ミュータントウオーズ・新人類戦記-飛鳥京香作品

ミュータントウオーズ・新人類戦記-飛鳥京香作品

ミュータント・ウオーズ第9回


(1978年作品)
第一章 激 怒
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/
(■30年前の小説ですので、設定がその時代です。)

普段の彼なら、ためらうことなく冷徹に引金
をひきしぼったはずだ。

 竜は、彼女の幼々さの残る寝顔をながめると
はなしにながめている。私情は無用だった。

そんな恐ろしい。ミュータントにはまるで見えない。
やがて、竜の手がふるえ、肩がおち、銃をほおり
投げてしまった。

くそお、」どういう事だ、竜は自分に毒づく。指令を実行できなけれな
すなわち、竜の死を意味する。

 竜はこのジウと少なからぬ級で結ばれている。

 七年前、ジウを誘拐し、「超心理研究所」へ連
れて行くために。アメリカ空軍基地へ彼女を運
んだのは他ならぬ竜だった。
ジウはその当時の事を覚えていないようだった。

竜の心の中に、今までになかった感情がおこ
ってきた。
不思議な感情であった。
「彼女ジウを助けなければならない」
天恵のように、その心がおちてくる。
が、殺戮者の彼には無用な思いだ。
「彼女は、、自分の同類、、なのだ』

 竜に強い使命感がおこった。
それは、殺戮者としての彼の技能の消滅を意味する。プロでなくなる
一瞬である。

「彼女を、、ここから、、助けなければならぬ」

 竜には、もう日本政府のエージェントである
という意識は、なくなっている。

それは、竜に体する日本政府の、また、アメリカ政府の保護がなくなる事を意味する。
どこにも属さない、いわば存在しない人間となるのだ。

。いったいどうして、こんような急激な心境の変化が、
おこったのか、、自分でも理解できなかった。

 彼女の寝姿を見てりるうちにそう感じてしまった。

 急に、竜は自分の半生を思いおこしていた。

彼女の顔に「ブラックウッド博士」の顔が、、だぶら
てきた。 

「殺せ。竜、殺すのだ」
 ブラックウッド博士の声が、頭の中に聞こえてくる。

竜もブラックウッド博士の、ミュウータント
(そのころはパラサイココマンドと呼ばれたが)
研究所の初期の研究材料の一人だった。
った。

当時、太平洋戦争後、日本には戦争孤児があふれ
ていた。
竜もその中の一人だった。犯罪を犯し、収容者に
入れられていた。

ブラックウッド博士は、戦後すぐ日本にやって来て
自らのミュータント研究のために、候補者の孤児を
選び連れてアメリカヘ帰った。その際、彼らは
死亡したとされ、戸籍は消滅されていた。

ミュータント研究所の訓練は過酷だった。
逃げだそうとする者も続出した。
しかし研究所から脱出しても。
砂漠のど真中に養成所はあったのだ。
また能力の乏しい者は続々と処分
されていった。つまりは死がまっている。
彼は存在しない人間だった。ましては敗戦国の
人間だ。
 パラサイココマンドの第一期生と誕生し
た竜は、自らの感情をかさえることが可能と左
右。冷徹左殺人機械と化した。
人間の姿をした狼と化していた。

そのおり、アメリカ政府は、非公式にブラックウッド博士の
研究所を認めた。時期が冷戦の始まりだった。
世界に、「非正規の戦争」が始まっていた。彼ら
ミュータント部隊は、その活躍の場所をみとみとめられた。

パラサイココマンド(近年に「ミュータント研究所と呼称が変わった)
から、優秀な生徒が、政府の「グリーンベレー」の訓練所へ送り
こまれた。竜は。自分の野力に加え、一層自分の持てる殺傷能力をのばし、
一時はCIAに属し活躍していた。そして闇の落とし穴がまっていた。


非公式に鍛練されていた竜には、神経異常が生じて来た。 
 理由のない殺人衝動がそれだ。

ペトナム戦争当時、CIAの東洋系エージェントとしてベ
トナムで活躍していた彼だったが、「ソンミの虐殺」に匹敵する
虐殺事件をひきおこしてしまった。

 この事件はマスコミから遮断され、アメリカ政府は、その存在をひた隠しにした
そして、表沙汰にはされなかった。存在しない人間だからだ。日本人でもなくアメリカ人でも
ない。

竜は、その間、ベトナムの悪名たかき「監獄島コンソン島の虎の檻」に幽
閉されていた。
その時間に、竜は、考えるに充分な時間を持った。

太陽の光と、のどの渇きが、彼の敵であった。

自らを、こんな人間とし、またこの境遇においやったブラックウッド博士を憎しみ始め
ることとなった。

 特別に訓練を受けた能力により、彼はコンゾン島から脱出することができた。
一緒に脱獄したのが南ペトナム解放戦線の勇士、ハイニンであった。

彼らは、何度もおぼれそうになりながら、肋け合い、
ついに南シナ海を泳ぎ渡った。

 竜は、ベトナムのジャングルの南ベトナム開放戦線の戦士として潜み、ブラックウッド
博士への憎しみを深めていった。
(続く)
作 飛鳥京香(C)飛鳥京香・山田企画事務所
http://www.yamada-kikaku.com/

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