ロボザムライ( 飛鳥京香・ 山田企画事務所)

ロボザムライ( 飛鳥京香・ 山田企画事務所)

ロボサムライ駆ける第3章6&7&8


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■第3章(6)
 そこにはものものしい雰囲気があった。検問所である。
 検問ゲートには装甲車、戦車など重装備の機材がおかれている。誰も通さないぞという意気込みがあたりには、感じられた。
 加えて、クラルテという八足型ロボットに乗った、武士姿の西日本の境界警備員がいた。 遠くからクラルテを見て、主水は尋ねる。「なぜ、あの歩行ロボットをクラルテというのだ」
「昔の話だけど、あのロボットのプロトタイプには人間用の席がなかったんだって」
 小さい声で知恵はささやく。
「ほう、それで」
「いやー、これは鞍がいるでと製作担当者がいったらしいんだ」
「それから、鞍がいるで、↓鞍いるで、↓くらるてと変化した訳か。なるほど」
 という、たわいもないシャレを口にする主水に、
「まて、あやしい。異形のロボット。この関所を通すことは相成らぬ」
 関ヶ原の関所で、武士から主水と知恵は止められる。
 ふとこらから、主水は書類をだした。
「この証明書を見ていただきたい。拙者、早乙女主水。徳川公国直参旗本ロボット。天下御免のロボザムライでござる」
「東日本ではロボザムライとして認めていようとも、この西日本エリアではロボットなど奴隷よ。この天下の公道、ましてやこの関所を通行することは相成らぬ」
 役人は強気である。
 判でおしたような役人の答えだった。いつの時代でも役人は変わらぬのである。
「無体な。拙者はこの証明書にもあるとおり、東日本市民連合に所属する東京エリア霊能師落合レイモン殿の供者として、この西日本エリアにまかりこした」
「レイモン殿は先刻お通りになった。護衛ロボットだと、よけいにこの関所、とおすわけにはいかぬ。貴様武器を所持しておろう」
 役人の表情が余計に険しくなる。
「あたりまえでござろう。刀は侍ロボの命でござる」
「それじゃ。それがよけいに困り申す。通すわけにはいかん。西日本エリアでロボットに武器を持たすなど気違いざたじゃ」
 もめている関所の役人と主水のところへ、具合よく落合レイモンの籠が戻って来た。
 先行していたレイモンは、もめる音声を聞き、後戻りしてきたのだ。籠から顔を出す。「どうしたのじゃ、主水」
「これはレイモンさま。今、この役人より、護衛ロボットは入国できないと申されて、困っております」
 レイモンが助け舟をだす。
「お役人、それではどうであろう、このロボザムライの武器は、私の使い番、夜叉丸が預かるということでお許しくださらぬか」
「ははあ、レイモン様がそうおっしゃいますならば」
 その役人は納得しかけたが、騒ぎを聞き付けた上役がやってきた。この男がもっと煩い。「落合レイモンさまとて、規定外のことは、できもうさん。この護衛ロボットの剣、我が役所にてあずからさせていただきます」
「サムライの命の刀ですぞ」
「主水、しかたあるまい。ここはおれてくれい」
「しかし……落合様」
「まあ……まあ……」
 主水は刀を腰にせず、西日本に入ることになった。
「何か、腰のものがなくなりますと変でございますなあ」
 刀のないサムライロボットは言った。関所を過ぎてしばらくして、原野の国境線にある、ロボットのさらし首の群れにきづく。
「これは一体……」
「こちら側では普通の光景さ-」
 知恵が悲しそうに言う。
「むっー」
 考え混む主水であった。
 一体このような事が許されてよいものであろうか。恐らくこれは足毛布博士もからんでいるのに違いない。ロボットはこの西日本では人間ではなく奴隷なのだ。

