青き天体研究所

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第三話  銀の流星


ここで女性が一人、誰かを待っているかのように壁に寄り掛かっていた。
ショートパンツにお腹が見えてしまう位短いランニング、その上に半袖の上着を着ており、その露出が高めの服で通り掛かる人の目を少し釘漬けにしていた。
しかしそんな事に興味が無いのか女性は終始目をつむったままであった。

「お待たせ~アイビス!」
「………」

アイビスと呼ばれた女性は目を開け、声のする方を向く。
そこには眼鏡をかけたポニーテールの髪形をした女性が居た。
服装はアイビスよりは露出は低いようたが、少々胸を強調するような服装だった。
アイビスはその女性と面識があるのか警戒心を解き女性に話しかけた。

「遅かったじゃない。何故したの?」
「ハァ、ハァ…。ちょっと、ね。」

走って来た女性は疲れたのか、息を整えるのにしばらく時間が掛かっていた。
それを見たアイビスは近くにあった販売機から飲み物を二本買い、息を切らしている女性に渡した。

「ハァ、ハァ…。ありがとう、アイビス。」
「お礼なんて良いよ。それよりツグミ、仕事はあった?」

ツグミと呼ばれた女性は息を整えながら何度も頷いた。
実はこの二人は個人的な"運び屋"なる仕事を生活の生業としている。
仕事が良く、そっちの方面ではかなり有名な存在になっているようだが、本人達は気にもかけていないようであるが……。

「もうバッチリ!ただちょっと、ね……」
「何故したの?」
「宛先が『謎の美食家』としか書かれていないの。妖しさ抜群なんだけど収入が大きいのよ。嫌だったら断るけど何故する?」
「ツグミに任せるよ。私は運ぶだけしか出来ないからね。」
「そう………じゃあ引き受ける事にするよ。」
「分かったわ。じぁあ私は先にシャトルの方に行ってるよ。」
「了解!私は荷物を取りに行くからまた少し待っててね。では!」
「って、ちょっとツグミ!少し休んでいったら……」

とアイビスが言おうとした時には既に遅く、ツグミは遥か前方を走っていた。
ツグミの行動力に呆気に取られながら、アイビスは再び販売機で飲み物を一本買う。
そしてその飲み物を持ったままシャトルへと向かった。




数分後、完全に疲れ切ったツグミと共に積み荷が届いた。
アーマードモジュールやパーソナルトルーパーが入りそうな位大きなコンテナが四つ。
その他に小さめのコンテナが幾つかがあった。
アイビスはツグミが休んでいる間、その積み荷を全てシャトルに積込み出発出来る準備を整える。

「大丈夫?」
「平気平気。アイビスが積み込んでいる最中、ずっと休んでたからね。」
「そう……じゃあ行こうか。」
「了解!」

そう言ってツグミはシャトルのコンソールを動かし外へと繋がるハッチを開いた。
そしてシャトルを動かし、外へと飛び出していった。



「それにしても今回の依頼人、何でアレをこんな形で運ぶなんてね~。」
「……また届ける品物をのぞき見したの。」

ツグミがふと思い出したかのようにコンテナの中身について話し始めた。
アイビスはツグミのその行動に呆れながら呟く。
その言葉に対して少々怒り気味で、

「失敬な!私はただ、荷物が危険物で無いかを確認したまでよ!」
「はいはい。で中身は何だったの?」
「それは依頼人に届けるまでの秘密ね♪」
「…………」

少し溜め息をつき運転の方に集中しだした。
自分から振っておきながらそれは無いだろう、と思いながら……。
少し文句を言葉を胸に秘めながら運転していると、ツグミが何かを思い出したかのように呟いた。

「アイビスの腕も上がったよね。もしかしたら昔よ「そんな事無い!」」

ツグミの言おうとした事を遮るかのようにアイビスが叫んだ。その声はシャトル中に響く。

「そんな事無い……私にはこのシャトルがお似合いなんだよ……」
「アイビス……」

彼女に何を言って良いのか分からなかったツグミは名前だけを呟いた。
慰めの一言も思いつかない自分に歯痒さを感じながら……。




とある宇宙の宙域で漆黒色に塗られたタウゼンフォスラーの姿があった。
宇宙と同型色である為、ぱっと見良く分からない。
その漆黒のタウゼンフォスラーの中で一人考え事をしている男性が居た。

