あい・らぶ・いんそん

愛再び~序曲



ジェミンはベッドに横たわるイヌクとスジョンを冷たく見下ろすと、

イヌクに向かってなんのためらいもなく引き金を引いた。

イヌクの命が一瞬に消えうせると、驚いてジェミンを見つめるスジョンに

も銃口を向けて、ためらうことなく引き金を引いたのだった。

乾いた銃声が部屋に響き渡ると、スジョンは大きく目を見開き涙を浮かべ、

愛しいジェミンを必死で見つめつぶやいた。

「あい・・・しているわ」

それは、どうしてもジェミンに告げなければならない言葉だった。

長い葛藤のすえ、やっと自分自身の心に気がついたスジョンのせめてもの

告白だったのだ。

その言葉を聞いたジェミンは、まるで悪夢から覚めたように必死でスジョンの

手を握り、そしてその真実を知った。

悔やんでも悔やみきれず・・恨んでも恨みきれず・・ジェミンは、スジョンが

愛したクタの浜辺に一人たたずみ夕陽を見つめ、自らのこめかみに銃口を当てるのだった。

「生まれ変わったら・・・今度は一緒になろう・・・待っていてくれ・・今・・俺も行く」

そしてジェミンは静かに目を閉じ一気に指先に力を込めると、ジェミンの体が

弧を描くように砂浜におちていった。



その衝撃でジェミンの眠っている体が、びくっと大きく揺れ驚いて目を覚ました。

「夢か・・・」

額が汗でびっしょり濡れている。

その汗をぬぐいながら、まもなく着陸するバリの島を眼下に見下ろすジェミンだった。

「何としても探してみせるからな・・・」

不吉な夢を心の奥にしまい込んで、ジェミンはデンパサールに降り立つのだった。

乾いた風の中を、ジェミンは一人心当たりの街に向かった。

ジェミンが探し出したホテルの大きな窓から見えたのは、海辺に向かう

プールで泳ぐイヌクと、そのプールサイドにビーチチェアーで眠ってい

るスジョンの姿だった。

イヌクがプールから上がり、スジョンにそっと近づいて頬にキスをしている。

眠っていたスジョンが驚いて目を覚まし、幸せそうに笑いあう二人の姿をジ

ェミンはただじっと見つめ、再び街の中に消えていった。

「正夢だったのか・・・」

ジェミンの心はすでに決まっていた。


やがてイヌクとスジョンはベッドにいた。

イヌクの腕がスジョンの首を巻き込むように抱いていたたまま、暫く何も

言わず考え込んでいる様子だった。

「何を考えているの?」

スジョンが訊くと

「どうしてここまで来たのかと・・俺達の縁は、並大抵じゃないな。」

と、静かに答えた。

「ええ・・私もいつかジェミンにそう言ったことがあったわ。・・・本当

にもう、帰らないの?」

「帰りたいか?」

「いいえ・・そうじゃないけど」

「幸せか?」

「・・・不安だわ・・」

「どうして」

「なんだか私とは関係のない世界に入ったような気がするの・・これこそ、

パラダイスかと思ったのに・・」

スジョンにはどうしてもイヌクに言えないことがあった。

「違ったようだな・・残してきたものに未練があるのか?」

「いいえ・・残してきたものなんて、なにもないもの・・」

イヌクはいつまでも気付かないふりをすることが、辛くなって本心を話し

始めた。

「おまえの目には懐かしさや、空しさが映っている・・何故なのか・・・

何が足りないのか・・・ずっと考えていた。そしてやっと気がついた。

おまえは心を残してきたんだと・・・。」

スジョンの頬には思いがけず、幾筋もの涙が流れていた。イヌクはスジョン

の気持ちに気付きながら、今まで黙って自分を見守ってくれていたことを

知った。

地上の楽園を求めて来たはずだったが、心から幸せを感じることがなく、

心から笑えることもなく、日に日にジェミンへの思いが強くなっていくこ

とに、誰よりもスジョン自身がとまどっていたのだ。

我が儘で自己中心で、しかしいつもまっすぐに自分に向かってきてくれた

ジェミンの心が、今はただ愛おしく感じられた。そしてイヌクに、心から

申し訳ないと思うのだった。

