君の世界が終わるまで

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一護の受難【X'mas篇】

【一護の受難~X'mas篇~】

一年最後の一週間と言えばどの国もどの家も年賀状やら大掃除やらで忙しいことこの上ない。
しかも今年はクリスマスが12月最後の週に来ているものだから更に忙しい一週間であることは間違いないはずだ。
しかしソウルソサエティはどうだろう?
幾ら死者の世界と言えど季節はあったし暦の概念も現世と同じだった。
ただ彼らは海外の風習をあまり知らない。
そう、思ってた。
クリスマスなんて知らないンだと思ってた、一護は。

「ハッピーメリークリスマ~ス♪」

陽気な声で心底楽しそうな笑顔を浮かべて一護を迎えたのは自他共に宴会大好きで知られる十番隊副隊長の松本乱菊。
彼女は片手に一升瓶を持ち片手に枡を持って頭には尖がりが力なく垂れた赤い帽子を被って一護に飛びついてきた。垂れた尖がりの先には白いボンボンが付いている。

「うぉあっ!乱菊さん!いつもいきなり抱きついてくンなって――・・・何?今なんつった?」
「メリークリスマスよメリークリスマス!」

乱菊が一護から離れて背後に回って一升瓶と枡を持ったまま前に進むようグイグイ背中を押す。
強引に連れて来られた部屋には見るも華やかな女性死神協会の面々が居た。
ただし、何とも異様な風体で、だ。

「良く来たな、一護。」
「いっちー!」

一番に一護へ声をかけたのは他でもないルキアとやちるだ。
ルキアもやちるも、いや、そこにいる全員・・いや、乱菊だけは死覇装のままだ・・が赤い服装をしている。

「あの、えっと、聞いて良いか?・・・何だ?その格好。」

一護は嫌な汗をかきながらやっとの思いで言葉を発した。
何とも言えない異様な光景にどうやら一護の思考は停止寸前らしい。
それもそのはず、みんな何故かサンタの格好をしているからだ。
スカートタイプの女サンタと言ったところだろうか、それぞれデザインが違う。
バリエーション豊富で結構なことだが一護にはそんなことは全く頭になかった。

「何をたわけたことを。それは貴様の方が良く知っておるだろう。」

腕を組んで偉そうな態度のサンタさんが平然と言う。
"いや、全く分かンねーよ"と一護は心の中でそっと突っ込みを入れた。

「今日12月25日は現世ではクリスマスという日だそうですね。」

一護の問いに唯一まともと言える八番隊の副隊長、伊勢七緒が答えた。
まともな証拠に一人恥ずかしそうに頬を赤らめ気まずそうに忙しく眼鏡のずれを直している。

「あ、ああ、そうだけど。」
「松本副隊長が現世ではこのような格好をして宴会をするのがクリスマスの風習だと仰って・・草鹿副隊・・ぃぇ、会長もこの衣装を着たいと仰るものですからその・・」
「皆で着て宴会してるってわけ♪」

横から話を攫った乱菊はとってもご満悦そうだ。
彼女はクリスマスというよりただ宴会がしたかっただけなんだろう。
ふと、一護は乱菊を見てはてなと思った。

「何で乱菊さんは着てないンすか?サンタの衣装。」

そう、先にも述べたように彼女だけはサンタの衣装を着ていないで帽子だけだ。
一番ノリノリでコスプレしそうな彼女にしては珍しいな、と思ったのである。

「私だって着たかったのよ!それなのに七緒と雛森がさぁ~・・」
「アナタが着ると如何わしいンですよ!」
「乱菊さんだけ雰囲気違ったもの。」

七緒と桃の言い分に一護は妙に納得した。
確かに、乱菊のその豊満なボディと垂れ流し状態のフェロモンでサンタの衣装など着たらどこぞのイメクラやキャバクラにいそうな女になってしまうだろう。
スカートはギリギリの丈で胸元はこれでもかと言わんばかりに開襟しそうだ。