(……)
「何故したんですか?何やら考え事をしているみたいですけど。」

その声に反応し、男性は声の方に振り返る。
そこには14歳位の子が立っていた。
声からして女の子である事が分かる。

「……友からちょっとした連絡があってな。済まないが予定を変更し今から向こうに接触する事にする。」
「別に構いませんが何かあったんですか?」
「いや、予感と言う奴だ。不確定な事なんで済まないな。」

そう言って男性は申し訳なさそうに言う。
そんな事等気にしていないかのように少女はドアの方へと振り返った。

「別に構いませんよ。では準備を開始しますので、では…」

そう言って少女は出撃の準備の為に外へ出て行った。






数十分後、アイビスとツグミは指定の場所へと到着しようとしていた。
辺りが岩礁宙域となり、辺りに邪魔な岩が行く手を遮る。
だがそれにも関わらず目的地へと進んで行く。

「あともう少しで到着よ。頑張ってね、アイビス。」
「……」

アイビスの腕を信じている為かツグミは安心してナビゲーションを行う。
だがパイロットであるアイビスは岩礁に当たらない様にと細心の注意を払って運転していた。
自分の腕では岩礁宙域を抜けられないのではと言う不安に駆られていたからだ。
何とかその宙域を脱し、安心しきったその時だった。
シャトルの近くにあった岩礁が爆発を起こし破壊されたのだ。
突然起こった事故にパニックを起きる。

「な、何これ!?」
「ミサイル、又はビーム兵器での攻撃!?そんな、誰が……」

また近くにあった岩礁が爆発、破壊されその破片がシャトルにぶつかる。
ぶつかった衝撃でシャトルが傷付き激しく揺れを起こす。

「キャ!……もう誰なの、この攻撃は!私達、人に怨まれるような事した?」
「さぁね。でも攻撃しているのが人じゃ無いんじゃあ仕方が無いよ。」
「えっ?」

アイビスの言葉が気になったツグミは揺れるシャトルの中何とか立ち上がる。
そしてシャトルに付属されている粗末なモニターを確認した。

「……嘘。何で、何でバクスがこの宙域に居るの!だってバクスはインスペクターが使っていたものなのよ!!」

ツグミが驚くのも無理も無かった。
ある筈の無い兵器がここに、しかもこちらヘ攻撃してきているのだ。
驚かない方がおかしい。
だがアイビスは驚く様子も無くシャトルの運転を――いや、驚く暇が無く必死で攻撃を受けないように運転していた。
そのお陰で何とか直撃せずに済んでいるが、時間の問題だった。

「こうなったら……。アイビス!シャトルの運転を固定してこっちに来て!!」
「えっ?でもそっちは積み荷が……」

アイビスの言う通り、ツグミは積み荷のコンテナが収容されている部屋へ手招きしていた。
だがツグミのただならぬ気迫に圧倒され、渋々付いて行くことにした。
部屋の中に入るとツグミがとあるコンテナを開け、中へと入って行く。
それを見たアイビス流石に焦り、声を上げる。

「何やっているの!?それは運んでいる品物なんだよ!」
「この場合仕方が無いわ。それにこれは…あなた以外動かせないもの。」
「?一体何を言って……」

尋ねようとした瞬間シャトルが大きな揺れが起こり、小規模な爆発が発生した。
恐らく重要な部分が披弾したのだろう。
いずれにしてもこのシャトルが爆発するのも時間の問題だった。

「くっ…!怒られても知らないからね!!」

そう捨て台詞を吐くとツグミが入って行ったコンテナの中へと向かった。
その中に入るとそこにはアーマードモジュールより一回り位小さい機動兵器らしき物体があった。
それを見たアイビスは困惑した為か、ただ呆然とするしか無かった。

「何やってるの!?早くコックピットに!」
「…う、うん。」

ツグミの声でハッとなり、すぐにコックピットへと向かい乗り込んだ。
そして次の瞬間、シャトルは爆発してした。







(任務……完了……)

バクスのはるか後方に居た謎の機体のパイロットがそう呟いた。
機体は騎士、と言うより闘士のような姿をしていた。
これまでの成り立ちを見下すように構えており、冷酷な目でその成り立ちを見ていた。

(……いや、まだか。そして終わったな。)

そう思い闘士の機体が後退した瞬間、何処からか爆発音が聞こえた。






爆発音はシャトルからばらまかれたある一つのコンテナから起きた。
コンテナが破壊された事により辺りに煙が立ち込める。
そしてその中から突然、物凄いスピードで駆け抜けていく影があった。
バクスはその影を追い掛け攻撃を仕掛けるが、その攻撃全てが空を切ってしまう。
そしてバクスから300メートル離れたところで現れた影は停止し、その姿を表した。
それは白銀のアーマードモジュールだった。
リオンシリーズだと思われる形をしているが今まで見た事の無い姿である。