「俺はもう帰れないし、そのつもりもない。でもおまえは自由だ。いつで

も自由にしてやりたい・・・鳥のように・・。帰りたければ帰っても良い。

俺はいつでもここにいるから・・。」

イヌクの頬にも幾筋も涙が伝った。

「ごめんなさい・・本当に、ごめんなさい。どうして・・・心だけは許さ

ないつもりだったのに・・・それが最後のプライドだったのに・・・。」

スジョンは、とめどなく涙が溢れた。やっと気付いた自分の本当に気持ち

を、イヌクに申し訳ないと思いつつ素直に受け止めることができた。イヌク

に肩を抱かれながら泣いていると、ふと人影が目に入った。

何とそこには手にしたピストルで、イヌクを狙うジェミンが立っていたの

だった。スジョンは慌ててイヌクの前に身を出した。

「そこをどけ」

ジェミンは声を殺して冷たく言った。

スジョンは大きく見開いた瞳に涙を一杯ためながら、首を横に振った。

「撃つなら撃て・・・どうせ・・おまえの勝ちだ・・。」

イヌクはスジョンを押し戻しながら力無く言った。

「なんのことだ」

ジェミンはそれでもイヌクを狙ったまま、動こうとしなかった。

「何が俺の勝ちなんだ」

イヌクがじっとジェミンを見つめて言った。

「俺は金を手に入れたが、愛する人を失った。おまえは財産を失ったが、

愛する人を手に入れた・・・そう言うことだ」

ジェミンは静かに視線を動かしスジョンを見た。

するとスジョンは泣きながら小さく頷いて

「ごめんなさい・・本当に・・ごめんなさい・・」

と言った。

ジェミンの体から力が抜けていき、構えていた腕を降ろした途端ピストルが

床にすべり落ちた。

「ここは地上最後の楽園だ。愛を見つけたものが幸せになれ。」

イヌクは静かに天井を見つめて言った。

ジェミンはスジョンにシーツを巻き付け、

「身支度をしてこい」

と言って、ベッドから降ろした。

スジョンを抱いていたイヌクの腕が寂しそうにベッドに伸びていた。

「おまえ・・本当にスジョンを幸せにできるのか?」

イヌクが伸ばした腕を見ながら言った。

「言ったはずだ・・スジョンは俺の女だ。」

ジェミンが答えると、フッとイヌクは寂しげに笑い

「ああ・・・結局おまえの言うとおりだったな。」

と、ぽつりと言った。

「ひとつ頼みがある・・」

「何だ」

「もう二度と俺の前に姿を現さないでくれ・・」

「それはこっちも同じだ・・」

ジェミンが答えた。

スジョンが着替えて出てくると、ジェミンはスジョンの腕をとりドアを開けた。

そのとき、スジョンが立ち止まってイヌクを振り返った。

「ごめんなさい・・本当に・・・。」

イヌクは涙をこらえて声にならず、手で行けと合図をした。

ジェミンはその姿を見て見ぬ振りをし、スジョンを連れ出した。

ジェミンが宿泊しているホテルにスジョンを連れ帰ると、狂ったようにスジ

ョンにキスをし、強く抱きしめた。

まるでイヌクの残り香を消そうとするかのように、激しく抱いた。

そして静かに言った。

「おまえは馬鹿か・・」

スジョンは照れくさそうに笑った。

「俺があれほど待っていろと言っただろ。おまえのために俺は殺人者になる

ところだったんだぞ。」

やっといつものジェミンに戻っていたのが、スジョンには嬉しかった。

やがてソファに腰掛けスジョンを膝に抱きながら、ジェミンは言った。

「イヌクとの約束だ。二度とあいつには会わない・・・俺達がバリを出よ

う。」

スジョンはうなずいた。

「韓国にも帰らない。」

「何処へ行くの?」

「さぁな。ただ地上最後の楽園からはおさらばだ」

「ええ」

「本当は、バリに住みたかったのか?」

「いいえ・・・私のパラダイスはあなただと気がついたから、あなたと一緒

なら何処でも良いわ。」

ジェミンは照れながらも、心から嬉しそうに優しく笑って言った。

「ようこそ、おれの楽園へ」

そして、スジョンを強く抱きしめた。

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