アルバム売りさん

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生涯現役サンタ希望 ('08/4)


 おととしのイブの夜、子どもにプレゼントを届ける前に、布団で本を読むうち寝入ってしまっていた。階下の居間からテレビの音が聞こえるのは、小学4年の息子太朗が、もう起きているのに違いない。布団にもぐり、この難関をどう切り抜けるか思案した。
「サンタさんたら、間違えてお母さんの枕元にプレゼント置いて行ったわ」
 これは、その前の年に使った手でだめだ。思いついた作戦は、子ども部屋のわかりにくい場所にコソッと包みを置き、見つけられなかっただけじゃんと笑いとばすというもの。枕元でなく太朗のベッドの足元、しかも布団の下に包みをもぐりこませて作戦開始。
 階段を下り居間をのぞくと、太朗が、おはようの挨拶もなしに肩を落として言った。
「サンタさん来なかった。布団ひっくり返して全部見たのに、プレゼントないんだよ」
「そうなの? 布団、全部見たの? おかしいねえ」
 布団がもう調査済みだとは。何食わぬ顔で居間を出て階段を駆け上がる。太朗の姉凛の布団に包みをつっこみなおし、息を整え再び居間へ。すると太朗が重ねて訴えた。
「凛のベッドも机の上も、部屋中見たけどなかったんだよ」と、今にも泣き出しそうだ。
「凛のベッドにもなかったんかいな!」
 ええい、太朗ったらこんな時ばかりよく気が回る。ブツブツ言いながら、また階段を駆け上がる。ぐるりと見回した子ども部屋の真ん中で、確か太朗はまだパジャマを着ていたなと、にんまりした。余裕綽々階下におり、悲嘆にくれる愛息子太朗に声をかけた。
「太朗は大きくなったから、もうプレゼントないのかもね。ま、洋服に着替えておいで」
「そんなぁ」など言いながら、口をとがらせ太朗はトン、トン、と階段を上っていった。
 間を置かず、今度はダダダッと駆け下りる音がして、トレーナーに袖を通しながら満面の笑みで太朗が報告にきた。
「お母さん、今年はタンスに入ってた! 去年はお母さんのとこだったよね?」
 やはり去年のことも覚えていたかと、私は心の中でくすりと笑った。
 会うことのないサンタの存在が、子どもの心にふわっと残ることが、私は嬉しい。情緒というには上品すぎるが、なにかしらの情感と喜びが、そこにはあると信じたい。今年も来年もその先も、子どもの思春期ど真ん中の時期にこそ、正体がバレても、孫ができても、イブの夜、私は太朗と凛のサンタになって、それを二人に届けたい。

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