あの赤ちゃん犬がいるのは、
母さんが昔から知っているペットショップだった。
早く、この子を母さん達に逢わせてあげたい。
ボクは毎日ペットショップと家の間をバイクで往復した。
でも、空の上を飛んでるんじゃないから、
みんなには、ひこうき雲が見えてないようだった。
ある日、とうとう母さんは店にやって来た。
この時はまだ、わんこを飼おうという気持ちじゃなく、
ボクの小さい頃を思い出しながら、
子犬を見たいと思ったに過ぎなかったようだ。
この時は、2頭いたきょうだいはもう、
新しい人のところに引き取られ、
ボクにそっくりな子犬だけが、残っていた。
母さんが子犬のケージの前にやって来た。
「犬太?あなた犬太なの?」
そう言っている。寝ている子犬をじっと見ている。
「母さん、そうだよ、連れて帰ってやんなよ」
母さんは、とっても愛おしそうに子犬を見て、
お店の人と話をした後、帰っていった。
帰る母さんの後ろ姿をみて本当にびっくりした。
何と、母さんの後ろ姿から短いけれどひこうき雲が出てるんだ。
ボクは何度も目をこすってみたけど、確かに短い雲が尾を引いていた。
(生きている者も、自分では気付かなくても、
人生が変わるほどの人と逢ったりした時などは、
後からその場所に戻ってこれるようにひこうき雲が出るんだと、
後から光さんに教えてもらいました)
母さんは、家に帰ってからもすぐには家族に子犬のことを言わなかった。
それは、このボクに気を遣ってのことのようだった。
母さん、余計な気を遣わなくっていいってば。
だって、こちらの世界に住む者は、
ひたすら元の家族の幸せを祈っているし、
次のわんこを飼うことになったとしても、喜びこそすれ、
ヤキモチなんて妬くはずはないんだよ。
もしお兄ちゃんが、あの子犬を見たら、
すぐに気に入ることは分かっている。
でも母さんはなかなか言い出せない。
そんなことをしているうちに数日が過ぎた。
ボクは何とかしてお兄ちゃんをあの子犬に逢わせたかった。
ボクは、その晩もリビングのソファの上に寝そべって、
母さんとお兄ちゃんを見ながら、うっかり居眠りをしてしまった。
「母さん、犬太が!犬太がソファの所で母さん見てるぞ!」
っていう、お兄ちゃんの大きな声で目が覚めた。
<続く>