「これは……」
「シリーズ77。と言えば分かるよね。」
「!?じゃあこれが。」
「そう…。でも話は後!今は目の前の。」
「う、うん!」

そう言ってアイビスは目の前の事に集中する事にした。
目の前にいるバクスの数は四体。
他にも伏兵は必ず居ると思うが今は関係無い。
スロットルを一気に上げ、先ずは近くに居る二体に突撃する。

「食らえ…。」

アルテリオンの両腕からビーム状の剣―ソニックセイバー―が出現し、加速を利用した斬撃が二体のバクスに襲い掛かる。

一閃、爆発。

斬られたバクスは爆発を起こし砕け散る。

「後二体…これで!」

そう言ってアルテリオンに装備されている武器の一つであるミサイル―CTM-02スピキュール―の発射準備をする。
ツグミのサポートにより速やかにロックオンされる。
それを確認しすぐに二発発射した。
ロックオンされたCTM-02スピキュールはバクスの攻撃を抜け、CTM-02スピキュールはバクスに直撃し爆散する。

「アイビス。敵の反応が消えたわ。今の内に…」
「うん、分かっt「!?いや。待って!来る!!」」
「えっ!?」

ツグミの声で気付いた時には既に遅かった。
アルテリオンに向かって多数のビームが向かって来たのだ。
恐らくバクス四体を犠牲にしてアルテリオンを確実に破壊する作戦を取ったのだろう。
その事に今気付いたアイビスは舌打ちをするが、回避運動する暇も無いので成す術が無かった。
もう駄目――アイビスが諦めかけたその時だった。
アルテリオンは突然回避運動を起こし全ての攻撃を回避しだした。
勝手に動いた為驚きを隠せないアイビス。
一体何故――答はすぐに分かった。

「緊急回避プログラム起動完了……。何とか間に合ったわね。」
「ツグミ。助かったよ…。」
「いえいえ。それよりアイビス!」
「うん!」

ツグミの言った緊急回避プログラム。
その名の通り、パイロットが反応出来ないような緊急時の時に使用されるプログラムである。
本来は小型の船―タウゼンフォスラー―等に装備されているものなのだが、兎に角今は目の前の事に集中する事が大切である。
ビームが飛んで来た方向を考えると恐らくアルテリオンを中心に囲まれている事は明らかだった。
何とかせねば…。
その時何処からか通信が入った。

『今すぐそこから退きたまえ!』
「えっ!?」

その言葉意味が一瞬分からなかったアイビスは混乱を起こしてしまう。
だがツグミは違っていた。
ツグミはすぐに周りを囲んでいるバクスの穴を探し、見つける。
そして……。

「アイビス!」
「クッ。でも!」

抜けられる訳が無い。
そう思っていた時、アルテリオンがシャトルのような型へと変形したのである。
恐らく、いや確実にツグミがした事だと思うが、今は抜ける事の方が重要だ。
アイビスは変形したアルテリオンのテスラドライブをフルドライブさせ一気にバクスの群れから抜けていく。
そして抜けた次の瞬間だった。

『発射ァ!!』

その声と同時に物凄いエネルギーのビームがアルテリオンの横を抜け、バクスの群れへと直撃した。
そのビームに当たったバクスの群れは徐々に装甲が剥がれ始め、数十秒後には消滅してしまった。

「す、凄い…」

思わず感嘆を漏らすアイビス。
ツグミに関しては何を言って良いのか分からない様である。

『…何故やら司令機は破壊出来なかった様だ。済まないが後は頼む。』
『了解です。』

通信から先程の声と聞き覚えの無い女の子の声が聞こえてくる。
ほぼ同時に通り過ぎていく三体のパーソナルトルーパー。
何処かで見た事があるような…。
そんな事を思っていると通信から再び声が聞こえて来た。

『何故やら無事の様だな。』
「貴方達は一体…。」
『君達が運んでいた品物の引き取りに来た者、と言えば分かるかな?』
「じゃああんたが。」
『ふ。その通りだ。』

その言葉と同時にアルテリオンの傍に黒いパーソナルトルーパー現れた。
恐らくヒュッケバインMk-3だと思われるが、何分黒い為ちゃんと確認する事が出来なかった。

『私の名はレーツェル=ファインシュメッカー。以後宜しく頼む。』

その紹介が終わったと同時に遠くから爆発音が聞こえて来た。

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