【不眠症カフェ】 Insomnia Cafe

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2016.04.24
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記事  この6万年でヒトの進化は急激に加速していた!
どこへ行く?ホビットもマンモスも滅ぼした私たち
2016.4.21(木) 矢原 徹一


 6万年前にアフリカを出て世界各地への移住を開始したヒトは、1~2万年の間にアメリカ大陸を除く世界に広がった。そして氷河が溶け始めてアラスカ以南への移住経路が開けた約1万5000年前には、アメリカ大陸各地への移住を始め、約1万年前には南米の先端まで到達した。

 その後、今日に至るまで、ヒトはその数を増やし続けている。そしてこの人口増加は、ヒトの新たな進化の駆動力となった。今も私たちは、進化し続けている。

驚くべき発見が相次ぎ報告される

 私たちはどこから来て、どこへ行くのか? この問いは、私たちヒトが言語を使った思考能力を身につけて以来、抱き続けてきた疑問に違いない。

 私たちヒトは世界のさまざまな事物に興味を持ち、疑問を抱き、その疑問に答えるために世界を調べる努力を続けてきた種である。その疑問の矛先は、私たち自身にも向けられてきた。そして私たちは、この大きな問いへの答えを、ついに手にしようとしているのかもしれない。

 ヒトは約6万年前にアフリカを出てネアンデルタール人を滅ぼし、世界各地に広がった。この時点で、ヒト(ホモ・サピエンス)とネアンデルタール人(ホモ・ネアンデルターレンシス)の間には、技術力に大きな差が生じていた。



 ネアンデルタール人については、死者を埋葬したのではないかと主張する論文が古くから発表されてきたが、そのたびに反論が出された。最近では2013年にPNAS(米国アカデミー紀要)に埋葬説の論文が出たが、2015年に丁寧な反証論文が出され、いまだに埋葬の決定的な証拠は得られていない。

 約6万年前にヒトは何らかのイノベーションを達成したのだが、そのイノベーションとは「言語による高度なコミュニケーション」だった可能性が高まっている(前回の記事ではこの証拠を紹介した)。そして、前回の記事掲載後にも驚くべき発見が相次いで発表されている。

(※)前回の記事「6万年前に人類が手に入れた脅異の能力とは?」(JBpress)

■ ネアンデルタール人のY染色体は排除された?

 2016年4月7日には、ネアンデルタール人のY染色体(男性だけが持つ染色体)の遺伝子解析の結果が報告された。

その結果、ネアンデルタール人のY染色体には、免疫系の3つの遺伝子にヒトとは異なる変異があることが分かった。そのため、ネアンデルタール人の男の胎児は母親の免疫系によって異物として排除されてしまうことが予想された。

 実際に、ヒトとネアンデルタール人の交雑の結果、ヒトの核ゲノムにはネアンデルタール人の核ゲノムの1~3%が伝わっているにもかかわらず、ネアンデルタール人のY染色体の遺伝子はいっさいヒトに伝わっていなかった。

 これらの結果から、ヒトの女性とネアンデルタール人の男性の受精による男性の胎児は、うまく育たなかったと考えられる。つまり、ヒトがネアンデルタール人の遺伝子を受け取ることができたのは、女性の胎児を通じてのみだったようだ。


■ ヒトはホビットも滅ぼした?

 もう1つの発見は、「フロレス人(ホモ・フロレシエンシス)」と呼ばれるホモ属・第4の種についてのものだ。ヒトがアフリカを出て世界各地に広がった時代に、ネアンデルタール人、デニソワ人以外に、ホモ属には少なくともあと1種がいたのである。

 2001年にインドネシアのフロレス島で発見されたフロレス人の化石は、人類進化の研究分野で大きな話題となった。それはとても小型の人類であり、当初は奇形ではないかという説も出たが、その後の調査で小型の人類がいたことが確かになり、その体型から「ホビット」という愛称がつけられた。



 しかし、最新の技術で年代測定が行われた結果、フロレス人が生存したのは約5万年前までであることが確認された。この年代は、ヒトの渡来時期と符合する。つまり、フロレス人は、ヒトの移住とともに滅んだ可能性が高まった。

 後述のとおり、ヒトは効率の良い狩猟技術によって、多くの大型哺乳類を滅ぼした。このようなヒトによる狩猟は、競合種であるネアンデルタール人やフロレス人の食糧を減らし、その存続を困難にしたものと思われる。


