第2章 再会 第5話 犬太


第2章 再会 第5話 犬太
登場人物 犬太

母さん、お兄ちゃん、お姉ちゃん、こんばんは
ボクがこっちに来てもうすぐ3度目の冬がやって来ます

お盆を過ぎた頃から、こちらに住んでいる仲間が物語の主人公となって出ているので、ボクも早く出してちょうだいってさくらパパに何度も何度も催促したんだけど、「犬太は何度も出ているからもうちょっと待ってよ。まだ一度も登場していない人から順番だよ」ってなかなか書いてくれないんだから

「犬太、すまんなあ。あいつは昔から、なまくらやったさかいなあ」
声の方を振り返るとさくらパパのお父さんのカッちゃんが僕の背中を撫でてくれていました
「いいんだ(^^)書いてもらわなくても僕がみんなと過ごした楽しい夏は事実なんだから」

「そうです犬太。でもあなたはこちらに来てからも決して出しゃばることなく、他の人の幸せのために道を譲ってきました。ご褒美って言ったら何だけど…」
物語をさんざん待たされた代わりに、光さんがボクのこちらの世界での3度目の誕生日(地上では三回忌っていうんだよね)に、特別にお盆と同じように地上に戻ることを許してくれました




◎ 犬太のその後の物語「ハッピーバースデー」

犬太はうれしくなって、またまたバイクを磨いていました
すると気がつくと、みんなが一緒になって磨いてくれました(/_;)
ありがとう!みんなm(_ _)m

みんなに送られて犬太はゆっくりゆっくり大きな円を描きながら、母さんのマンションに向かって降りていきます
見慣れた大好きな景色

下を見下ろすと大きな荷物を持って車から降りた人が見えます
母さんです(^^)/
母さんは東京での婆連(←すごい名前だね^^;)の修学旅行を終えて帰ってきたのです
実を言うと光の世界の仲間は修学旅行に一緒について行ってたんだけど、母さんたちは誰1人気づかなかったみたい(^^)

犬太のバイクは静かにマンションのベランダに降りました
やがて母さんが部屋に入ってきてベランダの方を見ました

「犬太?」
「うん」
「犬太(T_T)!」
「うん(/_;)」
「犬太…」
「母さん…」

他に何も言葉はいりません
すぐ後から犬太の弟分のちび犬も入ってきました
「ちび犬!」
「犬太にいちゃん!」

「犬太~っ」
「お姉ちゃん(T_T)」

「犬太、あなたお盆しか帰れなかったんじゃなかったの?」
「今回は特別に光さんが帰らせて下さったんだ(^^)/」

それから、毎日母さんと犬太、お兄ちゃんとお嫁さん、お姉ちゃんといなちゃんのうれしくて、ちょっぴり切ない毎日が過ぎました



そして今日は11月17日。そう犬太が母さんとお別れした日です
「母さん」
「ん?」
「ボクと一緒に来て欲しいところがあるんだ」
「どこかしら」

犬太はバイクのサイドカーに母さんを乗せ、アクセルを握りました
バイクはマンションのベランダからゆっくり浮き上がりました

「犬太!やめて!降ろしてちょうだい(/_;)」
母さんはべそかいて大騒ぎしています
「母さん、後ろを見てみて!」
「うわぁーっ、まっすぐなひこうき雲(^O^)」

犬太たちは雲の上に着きました
「母さん、着いたよ(^^)怖くないから降りて見て」
「なんだか気持ちのいい場所ね(^^)犬太、どうして母さんをここに連れてきたの?」

「それは、私が犬太にあなたをここに連れてくるように言ったからですよ」
「母さん、光さんだよ」

「ひっ、光さん!こっ、これはこれは、犬太がいつもいつもお世話になりまして…」
「いいえ、犬太はこちら側では橋を渡ってきた者に安心させるためとても大切な役割をしてくれているのですよ(*^_^*)こちらこそありがとう」

「あなたにも、犬太にも分かっておいて欲しいことがあるのです。今日はそのために来てもらったのですよ」
光さんは、スクリーンを指さしました




そこには犬太が死んだときに見たような、犬太の一生が映し出されていました
スクリーンの中の犬太は、トラックにぶつかって身体から飛び出してしまいました

母さんも犬太もスクリーンを見ることが出来ませんでした
でも光さんは2人の心の中にその様子をしっかり再現して映しました

次のシーンでは、犬太を亡くして嘆き悲しんでいる母さんや家族と、スクリーンでそれを見て泣いている犬太の様子が映し出されました

「さあ、2人ともスクリーンに触ってご覧なさい」
言われるままに母さんと犬太はスクリーンに手を当てました

するとスクリーンの中の母さんから『自分の不注意で犬太を死なせてしまった』というこれ以上ない後悔と、犬太に対する謝罪と、二度と会えないんだという悲しみが伝わって来ます
一方、犬太の方からは『ボクが死んだからこんなにも母さんを悲しませてしまった』という後悔が伝わってきました




光さんは静かに言いました
…あなたたちは、お互いに「自分の不注意で犬太を死なせた」「ボクが死んだから母さんをこんなに悲しませてしまった」という後悔を背負って生きています
それに母さんは、もう二度と会えないのじゃないかと思っています

…でも、死んだ者はいつもあなたの側にいます それにいつかあなたが橋を渡るときには一番に迎えに行くはずです
犬太は私の言いつけどおり、これまであなたの心の番犬の役目を果たしてきました
こちらにいる犬太はいつでもあなたの気持ちが分かります