「せーっかく廷内での着用許可が出たってのにつまんないじゃない。」
「あんな如何わしさ漂わせた格好で廷内をうろつかれたら困ります!」

サンタの衣装で歩く乱菊を見て、男の死神たちは平常でいられるかどうかと言ったら勿論いられないだろう。
仕事に支障が出ないようにという条件で許可をもらったそうだから、当然のことと言えた。

「それで?これは女性死神協会だけのクリスマスパーティなのか?」
「いや、各隊にも招待状を出している。時期に来ると思うが・・・」
「いっちーの霊圧感じて急いでくるよ、きっと!」
「その前に、準備しちゃいましょうか。」

ニヤリ、と乱菊が嫌な嗤いを浮かべて一護の両肩をがっしりと掴んだ。
一護は嫌な予感を感じて逃げようとしたが時既に遅し、女性死神協会の面々が更にしっかりと一護の体を拘束していた。
それを認めて乱菊は一護から手を離し、ある物を取り出して広げて見せた。
女物のサンタ衣装。

「ま、まさか・・・」
「さぁ、しっかり抑えてなさい!」

サァーっと血の気が引いていく音を一護は聞いたと思う。
そんな一護にお構いなしに乱菊を筆頭にして女性死神協会の皆さんが一護の衣装替えに取り掛かった。
破られるンじゃないかと思うほど乱雑に死覇装は脱がされ、子供の着替えのようにワンピースタイプの衣装を頭から被せられ、手際良く腰にベルトを着けて頭には定番の帽子を被されものの5分も掛からない内に一護サンタが出来上がった。
女性死神協会の面子に掛かれば縛道いらず、というわけだ。
着替えが終わると同時に現世の学校のチャイムのように、どこかで鐘が鳴り響いた。
それは護廷十三隊に於ける勤務時間終了を告げるもので、夕刻5時に各隊舎内に響き渡る。
その鐘の音が鳴り終わるや否や、強大な霊圧の塊が一護のいる十番隊の中で一番広い部屋(乱菊曰く宴会会場)に向かっているのを感じた。

「な、何だ!?」
「来た来た♪」

一護がその強大な霊圧に恐怖にも似た驚きを見せる中、乱菊は楽しそうにニヤニヤと笑っている。
十番隊の執務室にいる日番谷が深い溜息を吐いたのは言うまでもない。
その霊圧は各隊の隊長・副隊長のものだからである。

「一護ぉぉ(or黒崎君)!!」

大勢の男共の盛大な叫び声が十番隊隊舎内に迷惑なほど響き渡る。
それは勤務時間終了を告げる鐘の音よりも遥かに大きな騒音だ。

「なっ・・アンタら・・・!」

宴会会場の扉がバァンっと開く音と共に大音量で叫ばれ一護はバッと扉の方を振り向いた。
スカートがひらめいてきゅるんっ♪と効果音でも鳴りそうな感じだ。
その可愛さを目にした隊長・副隊長たちは皆呻いて鼻を押さえた。
約一名、口を押さえているが指の隙間から赤い液体が滴り落ちている。

(一護(黒崎君)の生足!!)

死神と言えど所詮は男、注目すべきは衣装ではなくそこらしい。
普段死覇装やズボンなどで隠された足は彼らにとってある意味禁断の領域のようだ。
一護は色素が薄いため髪の色がオレンジであると同時に、手や足などの毛もオレンジというわけではないが色が薄いので目立たないので何とも綺麗な足というわけだ。