■ マンモスを滅ぼした人類が手にした新技術

 ヒトの渡来とともに滅んだのは、ネアンデルタール人やフロレス人だけではない。マンモスをはじめとする多くの大型哺乳類が、ヒトの渡来後に地球上から姿を消した。

 北米では、マンモスをはじめとする33種の大型哺乳類が滅んだ。南米では、巨大アルマジロをはじめとする66種の大型哺乳類が滅んだ。アメリカ大陸では、ヒトの移住時期と気候変動が重なっているので、両方の効果で絶滅が起きたと考えられている。



 大型哺乳類を滅ぼしたヒトは、より小型の動物や植物を利用して暮らす技術を発展させた。特に、ドングリなどの堅果や豆類を貯蔵する技術は、冬の食糧確保につながり、さらなる人口増加をもたらした。

 日本でも、縄文時代の人口は、ドングリの豊作年に増加したことがわかっている。ドングリなどの堅果や豆類の貯蔵技術とともに、これらを貯蔵したり調理したりするための土器製作の技術も発展した。しかし、果実を食糧として利用する生活は、ドングリの豊凶といった資源の年変動に左右された。

 また、イネやコムギのような穀物の原種からの種子採集は、野生の資源を減少させたはずだ。このような問題を解決する技術として、種子を播いて植物を育てる技術、すなわち農業が発展した。

 上海市に近い海辺の地、跨湖橋での遺跡の調査から、稲作による農業の始まりを詳細に裏付けるすばらしい証拠が得られている。

 この場所は8700年前に陸地化し、7500年前に再び海に沈んだ。しかし、再び海に沈むその前、7800年前にはイネの花粉が激増し、出土する種子(籾)の形が、脱粒性(熟すと穂から落ちる野生の性質)から非脱粒性(熟した籾が果実についたまま残る性質)に変化している。

 これは、ヒトが非脱粒性の品種を選抜し、栽培を始めた動かぬ証拠である。そしてこの変化と平行して、カシ類(ドングリの木)の花粉が減り(森が減った証拠)、微粒炭が増えた(木を燃やした証拠)。

 さらにその後、土壌中に残るブタの寄生虫が増えていることから、ブタを飼育したことがわかる。また、高潮の害から水田を守るために、灌漑技術を発展させた証拠が得られている。

 このような稲作と灌漑の技術を持った人たちが日本に渡来し、弥生時代が始まったことはよく知られているが、同様な移住は中国から東南アジアへも生じた。

 オオムギ・コムギの栽培と、ヤギ・ヒツジの飼育による農業を発展させたメソポタミアの人たちは、一方ではヨーロッパに、他方では南アジアやアフリカに移住した。

このような農業技術を獲得した社会では、高い農業生産力によって人口が増え、中央集権的な国家が成立し、職業的軍隊によって治安が改善されるとともに、さらなる技術革新が進み、その結果人口はさらに増加した。

 以後、今日に至るまで地球上の人口は増え続けている。

■ 人口増加と農業がもたらしたヒトの急速な進化

 かつて、ヒトの性質はアフリカを出た6万年前には完成されており、それ以後はほとんど進化しなかったと考えられていた。しかしこの考えは、最近のヒトゲノム研究によって過去のものとなった。

 ヒトゲノムを大規模に比較する研究から、ヒトは過去6万年の間に進化を加速させ続けてきたことが明らかになったのだ。

 下の図1は、年あたりに出現したより有利な遺伝子の数が、過去8万年間にどのように変化したかを示している。有利な遺伝子の出現数は、8万年前から6万年前ま での2万年間は、毎年1個程度の出現ペースだった。しかし、6万年前から増加が始まり、5000年前には30個を超えている。


図1. 過去8万年間のヒトにおける有利な遺伝子の出現数。Hawksらの論文(Hawks J etal. PNAS 2007;104(52):20753-8)をもとに筆者作成。
拡大画像表示
 このグラフがどのようにして作成されたかを簡単に説明しておこう。ある遺伝子に自然選択が作用したかどうかを調べるには、自然選択が作用しなかった場合の予測と比較する。

 この予測を可能にしたのは、故・木村資生博士が提唱した分子進化の中立理論だ。この中立理論は、ある環境において有利でも不利でもないDNA分子上の変異(中立な遺伝子)が偶然によって集団全体に広がる確率を記述する数学的な理論だ。

 今日では、ゲノムのDNA配列の進化の多くは、この中立理論に従うことが分かっている。この性質を利用して、DNA配列の違いから、過去の進化年代を推定することも可能になった。

