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ハイティンク/ドレスデン国立管弦楽団


とわいえ、何時かはこの演奏のことを紙面に掲載するか、何れの方たちがやはり書くことになる。一昨日の大植英次のコンサートを聴いて、傍と書けると思ったのである。

当日サントリー・ホールには始まる前から一種独特の緊張と、どこで息をして良いのか分からないほどの空気が流れていた。この時点で今日は凄いことになると予測がついた。特にブルックナーの第8ともなれば、演奏する側の気迫と精神の高揚とが重なってオケも指揮者も聴衆も初めて同化することが可能となる。共通の世界観に近い不思議な音楽体験が成せられることになるのである。
一楽章の冒頭から漲る緊迫感が伝わる。信じられないほどのオケのレベルの高さ。ビロードのように美しい弦の響き。始まってすぐ、こうでなくてはならない。と納得させられてしまうほどの艶やかさであり、いぶし銀のような音色。そして伝統と呼べるドッシとして動かぬ貫禄のようなものが、音にヒシヒシと伝わってきた。
そして第2楽章のアダージョ。この天上の世界にも勝る神々しいまでの美しさは、たぶん過去のどの演奏よりも素晴らしく思えた。テンポも実にゆったりとして深々と鳴り響く。体中鳥肌が立ち、とめどもなく涙がこぼれて指揮者もオケも滲んで見えなかった。ハンカチで拭い、何気なく周りを見渡すと、多くの人たちが感涙に言葉をなくしているのが見えた。
第3、第4楽章と進み、この曲のフィナーレを向かえ、満場の聴衆がゆっくりと拍手をした。余韻に感無量となった人たちは、拍手にさえタイムラグを起こしまったのであった。
素晴らしいかけがえのない演奏会であった。

過去に同じような経験を一度だけしたことがある。チェリビダッケ指揮のミュンヘン・フィルで聴いたブルックナーの第8のときもこんな感覚を得た。
私の中で今年の目下ハイライトと呼べるのは、たぶんこのハイティンクのブルックナーだと言えるかも知れない。これだけ質の高い、そして素晴らしいと実感できるコンサート、あとどれだけ聴けるだろうか。楽しみの尽きない音楽行脚だった。
ハイティンク



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