ボクが死んでから、それまで、母さんに向かって、
周りの人から波が押し寄せるように、思いやりが集まってくる。
詩を書いてくれた人、カレンダーやプレートを作ってくれた人、
絵を描いてくれた人、訪ねてきてくれた人、電話や手紙をくれた人、
ボクは人間っていいなあと、心から思った。
そして、母さんに思いやりを寄せてくれた全ての人の幸せのために祈った。
ある晩、母さんはお兄ちゃんに、ペットショップに行かないかと誘った。
顔は笑っていたが、もし行かないって言ったら
子犬をあきらめるしかないと、祈るような思いがこちらまで伝わってきた。
お兄ちゃんは、すぐに賛成(^^)。
そりゃ賛成だよ、ボクが一生懸命背中を押してたんだもん。
翌日、2人は子犬を見に行った。
その場で、ボクは信じられない経験をすることになる。
お兄ちゃんが気に入るようにと思って子犬の側から
お兄ちゃんを見ていると、ちょっと信じてもらえないかも知れないけど、
ボクはその子犬の身体の中に入っていた。
ボクは子犬になって起きあがり、お兄ちゃんの前に立った。
するとお兄ちゃんは「かあさん!犬太だっ!犬太だよ!!!」
って、大きな声。
子犬に入った僕は、お兄ちゃんの前に走っていき、シッポを振って見せた。
「お兄ちゃん、ボクだよ!犬太だよ!母さん!」って呼んでみたけど、
あちらの世界では人間と同じ言葉をしゃべってたのに、
この時は「ワン、キャンキャン」としか、声が出なかった。
しばらくすると2人は帰った。
いつの間にかボクも子犬の身体から抜け出ていた。
目の前の子犬は不思議そうな目でボクをみて
「お兄ちゃん、だ~れ?」ってたずねてきた。
「ボクはね、ついこの間まで、さっき来た2人と一緒に暮らしてたんだ。
でもトラックにはねられて、身体からボクが飛び出しちゃったんだ。
さっきは勝手にキミの身体に入っちゃってごめんよ」
「ううん、いいんだよ。多分ボクはあの人達と暮らすことになるんだね。
お兄ちゃん、これからも時々ボクの身体を貸してあげるよ。
でも、ちょっとだけだよ」
「ええ~っ?ホントにいいの?」
「それから、犬太にいちゃん、ボクは小さな犬太だから
『ちび犬』って呼んでね」
<続く>