 この方法によって、ヒトがアフリカを出たのは5万2000±2万7500年前と推定されている。この記事で「約6万年前」という数字を使っているのは、この推定値と考古学的な証拠の両方を考慮したものだ。

 このような「分子時計」と呼ばれる性質を使って、現在のヒト集団中にみられる遺伝子の変異(たとえば血液型のABOの違い)がいつ頃(たとえば何万年前に)生じたかを推定することができる。

 また、中立理論を使うと、偶然による進化の予測から統計学的に有意に異なる状態を決定することができる。この統計学的方法によって、現在のヒト集団中にみられる遺伝子の変異の中から、偶然による進化では説明できないものを選び出すことができる。これらの遺伝子では、自然選択によって有利なタイプが次第に増えてきたと考えられる。

 この2つの方法を組み合わせることで、自然選択によって有利なタイプが次第に増えてきた遺伝子において、有利なタイプと不利なタイプ(対立遺伝子と呼ばれる一組のDNA配列)の祖先をさかのぼり、共通祖先に行きつく時間(年齢)を推定することができる。

 先の図1は上記の方法によってヨーロッパの人類集団から選び出された2803個の遺伝子について、対立遺伝子の年齢を推定し、推定年ごとにその数をプロットしたグラフがベースとなっている。図1は、そこから5000年前、10000年前などの値を抜粋したグラフである(Hawks博士らが2007年に発表した論文<こちら>にはもっと多くの点がある)。

 Hawks博士らは、アフリカの人類集団から選び出された3468個の遺伝子についても同様に解析を行い、同じ傾向を見出した。また、データは示されていないが、漢族中国人や日本人で調べても、同じ結果が得られたという。

 すなわち、人類集団は世界各地で並行して、約6万年前から今日まで適応進化を加速させてきたのである。

■ 進化を加速させた2つの要因

 この進化の加速をもたらした要因は、2つある。1つは人口増加だ。人口が増えるほど、有利な変異がたまたま出現する可能性が増える。

 DNA配列上に起きる変異のうち、大部分は生物の生存や繁殖に悪影響をもたらす有害な変異であることがわかっている。有害でない変異のほとんどは、故・木村博士が提唱した中立な変異だ。

 つまり、残るごくわずかの変異が、生物の生存や繁殖に良い影響をもたらす有利な変異である。そのような変異が現れる確率はきわめて小さい。しかし、人口が増えれば、そのような変異が出現する期待値も高まるのだ。

 もう1つの要因は、農業の開始や社会の複雑化に象徴される環境の変化だ。農業の開始は食生活を変え、たとえばヨーロッパの人たちではラクトース(乳糖)分解酵素の適応進化が起きた。また、天然痘などの家畜由来の病気が増えたために、免疫系の遺伝子に適応進化が起きた。

 社会の複雑化に対する適応進化については、まだよくわかっていない。その理由は、知性や創造性、実行力、協調性、積極性、神経質などの人間の性質を決めている遺伝子は多数あり、一つひとつの効果は非常に小さいからである。

 これらすべての性質について、約50%の遺伝率(変異の中で遺伝的影響が占める割合)があることがわかっているが、その遺伝的影響を特定の遺伝子に分解して調べることは容易ではないのだ。

 しかし、研究は日進月歩であり、あと10年後には、私たちの社会的能力の進化についてもっと確かな理解が得られているだろう。

■ 人類史の転換点に差し掛かっている

 さて、過去6万年間人口を増やし続け、地球環境を変え続け、一方で環境に適応して急速な進化を遂げてきた人類に、大きな転換点が訪れている。

 2050年には、アフリカと西アジアを除くほとんどの国で、人口が減り始める見込みだ。言うまでもなく、日本はその先陣を切っている。

 人口増加に歯止めをかけたのは、出生率の低下だ。どの国でも、経済が発展し、健康状態が改善されるにつれて、女性は子どもの数を減らし続けてきた。乳児死亡率の減少や、女性の社会進出などその理由はさまざまだが、現在は人口増加が著しいアジア諸国でも、母親1人あたりの子供の数は2人に近付いており、近い将来に2人を下回る。つまり、人口が減り始めるのだ。

 人口は進化の駆動力であるだけでなく、科学や芸術におけるイノベーションの駆動力であり、経済発展の駆動力でもあった。その人口が減り始める状況において、未来の社会をどうデザインすれば良いのか? 人類はかつてない問いに直面している。











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最終更新日  2016.04.24 16:29:19
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