■第3章(7)
「レイモン様、ようやく峠を越えましたぞ」 関所から同道している主水は、最初に駆け上がり、近畿新平野を見渡した。
 ここは暗がり峠であった。霊戦争でわずかに残っていた台地である。 
「なんと」
 思わず主水は叫ぶ。壮観である。
 近畿新平野は霊戦争により、様変わりしていた。大阪・京都・奈良・和歌山の山脈は消滅し、フラットな平野となっている。
 ボルテックスによるレザー攻撃でここにあった全日本軍の要塞が潰滅していた。
 が、主水は驚いたのはそのことではない。大阪湾に異様な物を発見したからだ。
 主水の眼が二十倍ズームの態になり、大阪湾上をアップにしていた。ロセンデールの空母ライオンから周囲十キロメートルにわたって電磁バイヤーが張り巡らされている。まるで大阪湾に張り巡らされた『蜘蛛の巣』のようにみえた。
「ロセンデールめ。すでに大阪湾を支配下においたとみえる」
 レイモンが主水のそばにきて、主水の見たる光景を霊力で盗み見していた。
「レイモン様、いったいあやつは……何を狙っているのでありましょうや」
「ロセンデールめ、あせっているものとみえる。ライオンの艦橋部分が霊波を送る中心塔なのだ。その霊波探査能力を倍増するために、大阪湾岸の高い建物のすべてに網を張り巡らせたのだ」
「西日本都市連合会議も市政庁も、何もクレームをつけないのでしょうか」
「恐らくロセンデールのことだ。巧妙な語り口で市政庁をあざむいておるのであろう」
「しかし、それでは、我々は飛んで火にいる夏の虫ではありますまいか」
「主水よ、それに対する古いことわざがあろうが」
「はっ、それは」
「わからぬのか、虎穴にいらずんば虎子をえずという奴じゃ。しかしながら、この虎子は大きいぞ。世界の歴史をひっくりかえすほどにな。ほっほっほ」
 レイモンはゆったりと笑い飛ばしている。
■第3章(8)
 主水たちは宿泊所である新京都ホテルへ入った。
 この新京都ホテルは、鯱をかたちどった五十階建ての建物になっている。
 レイモンの許可を得て、主水は京都市内へ出た。使い番ロボとして知恵を連れている。主水の誕生登録場所は、京都なのであった。 レイモンについてきた主水の目的の一つが、自分の生みの親、足毛布博士に会うことであった。誰も気づいていないのだが、時折主水は病気が出ることがある。この治療について、ぜひとも相談する必要があるのだ。
 突然意識が空白になるのだ。足毛布博士なら、この理由を知っているだろう。
 この主水の病気は、マリアもびゅんびゅんの鉄も、きずいてはいない。
 博士にどのように挨拶してよいものやら、主水は迷っていた。
 実はすでに十分以上も、広大な足毛布博士宅前にたたずんでいるのだ。
「こんちわー」でもなく、「いやーどうもおひさしぶりですー」てなわけにもいかず。そう軽く言う訳にはいかない。
 ともかく、博士が、主水を裏切り者と思っていることはまちがいないのだ。博士の保護から逃げたことは事実だ。
 主水自体のメインボディは、実はアメリカNASA製である。対惑星探査用ヒューマノイドであった。
 NASA特別ロボイド工学研究所で制作中、足毛布博士が主水をつれて逃げたのだ。ちょうどそのおり、あの霊戦争が始まって、地球上のすべての観念が少しばかりシフトした。 足毛布博士は、NASAのロボットに日本精神を吹き込んでいた。それゆえ、サムライロボットとして。主水が再生され、誕生したわけである。
 徳川公国、旗本ロボットに迎え入れられたのにも一悶着があった。
 現在でも、足毛布博士は、主水を自分の手にとりもどそうとしている。
 主水としては、今、自分の身に起こっている体の不調調整がどうしても必要であった。それも誰にも知られないうちに。どうしても足毛布博士に会う必要がある。意識を高揚するいわゆる強化剤が、あるはずなのだ。
 意を決して門の呼鈴を押した。