「っ・・こ、これはだな、乱菊さんたちに無理やりっ・・!」

一護は必死になって弁解しようとしているが当の男たちは聞いちゃいない。
サンタ姿の一護を繁々と見つめていた。

浮「いや、それにしても随分と可愛らしい格好だね。」
藍「とっても良く似合っているよ。」
修「赤も良く似合うじゃねぇか。」
吉「そそそそそれは現世の衣装かい?」
市「クリスマス言う風習の衣装やろ?可愛ぇな~一護ちゃんは♪」
京「華やかで良いね~宴会はこうでなくちゃ。」
恋「俺の髪と揃いの衣装じゃねぇか。似合うゼ!」
剣「そんな格好じゃ戦えねぇじゃねぇか。斬り刻んでやるのは楽しそうだけどな。」
白「そのような淫らな格好を良しとは言えぬが・・似合って居る。」

皆口々に一護の何とも言えない格好を褒め称えているが下心は丸見えだ。
一護にとってその褒め言葉は痒いものでしかない上に聞きたくない賛辞である。
男が可愛いと言われて喜べるかと心の中で吐き捨てた。

「一護、サンタとやらは皆に贈り物をしてやらねばならぬのだろう。」

眉間の皺を深くした一護にルキアが声をかけた。
が、それは決してフォローではなく事態をややこしくさせる一言だった。

「お前ら、今一番欲しい物を黒崎に言ってみると良い。サンタという者は欲しい物をくれるというからな。」

それまで自分の格好を屈辱だと忌々しげに思っていた砕蜂が自分よりも更に辱めを受けている一護を面白がりとんでもないことをしれっと言ってのけた。
これに一護大好きな隊長・副隊長たち食いつかないわけがない。
血走った目をギンッ!と見開いて、まるで合わせたように足を一歩前に踏み出して声を揃えてこう叫んだ。

「お前の愛が欲しい!!」

大真面目に、叫んだのである。
暫しの間沈黙が流れ、言われた一護はあまりのことに硬直してしまった。
停止寸前だった思考がここへきて完全にストップしたらしい。
言った本人達は至って本気でじっと一護を見つめたまま微動だにしない。
一護の言葉を一つも取り零してはいかんと必死だ。

「一護、早くこの状況をどうにかしろ。」

一護の脇腹を肘で小突いて沈黙を破ったのはルキアだった。
元より隊長・副隊長の阿呆とも言える大告白をある程度予想していたため動じなかったのだ。
しかしこれまた決してフォローではない言葉に一護は狼狽するばかりで、ようやく動きだした頭で考えたことは"どうすれば良いンだ?!"ということだった。
救いを求めてルキアを見るも、無情にも彼女は一護に目もくれずただ真顔で隊長・副隊長の阿呆面を見ていた。

「どーすンのよ、一護。早く答えてあげないとこの人たち皆お地蔵さんになっちゃうわよ?」
「そ、そうは言っても今のはどう考えても可笑しいだろ!?冗談に決まって・・・」
白「冗談などではない。私は至って真面目だ。」
吉「そうだよ黒崎君。僕だって本気だよ!」
藍「冗談と思いたい気持ちも分かるけどね、本気なんだ。」
修「俺はこういうことは冗談で言える程軽くねぇンだよ。」
剣「俺ぁ冗談は嫌ぇなんだよ。楽しくヤろうゼ。」
浮「一護君、本気だよ。冗談なんかでこんなことは言わない。」
恋「一護!俺はずっと前からお前が好きなんだ!!」
京「一護ちゃ~ん、僕と大人の恋愛しようよ。」
市「僕との方が刺激的な恋愛出来ると思うで?」

それぞれがそれぞれの言葉で真剣な気持ちをアピールする中、聞いている一護の拳が段々と震えていた。
見れば肩も小刻みに震えている。
隣にいたルキアはその気配に気づいてさっと傍を離れた。
膨れ上がる怒気に気づかないのは最早阿呆な告白劇を繰り広げている隊長・副隊長たちだけだ。

「てめぇら・・・・」

ポツリと呟いた一護の声は、奥歯を噛み締めて喉の奥から出しているような声だった。
そこで漸く一護の怒気に気づいた彼らは宥めようと思考を切り替えたがそうするよりも先に一護の殺気に似た怒りの霊圧が爆発した。

