逆襲のtransit

逆襲のtransit

2013/02/07
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平成25年2月6日/雨のち曇り
福岡県大牟田市→熊本県宇土市


意外にも俺は、あてのない放浪旅が初めてらしい。
考えてみれば俺にとって「旅」とは、その時々の「目標」を「達成」するための「手段」だった。
なのでこの目標も無く、期限も切らない純粋な「放浪」というスタイルはかなり新鮮であり、同時に心の何処かで強く憧れていた行為に他ならない。
今回は九州を緩やかに一周する車中泊の旅だ。
ルールなんかひとまず無い、まずは大雑把に南下してみるが、これと言ってルートも決めていないし、明日は気が変わって北上してるかもしれない。あるいはもうこんな旅がひたすら面倒臭くなって

「実家へ帰らせて頂きます」

なんて、夫婦喧嘩の末三行半一歩手前の嫁さんみたいな事になっているかも知れない。

アイドリング中に足元がガクガクするし、パワステは壊れたし、その他アレコレと精緻な随筆も憚られる程ガタがきているが、燃費もまぁボチボチだし(リッター20kmは走るんじゃないかな?)走りにも不満は無い。
メーターは14万km…ざっと地球三周分とかなり回っちゃいるが、考え様によっちゃあ地球を三周も無事に走り仰せた丈夫な車って事だ。
「旅」と言えば気になるのは「旅道具」…いわゆるグッズないしギア関連だが、今回はやたらお高く止まっていやがる旅専用品のそれでは無く、なるべく実家の台所にあった日用品で代用し、それらをピクニックバスケット一丁に詰め込むという「シンプル・イズ・ベスト制」を採用した。
ガスコンロから歯磨き粉まで、一から全て中林家よりの強制徴用という事もあり、今回の旅には準備にほとんどお金がかかっていない。
その代わり真冬の車中泊なので、毛布は唸る程持ってきている。寝袋の上に何枚もミルフィーユ状に重ねて使うので、寒くて寝れないなんて事は多分無いだろう。

今日は大牟田の実家を出発してまず、熊本県天水町にある「草枕温泉」へ向かった。
実家から30kmしか離れていないので中林家にとっては全くの日帰り温泉なのだが、歩きの旅では丁度一日の一里塚となる距離もあり、俺にとっては旅立ちの際になにかとお世話になる…ドラゴンクエスト風に言えば旅の準備を整える「お城の隣の街」みたいな位置づけだ。
また歩いて日本一周が計画段階だった頃、旧友森川氏とその旅について語り合ったのも、有明海の彼方に普賢岳を臨む、この湯船のだった。
高台の広々とした露天でひとしきり汗を流し、サウナ室のおっちゃん達と無言のサウナファイトに勝ったり負けたりしながら俺は、歩き、バイク、電気自動車と、その時々の様々な旅人だった自分と再会を果たしていた。

いつも希望に燃えていた

いや正確には今も希望には燃えている



壁があったらぶち壊していたあの頃の

「50kmや70kmは一日で歩いて見せるぜ、明日もな」

的な変態的パワフルさは、正直持ち合わせていない

しかし来年に控える新しいチャレンジは、その下準備からして恐らく今までのチャレンジを凌駕するエネルギーを必要とする。
その様を想像するだけで、十二分にグッタリしてしまう程だ。



と、ごく最近カドヤの常連さんに諭されたばかりだったが、ため息混じりに見下ろした湯船に白いものの混じった何かがユラユラ揺れているのを見つけてしまい、俺はまたほんのもう少し、幸せを逃がしてしまった。

落ち窪む夕陽が溶けたビードロのように美しい普賢連山に日はまだ高かったけれど、雨上がりの潤んだ空気は磨き上げた虫眼鏡のように遠く澄み渡り、吹き散らされた薄雲の空き地にクッキリと鮮やかな虹をかけていた。



今夜の目的地は天草半島への入り口である三角漁港だ。
ここにはプリップリのエビがゴロゴロと圧倒的物量を誇る宇宙要塞ア・バオア・クー的なチャンポン屋があり、港の空き地には確かテント泊も出来た。
しかし

「腹減ったー!」

と鼻息も荒く、締め切りドアを開いた「大空食堂」で俺は、エビが一尾しか乗っていないチャンポンと切ない邂逅を果たす。
鶏頭級の高性能CPUを誇る俺の記憶では、確か油でジャッ!と炒めた瑞々しい野菜の山の上に、花咲か爺さんもかくやのエビが桜色の彩りを添えていたチャンポンの筈だったが、長引く不況はお江戸からジワリと波及して、ここキリシタンの里の一歩手前まで押し寄せていたのだ。

「危うし天草四郎!」

そんな迷惑かつ一方通行な思い込みを割り箸に乗せて野菜の山を掘っていると…出るわ出るわ、あたかも石見の銀山か徳川埋蔵金でもあるかの如く(あ、あれは無かったのか)エビの鉱脈に箸が次々と引っかかるではないか。

「旨ぇ!堪らね!」

と、エビのゴールドラッシュに舌鼓を16連打。結局チャンポンを食い終わる頃にはなんだかんだで10尾近いエビを発掘、不足しがちな野菜も豊富に摂れて、ダブルで大満足の大空食堂であった。

…だが問題はその暖簾の外で勃発した。
近所のコンビニでポケットウイスキーとツマミを買い込み、レジの女の子に軽く一目惚れ(多分女子高生)してエンジンを切った空き地兼駐車場は漁港の道路拡張工事出張所の様になっており、関係車両の出入りでイマイチ落ち着かない。
多分車を停めておく事自体は問題ないのだが、仕事あがりらしいむくつけき男達が至近距離で車内をガン見するし、シートを倒したフロントガラスの視界全面に砂利満載や電柱をロケット砲の様に刺したダンプの大回転が迫力満点に展開する様はそこらの3D映画が裸足で逃げ出す大迫力で、誠に遺憾ながらその都度、俺の心拍数を微妙に上げてくれるのだ。
どうにもいたたまれなくなってエンジンを再始動、ここの少し前にトイレを借りた「道の駅・宇土マリーナ」まで戦略的撤退をする事に


そして近所のコンビニで更なるアルコールと一目惚れを追加して


記念すべき放浪旅と車中泊の初夜に一人、乾杯をしたのだった






■走行距離=88km
■走行距離合計=88km
■燃料費=3080円
■燃料費合計=3080円
■買い物
カセットガス三本セット/225円
水2リットル/54円
醤油/198円
缶コーヒー30缶パック/1470円
シャンプー/298円
塩/68円
チューブバター/219円
ポケットウイスキー/299円
おつまみ/105円
温泉/500円
缶ジュース/120円
チャンポン/680円
発泡酒/160円
合計/3716円
■買い物合計=3716円

■使用金額合計=6796円






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Last updated  2013/02/07 03:26:46 PM
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