!」


リュウセイは完成していた上半身部のみでハイフィンガーランチャーを黒い機体に向かって発射した。
予想外の行動に黒い機体は勿論、ライとアヤも驚きを隠せない。
そのミサイルは何発か黒い機体に直撃したが、あまり効果は無い様に見える。

「アヤ、今の内だ!」
「え、えぇ・・・・・・。」

我に帰ったアヤはすぐに上半身部との合体を急ぐ。
何とか接続完了し、その鋼の姿を現した。

「ライ、トロニウムエンジンの状態は?」
「好調だ。いつでも行けるぞ!」
「アヤは?」
「私の事は気にしないで!大丈夫だから!」
「良し、一気にケリを着ける!ライ、牽制を頼む!!」
「了解だ。ハイフィンガーランチャー、ガウンジェノサイダー、一斉発射!」

SRXに装備されていたミサイル等を黒い機体に一気に発射する。
その数の多さから幾つかのミサイルは互いにぶつかり合って爆発してしまう。
しかし黒い機体の動きを止めるには充分であった。
黒い機体の辺りに煙が立ち込める。
そこに真っ直ぐと突き進んでいくSRXの姿があった。
その手にはトロニウムエンジンで出たエネルギーをT-Linkシステムで固めた両刃剣、Z・Oソードの姿も・・・・・・。

「これで、仕舞いだ!天上!天下ァァァ・・・・・・」

黒い機体が気付いた時には既にSRXは至近距離におり、Z・Oソードが振り下ろされようしていた。
そして・・・・・・。

「念動爆砕剣!!」

Z・Oソードが振り下ろされ、黒い機体が一刀両断される。
その瞬間、黒い機体から声が聞こえてきた。

『そ、そうだ。今日は・・・・・・バーニングPTの決勝戦じゃ・・・・・・ねぇか・・・・・・』
「えっ?何を・・・・・・」
『早く帰って・・・・・・カスタムしねぇと・・・・・・』
「これは・・・・・・」
「恐らくゲイムシステムが破壊された事で記憶が退行しているのだろう。」
「だからって何で一年前の事を・・・・・・」

テンザンが先程から呟いている事、それは一年前に行われていたバーニングPTの大会の事だろう。
ちなみにテンザンその大会に出場していないのだが・・・・・・。
テンザンの言葉はまだ終わらない。

『これなら・・・・・・優勝に、違いな・・・・・・ギャハハハ、ハ・・・・・・』

その言葉を言い終えた後、黒い機体は爆散してしまった。
通信機には今だにテンザンの笑い声が響いてくるような気がした。

「馬鹿だよ、アイツは・・・・・・ゲームと現実を混ぜたまま戦って、利用されて、死ぬなんて・・・・・・。」
「リュウ・・・・・・。」

爆散した後の残骸を見て、リュウセイはぼそりと呟く。
目には涙が流れていたが、ヘルメットの逆光てそれが確認できない。

「この、馬鹿野郎が!!」

今まで溜めていた物を一気に吐き出すかの様に叫ぶ。
その声は無限に広がる漆黒の闇に吸い込まれていく。





『報告を聞いて耳を疑ってはいたが・・・・・・なるほど、これなら天使級ごときには荷が重かったみたいだな。』
「だ、誰だ!?」
突如、沈黙を保っていた空間から若い男の声が聞こえてきたのだ。
その声に戸惑うリュウセイ達。

『誰だ、か?そんな事を聞かれたのは何百いや、何千年ぶりかな。俺の名はマルス。貴様等の言うFATESの戦神をやっている。つまり、神様だ。』

マルス――ローマ神話にて戦いの神として登場する人物の名である。
真偽は兎に角、彼から放たれる威圧は間違いなく本物であった。

『それよりも、だ。俺は貴様等多少ながら興味がある。手合わせ頂こうか。』
「上等じゃねぇか!神級の実力とやらを見せてもらうぜ!!」
「リ、リュウセイ!?何を言っている!ここは撤退した方が・・・・・・」
「出来るならしているさ。だがさせてくれないだろうよ!」
『ほぅ。良く分かっているな、人間。』

声と同時に姿が一瞬消え、SRXの至近距離に現れる。
その早さに驚きつつも、すぐにガウンジェノサイダーを発射し、反撃する。
しかしダウンジェノサイダーはその早さに付いていけず、漆黒の空間を突き進んでいくだけだった。

『なかなか良い反応だ。だがそれだけでは勝てん!』
「ほざけ!ドミニオンボール、食らいやがれ!!」

突如胸部が開き幾つかの球体をマルスに当てにいく。
その攻撃を見切っていたのかマルスは何事も無かったかの様にその球体を回避する。
しかし回避した筈のマルスに衝撃が走った。