「ふざけたことぬかしてンじゃねぇっ!この変態野郎共がぁぁっ!!」

爆発した霊圧は無防備だった隊長・副隊長たちに直撃した。
元々高濃度の霊圧を持つ一護だ、それが膨れ上がり爆発したとなれば相当な威力であることは間違いない。
それを見越した女性死神協会は一丸となって結界を張り難を逃れた。
散っていったのは護廷十三隊の最強と呼ばれる隊長・副隊長とは何と情けない。
竜巻よろしく天上を突き抜けて柱のようになった霊圧に巻き込まれて彼らは空高く舞い上がった。
高速回転の中弄ばれたかと思うと遠心力によってまるでゴミのように外へ弾かれてしまった。

「・・・そろそろ抑えてくれ、黒崎。」

深い溜息と共に一護の肩を叩いたのは十番隊隊長の日番谷冬獅郎。
日番谷は一護の霊圧に飲み込まれない程度に霊圧を上げているので巻き込まれずに済んだ。
日番谷に気づいた一護は怒気を孕んだ鋭い目で睨むが日番谷はそれを軽く交わして、

「十番隊が吹っ飛ンじまう。冷静になれ、黒崎。」

と言って一護を宥めた。
熱くなっていた一護に、冷たい霊圧を放つ日番谷は調度良いストッパーとなった。流石は氷雪系最強の斬魄刀を扱うだけはある。
みるみる内に一護の霊圧は小さくなって、渦に取り残されていた2~3名はボトボトと落ちた。

「・・・悪ィ、冬獅郎。」
「気にするな、お前のせいじゃねぇ。・・松本!」
「は、はい!」
「黒崎に死覇装を返してやれ。それと、ここの修繕はお前たちでやれよ。」
「えぇっ!?」
「何か文句あるか?」
「だ、だってこんなボロボロに壊れちゃってたら修理なんて・・・」
「誰がその原因を作ったと思ってるンだ!そこに落ちてる野郎に手伝わせて今日中に何とかしろよ!」
「そんな~隊長、お許しを~!!」

自業自得とばかりに日番谷は泣き縋る乱菊を放って踵を返しその場から立ち去ってしまった。

「黒崎さん、お召し物です。」
「あ、サンキュ、えっと、ネムさん。」
「いえ。」

死覇装を返してもらえた一護はいそいそと着替えて忌々しげにサンタの衣装を投げ捨てた。

「ったく・・・ほらよ、プレゼントだ。」

一護は衿に手を突っ込んで袋を取り出しては更にその袋から何かを取り出して一つずつそれぞれにポイポイ投げた。

「女性死神協会の皆さんもドーゾ。」
ル「む、すまぬな。」
七「有難う黒崎君。」
砕「このような手荒な真似してすまないな、黒崎。」
桃「有難うね、黒崎君。」
や「なぁに~?食べ物?有難ういっちー!」
ネ「有難うございます。」
清「有難う!」
勇「有難うございます。」
卯「あら私にもですか?有難うございます。」
乱「ありがとぅ一護ぉぉ~。」

女性には一人ひとりきちんと手渡しをする一護。
乱菊は日番谷からの命令に未だ嫌だ嫌だとと凹んでいた。

「んじゃ俺はもう帰る。また年明けにでも年始の挨拶に来るから、じゃぁな。」

一護は未練なくすっぱりと言っては踵を返し瞬歩で帰ってしまった。
後に残された女性死神協会の面々は宴会は終わりと衣装を着替え、負傷した阿呆な隊長・副隊長方は床や地面、果ては屋根とお友達になりながら皆一様に、

「一護ぉぉぉ(黒崎君)・・・」

と呻いていたのだった。
ちなみに、一護が投げてよこしたプレゼントは1個20円のチロルチョコ。
白哉だけは甘い物が苦手と知っていてカリカリ梅だ。
ささやかな優しさに死神一同は感激したのは言うまでもない。


Fin。

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