…あなたが心の片隅に後悔を残していることを犬太は知っています だから犬太も苦しんでいるのです 自分さえ死ななければあなたをこんなに傷つけずにすんだのだと

…私たちは、肉体を持ったときが始まりで死ですべてが終わるのではありません 私たちの本質は、旅をする意識なのです 例えて言うなら、成長して小さくなった服を脱ぎ新しい服に着替えるのが死なのです

…あなたが、地上での使命を果たし、めでたく橋を渡るときはその肉体は地上に置いてこなければなりません そしてそれが、いつ、どこで、どのような形で訪れるかはお教えすることは出来ません
それから先は、またあなたは犬太と暮らす事になります こちらは別れのない世界なのです

…どうか、後悔を捨てなさい、犬太はあなたの不注意で来たのではありません あの時が来るべき時だったのです あなたの後悔が、犬太を苦しめています
どうか、別れの悲しみから犬太とあなたを自身を解き放ってください




「犬太(T_T)そうだったの?母さんが悲しむからあなたも苦しんでいたの?」
「…母さん(T_T)」
「ごめんなさい!犬太!!」
「ありがとう、母さん(T_T)」

「犬太、もう二度と言わないから、もう二度と思わないから最後に一度だけ言わせて(T_T)」
「何…(T_T)」

「犬太、ごめーーん(T_T)ご免なさい、どうか母さんを許してね…(T_T)」
「母さん、ボクも二度と言わない。これが最後。ボクもごめーん、こんなに悲しい思いをさせてごめんね(T_T)」
「ごめーん(T_T)」
「ご免なさい(T_T)」

2人は固く固く抱きしめ合いました
2人の命は1つに溶け合いました

光さんはその命を2つに分けました
すると片方は母さんに、もう片方は犬太の姿になりました

「分かりましたか?犬太は母さん、そして母さんは犬太でもあるのです。決して離れることはありません。母さん、どんな気持ちですか?」
「何なんでしょう?不思議なんです。ついさっきまで心の中に残っていた後悔が嘘みたいに消えて、今は犬太といつも一緒なんだという喜びとこんな気持ちにさせてくださった光さんと犬太に感謝の気持ちで一杯です」

「犬太、あなたはどう?」
「ボクは母さんが、元気になってくれたから、こんなうれしいことはありません」




スクリーンはいつの間にかなくなっていました
そして2人の周りには、光の世界の仲間たちが集まってきていました

「はい、2人ともこれ貼ってあげる『しわパッチ』(^^)/」
「モモちゃん」

母さんも犬太もにこにこ顔に変わりました
すると、周りのみんなが歌い始めました

…ハッピーバースデー、トゥーユー、ハッピーバースデー、トゥーユー

そう、今日が犬太のこちらの世界での誕生日なのです
母さんも大きな声で歌いました
…ハッピーバースデー、トゥーユー、ハッピーバースデー、トゥーユー
犬太も歌いました
…ハッピーバースデー、トゥーユー、ハッピーバースデー、トゥーユー

「母さん(^o^)」
「ん(*^_^*)?」
「ちび犬のことなんだけど、あいつのことブログで『王子』じゃなくて『犬太』って言ってくれていいよ(*^_^*) ボクに遠慮しちゃダメだよ、あいつは犬太なんだから(^^)」
「そうねえ(^^) どっちにしようかなあ(*^_^*) あなたと違ってやんちゃだから、王子っていう言い方も似合うのよね どっちにするかゆっくり考えるわね でも王子にしても、もうあなたに遠慮している訳じゃないから安心してよね(^o^)」




それから犬太はサイドカーに母さんを乗せてマンションまで送ってきました
家ではお兄ちゃん夫婦と、お姉ちゃんといなちゃん、そしてちび犬が待っていました
みんな目尻に「しわパッチ」を貼って笑っています

「お兄ちゃん、幸せになってね(^^) 誌芳ちゃん、お兄ちゃんをよろしくお願いします」「お前もいつまでも元気でな、来年のお盆、楽しみにしてるよ(^^)」
「犬太君、お兄ちゃんのことはまかせてね。会えてうれしかったわ(*^_^*)」

「お姉ちゃん、身体を大事にしてね。いなちゃんと幸せにね(^_-)」
「犬太、ありがとう、あなたもね」
「犬太君、ありがとう」

「母さん、いつまでも元気でね(^^)愛してるよ(^^)/ちび犬をよろしくお願いしますm(_ _)m」
「犬太、ありがとう(^^)また来てね」

「母さん!」
突然お兄ちゃんが大きな声を出しました
「オレ、うれし泣きしたいんだけど、しわパッチ外してもいいかな」

「私もよ!うれし泣きしたいの、うれし泣きしたい人だけ、ちょっとパッチを外しましょう。1・2の3」
みんなは一斉にパッチを外しました

みんなの目から、涙が吹きこぼれました
「け、(T_T)犬太…。本当に…あり…がとう。光さんのもとで、どうか…幸せに暮らしてね(T_T)」
「母さ…ん(T_T)、みんな、ありがとう(T_T)」
「(T_T)」
「(T_T)」
「(T_T)」
「(T_T)」

みんなわんわん泣きました
でも、それは決して悲しくて泣いているのではありませんでした
いつか会えるという真実と、お互いに出会えた感謝の涙でした

「さ…あ(T_T)もう一度パッチをつけましょう」
みんなはパッチを目尻に貼りました

「母さん、みんな(^^)行ってきま~す(^^)/」
「さよなら、犬太(^^)/ そしてお誕生日おめでとう(^O^)」

犬太のバイクは勢いのいいひこうき雲を伸ばしながら静かに浮き上がりました
そしてみんなの頭の上で大きく円を描きながら上っていきました

それは、11月17日午後11時のことでした

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