『くっ・・・・・・。何!?』
「人間を・・・・・・なめんじゃねぇ!」

マルスに衝撃を与えたもの、それはSRXのブレードキックであった。
戦略としては先程戦ったテンザン機――黒い機体にやったものと同じである。
ただ牽制に使ったものが違うだけで・・・・・・。

衝撃が強かったのか、マルスに少しの隙が出来た。
もちろん、その隙を逃さない。
再び胸部が展開し、柄のような物を出し、それを強く握る。

「天上天下ぁぁぁ念動爆砕剣!!」

黒い機体に食らわせた太刀を間髪無しに一閃する。
その太刀はマルスの左肩に直撃し、爆発を起こした。
その爆発を見てリュウセイ達に少し笑みが零れる。
これなら倒せる――その言葉が脳裏に浮かんだからである。
次の瞬間までは・・・・・・。

『フフフ・・・・・・フハハハハ!素晴らしい。素晴らしすぎるぞ、貴様等!まさか俺にダメージを、しかも左肩を持っていかれるとはな!!』
「笑っているだと!?仮にも機体の一部を持って行かれたのだぞ!」

普通の考えからすればこの状況はリュウセイ達、SRXに有利であるはず。
しかしその笑い声から何故か恐怖の念が吹き付けてくる。

『貴様等みたいのが天使級に入ってくれれば良いのだがな。誘ったところで無駄だろうな・・・・・・。残念だが・・・』

話している途中でマルスの姿が一瞬にしていなくなってしまう。
そして・・・・・・

『・・・ここで死んで貰う!』

SRXの後ろの方からマルスの声が聞こえるのと同時に、SRXの両腕と両足が一瞬で破壊されてしまった。

「くっ!?いつの間に!」
『貴様等には見切れまい。人間の反射神経等、たかが知れているしな!』

話している最中でもSRXは現在出来る限りの攻撃をマルスにぶつけようとする。
しかしその攻撃は全て外れてしまう。

『これで・・・・・・チェックメイトだ。』

マルスの言葉と同時にSRXの武装が全て破壊された。
一瞬の出来事故にリュウセイ達に衝撃と言う衝撃は全く来ない。
つまり綺麗に、そしてピンポイントで破壊されている事を意味していた。

「・・・・・・全ての武装、完全に停止した。」
「T-Linkシステムで何とか現状維持出来ているけど、もうこれ以上は・・・・・・」

先程とは一転して、まさに絶望的な状況である。
戦う事はもちろん、動く事すら出来ない状態に一瞬にしてされてしまったのだ。
自分の安易な考えをしていた事に対して下唇を噛み締める。

『さて、そろそろ止めといきたい所だがちょっと聞きたい事がある。』
「何だ?俺はそんな事を聞いている暇があったら、さっさと止めを刺した方が良いと思うがな。」
『そうは言うな。すぐ終わる・・・』

もちろんこれは本心ではない。
少しでも時間を延ばす行動をして、打開策を考える為である。
打開策を考えながらマルスの話を聞く。

『お前、俺の攻撃に反応出来ていたな。何故反応出来た?貴様等では見切れるスピードではなかった筈だが・・・』
「さぁな。ただお前が攻撃を仕掛けてくる場所を感じただけだ。理由は知らねぇがな!」
『感じただけ、だと!?そんな馬鹿な話が・・・・』

思いがけない返事にマルスは驚きを隠せない。
敵の攻撃を察知出来るものなど、存在する筈が無いからである。
しかしこの機体のパイロット――リュウセイはそれを成し遂げた。
自分が知りうる中でそのような事が出来る存在は・・・・・・

『・・・そうか。そう言う事か!ただの念動者だと思ったら、まさかサイコドライバーだとはな!!』
「な、何を言っているんだ?サイコドライバーってのはお前の言う念動力を使える者の総称ではないのか?」
『破神の青年から本当の意味を教えて貰っていないのか?なるほどな・・・破神としてまだ覚醒をしていない、と言う訳か。』

破神、恐らくセインの事を指すのだろう。
だがそんな事よりサイコドライバーの本当の意味と言うものに興味を示す。

「サイコドライバーの本当の意味?如何言う事だ!?」
『死に行く貴様等には関係の無い事だ。では行くぞ・・・』

そう言ってマルスの背中から漆黒の翼が2対出現する。
そして出現した翼にエネルギーを溜め、協力な一撃を放つ準備に取り掛かった。
その一撃まで少し時間がある――本能的にそう感じたリュウセイはライとアヤに尋ねる。

「ライ、アヤ。SRXを解除したらR-2パワードとR-3パワードは如何なる?」
「いきなり何を・・・。」
「良いから!早く!!」
「・・・・・・壊された部分がプラスパーツの部分のみだったから基本的には動く事は可能だ。しかし武装が破壊されている事もあって戦う事は出来ないが・・・。」
「それに出力もかなり低下しているから、逃げるとしても逃げられるかどうかは・・・。」