 門にあるポールのモニターがついた。『どちらさまで』
 コンピュターグラフックスでかかれたキャラクター顔がロボボイスで答える。
「足毛布博士にお取り次ぎいただきたい。拙者早乙女主水と申す者でござる。そういっていただければわかるもうす」
『博士はご在宅ではありません』CG顔は愛想なくそう答える。もっともCG顔に愛想を求めても無理な話だ。
 おかしい。
 主水の第六感がそう告げている。
 生物体の反応がないことに主水は気付く。加えて、恐るべき悪気が屋敷に残っている。この悪気は、何だろう。主水と知恵は、屋敷内へ忍び込むことにした。
「いくぞ、知恵」
「がってんだ-い」
 二人は裏手の壁からジャンプした。瞬時、二人の体を電光が包んだ。泥棒避けの機構が作動したのだ。
「あいたっ-たー」知恵が叫ぶ。
「あいたいのは、わしじゃ、知恵」
「違う、違う。か…、体が…あいてて」
「そうじゃ、わしはててごにあいたい」
「痛い、痛い……。そのシャレに腹もいたい」 何とか着地する。が一難去って……
 突然、声がする。ロボットドーべルマン犬だった。
 主水は、飛び込んで来る犬をつかまえる。そして犬のある所を強く押した。瞬時、倒れるドーベルマン。
 犬の首にある生命点を圧し、眠らしたのだった。
 邸内に入った。
 博士の研究屋は荒らされていない。が、何かの想念が残っている。どうやら、足毛布博士は、いずこかにつれさられたらしい。ロセンデールだろうか。が、なぜだ。主水は何かの手掛かりをさがそうとする。
「主水のおじさん、何かが落ちてる」
「拾い物はお前もだ」
「何を言ってるの」
 知恵が拾ったものを手に取ってみる。
「これは一体、何なの」
 知恵が尋ねる。それは六角形のペンタグラムだった。
「これはユダヤ教の印だが」
 主水は首をひねる。
「足毛布博士って、ユダヤ教徒だったの」
 知恵が、主水にも思いがけない質問をした。「いや、そんなことはないはずだ。博士は、由緒正しき仏教徒だったはずだ。なみあむだぶつ」
 といいながら、片手拝み。が、はたしてという恐れが主水の心の中に芽生えている。
 今一番の主水の恐れは、足毛布博士がいないことだ。博士がいなけければ、意識をはつきりさせる強化剤の調合法がわからないのだ。家に来た意味がない。
 一体どうすればいいのだ。主水は悩んだ。「この人は誰」
 机の上に飾られていた立体写真を知恵は持って来ていた。
「お前、泥棒なれしておるのう」
「そんなにほめられたら、てれちょうよー」 知恵は頭をかいた。
「写真の人は、主水のおじさんじゃないの。そっくりじゃない」
 が、主水のはずはない。違っている。服装が霊戦争以前のものだ。その男は、主水と同じ顔をしているが、ロボットではなく、正真証明の人間だった。
 主水には写真を撮られた記憶はない。
 もし、この男が死人でいないとするならば、足毛布博士の法則に触れる。

 足毛布博士の法則『現在生存している人間の顔をコピーしてはいけない』

 写真をよくみる。主水の生まれる前の日付が写真に焼きこまれている。が、その写真を主水は見た記憶がないのだ。足毛布博士には、主水と同じ顔をした息子がいたことになる。が、そんな話は聞いていなかった。
 早乙女主水の顔は、息子に似せて作られたのだろうか。はたして博士に息子が……。考え込む主水であった。
 ロボットの顔は、作り手の好みによって作られているのだ。ある者は自分の昔そっくりに。ある者は死んだ恋人に。
 二人は行方をしる手掛かりなく、博士の邸を辞した。
(続く)
■ロボサムライ駆ける■SF「ロボサムライ駆ける」第3章6&7&8
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
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