簡単に言えば逃げる事は厳しいと言う事だ。
SRXの装甲となっている為、R-2パワード、R-3パワードにかなりの損害が残っているのである。
このまま逃げる事はほぼ不可能と言う事である――ある事をする以外・・・。

「・・・・・・やるしかないか」
「リュウセイ、何を考えている!?」

リュウセイの顔が何か覚悟を決めたような表情になる。
そして・・・・・・

「済まねぇな。俺、こんな方法しか思い付かねぇや。」

突然SRXの状態を解除され、R-1、R-2パワード、R-3パワードへと分離していく。
マルスもその行動に少し驚きはしたが、特に障害は無いと思いエネルギーを溜め続ける。

「リュウセイ?もしかして、貴方・・・・・・」
「・・・・・・じゃあな。」
「まさか・・・ 止めろ!!

ライがそう言った時には遅かった。
R-1はRウイングに変形し、マルスの下へ突撃し取り付く。

『ほぅ?何の真似だ?』
「何の真似だぁ?決まっているだろうが!こうするんだよ!!」

そう言ってR-1の拳に今までとは比にならないほどのエネルギーが収縮される。
そのエネルギーの量に少し焦り始めるマルス。

『そのエネルギー量・・・貴様!?一体何を・・・・・・』
「この最大限まで高めたT-Linkナックルをお前がエネルギーを溜めている所にぶつけるとどうなるだろうな?」
『まさか・・・貴様、正気か!?そんな事をすれば貴様は・・・』
「んな事は百も承知だ!食らえ、T-Link・・・」
『止めろ!!』
「ナッコォォォォ!!」

R-1の形容量を超えた拳がマルスの溜めていたエネルギーの塊を抉り込む。
その拳が導火線だったかのように突然、マルスから小さな爆発が起き始めた。
それがリュウセイの狙いの一つであった。
急激に溜められていたエネルギーをT-Linkナックルを使って抉る事によってそのエネルギーが暴走し、次々と反応と爆発を繰り返していく。
そして最後には反応しあったエネルギーがその形容量を超え、マルスをも破壊するような爆発が起きる。
そうすれば例え高速を超えるスピードで動く事の出来るマルスとて倒す事が出来るのである。
しかしどれ位の規模で爆発が起きるのか分からない今、R-1がマルスの至近距離にいる事はつまり・・・・。

「ハァァァァァァァァ!!これで、仕舞いだ~!!」

R-1の拳がマルスの翼を貫いた。
その貫いたのと同時についに・・・・・・・

マルスを中心にして真っ白い閃光が発光する。
その光りと同時に半径1キロは越える爆発がこの地域一帯に広がっていった。

「くぅぅぅぅぅぅぅ・・・。」
「キャァァァァァァ・・・!」

その衝撃はその爆発の範囲外に居たR-2パワードとR-3パワードにも届いた。
眩い光りが辺りを包み込み、マルスとR-1の姿が見えなくなってしまう。







数分後、その光りが収まりマルスが居たと思われる所には黒い煙が立ち込めていた。
衝撃に何とか耐え切ったライとアヤはすぐにR-1の、リュウセイの生存の確認を行う。
はっきり言ってリュウセイの生存は皆無であろう。
だが生きている事を信じたかったのだ。
確認をしている内に黒い煙が段々と晴れていく。
完全に晴れきった瞬間、ライとアヤに後頭部を殴られたような衝撃に襲われる。
そこには腕がもがかれ、片足が無くなっているマルスの姿があったからだ。

『はぁ・・・・はぁ・・・・流石に焦りを感じたぞ。まさかあのような行為に出るとはな・・・』
「貴様、まだ生きて・・・」
『当然だ。ほんの一瞬でもフィールドを形成しなければ、あの白い機体と同じ目にあっていたがな。』
「じゃ、じゃあ。リュウセイはもう・・・・・・」
『その通りだ。残念だったな、俺を倒せなくて。』

マルスのその一言を聞き、ライとアヤは絶望を感じてしまった。
信じていたものが脆くも崩れ去る音が聞こえ始める。
その絶望感に浸っている中、マルスが意外な一言を口に出した。

『あの白い機体に免じて貴様等は見逃してやる。何処へでも行くが良い。』
「えっ?貴様、何を言って・・・・・・」
『見逃してやると言ったんだ。貴様等との戦闘で思ったよりも良い収穫を得たものでな。』

そう言ってマルスは一瞬にして消えてしまった。
無数に散らばるR-1――の装甲と思われる物――がR-2パワードとR-3パワードの周りに漂う。

「・・・・・・・・・・・」

静かになってしまった漆黒の空間をライとアヤはしばらくの間、呆然とするしかなかった。
それは見逃して貰ったと言う事より、たった一人の仲間を失ってしまったと言う事を認めたくなかったからかもしれない。
仲間を失ってしまったと言う真実がのしかかり、アヤの目には一筋の涙が零れる。
そしてライはただ、唇を噛み締める事しか出来なかった。


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